グリー<3632>の『釣り★スタ』は2007年に世界初のモバイルソーシャルゲームとしてサービスの提供を開始し、2017年5月24日に10周年を迎えた。直近ではサービスを短期間で終了するアプリも多くなってきたなかで、10年という長期の運営をどのようにして可能にしたのか。今回Social Game Infoでは、プロデューサーの高松亘平氏にインタビューを行い、ネイティブアプリ化への対応や運営上重視しているポイントなどを聞いた。
■2014年からプロデューサーに
――:本日はよろしくお願いいたします。高松さんは『釣り★スタ』にはいつ頃から関わっているのでしょうか。
よろしくお願いいたします。私は2012年7月にエンジニアとしてグリーに入社しました。入社後に『釣り★スタ』にエンジニアとして参画し、2014年にプロデューサーになり現在に至ります。
――:長期運営タイトルのプロデューサーを引き継ぐことにプレッシャーはなかったのでしょうか。
以前からプロデューサーをやってみたいと思っていたこともあり、プロデューサーを引き継ぐことに対して特にプレッシャーはありませんでした。実際にプロデューサーとして関わってみると、ユーザーの数も熱量も多く、改めて長期運営タイトルということを認識しました。ゲーム内で施策を行ったときはユーザーの反応が大きいので、とてもやりがいがあります。
――:プロデューサーとしてどのような部分に注力して運営しているのでしょうか。
スマートフォンユーザーに対してしっかりユーザー体験を提供することに注力しています。2011年にスマートフォン版の提供を開始しましたが、スマートフォン版には大きな課題がありました。当初スマートフォン版はCSSやJavaScriptを駆使したHTML5で開発したのですが、端末のスペックによっては、魚がカクカク動いたり瞬間移動したように見えたり表現に限界がありました。ユーザーからAndroidでは遊べないという意見もあり、解決が必要と考えていました。
■ネイティブ対応に注力
――:Androidは端末や対応OSがたくさんあり他の会社でも対応に苦労したという話はよく聞きます。
魚を釣るアクションはゲームのユーザー体験の中心なので、このままではスマートフォンユーザーは「釣り★スタ」を遊ばなくなると思っていました。改善することで売上が急激に上がるということではないですが、優先して改善に取り組みました。最初は社内でオープンソースした技術を使いましたが解決に至らず、現在でも使っているCocos2d-js使ってネイティブアプリ化してレンダリングすることで、Androidユーザーにスムーズに魚が動くと言ってもらえるようになりました。当時から考えるとかなり改善したと思いますし、優先して対応して良かったなと思います。
――:ネイティブアプリへの対応はいつ頃から始められたのでしょうか。
2014年にCocos2d-jsで動かすということを決めてからネイティブアプリの開発を進めています。それまでは外側はアプリだけど中身はwebの「ガワアプリ」でしたが、2015年から釣りの部分をCocos2d-jsに切り替えていきました。現在は釣りをしている部分はすべてCocos2d-jsで開発していて、今後は釣り以外の部分も対応していきたいと思っています。Cocos2d-jsに切り替えることで、ゲーム内の遷移やデザイン面などユーザー体験の幅も広がるので対応を進めていきたいと思います。
――:Cocos2d-jsへの対応を進める中で苦労したところはありますか。
webやガラケーで提供していた『釣り★スタ』が前提としてあるので、アプリも同じような『釣り★スタ』を開発しなくてはいけない部分は苦労しました。特にアクションの部分の対応は一番気を使いました。具体的には、Cocos2d-jsでは描画や動きが今までよりも速くできますが、アプリだけ魚が速く動いてユーザーがタップできなければ意味はありません。
Webやガラケーで遊んでいた既存ユーザーがアプリに移行しても同様に遊べるようにするために試行錯誤を繰り返しました。技術的に可能でも、それをいかに既存のお客様にも不満なく、かつ新規の方も満足するところにどう落とし込むかが苦労したところだと思います。
――:ネイティブアプリに対応して運用面で良かったことはありますか。
色々ありますが、バージョンアップがしやすくなったことですね。例えばWebの場合は、釣り画面に新たな要素や動きを入れるとすでに重くてカクカクしているものがもっとカクカクして、もうこれ以上対応できないということも多くありました。アプリの場合は現状では特に制限もないので、バージョンアップによる遊び方の部分の改善も頻繁にできるようになりました。バージョンアップによってユーザーに新たな体験を提供できることはメリットのひとつだと思います。
また今までは動きがもっさりしていたりカクカクしているという理由でお客さまがゲームを遊ばなくなることもありました。ゲームの面白さ以外の部分でユーザーがゲームを遊ばなくなるのは本意ではないので、バージョンアップによってそれが少なくなったことも良かった点だと思います。
――:現在『釣り★スタ』はwebブラウザ版とアプリ版の両方に対応しています。両方に対応することで運営において大変なことはありますか。
Webとアプリでの情報の出し分けと見せ方は毎回苦慮しています。例えばwebブラウザはページをスクロールさせて情報を見せますが、アプリはスクロールさせず1画面で見せるので、どうやって情報を1画面に落とし込むかというのはとても悩むところです。
また「釣り★スタ」はガラケー版も運用しているので、UIは特に大変でいつも苦心しています。アプリのUIがガラケーのゲームのUIと同じでは駄目ですし、アプリのUIを変えるとガラケー版との整合性がつかないこともよくあります。アプリは、新規ユーザーに対してユーザー体験をしっかり提供することができ、休眠からの復帰ユーザーに対しては以前から良くなったけど遊び方が変わって遊べないと思われないように意識しています。
――:改善して良くなる部分と変わらない部分のバランスは運営するうえでとても難しいところがありますよね。
復帰したユーザーには改善して良くなったと思ってほしいのですが、釣り方が急にわからなくなることはないようにしています。実際に10年間運営をしていますが釣りの操作の大枠は根本的には変えていません。狙った魚を釣る、たくさんの魚を釣る、チームで釣るなどの遊び方やUI・UXの見せ方はどんどんバージョンアップしていかなければならないと思いますが、釣りの操作は基本的に変えないようにしています。10年間ですべてが変わったということではなく、どちらかというと守るべきところはしっかり守りながら、変えるべきところを変えたと言えるかもしれません。
――:スマホ版とガラケー版などユーザーによって遊び方などに違いはあるのでしょうか。
スマホユーザーのほうがプレイ時間は若干長いという傾向はありますが、明確な違いはありません。運営としても、例えばイベントを開催するときもガラケーやスマホどちらかが有利になるものは設計上作らないようにしています。動きなども全く同じということは難しいですが、違いを最小限に抑えるようにしています。ユーザーの遊び方に違いがないのはユーザーがどの端末でも変わらずゲームの面白さを体験できているということでもあるので、とても良い状況だと思っています。
■月初だけでなく長期間楽しめる施策がランキング上位に入るポイント
『釣り★スタ』はガラケーの時代から運営していることもあり、ガラケーのゲームの大きな特徴のひとつである、月初に新しいガチャの追加やイベントで売上を上げる施策は現在も行っています。他タイトルと違う部分としては、多くの他タイトルのように月初の数日だけ売上を瞬間的に上げるのではなく、例えば月初のイベントを月末から12日にかけて継続的に行い、長期間で毎日楽しめるような施策を行っています。これはお客様にいかに楽しんでもらえるかを考えた施策ですが、結果的に現在のランキングロジックではランキング上位に入りやすくなっているのではないかと思います。
▲AppAnnieより。App Store売上ランキングの推移。3Dを駆使したタイトルが多数出ている中、人気は健在だ。現在でもTOP20にたびたび登場する。新規ユーザーが増えているそうだ。
――:なるほど。10年経過した現在でも新規ユーザーは増えているのでしょうか。
はい。売上ランキング上位にくることでオーガニックから自然流入してくる新規ユーザーも増えています。数年前から新規ユーザー専用のイベントを開催したり、新規ユーザー向けにUXやUIを変えてみたり、新しく入ってきたユーザーも既存ユーザーと一緒に遊べるような改善を行っています。新規ユーザーへのアプローチを改善する専門のチームを作るなど新規ユーザー向けの施策にも注力したことで、実際に新規ユーザーの継続率も以前より上昇しています。
――:ゲームが10年続くことでユーザーのレベルの違いが大きくなって運営が大変になると思いますが、その部分はいかがですか。
そうですね。長く運営を続けることで苦労する部分のひとつかもしれません。ガラケーから遊んでいるユーザー、2~3年前から遊んでいるユーザー、新しく遊び始めたユーザーそれぞれに違いがあり、違いを意識しながら運営しています。例えばこの施策は新規のユーザーには良いと思うけどガラケーで以前から遊んでくれたユーザーには複雑すぎないかということが議論になることも多くあります。
長く遊んでいただいているユーザーにも「私の好きだった釣り★スタじゃない」となるべく思われないように意識して運営していることもゲームが10年続いている要因のひとつかもしれません。釣り★スタを長く遊んでいただいているユーザーは、新しいゲームがやりたいのではなく釣り★スタのゲームモデルが好きだと思うので、そこを裏切ることはないように、モデルの中で遊び方の改変やアップデートを行っています。
――:10年も運営していると新しいイベントを考えるのは大変ではないでしょうか。
例えばツアーというイベントは9年前からやっているので大変な部分もありますが、新しいイベントの手法やお客さまのニーズから気づく部分があるのでまだまだやれると思っています。また幸運なことに世の中に釣りのゲームはRPGのように多くはないので、まだユーザー体験を提供できることはたくさんあると思います。例えば、一昨年には海や川だけでなく深海エリアを作ってみるなど、釣り★スタの世界観の中で新たな体験の提供はまだまだ可能です。弊社が最近リリースした「アナザーエデン 時空を超える猫」などスマホゲームもまだまだ進化していますので、他のアプリの良いエッセンスも参考にしていきたいと思っています。
――:ゲームを運営するうえでゲーム以外に参考にしているものはありますか。
個人的には遊園地に注目しています。遊園地もゲームと同様にお客さまにいかに楽しんいただくかが大切なので、マーケティングの面でもすごく参考になることが多いです。また釣り番組もよく見ています。どうすればゲーム内で今までと違うユーザー体験を提供できるか、釣り番組を見てインスピレーションを受けることが多いです。例えば、釣りには渓流釣りなど多くの種類があって、ゲームに落とし込めないかなと考えています。
――:ご自身で釣りはよくされるのでしょうか。
釣りに行くことは多くはないですが、時々会社の人と行きます。私は三半規管が弱いので船に乗ると撒餌係になるので陸釣りが好きですね(笑) また歴代のプロデューサーからは、釣り好きの人たちだけのゲームにはならないようにと言われていて、そこは意識しています。釣り好きの人たちとの話しを参考にすると釣り方にフォーカスしたゲームや企画になりがちです。『釣り★スタ』のターゲットとなるのは本当に釣りが好きで釣りゲームをやりたい人だけではなく、釣りをモチーフにしたゲームを遊びたい人になるので、釣りが大好きではない人にも受け入れられるようなゲームになるように意識はしています。
――:最後に10周年を迎えた「釣り★スタ」の今後の運営について教えてください。
10周年を記念してメディア発表会やキャンペーンなどを実施して、アプリのレビューに「10年おめでとう」とコメントが書かれていたり、久しぶりに遊んでみたという復帰ユーザーも多くいました。自身が思っていた以上に10年続けていたということにポジティブな反響をいただきすごく嬉しかったです。10周年イベントを行ったことで既存ユーザーに支えられた10年だったと改めて感じることができました。
今後もどうしたらお客さまに引き続き満足していただけるのかをしっかり考えて、使命感を持って運営していきたいです。
――:ありがとうございました。
■関連サイト
(c) GREE, Inc.
会社情報
- 会社名
- グリー株式会社
- 設立
- 2004年12月
- 代表者
- 代表取締役会長兼社長 田中 良和
- 決算期
- 6月
- 直近業績
- 売上高613億900万円、営業利益59億8100万円、経常利益71億2300万円、最終利益46億3000万円(2024年6月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 3632