【インタビュー】『誰ガ為のアルケミスト』1周年の軌跡を追う…高いゲーム性を追求できる秘訣は往年のスーパーヒーローたちにあり!?(前編)
2017年1月28日で、リリースより1周年を迎えた、Fuji&gumi Gamesの『誰ガ為のアルケミスト』(以下、『タガタメ』)。
本作は、7人の主人公が織り成す壮大でドラマティックなストーリーと高度な戦略性に富んだ「三次元空間戦略バトル」が楽しめる、本格的タクティクス大作RPG。キャラクターが選べるジョブは80種類以上に及び、緊迫感に満ちた3Dマップでのバトルを堪能できる。
そこで今回は、『タガタメ』リリースから1年の足跡を振り返るとともに、開発の拠点とも言える福岡のgumi Westを訪問。本作のプロデューサーであるFuji&gumi Games今泉潤氏を始め、共に作品の中核を担う、ArAtAの金澤昭一郎氏、エレメンツの石川淳一氏、フロイデの安永紀和氏、フェローズの阿部慶助氏ら5名にお話を伺ってきた。その内容を、前後編の2回に分けてお届けしていく。
■『タガタメ』の根幹を支える”福岡のアベンジャーズ”とは
▲写真左から、金澤昭一郎氏、阿部慶助氏、今泉潤氏、石川淳一氏、安永紀和氏
──:まず始めに、今泉さんには昨年も『ファントム オブ キル』(以下、『ファンキル』)の方でお話を伺わせていただいた(関連記事)のですが、4方に関しては今回が初めてとなります。改めて、これまでの経歴をお聞かせください。
金澤昭一郎氏(以下、金澤):ArAtAというゲーム開発のデベロッパーで取締役を務めています。今泉さんを除いた4人の中では最も年下になりますが、業界歴で言えば20年近くになります。新卒の頃はセガで『アヴァロンの鍵』や『頭文字 D ARCADE STAGE』といったアーケードゲームに携わっており、その後、家庭用ゲームやソーシャルゲームでの開発経験を経て今に至りました。
石川淳一氏(以下、石川):僕はこの中で一番年上になります。業界歴も30年ほどになりますが、gumiさんとのお仕事を始めたのは2016年夏ごろからになりますので、gumi歴はこの中で最も浅いです。経歴としては、パソコンゲーム時代の『大戦略』シリーズに始まり、『凱歌の号砲』や『ジャンヌ・ダルク』など、いわゆるシミュレーションゲーム系の作品に数多く携わってきました。現在は私一人の会社なので、外形上フリーランスのような形で動いております。
安永紀和氏(以下、安永):自分は、大学生時代にリバーヒルソフトにアルバイトとして在籍していました。当時、一つ上の先輩にはレベルファイブの日野晃博さんがいたりと、福岡では石川さんが在籍されていたシステムソフトと並んで大きな会社になります。そこから、フリーランスとしてゲーム開発に携わったり、専門学校の講師なども務めました。現在は、フロイデのゲーム事業を担当しています。ちょうど事業を立ち上げてソーシャルゲームの制作に取り掛かった頃に『タガタメ』がリリースされ、共にやっていきましょうという話になりました。
阿部慶助氏(以下、阿部):私も石川さんに負けず、業界歴は長いですね。高校を卒業してすぐに上京し、専門学校でアニメデザインを学びながら、ゲーム業界に入って『魔境伝説』の企画とデザインを担当しました。その後、レッドカンパニー(現:レッド・エンタテインメント)で『PC原人』を企画してドット絵を全て描いたりもしました。フリーランス時代に、福岡で仕事を探してみようと思ったのがgumiさんと出会ったきっかけですね。
――:経歴から既に歴戦の猛者たちが集ったという印象がありますね。
今泉潤氏(以下、今泉):彼らには同じ島で働いていただいているのですが、往年のスーパーヒーローが集結している様からチーム内では“アベンジャーズ”と呼ばせてもらっています(笑)。
■ゲーム作りの”幸せ”が感じられる制作環境とは
――:現在はどういった業務を担当されているのでしょうか。
石川:私は、本格的なスマホゲームの運営スタッフに加わるのは『タガタメ』が初めてだったのですが、運営用のコンテンツや、イベント、ユニットの制作を行っています。
金澤:現在は『タガタメ』を一旦離れ、『シノビナイトメア』(以下、『シノビナ』)のチームに参加しています。そこでは、11月の大型アップデートを始め、サムライのスキルセットや、エネミー、マップのレベルデザインといったデータ面を主に担当しています。
安永:同じく、現在は『シノビナ』の方でプランニング全般と、データ設定全般を受け持っています。現場では、年寄りなりに学ぶことがたくさんあり、いろいろと勉強させてもらっています。これまでの経験から、色々な仕組みの仕事の進め方は分かっておりますので、そういったところを若手に伝えつつ、彼らだけでもクエストを制作できるようにしていきたいと考えています。
今泉:『タガタメ』初期に中心メンバーだったのが、金澤さんと安永さんの二人になります。『タガタメ』が軌道に乗ってからは阿部さんに引き継ぎを行い、現在は『シノビナ』の改良に尽力していただいております。
阿部:ただ、正直に言うと、最初は自分がやるべき仕事が見つけられませんでしたよね。企画をして物を作る上で数字と向き合うことになるのですが、自分が思い描いていたような作業ではないので、当時はかなり悩んだりもしました。その後、マップを制作する作業が発生した辺りからは、コンシューマーゲームの制作と同じような仕事ができるようになり、水を得た魚のように生き生きと取り組むことができました。
今泉:ゲーム業界で長年活躍してきた大先輩と聞くと、どうしても固いイメージがあったり、現場的に遠慮してしまう様なこともあると思います。ただ、ゲームの面白さという部分における勘所が皆さん凄いですよね。やはりモバイルゲームにおいてもゲーム的な部分で面白さが担保されていないとユーザーは付いてきません。その部分を自分だけで追及するのが苦しくなってきたのが『タガタメ』を開発していた頃でした。
最初は互いにどこまで突っ込んで良いものか難しい部分もありましたが、共に仕事をするうちに”物を作ってきた人”としての考え方は共通していると感じたので、ゲーム性を高めていく部分に注力してもらうというところに落ち着きました。それが、『タガタメ』をリリースしてから3~4ヶ月ほど経った頃の話なのですが、そのときから急にアベンジャーズたちの島が輝き出しました。現在も、アベンジャーズがゲームの中身を制作し、若手が運用を行うという形で分けています。最も印象的だったのは、高難易度ダンジョンの制作を金澤さんにお願いした際に、データの描かれた表を見ながら、目をギラつかせて「エクセルを見てワクワクしたのは久しぶりですね!」と言ったことですね(笑)。
金澤:この歳になると、どの業種でも人のマネジメントやプロジェクトマネージャーを任されることが多くなり、ゲーム制作をできる場が少なくなってくるんですよね。昨今のモバイルゲーム業界には、若くしてそういったポジションに就かれている方も数多くおられますので、現場と噛み合わない部分も出てきます。なので、最初に『タガタメ』チームに参加したときも不安はあったのですが、ゲーム制作に集中させていただける今の環境は悶絶するほど楽しいですね。
阿部:今泉さんとお話して意外だったのは、スマホゲームだからと言ってカジュアルな方向に寄せるのではなく、本格的にガッチリやろうという意思表示が強かったことです。私個人としては、むしろ逆だと高を括っていた部分もありましたので。また、実際、運営に関してはあまり知識がないので、その部分を指示してくれる若い子たちがいる中で遊ばせていただいている形ですね。
安永:本格的なネイティブアプリの経験が少ないということもあり、時には失敗を繰り返しながら手探りで少しずつやってきた感じでしょうか。
今泉:『タガタメ』を始め、僕らが作るゲームに関しては、とにかく難しければ難しいほど面白いはずだと感じていたので、ある日「お前らのマップはヌルい。どんなに上手いユーザーも3回はゲームオーバーになるマップを作りましょう」と提案しました。そうすると、また金澤さんが目をキラキラさせながら「いいんですか?」って。
金澤:やっぱり、こういう作業って物凄く楽しいですよね。昔、アーケードのカードゲームを担当していたことがあるのですが、その時に流行っている手法を封じるような手を作るのは、ある意味一番やりがいを感じる部分です。
──:いわゆるメタというものですね。
金澤:はい、ユーザーの中で定番になっているデッキや編成を如何に崩すかを考えるのは、データゲームにおいて最も燃えるところになります。そういったところでユーザーにこちらの予想を上回られることもあり、まるでユーザーと対戦しているかのような気になるんですよね。アーケードゲームの時代には、店舗まで足を運んでユーザーの反応を見たりもしていましたが、今、モバイルゲームではSNSや投稿動画でユーザーの反応を見られるので、あの頃と同じようにユーザーとやりとりしながら物を作っている感覚を味わえるのがとにかく楽しいです。
阿部:それは自分も感じます。ほとんどの場所が、経済的にも心理的にも後ろ盾がなく好きなことだけをするというのは厳しい状況にある中、gumiさんの開発環境は上手く回っていて、安心感がある中で好きなことをできているんですよね。
──:そもそも、Fuji&gumi Gamesさんにおいては、一作目の『ファントム オブ キル』から腰を据えて遊べるというところに重点が置かれている印象があるのですが、そういった方向に指針を向けられた経緯をお教えいただいてよろしいでしょうか。
今泉:まずは僕自身、ゲーム性が高くなければ長続きしないという思いがあります。元々、ゲーム業界に来る前は深夜ドラマの制作をしていたのですが、そのときの作り方と同じく、コアな層にターゲットを絞ってから間口を広げていくという手法をとっています。当時、スマホ向けのタイトルで、ヒットしているシミュレーションRPGは他にありませんでしたし、誰も作らないだろうなと考えました。あとは、コアなゲームをどれだけ手軽に見せられるか、ライトに見せつつも奥深くしていくかというところに注力します。もちろん、ターゲットの中心にいるコアなユーザーは絶対に逃がしてはならないので、基本的にゲーム性の高いものを作ろうということは念頭に置いたままです。
“ゲーム性の高いタイトル”という部分に関しては、今後も作り続けていくことにはなりますが、やはりタイトルの数が増えてくると自分だけでは追い付かなくなりますので、自分以上に深い見識をお持ちのアベンジャーズの皆さんには非常に助けられています。
──:まさに互いに求めている環境が合致したというところですね。
今泉:皆さんも多分、これまでソーシャルゲームを制作してきた中で、世の中にフィットしていないと感じる部分があったのではないかなと思います。
安永:確かに、今のように「バトルシステムを面白くしてくれ」、「面白いマップを作ってくれ」と言われた方が断然やりやすいというのはあります。ゲーム性に関するところを仕事にして勝負できるのが良かったと思います。
石川:『タガタメ』は、”キャラをどう育てる”、”デッキ的にどう組み合わせる”といった、昔ながらのゲーム性のポイントがありながら、収益の構造として機能しているところも良かったと思います。今の時代に合った運用の仕組みでありながら、僕らが持つノウハウや知識を活かせる部分が噛み合うので非常にやりやすいです。
今泉さんが仰ったコアな層を狙うことや、世間にありふれたゲームを作ってもしょうがないという思想が、どこまで計算されて今の運用に落とし込まれているのかは分からないですが、結果的に成功し、僕らがゲーム的なアイデアを出すことが運用に繋がるような流れができているという点が凄く大きいですよね。
■ロジック&職人技の融合 『タガタメ』はこうして作られた
──:バランスが噛み合ったターニングポイントはどこだったのでしょうか。
阿部:最初は、限界突破をするために必要な「魂の欠片」の数が多すぎたりと、噛み合っていませんでした。その辺りについてはユーザーの動向を研究して、運営しながら寄せていった部分に自分たちの得意な内容がハマったという感じがします。
今泉:モバイルゲームは、バトル×育成で成り立っています。育成の部分は、毎日少しでもゲームを触ることで成長を感じられる。そのお披露目の機会がバトルになると考えています。バトルシステムが深く作られているほど、スキルやパラメーターなど、キャラの育成点を作ることができます。バトルと育成を上手く掛け合わせるのが僕の仕事になります。
なので、バトルの中身に関しては、アベンジャーズのような方々にお任せした方が良いものになると考えています。育成については、ユーザーの声を聞きながら調整することが可能なのですが、しっかりとお披露目の場を用意しておかなければならないなと。
金澤:数年前のソーシャルゲームはバトル部分が完全なデータゲームで、ユーザーがセッティングしたものを自動で戦わせるという形でしたので、ユーザーのプレイング技術をゲームに絡ませる余地がありませんでした。なので、家庭用ゲームを作る才能があるクリエイターがいたとしても、ブラウザのデータゲームでは殆どできることがないんです。
一方、これがネイティブでシミュレーションRPGになった場合、ソーシャルゲームのクリエイターにはIT業界から来られた方も多いので、データと数字には物凄く強いです。15%で当たるので、このくらいのダメージが期待できますという点においてはすぐに出てきます。ただし、プレイングスキルの余地が高くなるにつれ、感覚と経験が重要になります。特に、調整となるとさらに比重が重く、そういった作業に慣れている方は少ないですね。
今泉:その部分については、アベンジャーズとなら「3発で死にたいんですけど」と発注するだけでその通りに仕上がってきますからね。
金澤:数字やロジックだけではできないことがあるので、僕らの感覚で作っていくんです。今のgumiさんの環境は、ロジックと職人技の住み分けができている点が、バランスが噛み合っている要因かなと思います。
今泉:古き良き時代を知っているからこそ、物作りの中にある理不尽も知っていますし、理不尽だからこそ楽しいという空気を知っているのが良いですよね。それは働いている顔にも出ていて、やりたいことをやれている幸せを感じてくれていることが伝わります。自分たちで作ったマップをニコニコしながら夢中でテストプレイしているのを見て、この方たち本当にピュアなんだなと。
──:非常に良い環境でゲームを作られているからこそ、結果が付いてきているんだなということが伺えるエピソードですね。
今泉:やはり、ベテランがいると現場が締まります。当時、『タガタメ』が伸び悩んでいた時期にチーム全員で会議をしたことがあるのですが、そこで安永さんから言われた一言が非常に印象に残っています。自分自身、悩んでいたことから強い言葉も出ていたのですが、そこで安永さんに「今泉さん、『タガタメ』って売れてないんですかね?」と言われたんです。「確かに!」と気付かされました。今でも売れていることに変わりはないよねと。
安永:当時からコアなユーザーには刺さっていたんです。ただ、継続率やDAU(デイリーアクティブユーザー)を伸ばせないために、数字だけを見ると売れていないように見えていたんです。
今泉:伸びない=売れていない、と解釈していたんですよね。その頃はとにかく大変な時期で切羽詰まっていたので、その一言で「今の状況を続けていけばいい」と思えるようになりました。
安永:そこからは、新規ユーザーに優しくするにはどうすればいいか、継続率を伸ばすためにはどうすればいいかを考えながら、少しずつ改善していきました。その結果が1年経った今に積み上がっています。
今泉:ちなみに、安永さんから「売れてないんですかね?」と言われたのも、金澤さんに「3回はゲームオーバーになるマップを作ってくれ」と依頼したのも5月ですね。2016年5月を機に、『タガタメ』は右肩上がりに上昇しました。
僕自身まだ若いこともあり、功名心はなるべく抑えようと意識しているのですが、勢いづいてしまった際には経験豊富な方々がなだめてくれます。それは、僕だけではなく現場の若手にも同じことが言えるのですが、ゲーム性の部分についてこういった方々に見ていただけるのは僕にとっての安心材料になっています。大ヒットせずとも面白ければなんとかなると思えますし、「面白い」とSNSでつぶやかれていたり、「なるほど!」と思える攻略情報が生まれたりすると、ベテランの方々が頑張ってくれているおかげだなと思います。
──:時代がコンシューマーからモバイルへと移り変わり、”遊び”の部分を作りたいと感じているゲームクリエイターは多そうですよね。
石川:金澤さんも仰ってましたが、スマホゲームは配信してすぐにフィードバックが来るので、こちらもやる気が出ますよね。コンシューマーの場合、2~3年かけて作ったものが程々しか売れないと、反応が戻ってこないケースもあります。その点、今は毎週のようにコンテンツを作って配信しているので、その反応に対して「難しすぎたから調整しよう」、「今回はギミックが当たり前すぎたからもうひとひねりしよう」と、アイデアを考えるワクワク感のサイクルが早いので、モチベーションが保たれるのは大きいですね。
安永:逆に、ボロボロに言われてへこむこともありますけどね(笑)。
後編では、ベテランと若手の間でのコミュニケーションの取り方や地方都市ならではの開発環境についてのお話などをお届けしていく
(取材・文:編集部 山岡広樹)
(撮影:TAESOO KANG)
(撮影:TAESOO KANG)
■『誰ガ為のアルケミスト(タガタメ)』
© Fuji&gumi Games, Inc. All Rights Reserved.
会社情報
- 会社名
- 株式会社gumi
- 設立
- 2007年6月
- 代表者
- 川本 寛之
- 決算期
- 4月
- 直近業績
- 売上高120億6600万、営業損益50億4000万円の赤字、経常損益45億1400万円の赤字、最終損益59億3400万円の赤字(2024年4月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 3903
会社情報
- 会社名
- 株式会社Fuji&gumi Games
- 設立
- 2014年1月