​【CEDEC2016】ゲーム業界における特許侵害とは何か? 回避する手段は? スクエニ大谷氏がわかりやすく解説


スクウェア・エニックス法務知的財産部の大谷友和氏が「懸念すべき権利(特許権を中心に)が見つかったら」と題するセッションを8月25日開催の「CEDEC2016」で実施したので、今回はその模様をレポートしておこう。ゲーム開発における特許を中心とした内容で、特許とは何か、特許侵害とはどういう状況か、そして、侵害状態を回避するためにどうすればいいのかをわかりやすく解説した。

それではまず、「特許」とはなにか。特許とは、権利が認められたアイディアであり、「何かしらの問題を解決していればOK」だという。何かしらの問題とは、ゲームに関しては「面白くなる」などの主観的なものでも認められるそうだ。同時に、模倣や無許諾の使用を排除するものともなる。排除とは、具体的には販売差し止めや、サービス終了だ。もしくは、権利保有者から特許ライセンスを請求される。
 

続いてゲームにおける特許となりうるケースを紹介した。仮想的な事例としては、RPGのバトルシステムがあげた。あるゲームでは通常、キャラクターが召喚獣と一緒に戦っているが、「ドライブモード」に入ると、キャラクターが召喚獣に乗って必殺技を繰り出すことができる。通常とは異なるバトルモードに切り替えることでよりゲームの面白さが増す、というものだ。こうしたものも特許になるアイディアになる。
 

また「スタミナゲージ+α」を仮想的な事例としてあげた。スマホゲームでは、クエストを行うとスタミナは減っていくが、減ったスタミナは一定時間経過もしくはアイテムの使用で回復する。このアイディアでは、クエストに挑戦し続けていると、スタミナが0ではなくマイナスになるという。この状態になると、スタミナの回復に通常よりも多くの時間を要する、もしくは、しばらくの間、回復アイテムが使えなくなる。
 

特許では、こうしたゲームクリエイターの考えた新規性のあるアイディアを図面・文章で説明し、「見える」ものにしていく。ここに権利が付与されてくる。アイディアは、本来、形のないものだが、文章に書き下すことで目に見えるようになり、アイディアとして認識できるようになるのだ。資料として、スクウェアの「アクティヴタイムバトル」の特許公報が配布された。
 

それでは、特許を侵害している、とはどういう状態なのか。それは「アイディアのすべてを採用していること」となる。例えば、アクティヴタイムバトルであれば、特許として認定された「アイディアのすべて」を使っているかどうかで判断する。新しい要素が入っていたとしてもすべてを使っている限り、権利侵害となる。逆に特許を侵害していないとは、記載されたアイデイアが一部もしくは全てを採用していない状態だ。
 

仮に特許を侵害していると判明した場合、どうすればいいのか。氏は、大きく3つの方法があると説明した。

(1)仕様の変更
これは特許に記載されたアイディアと全く同じにするのではなく、一部を変更して対応するものとなる。アイディアの一部でも違えば非侵害となる。ここでは侵害したと思しき特許のアイディアを正確に把握することが重要だそうだ。経験的に正確に把握していればいるほど、容易に変更案が出せる傾向にあるという。そして、出てきた新しいアイディアが新たに特許になる可能性もある。

アクティヴタイムバトルは大きく
①キャラクターごとの計測手段
②計測開始・完了後に行動
③行動後に再計測を再開
で構成されているが、このうち1つが変われば、異なるアイディアとなる。仕様の変更は、開発の序盤~中盤に利用されることが多いという。


(2)自由技術
特許の大原則は新規性が重視されることだ。つまり、新しくないアイディアは特許として認められない。あくまで仮想例だが、アクティヴタイムバトルの登場以前にすでにPvPのゲームで同様のアイディアを使ったゲームが存在していたとする。その場合、前例が存在していたアイディアということで、特許を侵害していない状態になる可能性が十分あるという。前例が多くなるほどリスクが小さくなっていく。なお、自由技術の採用は、何らかの理由で仕様変更ができない場合の対処法になるそうだ。
 


(3) 特許ライセンス
権利保有者に対して特許ライセンスの対価を支払うもので、支払形態としては、月々の売上の一定割合や一時金を支払うことになる。自社でも何らかの有用な特許を持っているようであれば、お互いの持っている特許を相互に使えるようにするクロスライセンスなどの落とし所があるとのこと。ただし、ライセンスに関しては、権利者が競合となる製品を持っている場合、ライセンスが認められない場合がある。
 

最後に、特許と聞いて大変だと思った人もいるかもしれないが、これがなかったら開発者もユーザーも不幸になる、と指摘した。もし特許制度が存在せず、アイディアの盗用が自由にできたとしたら、同じようなゲームが乱立し、ユーザーのゲームに対する興味が減退する可能性がある。そして最初にアイディアを考えた人の売上がアンフェアな手法で減っていくため、投資の回収が困難になり、新規タイトルへの投資が減り、業界全体が衰退していく。「新しいアイディアを考えた人の権利が適切に保護され、そして他の開発者は仕様変更などさらに新しいアイディアを考えて切磋琢磨して多様性なゲームを世に送り出す。新しいアイディアを考えた人は公正な競争で投資回収ができ、ユーザーも色々なゲームが楽しめるようになる」と、特許制度の有用性を強調して講演を終えた。

 
(編集部 木村英彦)
株式会社スクウェア・エニックス
https://www.jp.square-enix.com/

会社情報

会社名
株式会社スクウェア・エニックス
設立
2008年10月
代表者
代表取締役社長 桐生 隆司
決算期
3月
直近業績
売上高2428億2400万円、営業利益275億4800万円、経常利益389億4300万円、最終利益280億9600万円(2023年3月期)
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