
「世界はあと21ナノ秒で終わる」——そんな衝撃的な導入から始まるアドベンチャーゲーム『シュレディンガーズ・コール』。
“死にきれない魂”たちと電話越しに対話しながら、プレイヤーは「誰かの話を聞くこと」の意味と向き合っていく。
今回gamebizでは、本作を手掛けたアクロバティックチリメンジャコのAchabox氏、入交星士氏、ame氏、そして集英社ゲームズの林プロデューサーへインタビューを実施。コロナ禍の経験から生まれた企画の原点、少人数開発だからこそ実現できた演出設計、そして“救われたからこそ泣ける”物語に込めた想いについて話を聞いた。
gamebizでは、本作の先行レビューも掲載中。実際にプレイした視点から、“救われたからこそ泣ける”物語や、黒電話を通じて“誰かの話を聞く”という体験がどのように心へ響くのかを掘り下げている。
・【先行レビュー】“世界最後の電話”が涙を誘う――『シュレディンガーズ・コール』は誰かに伝えられなかった想いを救う物語
写真左から、
・林真理氏/集英社ゲームズ(プロデューサー)
・Achabox(あちゃぼっくす)氏/アクロバティックチリメンジャコ(ディレクター・デザイン)
・ame氏/アクロバティックチリメンジャコ(エンジニア)
・入交星士氏/アクロバティックチリメンジャコ(シナリオ・音楽・プログラマー)
■“世界最後の話し相手”は、どのように生まれたのか
――『シュレディンガーズ・コール』という企画は、どのようなきっかけから生まれたのでしょうか?
林真理氏(以下、林):集英社ゲームズでは、ゲーム開発者を支援するコミュニケーションプラットフォーム「ゲームクリエイターズCAMP」を運営しています。その取り組みの一環として、クリエイターに“さらに先の未来”を見てもらうため、ゲーム企画・開発コンテスト「GAME BBQ」を開催しました。そこで第1回大賞に選ばれたのが、アクロバティックチリメンジャコの『シュレディンガーズ・コール』です。そこから「一緒に作品を作っていきましょう」とプロジェクトがスタートした形です。
■ゲームクリエイターズCAMPオリジナルゲームコンテスト GAME BBQ vol.1結果発表!
https://game-creators.camp/contests/game_bbqvol01/result
イラスト/赤嶺直樹氏
林:当時はまだ、テキストベースのアドベンチャーゲームという方向性と、“世界最後の話し相手”というコンセプトが存在している段階でした。開発初期はモバイル向けに想定されており、縦画面で企画されていたなど、現在とは異なる部分も多くありました。
Achabox(あちゃぼっくす)氏(以下、Achabox):企画自体は、もともとコンテスト以前から構想していました。ちょうどコロナ禍の時期で、人と会う機会も減る中、「誰かに話を聞いてほしい」という感覚が自分の中でもすごく強くあったんです。そこから、“誰かの話を聞くゲーム”や、“人の気持ちに寄り添うゲーム”を作りたいと考えるようになりました。
その時点で、メアリや動物たち、電話といったイメージはすでに頭の中にあって、「誰かの話を聞く」という体験そのものをゲームにできないか模索していました。そうしたタイミングで「GAME BBQ」が開催され、応募したのが本作になります。
■偶然と縁が重なって生まれた、アクロバティックチリメンジャコ
――現在のチームメンバーとはどのように集まったのでしょうか?
Achabox:星士さんとはもともと家が近く、よくランチに行く仲でした。そこで、「こういうコンペがあるんだけど、一緒に作ってくれませんか?」と声をかけたのが始まりです。
入交星士氏(以下、入交):当時は、平安神宮にある劇場でブランディングディレクターをしていて、舞台演出や音楽制作を担当していました。ただ、コロナ禍で仕事がかなり減ってしまって。そんなタイミングで「文章を書きませんか?」と誘われたので、「それならやるよ」と返事をしました。
その後、「集英社ゲームズさん主催のコンペがある」という話になって、企画書制作も手伝うことになりました。実は、ゲーム制作自体は『シュレディンガーズ・コール』が初めてだったんです。
Achabox:ameさんもゲーム制作に関しては『シュレディンガーズ・コール』が初めてで、「GAME BBQ」の後から参加してくれたメンバーになります。
もともとroom6で『ことだま日記』というゲームを制作していた流れもあり、『シュレディンガーズ・コール』でも同じエンジニアに参加してもらっていました。ただ、応募前から「忙しくなるかもしれない」と聞いていて、実際に別タイトルの開発でかなり多忙になったこともあり、新たにエンジニアを探すことになったんです。
そこで、「ゲームクリエイターズCAMP」で急遽エンジニア募集を行いました。十数人と面談を進めていたのですが、ちょうど募集締切後、3人が集まっていたタイミングでメールを送ってくれたのがameさんでした。しかも、同じ京都に住んでいたこともあり、「今から行きます!」という流れになって、2時間後くらいには現場に来てくださって。実際に話してみると凄く盛り上がって、そのまま一緒に開発することになりました(笑)。
ame氏(以下、ame):当時はサラリーマンとして、オーダーメイド缶バッジを制作する会社で事業部長をしていました。ただ、立て続けに面白いゲームと出会ったことで、「自分でもゲームを作りたい」という気持ちが強くなって会社を辞めたんです。
原体験としては、昔からTRPGをずっと遊んでいて、シナリオを書いたり、GMをやったり、人と会話しながら物語を作るのがすごく好きでした。なので、『シュレディンガーズ・コール』の“対話する”という部分には、自分のTRPG経験もかなり影響していると思います。
Achabox:当時はまだオフィスもなかったので、京都のクリエイターコミュニティにもかなり助けられていました。Skeleton Crew Studioの村上さんに場所を貸していただいて、「インディータップルーム」という場所で作業していたんです。みんなで泊まり込みのような形で開発していましたね。
■なぜ、“黒電話”だったのか
――“死にきれない魂を電話で救う”という設定が非常に印象的でした。なぜ“電話”をモチーフに選ばれたのでしょうか?
Achabox:やっぱり、コロナ禍の影響は大きかったです。当時は「Zoom飲み会」や「Discord」など、通話ツールが一気に普及した時期でもありました。顔も知らない人と話す機会が増えて、自分の悩みを相談して共感してもらったり、逆に相手の話を聞いて自分が元気づけられたりすることもあって。
人と直接会えない状況の中で、「声を届ける」とか、「話を聞く」という行為そのものに、すごく意味を感じたんです。ただ会話をするだけではなく、“相手の話を受け止める”という体験をゲームとして成立させたい、という想いがありました。
Achabox:また、プレイヤー自身が電話をかけることで、能動的に誰かと繋がる感覚を持ってほしいという意図もあります。
――黒電話にした理由もあるのでしょうか?
Achabox:あります。誰から電話がかかってくるか分からないドキドキ感や、ダイヤルを回すという行為そのものに独特の重みがあると思っていて。今はスマホでワンタップですけど、あえて黒電話にすることで、“声を届ける”までに一手間かかる。その感覚を大事にしたかったんです。
特に、電話が鳴って受話器を取った瞬間、画面がぐわっと奥へ入っていく演出があるんですが、あそこはかなり丁寧に作りました。本当に誰かが切実な思いで電話をかけてきている緊張感や、「一体誰なんだろう」という不安を強調したかったんです。
Achabox:誰が出るのか分からないからこそ、その先を想像してしまう。そうした感覚も、この作品らしさに繋がっているのかなと思っています。
■「世界はあと21ナノ秒で終わる」という導入
――「世界はあと21ナノ秒で終わる」という導入もかなり衝撃的でした。
Achabox:本作では、“世界最後の話し相手”というコンセプトを最初から強く意識していました。世界が滅びかけている状況の中、プレイヤーには「一体何が起きているんだろう?」という感覚のまま物語へ入ってほしかったんです。
メアリ自身も、自分が置かれている状況を理解できていません。だからこそ、プレイヤーも同じ目線で世界へ放り込まれるような感覚を大切にしていました。最初からすべてを説明しない構成にしているのも、そのためです。
▲本作では、物語の始めに「世界はあと21ナノ秒で終わる」と告げられる。月が落ちてくるのは世界の寿命のようなもので、誰にもどうすることもできないのだと。
Achabox:また、こうした発想の背景にも、コロナ禍の体験が大きく影響しています。当時は「外に出てはいけない」「誰とも繋がってはいけない」という空気が強くて、その閉塞感や息苦しさが、作品全体のインスピレーションにも繋がっていると思います。
林:特に一人暮らしだと、一日誰とも話さないことが当たり前になっていましたよね。あの時期に多くの人が感じていた閉塞感や孤独感が、この作品の根底にもあるのかなと思います。
■プレイヤーと共に、“世界の終わり”へ向き合う主人公・メアリ
――プレイしていて、メアリとプレイヤーの感情が重なる瞬間が非常に多いと感じました。
入交:メアリが記憶喪失であることによって、プレイヤーと心情を重ねやすくする構造は、ある種セオリーとして意識していました。その上で、本作ではプレイヤー自身にも“聞き役”になってほしかったんです。単にメアリを操作するのではなく、メアリを通して世界に入り込み、誰かの話を聞き、感情に寄り添っていく。そうした体験を目指していました。
――メアリは最初から今の性格だったのでしょうか?
Achabox:いや、最初はもっとクールでツンとしたキャラクターでした。「世界最後の話し相手」という立場もあって、今よりずっと距離感のある存在だったんです。ただ、ルーシーやトーマス、ヴァイオレットなど、さまざまなキャラクターと向き合っていく中で、少しずつ優しさが強くなっていきました。
もし「自分が世界最後の話し相手だ」と言われたら、きっと戸惑うだろうなと思うんです。でも、それでも目の前で困っている人を放っておけない。そういう感情を積み重ねていった結果、今のメアリになりました。
▲本作の主人公・メアリ。もう誰とも繋がることができなくなってしまった世界で唯一、電話で話を聞いて死にきれない魂たちを救っていく。
■なぜ、人ではなく“動物”だったのか
――電話の先にいる人物たちが、すべて動物の姿で描かれている点も印象的でした。
Achabox:これには、“世界最後の話し相手”であるメアリという存在を、より特別なものとして際立たせたいという意図があります。
また、プレイヤー側の想像の余地を広げたいという狙いもありました。人間として描くと、年齢や国籍など、どうしても情報が固定されやすくなってしまいます。でも、動物として表現することで、プレイヤーそれぞれが自由に人物像を想像できる余白が生まれるんじゃないかと考えました。
――デザイン面で苦労した部分もあったのでしょうか?
林:アート作品のようになりすぎず、かといって漫画やアニメっぽくもなりすぎない、そのバランスはかなり意識していました。分かりやすく描きすぎると一気にキャラクター性が強くなってしまうので、リアリティを残したまま比喩的な存在として成立させるのは難しかったですね。
▲動物として描かれているからこそ、年齢や背景をプレイヤー自身が想像できる“余白”が生まれている。
Achabox:作品全体がシリアス寄りなので、コミカルになりすぎないことも重要でした。ただ、リアルに寄せすぎると今度は愛着が湧きづらくなってしまう。その中間地点を探るのにはかなり苦労しました。
また、動物として描いている分、年齢感や人格をどう表現するかも難しくて。体格やモチーフ、表情など、本当に何度も調整を重ねています。
■「救われたからこそ泣ける」物語
――実際に遊んで、“悲しいから泣ける”というより、“救われたからこそ泣ける”作品だと感じました。シナリオ制作ではどのようなことを意識されていたのでしょうか?
Achabox:それはすごく嬉しいです。私たちも、ただ悲しいだけの話にはしたくなかったんですよね。
人って、話を聞いてもらうだけでも救われることがあるじゃないですか。知らない誰かでも、自分の話をちゃんと受け止めてくれるだけで、少し前を向けることがある。だからこそ、本作では“対話そのものの力”を描きたかったんです。
入交:本作の世界は、もうすぐ終わってしまう世界なんです。だから、完全なハッピーエンドにはできない。ただ、その中でも“ひとつだけでも願いを叶えられたら”という想いは強くありました。
作中では、「もし」や「もしも」という“if”と、電話の挨拶である「もしもし」を重ねていたりもするんですが、最悪な状況の中でも、小さな希望や救いを見つけられたら良いよね、という感覚はずっと意識しています。
林:それこそ、コロナ禍で感じた閉塞感の中に差した、一筋の光のような感覚から生まれた部分もあるのかもしれませんね。世界そのものはどうにもならないけれど、電話越しに話すことで少し心が温かくなったり、相手が幸せを感じてくれるかもしれない。その優しさが伝われば良いなと思っています。
ame:今の時代って、壮大な物語よりも、もっと身近なものの方がリアルに感じられる時代なのかなと思っていて。昔は「月が落ちてくるなら俺が止める!」みたいな物語にも夢を見られたと思うんですけど、今は現実の限界みたいなものも見えてしまっている。
だからこそ、『シュレディンガーズ・コール』における“救い”も、すごく曖昧なんです。本当に救われたのかどうかは、プレイヤーの受け取り方次第でもある。単純に「救いました」という話ではなく、「あなたはこの結末をどう思いますか?」と問いかけること自体が、今の時代におけるリアルな救済になっている気がしています。
Achabox:私たちは、「月が落ちないこと」を救いとして描きたかったわけではないんです。ただ、電話をするだけでも、誰かの話し相手にはなれる。知らない誰かでも、話をするだけで助け合えるかもしれない。そういう希望は、この作品に込めたかったと思っています。
ame:最初に「人を救って感動する話」というテーマを聞いた時から、すごく難しい題材だとは感じていました。単にキャラクターを救うだけでは成立しなくて、プレイヤー自身も“救いたい”と思える土台が必要だったんです。そのため、物語を通して自然と寄り添い、感情が同期していくような構造を意識していました。
Achabox:本作には、メアリを通して自分自身の信念を問われるような場面もあります。そこで一度、自分自身を見つめ直すことで、プレイヤーの中にもメアリと共通する感情を降ろしてもらいたい、という狙いがありました。
どこに共感するかは人によって全然違うと思うんです。でも、誰しもどこかに共通する感情は持っているんじゃないかなと思っています。
入交:本作は、選択肢によって大きく物語が分岐するタイプのゲームではありません。ただ、プレイヤーが選んだことが、自分自身へ返ってくるようなギミックは用意しています。
『シュレディンガーズ・コール』は、僕たちが描いた絵をなぞるように体験してもらう作品ではあるんですが、その中でも時々、「筆の種類や色は遊んだ人が決めてね」という感覚を大事にしていて。同じ結末を見ても、抱く感情や完成する“絵”は、人によって違うものになるように作っています。
■少人数開発だからこそ実現できた、“演出と感情”の一体感
――3人という少人数開発ならではの特徴はありましたか?
林:星士さんは、脚本を書くだけでなく、スクリプトを組み、映像を動かし、音楽まで自分で制作していました。なので、「この感情にはこの演出とこの曲を合わせたい」という意図を、そのまま形にできたんです。
大規模開発のように工程ごとに分業する形ではなく、星士さん自身がひとりで全体を横断して作れるので、音と感情、表情とテキストの噛み合い方がすごく自然なんですよね。
シナリオが少し変われば、それに合わせて映像や音もすぐ調整できる。このズレのなさは、このチームならではの強みだったと思います。
入交:普通のゲーム制作だと、台詞と仕様は分かれていると思うんですが、『シュレディンガーズ・コール』では一体化しています。実際、プログラムコードを見ると、台詞より命令文の方が多いくらいなんです。
▲実際に『シュレディンガーズ・コール』で使われているプログラムコードの一部を見せていただけた。
――シナリオ・音楽・演出は、どのように連動させていたのでしょうか?
Achabox:かなり密接に連動しています。シナリオを書きながら曲を作って、映像を合わせて、「やっぱり違うな」ってなったらまたシナリオを書き換えて……みたいなことをずっとやっていました。
本作では、ひとつのテキストデータに動画・画像・音楽・台詞・分岐など、あらゆる情報を集約しています。なので、「ここを少し変えたい」と思った時にもすぐ反映できて、一般的な分業というより、全部が同時に変化していくような作り方でしたね。
林:今回使っている開発ツール自体、ameさんが星士さんのために作った特別製のエンジンなんです。だから、星士さんがやりたい演出をかなり自由に実現できるようになっています。
▲こちらが実際の開発画面。本作では、台詞だけでなく映像・音楽・演出・分岐までをひとつのテキストデータ上で管理しており、感情に合わせて細かな調整を重ねながら制作されていた。
林:しかも3人が同じ場所にいるので、試行錯誤のサイクルもものすごく速かったですね。
ame:修正速度はかなり速かったです。「昨日作ったものが次の日には別物になっている」みたいなことも普通にありました。
入交:ただ、そのスピード感は“自動化”によるものではなくて、最近流行りの、AIにコードを書かせる作り方とは真逆かもしれません。あれは便利ですけど、細かい融通が利きにくい部分もあると思っていて。『シュレディンガーズ・コール』は、細部まで手作業でこだわって作っています。
Achabox:各章ごとに演出の入り方もかなり違うんですが、そういう柔軟さは手打ちで細かく調整できたからこそだと思います。
――逆に苦労した部分は?
入交:パターン化されていないので、「これは仕様なのかバグなのか分からない」みたいなことはありました(笑)。
林:細かい部分まで徹底的に作り込める反面、そのぶん試行錯誤も膨大でした。シナリオも音楽も映像も演出も、本当にたくさんのものを削っています。多分、没になったものを集めたらゲームがあと2本くらい作れると思います。
Achabox:全員ディレクター気質だったので、本当にぶつかりました(笑)。「何を削るか」とか、「どこまで演出を入れるか」とか、4年くらいずっと議論していた気がします。
入交:実は、“人を救う”というテーマを、ゲームとしてどう成立させるかはかなり悩みました。「救済ポイント」のような数値を入れるのか、パズルを入れるのか、といったメカニクスを考えていた時期も1年くらいあります。
Achabox:途中、本当に危ない時期もありました。「これだけで最後まで遊んでもらえるのか」という不安も大きかったです。その時に、集英社ゲームズさんから「この作品はメカニクスじゃなく、演出で掴むべきだ」と言っていただいたのが大きかったですね。
▲メカニクスの開発にこだわり、打ち切りの危機に瀕したこともあったのだとか。当時を振り返ると、この頃が最も辛かったという。
入交:今回、『シュレディンガーズ・コール』を制作してみて、作っている側と受け手側では、印象がかなり異なることにも気づきました。
林:そういう意味では、僕はどちらかというと、一歩引いた立場から「ユーザーにちゃんと届く形になっているか」を見続ける役割でした。
もちろん、クリエイターが作りたいものは尊重したい。でも、「誰にも届かない作品を作っても意味がない」とも思っていて。だからこそ、“どうすればユーザーへ届くか”という視点で、かなりフィードバックをしていました。
例えばメアリも、もっと尖った方向性にする案もあったんですが、今の“寄り添える主人公像”へ調整していったんです。
入交:自分たちだけでは得られない客観性だったので、本当に助けられました。そこから、「余計なものを削いで、シンプルにしよう」という方向にまとまっていきました。
■体験版の反響と、“対話”が世界へ広がった瞬間
林:その後、2026年2月の「Steam Nextフェス」で、第1章を丸ごと遊べる無料体験版を公開しました。
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林:このゲームは、やっぱり実際に触ってもらうのが一番早いと思っていたので、第1章を最後まで無料で公開するという、かなり思い切った形でしたね。そのぶん、公開前は本当に緊張していました。
でも、その体験版が大きな反響を呼んで、一時期はSteamレビューでも「圧倒的に好評(※)」を獲得できました。あれはかなり自信になりましたね。
※公開一ヶ月以内にレビューが集中し、直近のレビューが「圧倒的に好評」に。5月22日には全期間でも「圧倒的に好評」を獲得。
さらに、ブラジルで開催された「gamescom latam」のBIG Festival 2026では、《最優秀ナラティブ賞》《最優秀アート賞》のファイナリストにも選出されました。日本だけでなく海外のユーザーにも届いている実感がありました。
▼公式Xでは、入交氏が「gamescom latam」BIG FESTIVAlファイナリストセレモニーに参加した時の様子も投稿されている。
https://x.com/ACRChirimenjako/status/2049659658751856779
――海外展開も意識されていたのでしょうか?
Achabox:かなり初期の段階で、OdencatのDaigoさんにプロトタイプを遊んでいただいたことがあったんですが、その時に「これは海外の方が伸びるかもしれない」と言われたんです。
実際、中国圏の女性ユーザーからの反響もかなり大きくて、実況配信などもたくさん見させていただきました。国を越えて感情を共有してもらえている感覚があって、すごく嬉しかったですね。
▲こうした“感情の共有”は、5月22日~24日に京都で開催された日本最大級のインディーゲームの祭典「BitSummit」の会場でも見られた。ヘッドホンを付け、静かに物語へ没入していく来場者たち。“誰かの話を聞く”という体験は、確かに多くの人の心へ届いていたようだ。
■印象的なシーンと、“心の奥へ潜る”体験
――第3章のヴァイオレット編が特に印象に残っています。
Achabox:ありがとうございます。あの章って、今まで“寄り添う側”だったメアリに、初めて寄り添ってくれる存在が現れるエピソードでもあるんです。なので、私自身もすごく好きな章ですね。
ame:僕は第4章が印象深いです。第3章を経たあたりから、メアリとプレイヤーの立ち位置や関係性が少しずつ変わっていく感覚があるんですよね。
急激に変わるわけではないんですが、“ただの依り代”ではなくなっていくというか。今まで一緒に寄り添ってきたからこそ、今度はプレイヤー側が自然とメアリに寄り添いたくなっていく。その感覚がすごく面白くて、個人的にも印象に残っています。
▲こちらは第3章の一幕。5月22日~24日に京都で開催された「BitSummit PUNCH」では、本章をリリースに先駆けて試遊することができた。
――他に、皆さんの中で特に印象的なシーンはありますか?
入交:僕は「青い部屋パート」ですね。Achaboxさんが「絶対に入れたい」と言っていた場面なんですが、実はシステム的にはかなり特殊なことをしています。
『シュレディンガーズ・コール』には探索パートがないので、会話選択肢システムの延長で、ポイント&クリックのような体験を実現しているんです。作品全体としても、“普段と違う感覚”をどう作るかはかなり意識していました。
ame:本来なら、こういう特殊演出はエンジニア側でしか調整できない作りにもできたんですが、星士さんが普段と同じ感覚で演出を作れるよう、この仕組みにしています。
林:僕は「思考解放パート」ですね。あそこが入ったことで、作品全体に一気に緩急が生まれたと思っています。
それまで比較的静かな会話劇が続いていたので、急に“世界が動き出す”感覚を作りたかったんです。
ame:当時も、「思考解放パートだけは絶対に削るな」と話していましたね。
Achabox:あそこは、スリリングな音楽や時計の演出を使って、“深層心理に潜っていく感覚”を表現したかったんです。
■“誰かの話を聞くこと”に、少しでも意味を感じてもらえたら
――最後に、『シュレディンガーズ・コール』の中で、特に注目してほしいポイントや、「どんな人に届いてほしい作品か」を教えてください。
ame:まずはぜひ、好きなキャラクターを見つけてほしいですね。『シュレディンガーズ・コール』って、かなり重たいテーマを扱っている作品ではあるんですが、個性的で愉快なキャラクターもたくさん出てきます。
だから、重たいテーマだからと構えすぎずに、そのキャラクターたちとの会話も楽しんでもらえたら嬉しいです。
Achabox:誰を好きになったか、ぜひ知りたいよね。
入交:まずはやっぱり、アドベンチャーゲームが好きな人に遊んでもらいたいです。知らない誰かの過去が少しずつ明らかになっていく部分には、ミステリー的な面白さもあると思っています。
話を聞くことで、その人の人生を少し覗き見るような感覚があるし、「そういうことだったのか」と驚く瞬間もある。
入交:あと、最後までプレイしたら、ぜひネタバレのない範囲で感想を書いていただきたいですね。
林:この作品って、すごくパーソナルな物語だと思うんです。だから、もし今、心が少し弱っていたり、何か悩みを抱えていたりする人がいたら、ゲームというエンタメを通して、自分の気持ちを見つめ直したり、少し整理できたりする作品になっていると思っています。
なので、ぜひ途中で止めずに、最後まで遊んでほしいですね。
ame:そうですね、「後悔したことがある人」には特に遊んでほしいです。そういう感情に寄り添える作品になっていると思うので。
Achabox:このゲームを作りたいと思ったきっかけは、「誰かに話を聞いてほしい」と強く感じたことでした。だからこそ、その気持ちに寄り添うことを何より大事にして作っています。同じような想いを抱えたことがある人には、ぜひ届いてほしいですね。
人って、話を聞いてもらうだけで救われることがあると思うんです。あと、“誰かを理解する”って、ただ言葉を聞くだけじゃなくて、その人が言えなかったこととか、飲み込んだ感情まで想像することだと思っていて。
この作品を通して、「誰かの話を聞くこと」に少しでも意味を感じてもらえたら嬉しいです。できれば、その気持ちを“電話”で誰かに伝えてほしいですね。
――本日はありがとうございました。
“誰かの話を聞く”。
それは当たり前のようでいて、本当はとても難しく、そして大切な行為なのかもしれない。
『シュレディンガーズ・コール』は、“世界最後の話し相手”という極限状況を通して、人が誰かに寄り添うことの意味を静かに問いかけてくる作品だ。
インタビューを通して印象的だったのは、開発陣が繰り返し「対話」という言葉を口にしていたこと。そして、その根底には「誰かに話を聞いてほしかった」という実感が確かに存在していたことだった。
もし本作を最後まで遊び終えた時、あなたにも“誰かへ伝えたい気持ち”が残っているなら——できれば、“電話”で届けてみてほしい。
(取材・文 編集部:山岡広樹)
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■『シュレディンガーズ・コール』
©Acrobatic Chirimenjako / SHUEISHA, SHUEISHA GAMES
会社情報
- 会社名
- 集英社ゲームズ
- 設立
- 2022年3月
- 代表者
- 廣野眞一
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 家庭用ゲームソフトの企画・開発・制作・販売
- 上場区分
- 未上場




