【インタビュー】設立1年半で躍進を遂げたファンプレックス代表の下村氏に訊く…ゲーム業界の構造の変化に注目した「開発」と「運営」の違いとは
2015年10月15日に設立された、グリー<3632>のソーシャルゲーム運営子会社「ファンプレックス」。同社は、ソーシャルゲームの"セカンダリーマーケット"と言われる市場において、ゲームの買い取り・運営事業を行っている。『聖戦ケルベロス』や『NARUTO -ナルト- 忍コレクション 疾風乱舞』など、設立から1年半で運営タイトルは10本まで増加。クライアント企業との関係上、情報を公開することは難しいが、有名タイトルも数多く、コイン消費は業界最大とも言える100億規模に近づいてきたという。
今回はそんなファンプレックスの代表取締役社長である下村直仁氏に、好調に成長を続ける要因についてお話しを伺ってきた。そこには、ゲーム業界に今起き始めている事業構造の変化と、その環境でこそ生かされる「プロフェッショナルの運営力」が関係していた。
――:まずは下村さんのご経歴をお教えください。
下村直仁氏(以下、下村):現在、ソーシャルゲームの運営を専門とするグリー100%子会社「ファンプレックス」の代表をしています。8年前にWebゲームのプランナーとしてグリー株式会社に入社し、女性向けプロダクトのプロデューサーを経た後、複数のプロダクトを統括してきました。このような経験の中でグリーのゲーム運営力をもっと活用できるのではないか、という想いから新規事業としての可能性を見出し、ファンプレックスの設立に至りました。
――:ファンプレックスの事業内容を教えてください。
下村:ソーシャルゲームの運営を専門として事業展開しています。具体的には、他社様で運営しているゲームを買い取らせていただき、弊社にて運営を行っています。
――:ファンプレックス立ち上げから現在までの経緯をお教えください。
下村:設立は2015年10月15日です。初期メンバーは20名ほどで、グリーの代表作である「探検ドリランド」でプロデューサーを経験したメンバーや国民的なIPを使ったプロダクトのプロデューサーなど、大規模なプロダクトの運営を経験してきたメンバーが中心でした。
最初に取り掛かった案件は、他社様との協業案件として運営していたプロダクトを、100%ファンプレックスで運営できる形に移管することでした。運営移管というこの事業自体が成り立つかどうか検証する意味合いもありましたが、結果として当初計画したスケジュールどおりに運営を引き継ぐことができ、また移管後の業績推移についても、それまで毎月5~10%程度で減衰傾向だったものが、移管後に減衰がピタリと下げ止まり、その後も業績を安定化させることに成功しました。最初の移管案件を通じて我々が持つ高いゲーム運営力が実証されたため、積極的に事業拡大を推進し、現在では全10タイトルを運営するに至っています。また、昨年末から『NARUTO -ナルト- 忍コレクション疾風乱舞』をはじめとするネイティブゲームも2本買い取っており、今後はより一層ネイティブゲームの領域にも注力する方針です。
――:運営を専門にする企業というとかなり振り切っているように聞こえますが、どういったコンセプトからその発想に至ったのでしょうか。
下村:ソーシャルゲーム業界の特性として「ゲーム開発後も運営で永続的にお客様を楽しませる」というミッションがあります。あるチームが新規ゲームの開発に成功したとして、その瞬間から、そのチームは運営を行うことになるのが一般的です。つまり「ゼロから良いゲームを開発できる」人材が、「ゲームを運営する」人材に転換し、次の新規ゲーム開発ができないというジレンマに陥っていることに気づきました。そこを解消するのが我々の役目です。運営を引き受けることで、新作を作るべき人の手を空け、その人材を本当に注力すべき新規ゲーム開発へと再配置するお手伝いができるというわけです。
――:分業の考え方から、新事業の立ち上げに至ったわけですね。
下村:はい。運営ノウハウにおいては、10年以上積み重ねてきた実績から、様々なゲームにおいて勘所を踏まえた基礎運営やイベント設計を行えるのが弊社の強みだと認識しています。
――:開発と運営の業務特性の違いについてはいかがでしょうか。
下村:グリーグループでの話になりますが、ゲーム開発は年単位の期間で行われ、内外を併せれば100人を超える規模の人たちが関わって世の中にリリースされます。つまり開発は非常に長期的な視点でモノを作る仕事です。それに対して運営はお客様との間のインタラクションが非常に早いことが特徴です。極端な話「朝考えた案をその日の夕方に実装する」ということも不可能ではありません。
――:運営は、リアルタイムにお客様が遊んでいる裏で様々な対応を行うわけですね。
下村:少数精鋭のクイック&レスポンスが実現できるため、個々が関与できる裁量の範囲も広く、新たな人材を育てるよい環境であることも特徴です。「これは良い」「これは悪い」など迅速にお客様からのフィードバックを得られる感覚が非常に独特で、それをやりがいとしている社員も多く見受けられます。
――:集中して長期的にモノを作り続ける技能と、短期的なトライを繰り返す技能で各々の適性を鑑みて分業できれば、業務効率が上がりそうですね。
下村:はい。人材が最大限の力を発揮できる現場で活動することが、パフォーマンスの最大化に繋がると考えています。これまでゲーム業界では開発と運営は同じ概念でしたが、時代が進むにつれて事情が変化し、現在では「作った人が情熱を持って運営し続けるべき」というポリシーを持っている方もいれば、逆に「開発と運営を切り分けた方が動きやすい」と考える方もいらっしゃいます。歴史を振り返ると、ゲーム開発の複雑化に伴い、かつては単一のチームの中で担われてきた業務の分業化/プロフェッショナル化は、これまでも多くの場面で行われてきました。ゲーム業界においては、デバッグやカスタマーサポート、ローカライズなどに特化・専業化し、市場において大きなシェアを持つようになった企業の存在が、分かりやすい例と言えると思います。それと同じ流れがゲームの開発と運営という業務の単位にまで切り込まれたという話だと思います。
――:時代の流れとして、自然な転換であるということですね。
下村:はい。さらに言えば、この転換期こそ運営専門会社としてのポジションを確固たるものにする機会だと考えています。
――:ゲームの在り方が変わったからこその変化とも捉えられそうですね。
下村:ソーシャルゲームで“終わり”の概念がなくなった、という点は大きいでしょうね。1本のゲームを作り上げることと、途切れることなくサービスを提供することでは、求められる専門性が変わってきます。前者では「0から1を創り上げるスキル」が、後者では「1を100に育てるスキル」が求められます。それぞれが得意な分野で戦った方が有意義ですし、何より楽しいですよね。作り手自身が楽しめる場所で活躍できる現場を構築することが最も大切だと思います。
――:具体的な移管の手順についてもお教えいただいてよろしいでしょうか。
下村:移管にあたっては、プロデューサー・プランナー・エンジニア・アートといった各機能に経験豊富な責任者を立て、その配下に実務経験のあるスタッフを据えるのが基本です。チームの規模感としては、25人~30人ほど。これを移管専門チームとして、クライアント様の元に常駐させます。
まず、常駐を始める前に約2ヶ月ほど調査や準備の期間を設け、開発環境・目標・認識の摺り合わせを行います。そして次の2ヶ月で先方へ常駐し、実際のゲーム運営を経験しながら、全ての実務の引継ぎや習得を行います。そのようにして移管体制が完成したら、チームは弊社のオフィスに戻り、我々だけの力で運営を行い、先方には1ヶ月ほどフォローをいただくだけ、という形になります。
――:4ヶ月の準備期間に、1ヶ月のアフターケア期間を付けたパッケージというわけですね。移管が完了した後の運営はどのように行っていくのでしょうか。
下村:クライアント様から引き受けたゲームを長く安定的に運営することが我々のミッションです。そのため引き継がせていただいたゲームに我々独自のノウハウを加えていきます。まず最初に行うのは数値分析です。我々が重要と捉えている主要KPIを確認した後、問題を洗い出し修正すべき課題を定義します。課題を正しく定義できれば対応方法も導くことができるので、改善を行い、あるべき数値データに近づけていきます。その上でゲームの根本的な強みを再定義し、それを拡張していくのが基本戦略です。
――:数値のあるべき姿や、課題への対応方法は、やはりグリーが培ってきたノウハウから来るものなのでしょうか。
下村:そうですね。弊社には、グリーのプロダクト運営チームとも共通して使用している社内ツールがあるのですが、そこには各プロダクトのイベントと主要KPIが共有されていて、相関関係がわかるようになっています。そういったデータベースを参考にして問題点を洗い出します。さらに、過去にも同じような問題に直面した際に成功した対応事例なども参照できるので、あらゆるツールを駆使しながら対処法を決めていきます。重要なのは、対処して終わりではなく、その反響をデータ測定し、改善を繰り返していくことです。このサイクルを回していくことで「最適な運営」を行うことができると考えています。
――:非常にシステマチックな構造ですね。一方で、運営を長く続けていくためには新規コンテンツの追加・導入もしていかなければいけないと思いますが、どのように検討を行うのでしょうか。
下村:その点については、数字の力で解決できる部分だと思っていません。実際に運営を行っていくと、我々自身もプロダクトに愛着が湧き、頭で理解して想像していた“お客様目線”が、自分自身の感覚として根付いて来ます。その”お客様目線”の感覚をもとに、実際のお客様がどうすればもっと楽しんでくださるかを考えます。弊社は事業の形として、基本的に委託ではなく買い取りを希望させていただいています。それは移管したプロダクトと長くお付き合いしていく意思の現れです。買い取りをするということはリスクも伴います。「こうすれば伸びる」という計画はもちろんありますが、本当にそのプロダクトを理解して運営を行わなければ、お客様は離れてしまいます。そのくらい腹をくくる気持ちで、徹底的にプロダクトのことを考える必要があると思っています。
――:事業を続ける中で、苦労されている点はありますか?
下村:今しがた「数字の力では解決できない」と表現させていただきましたが、お客様に楽しんでいただくために、”これまでにそのゲームを開発し、育ててきた方々が大切にしてきた要素”を理解する部分です。ここの理解を深めるには、自分なりに試行錯誤してプロダクトのことを考え続ける必要があります。地道な努力の積み重ねがものを言う部分なので大変ではありますが、絶対に投げ出してはならない要素だと思っています。
――:どういった内容が、”開発者が大切にしてきた要素”として得られるのですか。
下村:例えば、運営期間が長いタイトルなどでは、ゲーム内でユーザーが作り上げてきた「このキャラはゲーム内ではこんな性格でこう扱われるべき」という歴史や文化にも似た共通の価値観があります。これは具体的に言語化されていないですし、数字からも見えない情報です。この部分こそ、開発者の魂が込められているポイントなので、たとえ時間が掛かっても丁寧に掬い上げる必要があります。汎用的な手段はなく「プロダクトごとにユーザーの気持ちを考えて動く」としか言えないですが、ゲームの運営を任せてもらうということは、よそのお家のお子さんを預かるようなものですので、常に誠意と熱意を持って接することが大切だと思っています。
――:「冷静な分析」と「熱い想い」が合わさって初めて実現する事業というわけですね。
――:社内の雰囲気はいかがでしょうか。
下村:弊社では、プロダクト単位でチームが構成されています。チーム内はフェイストゥフェイスのコミュニケーションが活発で、同じ課題に向き合っているためか、賑やかな面もあります。平均年齢も比較的若く、20代中盤~30代前半の人が多いですね。全員がゲーム好きということもあり、連帯感があります。同じ価値観を持った仲間と働ける職場なので、互いのことを大切に思いつつ、大変な現場でも頑張ってくれています。
また、プレミアムフライデーに「フライデービール」という企画を実施したりもしました。
――:どのような企画だったのでしょうか。
下村:「社員同士が仲良くなるために楽しく飲みましょう」といういわゆる飲みニケーションの場の提供の企画で、毎月月末の金曜日に会社としてビールと軽食を準備しました。現場から自発的に発案されたものが、世間のプレミアムフライデーに対する会社の考えと合致して実現に至りました。私ももちろん参加しましたよ(笑)。
【関連記事】 ・ファンプレックス、社内コミュニケーション活性化を目的とした取り組み「フライデービール」を実施
――:会社でお酒が飲めるなんて夢のような企画ですね。
下村:「みんなで仲良く頑張ろう」と思ったとき、その手段として「まずは何かやってみよう」と柔軟な提案ができる社員が多いことは、嬉しく思っています。
――:在籍されている方の中には、どういった経歴の方が多いのでしょうか。また、印象深い経歴の方など、採用理由も含めて教えてください。
下村:やはり、ゲーム業界の経験がある人は多いです。業界未経験でも、例えば、前職が銀行マンという珍しい方もいます。その方には数字を扱う能力を活かして分析業務に就いてもらい、実際に活躍してくれています。技能と興味の合致する場所を得られることが、経歴以上に大切なことだと感じます。
――:求めている職種や人物像についてはいかがでしょうか。
下村:ここから先の1年は、自分たちが培ってきたノウハウをネイティブアプリの世界で活かすフェーズに入ります。そのためネイティブの第一線で活躍してきた人材は、今まさに求めているところです。またゲーム内部の作り込みも非常に重要になるので、3Dデザイナーの方、サウンドクリエイターの方、外部メディアを活用したマーケティングが行える方なども、今後必要になると考えています。スキル要件はどんどん多様化しておりますので、どれかひとつでも適応できる方は、弊社としても積極的に迎え入れたいと思っています。特に、チーフプランナーやチーフエンジニアといった、他社ではリードポジションとも呼ばれる方々で、力を貸してくれる人を探しています。
――:人柄としてはいかがでしょうか。
下村:ゲーム好きであることと、それと同じくらい人間が好きな方が弊社には合うと思います。自分が関わるプロダクトを本気で好きになるためには、ゲーム好きであることはほぼ必須かなと思います。またチームで同じ作品に向き合う仕事ですので、仕事仲間を良い隣人と思える人が良いですね。
――:今後の構想や展開についてはどのように考えておられますか。
下村:現在は、2017年度に消費コイン100億規模に到達したい、という短期目標を掲げています。その規模に至るには、移管いただいたプロダクトを最適な状態で運営する必要があるので、結果が出れば我々の活動が正しく推移したことになると思っています。弊社はグリーで培った運営ノウハウがひとつの事業として価値を持ち得る、という仮説から始まった会社ですので、マーケットの実在を説得力のある形で証明できるのは重要です。次年度には我々がWebで培ってきたノウハウが「ネイティブゲームの領域でも通用する」という証を立てたいと思っています。
――:コーポレート・メッセージとして「CHANGE THE GAME」を掲げておられますが、この言葉についても詳細をお教えいただいてよろしいでしょうか。
下村:色々なことを変えていきたい、という意識があります。そして、変えるなら良い方向に変わらなければいけません。我々が提供しなければならない価値観は「お客様にとってより良い」であって、これが絶対のミッションです。そういった意味で「ゲームを(お客様にとって)より良く変える」というのが1つ目の意味になります。
2つ目は、開発と運営が渾然一体になっている状況の中、運営専門の事業を行うことで、我々が“GAME CHANGER”になる、という意味合いがあります。GAME CHANGERは英語の慣用句で、試合や世論の動向を大きく変える存在を指す言葉です。よりお客様のためになる業界の形を提供できたら、企業としてそれほど嬉しいことはありません。
3つ目に、「この会社に関わった人の人生という名の”ゲーム”を、より良くしたい」という気持ちがあります。もともとゲーム業界にいた方には、ゲーム運営のプロフェッショナルとして、さらなる飛躍・活躍の場を。ゲーム業界以外から飛び込んで来られる方には、登竜門的な立ち位置となり、この業界で生きていけるところまで、成長の場を。会社のメンバーとなるすべての人に、まだ若い成長段階の組織で、ここでしか得られない経験を提供したいという想いが込められています。
――:最後に、読者の方に一言メッセージをお願いします。
下村:我々の運営ノウハウは、今後より広いシーンで価値を提供できると確信しています。このノウハウをさらに磨き上げ、多くのゲームをより良くし続けるために、力を貸してくれる人をひろく募集しています。この活動に関わりたいという方は、弊社のドアを叩いて頂けたら嬉しく思います。
――:本日はありがとうございました。
今回はそんなファンプレックスの代表取締役社長である下村直仁氏に、好調に成長を続ける要因についてお話しを伺ってきた。そこには、ゲーム業界に今起き始めている事業構造の変化と、その環境でこそ生かされる「プロフェッショナルの運営力」が関係していた。
■ソーシャルゲーム運営子会社「ファンプレックス」とは
――:まずは下村さんのご経歴をお教えください。
下村直仁氏(以下、下村):現在、ソーシャルゲームの運営を専門とするグリー100%子会社「ファンプレックス」の代表をしています。8年前にWebゲームのプランナーとしてグリー株式会社に入社し、女性向けプロダクトのプロデューサーを経た後、複数のプロダクトを統括してきました。このような経験の中でグリーのゲーム運営力をもっと活用できるのではないか、という想いから新規事業としての可能性を見出し、ファンプレックスの設立に至りました。
――:ファンプレックスの事業内容を教えてください。
下村:ソーシャルゲームの運営を専門として事業展開しています。具体的には、他社様で運営しているゲームを買い取らせていただき、弊社にて運営を行っています。
――:ファンプレックス立ち上げから現在までの経緯をお教えください。
下村:設立は2015年10月15日です。初期メンバーは20名ほどで、グリーの代表作である「探検ドリランド」でプロデューサーを経験したメンバーや国民的なIPを使ったプロダクトのプロデューサーなど、大規模なプロダクトの運営を経験してきたメンバーが中心でした。
最初に取り掛かった案件は、他社様との協業案件として運営していたプロダクトを、100%ファンプレックスで運営できる形に移管することでした。運営移管というこの事業自体が成り立つかどうか検証する意味合いもありましたが、結果として当初計画したスケジュールどおりに運営を引き継ぐことができ、また移管後の業績推移についても、それまで毎月5~10%程度で減衰傾向だったものが、移管後に減衰がピタリと下げ止まり、その後も業績を安定化させることに成功しました。最初の移管案件を通じて我々が持つ高いゲーム運営力が実証されたため、積極的に事業拡大を推進し、現在では全10タイトルを運営するに至っています。また、昨年末から『NARUTO -ナルト- 忍コレクション疾風乱舞』をはじめとするネイティブゲームも2本買い取っており、今後はより一層ネイティブゲームの領域にも注力する方針です。
■「開発」と「運営」の分業について
――:運営を専門にする企業というとかなり振り切っているように聞こえますが、どういったコンセプトからその発想に至ったのでしょうか。
下村:ソーシャルゲーム業界の特性として「ゲーム開発後も運営で永続的にお客様を楽しませる」というミッションがあります。あるチームが新規ゲームの開発に成功したとして、その瞬間から、そのチームは運営を行うことになるのが一般的です。つまり「ゼロから良いゲームを開発できる」人材が、「ゲームを運営する」人材に転換し、次の新規ゲーム開発ができないというジレンマに陥っていることに気づきました。そこを解消するのが我々の役目です。運営を引き受けることで、新作を作るべき人の手を空け、その人材を本当に注力すべき新規ゲーム開発へと再配置するお手伝いができるというわけです。
――:分業の考え方から、新事業の立ち上げに至ったわけですね。
下村:はい。運営ノウハウにおいては、10年以上積み重ねてきた実績から、様々なゲームにおいて勘所を踏まえた基礎運営やイベント設計を行えるのが弊社の強みだと認識しています。
――:開発と運営の業務特性の違いについてはいかがでしょうか。
下村:グリーグループでの話になりますが、ゲーム開発は年単位の期間で行われ、内外を併せれば100人を超える規模の人たちが関わって世の中にリリースされます。つまり開発は非常に長期的な視点でモノを作る仕事です。それに対して運営はお客様との間のインタラクションが非常に早いことが特徴です。極端な話「朝考えた案をその日の夕方に実装する」ということも不可能ではありません。
――:運営は、リアルタイムにお客様が遊んでいる裏で様々な対応を行うわけですね。
下村:少数精鋭のクイック&レスポンスが実現できるため、個々が関与できる裁量の範囲も広く、新たな人材を育てるよい環境であることも特徴です。「これは良い」「これは悪い」など迅速にお客様からのフィードバックを得られる感覚が非常に独特で、それをやりがいとしている社員も多く見受けられます。
――:集中して長期的にモノを作り続ける技能と、短期的なトライを繰り返す技能で各々の適性を鑑みて分業できれば、業務効率が上がりそうですね。
下村:はい。人材が最大限の力を発揮できる現場で活動することが、パフォーマンスの最大化に繋がると考えています。これまでゲーム業界では開発と運営は同じ概念でしたが、時代が進むにつれて事情が変化し、現在では「作った人が情熱を持って運営し続けるべき」というポリシーを持っている方もいれば、逆に「開発と運営を切り分けた方が動きやすい」と考える方もいらっしゃいます。歴史を振り返ると、ゲーム開発の複雑化に伴い、かつては単一のチームの中で担われてきた業務の分業化/プロフェッショナル化は、これまでも多くの場面で行われてきました。ゲーム業界においては、デバッグやカスタマーサポート、ローカライズなどに特化・専業化し、市場において大きなシェアを持つようになった企業の存在が、分かりやすい例と言えると思います。それと同じ流れがゲームの開発と運営という業務の単位にまで切り込まれたという話だと思います。
――:時代の流れとして、自然な転換であるということですね。
下村:はい。さらに言えば、この転換期こそ運営専門会社としてのポジションを確固たるものにする機会だと考えています。
――:ゲームの在り方が変わったからこその変化とも捉えられそうですね。
下村:ソーシャルゲームで“終わり”の概念がなくなった、という点は大きいでしょうね。1本のゲームを作り上げることと、途切れることなくサービスを提供することでは、求められる専門性が変わってきます。前者では「0から1を創り上げるスキル」が、後者では「1を100に育てるスキル」が求められます。それぞれが得意な分野で戦った方が有意義ですし、何より楽しいですよね。作り手自身が楽しめる場所で活躍できる現場を構築することが最も大切だと思います。
■「冷静な分析」と「熱い想い」が生み出すプロフェッショナルのゲーム運営
――:具体的な移管の手順についてもお教えいただいてよろしいでしょうか。
下村:移管にあたっては、プロデューサー・プランナー・エンジニア・アートといった各機能に経験豊富な責任者を立て、その配下に実務経験のあるスタッフを据えるのが基本です。チームの規模感としては、25人~30人ほど。これを移管専門チームとして、クライアント様の元に常駐させます。
まず、常駐を始める前に約2ヶ月ほど調査や準備の期間を設け、開発環境・目標・認識の摺り合わせを行います。そして次の2ヶ月で先方へ常駐し、実際のゲーム運営を経験しながら、全ての実務の引継ぎや習得を行います。そのようにして移管体制が完成したら、チームは弊社のオフィスに戻り、我々だけの力で運営を行い、先方には1ヶ月ほどフォローをいただくだけ、という形になります。
――:4ヶ月の準備期間に、1ヶ月のアフターケア期間を付けたパッケージというわけですね。移管が完了した後の運営はどのように行っていくのでしょうか。
下村:クライアント様から引き受けたゲームを長く安定的に運営することが我々のミッションです。そのため引き継がせていただいたゲームに我々独自のノウハウを加えていきます。まず最初に行うのは数値分析です。我々が重要と捉えている主要KPIを確認した後、問題を洗い出し修正すべき課題を定義します。課題を正しく定義できれば対応方法も導くことができるので、改善を行い、あるべき数値データに近づけていきます。その上でゲームの根本的な強みを再定義し、それを拡張していくのが基本戦略です。
――:数値のあるべき姿や、課題への対応方法は、やはりグリーが培ってきたノウハウから来るものなのでしょうか。
下村:そうですね。弊社には、グリーのプロダクト運営チームとも共通して使用している社内ツールがあるのですが、そこには各プロダクトのイベントと主要KPIが共有されていて、相関関係がわかるようになっています。そういったデータベースを参考にして問題点を洗い出します。さらに、過去にも同じような問題に直面した際に成功した対応事例なども参照できるので、あらゆるツールを駆使しながら対処法を決めていきます。重要なのは、対処して終わりではなく、その反響をデータ測定し、改善を繰り返していくことです。このサイクルを回していくことで「最適な運営」を行うことができると考えています。
――:非常にシステマチックな構造ですね。一方で、運営を長く続けていくためには新規コンテンツの追加・導入もしていかなければいけないと思いますが、どのように検討を行うのでしょうか。
下村:その点については、数字の力で解決できる部分だと思っていません。実際に運営を行っていくと、我々自身もプロダクトに愛着が湧き、頭で理解して想像していた“お客様目線”が、自分自身の感覚として根付いて来ます。その”お客様目線”の感覚をもとに、実際のお客様がどうすればもっと楽しんでくださるかを考えます。弊社は事業の形として、基本的に委託ではなく買い取りを希望させていただいています。それは移管したプロダクトと長くお付き合いしていく意思の現れです。買い取りをするということはリスクも伴います。「こうすれば伸びる」という計画はもちろんありますが、本当にそのプロダクトを理解して運営を行わなければ、お客様は離れてしまいます。そのくらい腹をくくる気持ちで、徹底的にプロダクトのことを考える必要があると思っています。
――:事業を続ける中で、苦労されている点はありますか?
下村:今しがた「数字の力では解決できない」と表現させていただきましたが、お客様に楽しんでいただくために、”これまでにそのゲームを開発し、育ててきた方々が大切にしてきた要素”を理解する部分です。ここの理解を深めるには、自分なりに試行錯誤してプロダクトのことを考え続ける必要があります。地道な努力の積み重ねがものを言う部分なので大変ではありますが、絶対に投げ出してはならない要素だと思っています。
――:どういった内容が、”開発者が大切にしてきた要素”として得られるのですか。
下村:例えば、運営期間が長いタイトルなどでは、ゲーム内でユーザーが作り上げてきた「このキャラはゲーム内ではこんな性格でこう扱われるべき」という歴史や文化にも似た共通の価値観があります。これは具体的に言語化されていないですし、数字からも見えない情報です。この部分こそ、開発者の魂が込められているポイントなので、たとえ時間が掛かっても丁寧に掬い上げる必要があります。汎用的な手段はなく「プロダクトごとにユーザーの気持ちを考えて動く」としか言えないですが、ゲームの運営を任せてもらうということは、よそのお家のお子さんを預かるようなものですので、常に誠意と熱意を持って接することが大切だと思っています。
――:「冷静な分析」と「熱い想い」が合わさって初めて実現する事業というわけですね。
■プレイミアムフライデーも取り入れた社内環境について
――:社内の雰囲気はいかがでしょうか。
下村:弊社では、プロダクト単位でチームが構成されています。チーム内はフェイストゥフェイスのコミュニケーションが活発で、同じ課題に向き合っているためか、賑やかな面もあります。平均年齢も比較的若く、20代中盤~30代前半の人が多いですね。全員がゲーム好きということもあり、連帯感があります。同じ価値観を持った仲間と働ける職場なので、互いのことを大切に思いつつ、大変な現場でも頑張ってくれています。
また、プレミアムフライデーに「フライデービール」という企画を実施したりもしました。
――:どのような企画だったのでしょうか。
下村:「社員同士が仲良くなるために楽しく飲みましょう」といういわゆる飲みニケーションの場の提供の企画で、毎月月末の金曜日に会社としてビールと軽食を準備しました。現場から自発的に発案されたものが、世間のプレミアムフライデーに対する会社の考えと合致して実現に至りました。私ももちろん参加しましたよ(笑)。
【関連記事】 ・ファンプレックス、社内コミュニケーション活性化を目的とした取り組み「フライデービール」を実施
――:会社でお酒が飲めるなんて夢のような企画ですね。
下村:「みんなで仲良く頑張ろう」と思ったとき、その手段として「まずは何かやってみよう」と柔軟な提案ができる社員が多いことは、嬉しく思っています。
――:在籍されている方の中には、どういった経歴の方が多いのでしょうか。また、印象深い経歴の方など、採用理由も含めて教えてください。
下村:やはり、ゲーム業界の経験がある人は多いです。業界未経験でも、例えば、前職が銀行マンという珍しい方もいます。その方には数字を扱う能力を活かして分析業務に就いてもらい、実際に活躍してくれています。技能と興味の合致する場所を得られることが、経歴以上に大切なことだと感じます。
――:求めている職種や人物像についてはいかがでしょうか。
下村:ここから先の1年は、自分たちが培ってきたノウハウをネイティブアプリの世界で活かすフェーズに入ります。そのためネイティブの第一線で活躍してきた人材は、今まさに求めているところです。またゲーム内部の作り込みも非常に重要になるので、3Dデザイナーの方、サウンドクリエイターの方、外部メディアを活用したマーケティングが行える方なども、今後必要になると考えています。スキル要件はどんどん多様化しておりますので、どれかひとつでも適応できる方は、弊社としても積極的に迎え入れたいと思っています。特に、チーフプランナーやチーフエンジニアといった、他社ではリードポジションとも呼ばれる方々で、力を貸してくれる人を探しています。
――:人柄としてはいかがでしょうか。
下村:ゲーム好きであることと、それと同じくらい人間が好きな方が弊社には合うと思います。自分が関わるプロダクトを本気で好きになるためには、ゲーム好きであることはほぼ必須かなと思います。またチームで同じ作品に向き合う仕事ですので、仕事仲間を良い隣人と思える人が良いですね。
――:今後の構想や展開についてはどのように考えておられますか。
下村:現在は、2017年度に消費コイン100億規模に到達したい、という短期目標を掲げています。その規模に至るには、移管いただいたプロダクトを最適な状態で運営する必要があるので、結果が出れば我々の活動が正しく推移したことになると思っています。弊社はグリーで培った運営ノウハウがひとつの事業として価値を持ち得る、という仮説から始まった会社ですので、マーケットの実在を説得力のある形で証明できるのは重要です。次年度には我々がWebで培ってきたノウハウが「ネイティブゲームの領域でも通用する」という証を立てたいと思っています。
■コーポレートメッセージ「CHANGE THE GAME」について
――:コーポレート・メッセージとして「CHANGE THE GAME」を掲げておられますが、この言葉についても詳細をお教えいただいてよろしいでしょうか。
下村:色々なことを変えていきたい、という意識があります。そして、変えるなら良い方向に変わらなければいけません。我々が提供しなければならない価値観は「お客様にとってより良い」であって、これが絶対のミッションです。そういった意味で「ゲームを(お客様にとって)より良く変える」というのが1つ目の意味になります。
2つ目は、開発と運営が渾然一体になっている状況の中、運営専門の事業を行うことで、我々が“GAME CHANGER”になる、という意味合いがあります。GAME CHANGERは英語の慣用句で、試合や世論の動向を大きく変える存在を指す言葉です。よりお客様のためになる業界の形を提供できたら、企業としてそれほど嬉しいことはありません。
3つ目に、「この会社に関わった人の人生という名の”ゲーム”を、より良くしたい」という気持ちがあります。もともとゲーム業界にいた方には、ゲーム運営のプロフェッショナルとして、さらなる飛躍・活躍の場を。ゲーム業界以外から飛び込んで来られる方には、登竜門的な立ち位置となり、この業界で生きていけるところまで、成長の場を。会社のメンバーとなるすべての人に、まだ若い成長段階の組織で、ここでしか得られない経験を提供したいという想いが込められています。
――:最後に、読者の方に一言メッセージをお願いします。
下村:我々の運営ノウハウは、今後より広いシーンで価値を提供できると確信しています。このノウハウをさらに磨き上げ、多くのゲームをより良くし続けるために、力を貸してくれる人をひろく募集しています。この活動に関わりたいという方は、弊社のドアを叩いて頂けたら嬉しく思います。
――:本日はありがとうございました。
(取材・文 編集部:山岡広樹)
会社情報
- 会社名
- グリーエンターテインメント株式会社
- 設立
- 2021年7月
- 代表者
- 代表取締役社長 柿沼 洋平