
ブシロード<7803>は、2026年7月28日、創業者である木谷高明代表取締役社長が代表取締役会長に就任し、取締役の根本雄貴氏が代表取締役社長に就任する新経営体制を発表した(関連記事)。創業者が完全に経営の第一線を退くのではなく、会長と社長による2名代表体制へ移行し、創業者の経験と次世代経営陣の執行力を組み合わせる新たな経営モデルを目指す。
AIの進化による事業環境の変化、新規コンテンツ創出、カードゲーム事業のさらなる成長、そして若手への権限移譲――。なぜ今、このタイミングで経営体制を変えるのか。創業者は今後どのような役割を担い、新社長には何を託すのか。木谷高明氏と根本雄貴氏に、新体制の狙いとブシロードが目指す次の成長について聞いた。
※本対談は、2026年9月29日開催予定の株主総会等を経て正式決定される新体制の内定(7月28日発表)を受けて実施されたものです。
■AI時代だからこそ、世代交代を1年前倒しした
――:まず、このタイミングで経営体制を見直した理由を教えてください。
木谷高明氏(以下、木谷):当初は来年を考えていました。20周年という節目でもありますし、タイミングとしてもきりが良いと思っていたんです。ただ、それを1年前倒しした最大の理由は、世の中の変化があまりにも速くなっていることです。特にAIですね。AIの時代は、やはり若い世代ほど有利だと思っています。もちろん経験が生きる仕事もありますが、デジタル分野については、若い人たちが中心になって引っ張っていくべき時代になったと感じています。だからこそ、少し早いくらいのタイミングで世代交代を進めた方がいいと判断しました。今の時代は、「少し早すぎるかな」と思うくらいがちょうどいいんじゃないでしょうか。
――:予定より1年早い決断だったわけですね。
木谷:そうですね。積極的な判断です。
――:AIのお話が出ましたが、経済環境も大きく変わりましたね。ゼロ金利、デフレ時代からすっかり変わりました。
木谷:私は66歳になりますけど、この会社は基本的に50歳以下の人がほとんどです。例えば、経済を見ても、金利のある世界を経験したことある人がほとんどいません。私だけ経験してるわけですよね。金利のある世界や物価が上がる世界を経験してきました。定着してしまえば未経験の人でも対処可能ですが、これから何が起こるか、何をどうすれば良いのか、経験していないとわからないところがあります。そういうところでは私の経験や知識は活かせるだろうと思います。
■「今が創業以来、一番会社が整っている」
――:会社としても、新しい成長段階に入ったという認識でしょうか。
木谷:そう思っています。今回、新しい経営体制へ移行しようと思えた理由はもう一つあります。社内の若手や中堅層が、本当にしっかり育ってきたことです。会社の体制もそうですし、管理体制も整いました。収益基盤もありますし、コンテンツ展開も広がっています。創業以来を振り返っても、今が一番いろいろなものが揃っている状態ではないでしょうか。
――:数多くのコンテンツを立ち上げてきた経験が、人材育成にもつながったのでしょうか。
木谷:「育てた」というより、「育った」という表現が正しいですね。誰か一人が育てたわけではなく、会社の環境が人を育てたのだと思います。そういう環境を作れる会社になったことが大きいですね。
――:新規コンテンツを立ち上げる経験そのものが、人を育てる側面もありますよね。
木谷:もちろんそうですが、それだけでなく、既存コンテンツを復活させることも非常に勉強になります。新しいものを作るだけでなく、既存ブランドを再成長させる経験も、人材を大きく成長させていると思います。
――:以前と比べて会社はどのように変わりましたか。
木谷:よく外部の方からはワンマンの会社にみられるのですが、非常に合理的な会社になりました。意思決定の仕方もそうですし、仕事の進め方もそうです。特に会議ですね。昔のような報告会ではなく、本当に議論する場になっています。それぞれが意見をぶつけ合いながら、新しい施策や商品を考えている。活発な議論が自然に行われるようになりました。本当にいい会社になったと思います。みんな優秀ですよ。
――:事業規模は創業当時より大きくなりました。木谷社長ご自身の役割も変わりましたか。
木谷:事業は大きくなっていますが、私が直接見る範囲は、むしろ徐々に狭くしています。カードゲームだけは、やはり私が見なければならない部分があります。祖業ですし、タイトル数も多い。そこは引き続き関わります。それ以外については、徐々に権限を委譲しています。それだけ人材が育ってきたということです。会社として分業がきちんと機能するようになりました。
――:会社として近代化してきた印象があります。
木谷:そうですね。そして、ここからもう一段階上へ行けると思っています。そのタイミングが、まさに今なんです。

■「マネジメントが非常にうまい」――木谷氏が根本新社長を選んだ理由
――:今回、代表取締役社長に根本雄貴氏を選んだ理由を教えてください。
木谷:一番大きいのは、マネジメントが非常にうまいことです。人に任せることができる。しかも、任せながら要点はしっかり見ています。これ口で言うほどは簡単なことではありません。経験が少ないと、どうしても全部に口を出したくなるものです。でも彼は、軌道に乗ったプロジェクトは適切なタイミングで任せられる。プロジェクト運営も、チーム運営も、会社全体のマネジメントも非常に上手です。今後も大いに期待しています。
――:これからのお二人の役割分担はどうなりますか。
木谷:代表としての分担に関してですが、エンターテインメント業界は意外と「顔」が重要な業界でもあります。対外的な役割もありますから、しばらくは新社長には執行を中心に担ってもらい、私は会社全体を見ながら、対外的な活動や重要な意思決定を支えていく役割になります。担当分野は以前からある程度分かれていますので、大きく何かが変わるというよりは、徐々に私の担当を減らし、新社長や副社長の担当領域を広げていくイメージです。いずれは私が代表を退くことになるでしょう。

■「カードゲームは、まだまだ伸ばせる」
――:会長就任後は、どの分野に最も注力されますか。
木谷:現場レベルでは、カードゲーム事業です。仕事全体でいえば、およそ6割がカードゲーム、2割が新規コンテンツ、残り2割がその他というイメージですね。カードゲームはまだまだ伸ばせると思っています。実は10年ほど前から数年間を振り返ると、もう少しカードゲームに力を入れるべきだったという反省があります。
スマートフォンゲーム市場が急速に伸び、『BanG Dream!(バンドリ!)』も予想以上に成功したことで、どうしてもデジタル事業へ意識が向きました。
もちろん、それが間違っていたとは思いません。ただ、アナログ市場の強さを改めて考えると、もっと注力できた部分もあったと思っています。だからこそ、これからはカードゲームを世界トップクラスの事業へさらに育てていきたいですね。
――:一方で、新規コンテンツにも引き続き関わられるそうですね。
木谷:当面、新規コンテンツは最初の立ち上げだけは私が関わりたいと思っています。ゼロから何を作ればいいのか。どこから手を付ければいいのか。そこが一番難しいんです。ある程度軌道に乗れば任せられます。でも、その最初だけは違います。
――:創業者だからこそ担える部分でしょうか。
木谷:そう思います。少し誤解を恐れず言えば、新規コンテンツというのは「ホラを吹くところ」から始まるんです。もちろんそれは嘘をつくという意味ではありません。「こんな世界になる」「こんな未来が待っている」と、大きな構想を描き、人をワクワクさせることが必要なんです。
社員が4人しかいなかった頃から、私は「カードゲームで世界一になる」と言っていました。普通に聞けば、「この人、大丈夫かな」と思われるような話ですよね(笑)。でも、新規コンテンツも同じなんです。最初は誰も信じない。それでも未来を描き続ける人が必要なんです。
――:その後はチームへ任せていく、と。
木谷:そうです。例えば『BanG Dream!』も、立ち上げは私がやりました。イラスト1枚を持ってクリエイターを回り、企画を作り上げていった。でも、今はほとんど関わっていません。
今、お願いしていることといえば、「もっとカラオケで歌いやすい曲を増やしてほしい」くらい(笑)。難しい曲が多いんですよ。
カードゲームでも同じなんですけど、いつの間にかマニア化してしまうんです。作っている本人たちがマニア化してしまうところがあって、エンタメとしては常に間口を広げることを意識する必要があります。いまはそれぐらいしか言うことがなくて、ファンとして楽しんでいます。
――:『MyGO!!!!!』『Ave Mujica』以降の流れは根本さんが主導されたと聞いていますが。
木谷:はい。『MyGO!!!!!』『Ave Mujica』は、ゼロからではないにしても、1や2から育てたプロジェクトです。社内でそういうことを実現したのは根本しかいません。だから、いずれ彼自身がゼロから新しいコンテンツを作れるようになるだろうと期待しています。エンターテインメント企業は、新しいものを作れなくなった時点で縮小していきます。だから、新規コンテンツを生み続ける力が何より重要なんです。
――:新規コンテンツとは少し違ってくる話ですが、いまでもカードゲームについてはどんどん新しいものが生まれて、チャンスが多いとも感じます。
木谷:カードゲームもまだキッカケは全部私が作ってるんですよ。社員発の新作を望んでいますが、なかなか難しいですね。エンタメの会社って、入社時には「新しいゲームなり、アニメなり、コンテンツなりを作りたい」と話してくれるんですが、しばらくいると誰も言わなくなるんです。いかに大変なことかわかってくるからです。別に失敗してもいいので、突破する人に出てきてほしいですね。
――:成否はともかくやりきるというのは難しいですよね。
木谷:新しくコンテンツを作るのは、いわば新しく会社を作るようなものですから、難易度が高いんです。だからそういう意味では、出版部門が伸びてきたのは嬉しいですね。「小さく産んで大きく育てる」という、カードゲームとは違ったアプローチになりますが、この3年ちょっとでかなり伸びてきました。

■「社長の仕事は、会社を安心して任せてもらうこと」
――:根本さんは、社長就任の打診を受けたとき、どのように感じましたか。
根本雄貴氏(以下、根本):社長就任については、ゆくゆくは誰かが代表を引き継ぐことになるかもしれないと思っており、数年後くらいにくるお話かなと感じていました。だから、思っていたより早かったというのが率直な印象です。
ただ、「私が社長になる」ということよりも、「会社が次のフェーズへ進むんだ」という意識の方が強かったですね。将来、木谷が完全に経営を離れる日が来る。それを見据えて、本当の意味で準備を始めるタイミングなんだと感じました。
――:社長として、ご自身のミッションは何だと考えていますか。
根本:もちろん業績を伸ばし、企業価値を高めることです。ただ、それ以上に大事なのは、「木谷さんが安心して任せられる会社」を作ることだと思っています。ブシロードミュージックや『BanG Dream!』を任せてもらった時もそうでした。「ここは任せても大丈夫だ」と思ってもらえる土台を作ることが、私の役割でした。社長になっても、それは変わりません。
――:具体的にはどの分野に取り組みますか。
根本:カードゲームは、すでに次世代を担う人材が育っています。だから私は、それ以外の事業もさらに伸ばしていきたい。ライブエンターテインメントやMD(マーチャンダイジング)はグループの軸となる規模にまで成長してきました。出版事業もブシロードワークスを設立して3年ですが代表の新福中心に想定以上の立ち上がりをみせています。カードゲーム以外にも強い収益基盤を作ることが重要だと考えています。会社全体がバランス良く成長すれば、「もう安心して任せられる」と思っていただけるようになるはずです。
――:木谷社長は、根本さんの強みを『マネジメント力』だと話していました。ご自身ではどう考えていますか。
根本:実は、自分でもあまりよく分かっていません(笑)。ただ、自然と仕事を任せるようになりました。映画を担当し、音楽を担当し、見る範囲がどんどん広がる中で、人に与えられる時間は1日24時間しかありません。全部を見ることはできません。だから自然と、人に任せるしかなかったんです。
木谷:彼は、人を見る力が非常に高い。「この人はこういうタイプだ」「こうすればもっと力を発揮できる」という解像度が高いんです。だからマネジメントがうまい。そこは本当に大きな強みだと思います。
――:木谷社長との違いはどこにあると考えていますか。
根本:木谷は経験がありますし、業界のトップとのネットワークもあります。そこは自分にはまだありません。一方で、上場企業において29歳で取締役になって、同世代の起業家や新しい事業を立ち上げている人たちとの接点があります。新しいビジネスの情報は入りやすいですし、その感覚は今後の経営にも生かせると思っています。経験と若さ――その両方を組み合わせることが、新しい経営体制の強みになるのではないでしょうか。

■「経営会議が、これまで以上に重要になる」より合理系な経営体制に
――:新体制では、意思決定のあり方も変わっていくのでしょうか。
木谷:大きく変わるというより、これまで以上に経営会議の役割が重要になります。今も週2回、経営会議を開いていますが、以前にも増して、そこで議論しながら会社を動かしていくことになるでしょう。
私が「こうする」と決めるケースもありますが、それでも一度は必ずみんなの意見を聞きます。逆に、現場から提案が上がってきて、それを経営会議で議論することもあります。
今回の新体制によって、創業者一人で引っ張る経営から、経営チーム全体で意思決定する色合いは、さらに濃くなると思っています。
――:一方で、創業者ならではの役割も残るのでしょうか。
木谷:もちろんです。例えば今、インド市場に注目しています。現地へ行って、お店を見て、イベントを見て、工場を見学して、市場全体を見て回る。そういう仕事は創業者がやった方が早いことがあります。私が行くことで、現地パートナーも集まりやすくなりますし、短期間で多くの情報が集まる。これは創業者だからこそ持っている「勘」のようなものでもあります。会社として必要な方向性を探る仕事は、これからも私が担っていきたいですね。
――:今後の成長戦略として、最も重視していることは何でしょうか。
木谷:やはりカードゲームです。現在の2倍、3倍でものばすことをやっていきたいです。現在でも運営タイトル数は世界トップクラスですが、プレイヤー数や売上でも世界一を目指したい。そこを盤石な収益基盤にした上で、新しいコンテンツを育てていく。この両輪が、これからのブシロードを支えることになります。

■「若い経営陣だからこそ、新しい風が吹く」
――:根本新社長は、新しい経営チームをどのように見ていますか。
根本:役員の顔ぶれ自体は大きく変わりません。ただ、私と成田耕祐副社長がコーポレート側にも関わるようになります。新たな執行役員も加わります。経営陣全体の年齢は若くなりますし、経営会議でも、もっと自由に意見を出し合える雰囲気になればいいと思っています。
ブシロードは、カードゲームとライブエンタメ、MDなど複数の事業がありますが、それぞれの事業連携を強く意識して推進してきた会社です。新たに各事業を牽引する次世代のリーダーも執行役員になりますし、新メンバーが経営会議に新しい刺激をもたらしてくれると期待しています。そして私自身も各事業への理解をもっと深める必要があります。
木谷:執行役員は、どうしても自身の担当以外については発言を遠慮する傾向があります。もしかすると、私が真ん中に座っているから遠慮しているのかもしれません(笑)。そういう空気も少しずつ変えていきたいですね。今回の発表は、抜本的に変化するものではないんです。創業者経営の色が薄まり、経営チームによる経営という色が濃くなるとお考えください。
――:新社長として、会社をどのように発展させていきたいですか。
根本:私が入社した頃のブシロードは、本当にベンチャー企業でした。若手でも大きな仕事を任される機会、チャンスがありましたし、「会社として初めてやること」に次々と挑戦していました。
一方で、会社が大きくなった今は、組織として成熟した反面、そうした機会は以前より少なくなっていると感じています。
だからこそ、若い社員が新しいコンテンツや新規事業に挑戦できる文化を、改めて作っていきたい。最近では若手研修から生まれたアイデアをもとに、新規コンテンツの立ち上げも始まっています。
若手の発想と、中堅社員の経験を組み合わせながら、新しいヒットを生み出せる組織にしたいですね。
木谷:会社が成長すると、新しいポジションやプロジェクトが生まれます。だから若手を抜擢しやすくなる。若手が活躍すれば、会社はさらに成長する。この循環が一番大事なんです。今回の経営体制は、例えるならロケットの二段目が点火したようなものです。一段目の推進力を引き継ぎ、さらに高く飛び目標軌道に乗せていく。そんなタイミングだと思っています。
――:新社長へ期待することをあらためて教えてください。
木谷:32歳という若さは、大きな武器です。私が最初に会社を作ったのは33歳でした。それより若い。しかも上場企業の社長になる。社長になると、見える景色が一段変わります。その景色の中で、新しい経営をしてほしいですね。
マネジメントは安心しています。だからこそ、若手の抜擢をさらに進めてほしい。そして、自分自身の新規コンテンツをぜひ生み出してほしいと思っています。『BanG Dream!』も、もっと世界へ広げてほしい。特に欧米市場には大きな可能性があると考えています。
――:根本さんご自身も、新規コンテンツへの思いはありますか。
根本:もちろんあります。今は『BanG Dream!』をさらに成長させることが第一ですが、どこかのタイミングで、その役割も次の世代へ引き継がなければいけません。私自身も身軽になって、新しい作品を作りたい。新規コンテンツのアイデアはいくつか考えており、クリエイターとも話しています。社長だからというより、一人のエンターテインメント業界人として、新しいコンテンツを生み出したいという思いは、ずっと持ち続けています。
――:最後に、読者や株主へのメッセージをお願いします。
根本:2027年度は、ここ数年かけて準備してきた成果が世の中に出始める重要な一年になります。その成果によって、ブシロードが次の成長ステージへ進めるかどうかが問われる年でもあります。そして、新しい経営体制のもとで、新たなフェーズが始まる一年でもあります。今後のブシロードの成長に、ぜひご期待ください。

会社情報
- 会社名
- 株式会社ブシロード
- 設立
- 2007年5月
- 代表者
- 代表取締役社長 木谷 高明
- 決算期
- 6月
- 直近業績
- 売上高561億7500万円、営業利益48億6800万円、経常利益48億4400万円、最終利益34億1800万円(2025年6月期)
- 上場区分
- 東証グロース
- 証券コード
- 7803