【インタビュー】コンセプトは「これぞ遊戯王」…2ヶ月で1,300万DLを達成した『遊戯王 デュエルリンクス』 人気TCGスマホ化の開発経緯を訊く
昨年11月17日より国内リリースがされ、先日グローバル配信も開始されたコナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)の『遊戯王 デュエルリンクス』。
本作は、世界中のユーザーに楽しまれている『遊戯王オフィシャルカードゲーム』(以下、OCG)におけるモバイルアプリの対戦型カードゲームとして登場した。高橋和希先生原作の『遊☆戯☆王』でおなじみの「闇遊戯」「海馬瀬人」「城之内克也」を始めとした伝説のデュエリストたちが続々登場し、アニメオリジナルのボイスでゲームを盛り上げる作品となっており、国内リリースから2ヶ月にて累計1,300万DL達成やグローバル配信開始と幅広いユーザーに支持されている。
今回は、そんな『遊戯王 デュエルリンクス』のプロデューサーである片岡健一氏にインタビューを実施。企画発端の経緯から、初のスマホゲーム化に向けて行った工夫などについて伺ってきた。
■「どこでもデュエルがしたい」…長い歴史とスマートフォンとしての操作性
株式会社コナミデジタルエンタテインメント
『遊戯王 デュエルリンクス』
プロデューサー
片岡 健一氏
――:本日はよろしくお願いします。まずはご経歴からお聞かせいただけますでしょうか。
私は97年にKONAMIに入社し、長年に渡って、家庭用ゲームの制作を行っていました。主に企画やプロデュースといった分野になります。そこから2010年にモバイルゲームも担当しまして、『ドラゴンコレクション』や『スター・ウォーズ フォースコレクション』のディレクション、プロデュースを行っていました。そして、現在は『遊☆戯☆王』のコンテンツにおけるデジタル商品のプロデューサーを担当しております。
――:家庭用からモバイルと幅広く携われていたのですね。本作の開発経緯をお聞かせいただけますでしょうか。
高橋和希先生の漫画原作が1996年に始まり、2016年で20周年ということもありました。劇場版も公開されたので、覚えていらっしゃる方もいるかもしれません。そして、その『遊☆戯☆王』の家庭用ゲームが1998年に発売され、OCGも1999年より発売されています。OCG自体ももうすぐ20周年になり、今では全世界で楽しんで頂けており、毎年世界大会も行われております。
この20年近くに渡るコンテンツ、OCGの楽しさや奥深さをより多くの人に知っていただきたいという想いで、今では所有することが当たり前になっているデバイス、スマートフォンでのデジタルゲームを提供しようとなったのがきっかけですね。
20年前に小・中学生だった方々が、今一番持たれているデバイスもスマートフォンだと思いますので、当時親しんでいただいた方々に届けたいというのが大きな狙いでした。2015年の2月に開発をスタートしたので、約一年半でのリリースとなります。
――:過去作ファンの中でもいずれは出てくると言われていた作品ですからね。発表前からの要望も多かったのでしょうか。
「どこでもデュエルがしたい」というのが、OCGやこれまでの作品を楽しんでいただいている方のご意見として多かったですね。OCGは遊んでいただいている層として大学生が多いのですが、就職して社会人になると、デュエルできる相手や機会が減り、遊べなくなるケースがあるそうです。なので、スマートフォンで「どこでもデュエルしたい」という要望は多かったです。
――:当時OCGを遊んでいたデュエリストとしては、本作は懐かしさも感じました。
そうですね。20年前にOCGを遊ばれていた方の反響がすごく大きかったです。
――:スマートフォンタイトルとして意識した点はありますか?
まず意識した点がUI/UXの設計になりますね。私は長い間、家庭用ゲームの開発に携わっていたので、コントローラーを用いた操作設計というものには慣れていたのですが、新しい形となるスマートフォンの操作性とOCGの遊び方の融合にはすごく悩みました。数々のパターンを作っては壊す試行錯誤を繰り返して、今のUIにおさまりました。
――:UIという面ですと、縦持ちで遊べるというのが予想外でした。その点も吟味はされたのでしょうか。
制作チームの中でも、縦持ち横持ちのどちらも検討はしたのですが、日本からリリースするのであれば、片手で遊べる操作性を意識しました。電車の中でスマートフォンゲームで遊んでいる姿を見ても縦持ちの方々が多いので、今の形を採用することにしました。
デッキ編成の画面構築はかなりの回数を作っては壊しましたからね(笑)。デュエリストが一番長く見る画面ですから、片手のフリック操作でできるようにかなりの試行錯誤と工夫をしました。
▲対戦画面では、奥行きを持たせることで片手でも楽しめる操作性を実現。
デッキ編集画面でも細かい操作ができるよう工夫が施されている。
それからルールでは、OCGは世界大会で用いられている「マスタールール」の他に、過去にアーケードゲームで提供されていた『デュエルターミナル』にて、短時間で決着がつくルール「スピードデュエル」が採用されており、デュエルリンクスでも「スピードデュエル」を採用することにしました。
――:開発当初からコンパクトに楽しめる設計を意識されていたのですね。
おっしゃる通りです。「スピードデュエル」の特徴として、ルールがある程度簡略化されていることから、OCGを遊ぶきっかけになりやすいという利点。そして、通勤時間のような短時間で何度も楽しんでもらいたいという考えから採用しました。
実際に、コアなファンは『遊戯王ゼアル デュエルターミナル』をご存知な方も多かったので、「スピードデュエル」採用にはポジティブな反響が多かったですね。
――:OCG自体に長い歴史があるので、ルールにおいても賛否両論は出そうですが、比較的反響はよかったのですね。
当時の「スピードデュエル」からも細かな変更は行っていますが、用いるカードも変わりませんし、基本的な動きも変わらない為、「短時間で何度もデュエルができる」という考えはご理解頂けたのかなと思います。
■「これぞ遊戯王」と言える奥深さと新しい目線としての遊びやすさの融合
――:スマートフォンならではという点で、他にはありますか。
ならではというより、「今の」スマートフォンならではと言えることですが、演出という面でもこだわりましたね。携帯ゲーム機と同程度以上のスペックが、昨今のスマートフォンスペックにはあるので、企画当初から演出へのこだわりは強かったです。
最初に本作を企画した際に私たちが立てたコンセプトが「これぞ遊戯王」というものでした。過去にOCGや遊戯王コンテンツを遊んでくれた人が「まさに遊戯王」と思ってもらえるような作品です。
例えば、『遊☆戯☆王』に登場するキャラクターってカードやデュエルに命を賭けているような人が多いじゃないですか。あの雰囲気や臨場感を再現したかったのです。
――:たしかに、童実野町住民のカードやデュエルに対する姿勢はすごいですからね(笑)。
登場するモンスターも漫画やアニメのように生き生きと表現したかったという想いが、フルボイス演出や3D演出を加えた理由になりますね。
OCGは知らないけども、『遊☆戯☆王』の本物感というものに惹かれて、手に取ってもらえる。そして、知らぬ間にOCGのルールも覚えていた、という流れができたらいいなというのが当初からの考えでした。
――:リリース後の反響はいかがでしょうか。
予想以上の反響だったというのが当時の率直な感想ですね。多かった反響は「操作性が良い」とか「想像以上にOCGだ」という声もあれば、「OCG知らなくても遊べる」とか「止め時が見つからない」というSNSでの声もあり、嬉しかったです。App StoreやGoogle Playでも、一万を超えるレビューと高い評価を頂けていることから、ある程度認めて頂けたのかなと考えています。
――:リリースから振り返ってみて、『遊☆戯☆王』コンテンツを親しんできた人に支持された要因としてはいかがお考えですか。
「本物感」をしっかり再現して、評価されたところだと思います。『遊☆戯☆王』コンテンツを再現しているところ、OCGとしてもしっかり成立しているところの二点が受け入れていただけている印象です。あとは、操作性と「スピードデュエル」採用することによって、OCGを知らない人にも楽しまれているのが要因だと思います。
――:分身となるプレイヤーキャラではなく、原作のキャラクターを選んで楽しむという点も「本物感」を出す要因だったのですね。
そうですね。『遊☆戯☆王』はアニメが好きだったという方もいるので、お気に入りのキャラの声が聞くのが楽しいというご意見も多いです。なので、本作では色んなボイスを聞けるようにしています。好きなキャラクターのボイスやリアクションを楽しんでいるうちにOCGのルールや楽しさも知ってもらえたらと意識しましたし、実際にそういった反響も多かったです。ボイスは全て新しく収録しなおしたので、苦労の甲斐があったと思えます。
――:攻撃時のボイスや対戦開始前の「デュエルッ‼︎」の掛け声というのは、これぞ遊戯王と言えますね。本作を始める際にアンケートをとっていますが、どういった層が多いのでしょうか。
一番多かったのが、「過去にOCGを遊んでいたが、今は遊んでいない」方々です。その次に多かった方々が「『遊☆戯☆王』を知っているけれど、OCGを遊んだことがない」層でした。ゲーム配信前、私たちは「今もOCGで遊んでいる」方々が多いと考えていたのですが、三番目に多かったです。
――:2番目に多いのがOCG未経験層というのは意外ですね。これまでOCGを遊んでいない方に向けて意識した点は何かありますか。
さきほどのアニメを親しんで頂いた方々に向けた演出の他に、評価が高かったのがパズルデュエルですね。『遊☆戯☆王』やOCGを知らない人でも順を追って、理解ができるというのが反響良かったです。あの機能は利用必須でもなく、チュートリアルとも分かれているので、本作未経験者とOCG経験者、未経験者それぞれでの役割を果たせたと思います。
▲通常のチュートリアルとは別に、OCG未経験者向けに用意されたパズルデュエル。
――:未経験が上達するコツみたいなものはありますか。
デュエルの回数をこなすことですね。回数を重ねる事でやってはいけないことがわかってきます。「こういう時はこのカードを出してはいけない」という、打ち筋のようなものが回数を重ねるうちにわかってくるものです。
このゲームを任された段階では、私自身もOCG自体をしばらく離れており、チーム内でデュエルを繰り返すことで今の打ち筋に追いついたので、間違い無い上達法です(笑)。
――:チーム内でも対戦は盛んなのですね。
もちろんです。チームで飲んだ際にはまずデュエル大会が始まりますね。私たちのプロジェクトチーム内では、『遊☆戯☆王』の世界観のようにデュエルが強い奴が一番えらいという扱いになります(笑)。
――:本当に皆さんデュエリストなのですね(笑)。
もちろん、企画当時はチームの中にデュエリストではない人もいました。女性や当時遊んでいなかったという人たちですね。ただ、そういったメンバーと一緒に作ることで、初心者にも受け入れられる要因も作れたと思います。
色々と提案をしてくれて、新しい目線での遊びやすさを実現できたという点です。私のようなデュエリストだけだと、どうしても玄人向けの設計になるので、良い形で敷居は下げられたと思います。UIはそういったメンバーから提案してくれたこともあって、色んな配慮がされています。
例えば、デッキ編集画面では該当エリアを細かく動かして表示できるのですが、あの仕様は女性メンバーの意見でした。彼女が持っているスマートフォンだと、上半分のエリアと下半分のエリアが見辛いという意見があったんですね。経験者やスマートフォンゲームに慣れている人だけだと、求める情報が偏りがちで敷居が高くなっていたかもしれません。
▲デッキ編集画面ではデッキカードと所有カードの画面比率を調整できる仕様になっている。
■全世界を交えた「楽しさ」と「奥深さ」を目指して
――:今後の展望についてはお聞かせいただけますか。
カードプールの充実、追加はもちろんですが、キャラクターの追加もしていきます。これまでの発表以外にも随時追加はしていければと考えています。ボイス追加もその都度収録になり大変ですが、期待してお待ちいただきたいです。もちろん海外版も英語にてフルボイス対応しています。
――:今月にグローバル配信されましたが、国内版と同じ仕様なのでしょうか。
全く同じ仕様になり、サーバーも同じですね。ですので、世界中の方々とデュエルができます。「日本にいながらイタリアやアメリカのデュエリストとリアルタイム対戦ができる」というのは、本作より前からずっとやりたかったことでしたので、ぜひ楽しんでもらいたいです。
――:デュエリスト人口が一気に増えるのですごく楽しみですね。
それぞれが今プレイしている言語で表示されます。なので、挑発もご自身が日本語で選んだものが相手では英語で表示されるといった、文字通り全世界で同時にデュエルを楽しむことができます。現在、ゲーム内ではネーム表記だけですが、いずれは国名も表記することも考えたいですね。例えば、国ごとのチャンピオンを決めるとか、やってみたいことはたくさんあります。
▲左写真が英語版、右写真がドイツ語版。
――:今後、OCGとの関わりなどはあるのでしょうか。
『デュエルリンクス』とOCGはカードプールが違うので、そのままだと連携は難しいと思っています。ただ、何かは行いたいとは思っているので、デュエルリンクス単体の機能を拡充しながらOCGのチームとも話はしていますね。
――:TCGジャンルはスマートフォンゲームでも一定の市場が確立されたと思えた2016年でしたが、いかがお考えでしょうか。
『遊戯王オフィシャルカードゲーム』という作品はこれまでTCGというジャンルを牽引してきた存在という自負はあります。ですので、ファンの方々やスマートフォンユーザーに、待望のスマートフォンゲームとして受け入れて頂けたのは嬉しい限りです。今後はOCGとデジタルカードゲーム、それぞれを進化させていき、どちらの分野でも盛り上げていける作品にしていきたいと思います。
――:最後に一言いただけますでしょうか。
OCGが20年近い歴史があるカードゲームなので、中々手が出しづらいと思っている方々にはぜひ手に取ってもらいたい作品です。『デュエルリンクス』を遊んでいただくことで、『遊☆戯☆王』コンテンツの楽しさと奥深さ、そしてOCGとしての奥深さを知ってもらえると思います。今後もアップデートをしていきますので、期待してもらいたいです。
――:ありがとうございました。
©高橋和希 スタジオ・ダイス/集英社・テレビ東京・NAS
©Konami Digital Entertainment
©高橋和樹 スタジオ・ダイス/集英社 企画・制作/KONAMI
会社情報
- 会社名
- 株式会社コナミデジタルエンタテインメント
- 設立
- 2006年3月
- 代表者
- 代表取締役会長 東尾 公彦/代表取締役社長 早川 英樹
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高1940億1100万円、営業利益336億4700万円、経常利益348億9300万円、最終利益278億2800万円(2023年3月期)