ハリウッド俳優として生きる日本人。激変するハリウッド映画業界の未来中山淳雄の「推しもオタクもグローバル」第135回

中山淳雄 エンタメ社会学者&Re entertainment社長
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ハリウッドで活躍する日本人として、これまで『MINAMATA』で女優を務めた岩瀬顕子氏プロデューサーの中原徹氏石本仁氏を取材してきた。今回は男性俳優として『イクサガミ』『Shogun』など歴史ドラマで出演する平川貴彬氏である。米国にわたって15年、コネもないなかでの俳優業はどうやってポジションを獲得するのか。そしてコロナ後にハリウッド業界の激変を、一俳優はどのように感じるのか。近年JapanはCoolなものとして受け止められ、日本人俳優の需要は確実に高まっている。このインタビューは、日本人として今後も日米映画業界のハザマでどう生きていくべきなのかのヒントに溢れている。

 

■「普通の日本人」がハリウッド俳優になるまでの道のり

――:自己紹介からお願いします。

平川貴彬(ひらかわたかあき)と申します。俳優をやっておりまして、現在もロサンゼルスに居住して過去では下記のような作品に出演しております。

【TV配信】
✔ 『Shogun』溝口雅隆役(一族を守るために犠牲となる武士)(FX/Disney+/2024配信/福永壮志監督)
✔ 『イクサガミ』押部宇内(弓兵)役(Netflix/2025配信/藤井道人総監督)
✔ 『龍が如く~Beyond the Game~』浜崎組若頭補佐役(Amazon Prime/2024配信/武正晴監督)
✔ 『The Gorburger Show』MC Tomimi役(Comedy Central/2017放映/The Director Brothers監督)

【声優】
✔ 「Blue Eye Samurai」(Netflix/2023配信)

【映画】
✔ 『遠い山なみの光』教員役(ギャガ/2025公開)
✔ 『僕の中に咲く花火』ハットリ役(彩プロ/2025公開)

【舞台】
✔ 「Super Sexy Sexy Superhero」(2018、Nicole Williams演出)
✔ 「SHOUT」(2017、Mel Donalson演出)
✔ 「BLOOD」(2016、Robert Allan Ackerman演出)

――:俳優になるまで紆余曲折あったとお聞きしています。英語はどこで学ばれたんですか?

4-7歳まで父の仕事でアメリカのオハイオ州クリーブランドにいました。いわゆる帰国子女ですね。ただ小学校から大学までは「普通の日本人」としてのキャリアです。

神奈川の公立学校で小学校は弱小サッカークラブ、中学がソフトテニス。高校はアメフトをやっていた、というだけでほとんどその経歴を生かしていたというわけではないんです。高校は早稲田大学高等学院なんですが、そこでアメフト部に入るのですが、基本的にはずっと勉強とスポーツ漬けでした。ただ、そのときに音楽との出会いがありました。

――:サッカー/テニス/アメフトときて、確かにそこまでは音楽・芸能とは一切無関係に見えますね。

当時、高校2年だったんですが、皆の前で好きな歌を歌うという授業があったんです。そこで歌ったのがゴスペラーズさんの『星屑の街』(2002)、まったく自分自身が知らなかった才能が開花したんですよ。僕が歌い終わったらクラス中がドッカンドッカン盛り上がって、「もしかして自分は人よりも歌がうまいんじゃないか?」ということに気づくんです。まわりも凄いから文化祭で歌いなよ、みたいな。ただその時はアメフトが忙しくて、大学に入ったら音楽でもやってみようかな、くらいなものでした。

――:それで大学で音楽サークルに入ったんですか?

早稲田大学の先進理工学部に2007年に進学しました。ただそこでも臆してしまって最初の1年目は高校の先輩に紹介されたバレーサークルでした。なにか踏ん切りがつかなかったんですよ。でも1年すごすうちに高校時代の歌の記憶が残っていて、やっぱりやりたいな、と。

それで兼部でインカレのアカペラサークルに入ったんです。その大学2年から音楽にドハマりしていきます。SCS(Street Corner Symphony)というサークルなんですけど、結構歴史あるサークルで(1984年設立)、アカペラ界重鎮の多胡淳さん(1971~)もここの出身です。1992年にTRY-TONEというアカペラグループを結成し、その後音楽業界でプロになっていく方が多かった。有名なのはゴスペラーズ(1991~)ですよね。2-3個上でアイドルの楽曲制作でプロになっている先輩もおり、4年生まで全部いれて100人くらいのサイズでした。

――:ほとんど初心者で入った平川さんは、そのセミプロ級のサークルだと、どのくらいのレベル感だったんでしょうか?

声量は大きめで歌自体はうまいほうではあったんですが音感はまだまだで、サークルの中だと決して上位だったというわけでもないんです。どちらかというと「お笑い担当」みたいなポジションでしたね。上をみると絶対音感バリバリでとろけるような歌声の先輩ばかり。アカペラサークルってだいたいは4-6人で1グループ編成して年4回くらいライブの機会があるんですけど、一応キャラで売っている自分としてはそこで声をかけられてグループには入れてもらいやすいほうでしたね。

サークル主催のそのライブ以外でも、外部で活動してライブハウスでアカペラ歌ったりするようなグループもありました。普通はカバーなんですけど作詞作曲も全部オリジナルでやっちゃうような先輩方もいて。

――:アカペラサークルで将来を嘱望された…という感じでもないのに、よくいきなり米国の音楽大学に進む、という話になりましたね。

ハマったのが大学2年からだったので、まだまだ音楽を学びたいという気持ちが強かったんですよね。それに、社会人になって久しぶりに大学に顔を出した先輩のなかに、本当に「死んだ魚のような目」をしていた人がいて。そんな大人になりたくないと思って、就職に希望がもちにくくなっていたんです。

――:普通に日本のオトナだと「最初新卒はいったん大企業に就職しておけ。あとから留学すればいいじゃないか」とか言われそうですよね。

未来の姿がありありと想像できちゃったんですよ。大学を卒業し、それなりの会社に入り、それなりに給与もらいながら、それなりの結婚もして家庭をもつだろうな、と。でも新卒で5-6年そんな人生を歩むなかで28-29歳になった自分は、「いつか音楽を学びたい」という気持ちがもし残っていた場合、自分は妻とか子供とか、そういった責任を捨てて進学するなんて絶対できないタイプだと思ったんです。そこまで思いがいたったときに、よし、これは留学してしまおう、と決意したんです。

 

■米国の音楽大学院に留学、パク・ソヒ氏との出会いで俳優にキャリアチェンジ

――:進学先はなぜロサンゼルスのMI(Musicians Institute)だったんですか?

よく出てくるのはボストンのバークリーとかジュリアード音楽院ですよね、でもそれらはクラシックが中心なんです。バークリーはジャズ系が中心で、そういう学校群のなかではMIが一番前歴も問わないし、音楽も一から学べる学校だったんです。それにMIはレッド・ホット・チリ・ペッパーのギタリストなんかも卒業生で、ゴリゴリのポップカルチャーに向いていたんです。だからそっちのほうがいいだろう、と。

歌、ドラム、作曲などと学科が分かれていて、自分はそこでボーカル科に進みました。

――:音楽もアカペラで3年だけ、というのもそうですが、英語も結構久々なわけですよね?

他の人よりは言語のビハインドがなかったとはいえ、やっぱり厳しかったですね。十分なボキャブラリーがなかったので、まずはESLにいって語学の勉強からでした。アメリカの友人つくって英語をしゃべりまくっていたら、カンが戻ってきました。そしてMIには2011年9月~13年春ごろ在学していた形です。

――:大学卒業したら、母国に戻る、というほうが王道ルートですよね?

学士・準学士を取得するとOPTというビザがとれるんです。卒業後の1年間という時間のなかで仕事が探せます。最初はMIの仲間と地元のフェスティバルでパフォーマンスしたりしていました。そのころはまだ「シンガーソングライター」を目指していたんですよね。

ただやっぱりハリウッドだなと思うのは、世界中からエンタメの分野の人がいるんです。俳優、モデル、プロデューサー、監督、そこはエンタメのメッカで、いろんな出会いがありました。僕の運命を変えたのはパク・ソヒさん(Sohee Park)との出会いでした。たまたま同じ早稲田を卒業して、日本でも米国でも俳優の実績がある先輩です。お世話になっていたギタリストの友人が連れてきたその小さな飲み会で意気投合して、その後僕の兄貴分になってくれた人です。

――:パク・ソヒさん(日本語名:ソウジ・アライ)、日本でも文学座に所属し、舞台人としても映画俳優としてもキャリアある人ですね。

そのソヒさんを気に入ってずっと彼の主演舞台を手掛けていたのが、ロバート・アラン・アッカーマン氏、通称ボブさんです。メリル・ストリープやリチャード・ギアなども演出して、ゴールデングローブにもノミネートされた方なんですが、そのボブさんとソヒさんが、2013年にロスの日本人役者向けにワークショップをはじめよう、と言い始めたんですよね。「おまえは歌手だと思うけど、同じ表現者だからちょっと演技もやってみないか?」と誘われ、お世話になっていた兄貴分からの誘いに、2つ返事で参加しました。

※Robert Allan Ackerman(1944~2022)米国の演出家、2008年に日本を拠点に活動する演劇ユニットthe Companyを結成。『BENT』(主演:リチャード・ギア)や『サロメ』(主演:アル・パチーノ)『TAKEN IN MARRIAGE』(日本語題:『結婚』、主演:メリル・ストリープ)など名だたるハリウッド俳優の演出も手掛けてきた。
※パク・ソヒ(1975~)在日韓国人三世として日本に生まれ育ち、早稲田大学商学部から文学座に所属し、東京・ロスで俳優活動をしている。『46億年の恋』(2006)『パッチギ! 』(2007)『海猿3』(2010)などにも出演。テレビでも『パチンコ – Pachinko』(2022、Apple TV+)『TOKYO VICE season2』(2024、WOWOW)

――:なるほど!早稲田アカペラサークル⇒米国声楽留学からの、俳優のワークショップに初めてそこでキャリアチェンジするわけですね?

はい、ワークショップ自体は楽しくやっていて、実際に俳優をやるようになるのはビザがとれてから、です。まだロスでいろいろやりたい!と思ってOビザ(特殊技能ビザ)に挑戦しようとしたら、ちょうど演者としてのマネジャーやってくれる人がいたり、受け入れ先(Petitioner)も見つかって無事ビザがとれてしまって、3年延長、となりました。それで俳優としてのキャリアがスタートです。

――:俳優としてはその舞台に出演した2016年「BLOOD」がデビュー作ですかね。

いえ、2015年はじめに超ミニシアターの舞台ですでにデビューしています。座席数も数十席もいかないくらいで、観客より演者のほうが多いんじゃないか、みたいなめちゃめちゃインディーズの舞台です。

――:舞台ではなく映像としてのデビューはいつなのですか?

2015年にはじめていったオーディション合格してしまったのが『The Gorburger Show』(2012~13、2017:米国コメディ・テレビシリーズ)なんです。知らないって強いですよね、その後散々オーディションに落ちることになるのに、なぜか強気の1発目はいきなりの合格。

インディーズでつくられた映像シリーズをHBOがオーダーしてパイロット版を2015年春に撮影されたんです。でも(これもよくあるんですが)パイロット制作後にオーダー(フルシーズンの製作)がされることなく、HBOでは作品化されなかった、という流れです。

――:確かに本作は2017年放送と、結構期間が空いたんですね。

その後Comedy Centralが購入してくれて、1年たってようやく1シーズンとるぞ、と撮影に呼ばれたのが2016年です。自分が一番年下でしたし(ちょうど30歳弱)、一番最初に受けたオーディションにいきなり受かったので、いわゆるビギナーズラックでしたね。

 

■舞台・コメディ・TV番組・映画、あらゆるメディアに出演してきたが「食える」までの困難さ

――:俳優を目指して1-2年で舞台にもTV映像にも出られたのはずいぶん早いデビューですね。

ボブさんのワークショップ『The Garage』が2013年でしたからね。舞台のプロデュースはボブさん含め、みんなでやろう!となって始まり、そこでオリジナル舞台作品「Blood」に出演しました。

その後は本拠地がシカゴにあるThe Second City(シカゴは“アメリカの大阪"みたいな都市でコメディの本場なんです!Saturday Night Liveもこの卒業生が制作したヒット番組)のハリウッド支部があって、その一員として月1回のコントライブをやってきました。脚本まで自分で書いて、やってました。

――:平川さんの「出世作」というと、どれになるのでしょうか?

やっぱりたくさん見られたという意味では2024~2025年の作品ですね。『Shogun』(2024)か『Blue Eye Samurai』(2023)でしょうね。Blue Eyeは日本ではあまり見られていないかもしれませんが、北米だとかなり視聴された作品なんです(Netflix発表データでは23年下半期で73百万時間、1160万人が視聴した米国発アニメーション作品)。アニメーション界のアカデミー賞であるアニー賞も6部門受賞して、視聴層時間では一番だったのではないかと。日本で見られたものでいうと『イクサガミ』(2025)でしょうね。

▲平川氏が出演をしている『イクサガミ』押部宇内役©Netflix

▲平川氏が声優出演をしている『Blue Eye Samurai』©Netflix

 

――:このくらいのヒット作に出演するようになると、もう俳優で食える、という感じなんですか?

いや、今でも食えるようになった、とは言えないレベルですね。ある年は結構稼げていても、翌年は1本しかなくて貯金を切り崩す、ということもあります。やっぱりいつ仕事がなくなるかは不安で、その不安定に押し殺されそうになったこともあります。

大先輩の伊原剛志さん(1963~、舞プロモーション所属、『ふたりっ子』『硫黄島からの手紙』など)からは「おれらの仕事は不安定が常なんだから、不安定に慣れないといけない」と言われますね。

――:舞台と映画では結構ギャラも違うものなのでしょうか?

映像の仕事と舞台の仕事は、違いますね(舞台の組合に入っているかどうかでどのくらい違うかまでは分かりませんが)。僕の場合、映像では組合(ユニオン)に入っているので、給与も一定額補償されてますし、キャリアにもなります。ただ舞台に関しては組合に入っていないので、基本的にはPassion Project(気持ちベースで十分な対価が得られないけど出演するもの)ですね。2020年までは僕もコントで舞台に立っていたので、こっちのPassion寄りだったんです。

――:米国は組合(ユニオン)で最低賃金もしっかり守られますもんね。なぜ全員が組合に入らないんですか?

あえてユニオンに入らないメリットもあって、それは「出演できる作品の幅」ですね。ユニオンは基本的に大きい作品が中心で、2-3番手の役者になってくるとなかなか出演機会が得られなくて苦しいんです。CM撮影やインディーズ映画はノン・ユニオン撮影といって組合を通さずに撮られる作品も多くて、「ノンユニオンの作品」というプール自体が結構大きいんです。その場合、給与は補償されていないですし、とっぱらいで日給のようにお金をもらいます。

――:金額が安定する大きな作品の「ユニオン作品」と、実はそのすそ野にあるチャンスは多いが保証がされない「ノンユニオン作品」ですね。なんだかMLBの1軍と2軍以下のような話ですね。

組合に入ると、そもそも受けられる仕事が半分以下に減ってしまう、くらい総量は限られます。だからキャリアのどのタイミングでユニオンに所属するか、という判断も重要ですよね。ユニオン経由だと出演印税もしっかり出ますからね、ここらへんは日本の映像業界とは違う部分です。

野球で例えるなら僕はまだAAA(マイナーリーグの最高峰、いわゆるメジャー以下の2軍)とメジャーの間を行き来してる俳優、という感じです。

――:キャリアとしてはどうでしょうか?舞台とテレビ/配信/映画は、それぞれの活躍が影響しあうのでしょうか?

テレビ/配信/映画の間には昔でいうとそれなりの垣根がありましたが、最近は「映像」というくくりで1つの世界になっていますね。

でも舞台とこれらの映像系はやっぱり別です。映画はアカデミー賞、テレビはエミー賞、舞台はトニー賞がありますよね。アカデミー賞とエミー賞のノミネートされる俳優は重複・クロスオーバーがあるんですよ。でもトニー賞だけは別ですね。アカデミー賞受賞者でありながら、トニー賞でも評価された人間というのはほぼいないんです。

――:米国/英国、映画/テレビの間も敷居が高い、という話を前回石本さんにも(引用)伺いました。

Jinさんは「イギリスの役者はWest Endの舞台が目標で、映像作品は金稼ぎでしかない」と言ってましたね。役者の能力や評価は、映像じゃなくて「舞台」で決まるのが英国です。さすがシェイクスピアを生んだ国ですよね。

――:それに米国で生きるのは「ビザ」問題がありますよね。3年ごとに、ずっと帰らされるかもしれないという恐怖は、いかばかりか。

実は僕は2015年から3年間ごとに毎回毎回Oビザで更新手続きをしてきましたが、2025年についにグリーンカード(永住権)がとれました。アメリカってゼロイチでつかみ取ったものがクレジット(信用)としてたまっていくんです。ビザの審査では「あなたはどんな人ですか」「アメリカにどんな貢献をしてくれますか」ということが問われます。今回のグリーンカードには、明確に『Shogun』や『Blue Eye Samurai』の出演が効いたと思います。

 

■オーディション当選率1%、落ちまくる俳優業の厳しさも日本人俳優のハリウッド挑戦ブーム

――:最近だとオーディションはどのくらいの確率ですか?

オーディションで通る確率は、今でも、ホントに1%みたいな話です。何件受けていたか、もう数えたくないレベルです。何百件と応募して、上記のような案件を掴んでいるだけなんです。

――:で、これだけ出られてても、1%ですか?オファーの案件とかは少ないですか?

『僕の中に咲く花火』はオファーでもらいましたけど、『イクサガミ』や『龍が如く』、『遠い山なみの光』もほとんどはオーディションを受けて、合格して、ようやく撮影、という順番ですね。

短編とか舞台であれば主役をもらえることもあります。でも大規模作品になると、まずそもそもの知名度がないとダメですし、いまは「参加している状態」でなんとかしがみつきながら階段をあがっている段階です。

――:オーディションで落ちまくっていると、精神が削られそうです。

もともと理系で勉強やスポーツを頑張っていたころを思い起こすと、あの時代は「目標が明確」なんですよね。とにかく相手に勝てばいい、練習すれば結果もでる。でも一歩芸術の世界に足を踏み入れると、十人十色でみんながみんな頑張って優れているのに、なぜかAからは100点でBからは0点、みたいな評価を僕自身も受けてしまいます。

最初は結構悩みましたね。どうすればいいか全くわからないんですよ。何が悪かったかという反省のポイントも見えないですし。でもそれってそもそも「オーディションで受からないことを自分のせいにしていた」こと自体が間違いなんですよ。基本Noといわれる業界なので、自責しはじめるとすぐに潰れますね。少しずつこういうもんだよなと思えるようになってきたのは、プロダクション内部での決定プロセスを教えてもらうようになってからですね。

――:どのくらい競争相手がいるのでしょうか?

定期的にハリウッドで「日本人役の仕事をしている日本人役者」は、本当に限られた数ですよ。5人くらいと片手で数えられてしまうレベル。『ラストサムライ』に出ていた、なんて人も普通にそのネットワークの中にはいますね。「LAに住んでいる日本人役者」の数自体は多いんですよ。もう何十人といます。

でもいつもオーディションにいくとだいたい同じ人が呼ばれ、そこに実績がたまっているから「3-4人のいつものメンツ」が選ばれてますね。年齢で言うと40後半~50前後くらいの役者が多いですかね。

――:ほかの数十人はどうやって食っているんですか?

そうなんですよね・・・正直どういう食い扶持で生活をしているのか、というのはよくわからない人が多いです(米国の場合は日本と違ってビザによっては現地のアルバイトができないケースも多い)。

ただ僕の場合は、英語がほぼネイティブに近いくらい出来るのでアジア人枠も出来ますし、そのパイよりはもうちょっと広い中で競争できている状態です。

――:でも本当に日本人がハリウッド映画に出る、というのはスポーツ業界の野茂英雄や中田英寿じゃないですけど、この10年くらいで急激に増えてきましたよね。

昔は韓国人で代わりに撮る、みたいなこともありましたが最近は日本人役は日本人で、となってきている。

渡辺謙さんも真田広之さんも『ラストサムライ』(2003)がきっかけだったんですよね。あれで英語が話せない状態から米国に移住して道を切り拓いていった。昔も『ブラック・レイン』(1989)で松田優作さんが出演した、なんてこともありましたが、その後期待されていたのに亡くなってしまって一つのブームが終わってしまった。でも21世紀に入って渡辺さんや真田さんのお二人がハリウッドで数年ごとに大作にでるようになったことで、日米合作への出演を名刺代わりに本格的に米国で俳優活動する時代になってきています。

――:英語が話せるアジア人、の枠でも日本人をよく見るようになりました。

マシ・オカさん(1974~、『HEROES/ヒーローズ』)や新田真剣佑(マッケンユー)さん(1996~、『ONE PIECE』)など「英語で役ができる日本人」というカテゴリーになれば、パイは全然大きくなります。『Shogun』のサワイ・アンナさん(1992~、『Shogun』)とか、『The Boys』の福原かれんさん(1992~、『スーサイド・スクワッド』)とか。彼女はロス育ちでブラッド・ピットの『Bullet Train』(2022)にも出演しています。日本語がしゃべれない日系アメリカ人の俳優もいますし、彼らもまた候補にあがってきています。

――:俳優だけでなく、芸人の米国展開もすごい勢いで進んでいます。

綾部祐二さん(1977~、2017年より米国移住)とか村本大輔さん(1980~、2022年より米国移住)がスタンドアップ・コメディで挑戦したり、渡辺直美さん(1987~、2021年より米国移住)、ゆりやんレトリィバァさん(1990~、2024年より米国移住)達ですよね。

でもこうした人たちの中でも、オファーで出演が決まる人はごくごく一部です。みんながオーディションでつかみ取っているんですよ。日本のトップ俳優になれば大型作品からのオファーも来ますし、SNSの世界なのでフォロワーがいれば名刺代わりになる。ただそこから先は「成功率1%」のハリウッド・オーディションの世界です。

――:平川さんのようにハリウッドに挑戦したい、という話は結構聞きますか?

「スケジュールが埋まりすぎている」状態で、言語や生活基盤なども含めてハリウッドの仕事を受ける、ということが限界があるんですよね。それは日本で成功している人であればあるほど。

よく相談もされます。外にでたい、ハリウッドで挑戦したい、そういう人は少なくない数いると思います。やっぱり日本人からするとハリウッドって憧れの場所なんですよね。

――:そして現地に根付いた平川さんでもオーディション1%合格率の世界…そんな不透明な環境でどうやって続けられるんでしょうか?

なぜ10年続けていられるの?というのも、よく聞かれます。「定期的にテレビの仕事がある」「Shogunなど話題になる作品にでられている」といったものは実は後付けで、そういった作品が大ヒットするかどうかなんてオファーのときや撮影の時にはわからないんです。将軍はある程度過去実績あるリメイクなので、結構話題にはなるかも?くらいでしたね。ただ、それがいつ放送されて、どんな反響を呼ぶかは予想できることではありません。

その作品が流行るかどうか、世間から評価されるかどうか、はあんまり見ていないんです。

――:では作品ではなく、どうやってモチベーションを保つのでしょうか?

まず「自分で変えられないもので役が決まる」という前提があります。目の色や髪の色、いまの配役とのバランスです。高身長で見た目がよくて目立てばいいか、という話ではないんですよね。(こちらからは見えない状態ですが)いまのヒロインが決まっているから、それの合わせで決まる。演技がうますぎるから、落とされることもある。だから、いい意味で開き直らないといけない。

大事なのは、こういうどうしようもない条件下で、「めっちゃいい演技で印象の残ることをしていたら、違うはまり役のときに呼ばれることがある」ということなんです。だから受かる/落ちるという結果にはこだわらず、「記憶に残すにはどうすればいいか」にこだわるしかないんですよね。あの人うまかったよね、特別だったよね、を言わせることができるかどうか。それに向けて全力を出すんです。

 

■激変するハリウッド映画産業。新しいチャンスのなかで

――:これまで米国の作品ばかりでしたが、この数年『龍が如く』や『遠い山なみの光』のように、日本の作品に出るようになったのは何か変化があったんですか?

2023年に全米で俳優組合と脚本組合がストライキ開始したタイミングで(2023年5月から約半年間のWGA(全米脚本家組合)とSGA-AFTRA(米映画俳優組合)のストライキがあって一切映画撮影がストップしていた)、実は約10年ぶりに日本に戻ってくるようになったんです。ストライキでいつ仕事が再開されるかも見えない状態でしたし、それ以上に「ハリウッド作品も日本で撮影する機会がふえた」ことで日本にいながらハリウッドの作品に出れるチャンスも広がったんです

日本のタレントを探すときに、以前だったらロスとかカナダに在住している日本人「風」の俳優を捕まえていたのが、いまは直接日本の芸能事務所にコンタクトをとるようになってきました。

出典)FilmL.A.

 

――:日本で活動するにあたって、日本作品だと事務所所属でないと難しくないですか?以前『MINAMATA-ミナマタ-』(2020)の岩瀬顕子さんにも、「日本は事務所の力でオーディション前に決まっている」という話を伺いました。

ちろん事務所に入る方が、日本で作っているキャスティング情報などが入るので有利は有利なんですけど、いま僕がでているような映像作品は普通にオーディションがされているのでそのなかで獲得していますね。

日本の芸能事務所に所属するデメリットは「自由度がなくなる」点ですね。これはよく言われることですけど、芸能事務所の役割が日本とアメリカでは全く違うんですね。日本だと芸能事務所という「大きい円の中に一人の俳優としておさまる」ような印象です。そこでは自動的にマネジャーがついて、営業してくれて、自分の適性や志向とは無関係に仕事が次々に決まっていく。でもハリウッドの芸能事務所って、「俳優自身が小さくとも円を描いていて、そこに色々な機能別に分かれたエージェントが線でポイントを支援する」みたいな感じなんですよ。

営業も自分だし判断も自分。自分という役者の意思決定権を自分が握っている。エージェントも僕自身が仕事しないとマージン制なので収入が発生しない。

――:どんなスケジュールでアサインが決まるんですか?

『Shogun』(2024)は2022年にオーディションを受けた時にはすでに製作中で、ポンポンと決まりましたね。自分の演技をとったテープを送ると、「とても興味があるのでスケジュールだけ抑えさせてくれませんか?」と。それで2週間後にはもうカナダにいて撮影しました。準備と稽古で1週間ほど、撮影自体は1日で終了、です。フラッシュバックシーンで喋っているのは自分だけという状態での撮影です。それでも回想シーンとして結構画面に映っていた時間は長かったので、よかったなと思います。

――:それぞれの作品にはどのくらいのタイムラインで参加するものなのでしょうか?

『龍が如く』(2024)も大勢の中の1人の役なので本当に短期間です。2023年に日本に帰ってきたタイミングでオーディションを受けました。あの作品は武正晴監督が画面に出る役者は全員直接面接して選んでいましたね。最後は死んでしまう役でしたけど、そのまま撮影が2023年にあり、配信が2024年でしたね。

『イクサガミ』(2025)は2023年末にオーディションがあり、2024年春から撮影がありました。1話・3話で春先(@福島会津)・夏前(兵庫姫路)に1-2週間ずつ撮影期間があり、そこで完結しました。最終的に配信されたのが2025年秋です。1話まるまる撮影すると1か月分はかかるんです。ただキャストがその期間全部拘束されているわけではなく、出演のところだけということも多いです。

――:こうした有名作にでたことで、街角で声をかけられたりといったことは出てくるのでしょうか?

「道端で声を掛けられる」ようなレベルでは全然ないです。「見たよ」というのも、なかなか言われないですね。どれだけ有名な作品にでてもやっぱりスポットがあたるのは主役級の5-6人、それ以外の20~30人の役者って意外に皆さん覚えていないですよね。

キャリアの上で「有名な作品にでている」のと「個人として誰にでも認知される知名度がある」の間には、圧倒的な差があるんです。もうその名前のブランドだけでオファーがあるのはブラッド・ピット、アル・パチーノ、レオナルド・デュカプリオなどほんの一握りの人だけですよ。

――:目標にしている人はいますか?

近くに目標になる人がいる、というわけではないんですが、自分自身も好きで目標にしたいなと思っているのは真田広之さんですね。それは俳優としてだけではなく、人間性やその生き方、努力を含めて本当に尊敬しています。

まず『ラストサムライ』のあとに、あれだけ日本で認知度もあって仕事もいっぱいあった状態で、すべて顧みずにロスでゼロからスタートしたこと。あのときゼロだった真田さんが、その後20年近くかけて『Shogun』で100の姿までずっともちあげていったんですよ。エミー賞もゴールデングローブ賞も本当にすごかった。それに加えて、彼は人徳も凄いんです。ロスで彼を直接知っているわけじゃない人もみんな言うんですよね。「会ったことないけど、あの人はいい人だって聞いている」って。これって本当にあんまりないことだと思うんですよね、大多数の人からネガティブな評価を受けない、といった方って。そういう人間でありたいな、と思ってます。

――:今後ハリウッドはどうなっていくのでしょうか?

2023年ストライキの争点は生成AIの使用と配信での出演印税の2つでしたが、実はロスで同じようにストライキがあったのって、60年前なんですよ。当時も全く同じような状況で、ニューメディアとしてテレビが出てきた。そのテレビ出演がそれまでの映画と比べて出演者やクリエイターに印税配分が少ないのではないか、ということでした。

ストライキってパターンがあって、「メディアの切り替わりのタイミングで、新しいルールをセットすること」なんですよ。2023年はテレビから配信に変わるなかで配信の印税配分に皆が不審を感じた。でも結果的にStreaming会社は「どのくらい視聴がされているか」は部分的に発表することが決まりましたけど、結果的に登録者数や課金などお金につながる部分はいまだブラックボックスのままに残ったんです。

出典)Box Office Mojo

 

――:あのストライキは俳優にとってプラスだったのでしょうか?

僕の場合は2022年以前に映画・テレビ出演がほとんどなかったので、どのくらい変わったのかはあまり実感できてないんですよ。『イクサガミ』や『龍が如く』は印税ない契約ですし。でも確かに『Goburger』(2017)はいまだに少額ですが1セント単位で細かいレポートが来ています。こういう出演印税という意味で、ストライキの影響は大きいんでしょうし、個人的には2026年はまた大きな転換点だと思っています。

2023年の時には解決できてないんですよ。「なんとか落としどころをみつけて、いったん3年間延長した」に近い状態でした。2023年はストライキで撮影が止まり、2024年もほぼ制作がされなかった中で、2025年は回復するんじゃないかという傾向はあったんです。ただ米国の映画興行も映画撮影もいまだに100%には戻っておらず、いま2026年の新たな労使交渉のタイミングで「契約更新でどんな条件になるか」を全員がかたずをのんで待っている、みたいな状態ですね。

世界配信大手もこの3年間で「アメリカで作らないほうが、安く作れるんじゃないか?」ということを理解するようになってきてしまっている。もう人気作は欧州やほかのアジアにいっています。アメリカ国内は今後衰退かうまくいってももう回復せずいまの馬なりにいくのではないかと思います。そうした中で米国だけでなく日本にも行き来しながら、「米国外で撮影されるハリウッド作品に、日本人が出演すること」というチャンス自体は広がっていく傾向にあるんじゃないかとみています。

 

会社情報

会社名
Re entertainment
設立
2021年7月
代表者
中山淳雄
直近業績
エンタメ社会学者の中山淳雄氏が海外&事業家&研究者として追求してきた経験をもとに“エンターテイメントの再現性追求”を支援するコンサルティング事業を展開している。
上場区分
未上場
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