グリー<3632>の長崎二郎氏は、8月24日より開催されている「CEDEC 2016」で、「UI Discussionのススメ―UIデザインの品質を効率的に向上させるには―」と題するセッションを行い、同社内で行われているUIデザインの品質を向上させるための取り組みを紹介した。
長崎氏は自己紹介を終えた後、UIデザイナーの抱える問題として、急な仕様変更や追加でレギュレーションやレイアウトが変わるだけでなく、目的が多岐にわたり曖昧ということもあり、やみくもに仕事をして消耗してしまうことをあげた。そして重要ポイントに絞ることで品質と生産性を向上することが大切と述べた。
では、どうやって注力ポイントを洗い出すか。そこでユーザー視点から最も目立つところ=優先度の高い改善ポイントと定め、2015年6月より「UI Discussion」を始めたという。既存のゲームをプレイして、UIのレビューを行っていくもので、他社と自社の品質差の認識や改善思考力の強化につなげているという。参加メンバーが15名ほどで、チュートリアルとゲームサイクルを2、3周プレイする。
この流れとしては、調査タイトルを選定したら、複数人数でプレイし、7項目のGoodポイントとBadポイントをスプレッドシートに記入していく。そして、それを集計したうえで、その結果をもとに改善ポイントをディスカッションするそうだ。毎週2本ずつ選定し、これまで117本のレビューを行ったとのこと。
社内サービスを利用せず社内で行うことにしたのは、社外サービスだと結果だけがフィードバックされるのみであり、自分たちでプレイしていくという、途中経過もナレッジとして蓄積したいと考えたためだ。タイトルの選定は、特定のジャンルに絞らず、幅広く選定するとともに、ランキング上位など人気タイトルとしている。
各自のコメントについては、全員で書き込みができるGoogleのスプレッドシートなどがおすすめだそうだ。また、記載内容は、GOODの場合、各項目の良い点と、その要因を記載し、BADについては課題と原因、解決策をそれぞれ記入していく。これによって課題解決力の向上にも繋がる。
では、実際にやってみての効果はどうだったのか。UIデザイナーの育成という面では、普段ゲームで遊ぶ機会が増えたことをあげた。流行のゲームを週2本遊ぶため、知見の広がりやトレンドの把握につながった。また、他社と自社ゲームのUIデザインの品質差を実感し、制作意欲の向上につながったという。他の参加者の意見を聞くことで、価値観の目線合わせという効果も得られた。
また、効率という面でも大きな効果があった。注力ポイントが明確になることで、作業優先度が絞れるだけでなく、質の高いUIを参照することで、考えることに費やす時間を短縮し、デザイン作業のゴールに早く到達できるなど効率性も改善したそうだ。また、他社ゲームの課題について修正案を考えることで改善思考力の強化につながり、ベテランに指導を仰がなくても課題解決ができるようになった、とも。
続いて「GOOD UI」と「BAD UI」の上位10要素を紹介した後、GOOD UIの上位として、説明や用途が明快であること、そして短時間のチュートリアルで理解でき、いつでも復習可能という意味での「わかりやすさ」、そして、ユーザーの没入感と感情を高める「BGMやボイス、アニメ演出」の優れた作品へのコメントが多く集まったとコメントした。
他方、「BAD UI」については、遊び方がわかりづらい、ゲーム内の情報が認識できないという意味での「わかりやすさ」の不足、そして、操作や画面遷移が快適でなく遊びづらく、プレイヤーにストレスが生じるという意味での「使いやすさ」の不足にコメントが多くの集まったという。
長崎氏は、今後、当初の目標であった100タイトルのレビューを達成したことから、今後は、上位10要素と下位10要素のUIから導き出される共通項や傾向を洗い出し、自社でのゲーム開発に利用したいと述べた。「人々の意見が集まる場所にこそ重要な改善ポイントがある。実際にやっていただくことで、UIデザインの改善につながれば幸い」と述べて講演を締めくくった。
(編集部 木村英彦)
会社情報
- 会社名
- グリー株式会社
- 設立
- 2004年12月
- 代表者
- 代表取締役会長兼社長 田中 良和
- 決算期
- 6月
- 直近業績
- 売上高613億900万円、営業利益59億8100万円、経常利益71億2300万円、最終利益46億3000万円(2024年6月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 3632