【インタビュー】ゲームアプリが成功するために必要なグローバル基準のアプリマーケティングとは? Facebookのグローバルゲーミング事業の責任者に聞く

最近では海外の売上ランキングで上位にランクインする日本のゲームアプリも多く見られるようになってきた。日本のゲームデベロッパーがアプリのグローバル展開を成功させるためには何が必要なのか。今回、SocialGameInfoでは、日本と海外のゲームデベロッパーのマーケティングの違いやグローバルで成功するゲームアプリのマーケティングについてFacebookのヴァイスプレジデント兼グローバルゲーミング部門統括責任者のリック・ケリー氏、グローバルゲーミング 部門 アジア太平洋地域(APAC)統括責任者のカレン・テオ氏、グローバルゲーミング 部門 日本統括責任者の田中俊之氏にインタビューを行った。

 
田中俊之氏(写真左)、リック・ケリー氏(写真中央)、カレン・テオ氏(写真右)


――:本日はよろしくお願いします。最初にFacebookでのグローバルゲーミング部門の位置づけとそれぞれの担当について教えてください。

カレン氏:よろしくお願いします。Facebookでは事業を大きく5つに分けています。地図上の地域としての北米地域、アジア太平洋地域(APAC)、中南米地域(LATAM)、ヨーロッパ・中東・アフリカ地域(EMEA)、そしてグローバルゲーミングを合わせた5つです。このことからもわかるように、弊社にとってゲーミング事業はとても重要な位置づけになっています。グローバルゲーミングの事業を統括しているのがリック・ケリーになります。私がAPAC地域、田中が日本のゲーミング事業を担当しています。


――:Facebookではなぜグローバルゲーミングを重視しているのでしょうか。

リック氏:Facebookのユーザは滞在時間の15%はゲームを遊んでいて、8億人以上のゲームの月間アクティブユーザがいるからです。また地域を超えてゲームユーザには同様の傾向や同じ目的があることがわかりました。グローバルゲーミングのチームを作ることで、ユーザを分析し、迅速にゲームデベロッパーに最適なプロダクトの提供を行うことのできる体制になっています。日本においても、日本のゲームデベロッパーがグローバルで成功するために私たちに何ができるかコミュニケーションを取りながら、サポートさせていただいています。

 


――:現在のグローバルゲーム市場の中で、日本のゲームデベロッパーはどのようなポジションにいるのでしょうか。

カレン氏:日本のゲーム会社がグローバル展開するうえで、まだ難しい部分や課題はありますが、いくつかのゲーム会社は非常に良い戦いをしていると思います。例えばバンダイナムコエンターテインメント様はモバイルでも海外で大きく成功しています。また比較的新しい会社では、エイチーム様などがグローバルでマーケティングを武器にした戦いを始めていると思います。

リック氏:日本のゲームはゲームプレイやゲームデザインについて優れたものが多く、欧米よりも進んでいると思います。実際に、欧米のゲーム会社は現在ゲームデザインに多くの投資を行い、フランチャイズを作っている状況です。一方でマーケティングについては日本のデベロッパーは少し遅れていると言えます。欧米のゲームデベロッパーはデータを上手く活用したマーケティングで競争力を高めています。日本も含めてAPAC地域のゲームデベロッパーも上手くデータを活用したマーケティングが重要だと思います。


――:日本のデベロッパーがグローバルのマーケティングで成功するためには何が必要なのでしょうか。

カレン氏:日本のデベロッパーもグローバルのマーケティングでより良い戦いをするために、海外のデベロッパーのデータを活用したマーケティングの方法論や手法を学ぶことが必要です。私たちはデベロッパーに対して時間をかけてグローバル基準のマーケティングのアドバイスやサポートを行っています。先ほど挙げたバンダイナムコエンターテインメント様やエイチーム様など弊社のサポートによってグローバル基準のマーケティングに成功している会社もあります。また日本のゲームデベロッパーはより速くこのグローバルのマーケティングの方法論や手法を学ぶ必要に迫られています。なぜなら海外のゲームデベロッパーは、このデータを活用したマーケティングを使って日本でのマーケティング展開を進めているからです。

リック氏:日本の市場はモバイル利用率が高くモバイルファーストとなっていて、ゲームの市場として日本は世界で3位となっています。海外のデベロッパーにとって日本は魅力的な市場であり、日本をターゲットにとした積極的なマーケティングを考えています。



――:現在でも日本において積極的に投資してマーケティング活動を行っている海外のデベロッパーもいくつか見られます。

リック氏:株式の投資を例に説明するとわかりやすいかもしれません。投資家が銘柄を選ぶときは、その時の株式の価格だけではなく将来的に見込めるリターンを考えて選びます。例えば株価が300ドルであったとしても、最終的に多くのリターンが見込める場合、投資家は300ドルを払うことに躊躇せず積極的に株式を購入します。海外のゲームデベロッパーのマーケティングの考え方にも全く同じことが言えます。

カレン氏:日本のユーザを獲得するためにはコストがかかりますが、海外のゲームデベロッパーはコストが高くても日本のゲームユーザを積極的に獲得したいと思っています。なぜなら、日本のゲームユーザはとても収益性が高く、エンゲージメントの高いユーザであり、将来的に大きな価値や利益をもたらすと考えているからです。今後ますます日本のマーケティングにおいても競争は高まってくると思います。


 


――:Facebook社ではデベロッパーのグローバルのマーケティング活動においてどのようなサポートを行っているのでしょうか。

リック氏:アプリのデベロッパーが使う指標のひとつとしてCPI(インストール獲得単価)があります。しかしこの指標を使ったからといって必ずしも収益性の高いユーザを獲得できるかというとそうでない場合があります。そこで私たちは8か月前にAEO(App Event Optimization)というツールを導入しました。AEOを使うことで、デベロッパーは自社ゲームにとって最も収益性の高い可能性のあるユーザに簡単にアプローチすることが可能になります。

具体的には、アプリ内課金ユーザやチュートリアル突破ユーザ、特定のレベルに到達したユーザなどのイベントの情報をFacebook社に提供いただくことで、同様の属性のユーザへのアプローチが可能になります。AEOによりCPIではなく広告費用対効果であるROAS(Return On Advertising Spend:広告費用対効果)を指標としたマーケティングが可能になり、ゲームデベロッパーはより収益性の高い広告キャンペーンを行うことができます。



――:AEOによってアプローチできるユーザはどれくらいいるのでしょうか。

リック氏:Facebookはグローバルで19億人以上のユーザベースを保有し、12億人以上がモバイルで利用しています。デベロッパーは19億人以上の中からゲームで最も収益性の高いユーザを見つけることができます。


――:グローバルでのAEOの導入はどのくらい進んでいるのでしょうか。

リック氏:現在では北米地域とヨーロッパ・中東・アフリカ地域のデベロッパーの半数以上がAEOを活用しています。APAC地域は他の地域に比べてまだ導入するデベロッパーが少なく、AEOの認知を上げていきたいと思っています。


――:AEOの認知をあげるためにFacebook社ではどのような活動を行っているのでしょうか。

リック氏:AEOのご案内とともに費用対効果を重視するマーケティングのサポートも行っています。過去数年間はマーケティングの指標として主にCPIが使われていたという背景があり、今でも多くのマーケティングチームの上層部はCPIを重視し、チームがCPIの目標を満たすことに注力しています。私たちはパートナーに対してCPIから費用対効果を重視するマーケティングの理解促進の支援を行っており、AEOを活用するデベロッパーの数は先に申し上げた通りどんどん増えています。

田中氏:AEOは14個の標準のイベントを設定できますが、多くのお客様はAEOを使って課金のイベントでの最適化を行っています。AEOを利用することで課金ユーザへの適切なアプローチが可能となります。日本のゲームデベロッパーも対応を急がなくては、売上への大きな影響を持つユーザを獲得することがより難しくなります。日本のゲームデベロッパーが質の高いユーザを獲得するためにも、AEOの導入を支援していきたいと考えています。



――:AEOを導入することで他にどのようなメリットがあるのでしょうか。リック氏:AEOのもうひとつの特徴は、広告キャンペーンを作るときの煩雑さをなくしシンプルにすることができることです。AEOによって簡単に収益性の高いユーザにアプローチすることが可能になります。

カレン氏:今まで多くのデベロッパーは、例えば最初にターゲットとする国や地域を決めて、ユーザの言語を決めるなどして多くの異なるキャンペーンを展開する必要がありました。AEOを使うことでゲームデベロッパーは世界中のゲームユーザをターゲットとする場合、ひとつのキャンペーンを作成するだけで可能になります。

田中氏:AEOを導入したデベロッパーの中には、今まで10,000個以上あったキャンペーン数を大幅に縮小できたデベロッパーもいました。例えば、今までは配信可能な200か国に対して国ごとに言語や性別・年齢を分けて複数のキャンペーンを作成していました。これがAEOを使うことで、課金したユーザの情報をポストバックいただければ、例えば「英語を話す」「課金ユーザ」という設定のみでFacebookのアルゴリズムが全世界の英語を話す課金ユーザへ非常に効果的にアプローチすることができます。


 


――:ゲームデベロッパーがAEOを導入した事例や具体的な実績があれば教えてください。

リック氏:いくつか例をご紹介しましょう。Scopelyはグローバルでのひとつの例になります。ScopelyはAEOの導入によってROASが50%上昇しました。また日本のゲーム会社では、社名は出せないのですが、CPIを指標としたマーケティングからAEOを使った費用対効果重視のマーケティングに移行した結果、ROASが27%から100.4%に改善された例もあります。

より具体的なアプリの例としては、Jam Cityの「Panda Pop」を上げることができます。「Panda Pop」はAEOと合わせて、新しいキャンバス広告を導入しました。キャンバス広告とは、ブランドや製品の魅力をフルスクリーンで伝えるモバイル専用の広告メニューになります。結果的にインプレッションあたりのマーケティングコストが19%減少しました。



――:日本のゲームデベロッパーがAEOを使ってグローバルのマーケティングを行う場合、どのように進めれば良いでしょうか。

リック氏:日本のゲームデベロッパーがグローバルに進出する際には、最初に小規模な様々な市場でテストをしていただくことをお勧めしています。テスト結果に基づいてプロダクトを修正していきます。もうひとつ推奨しているのは、クリエイティブに投資をすることです。世界の様々な地域で受けるクリエイティブのノウハウをつくることは重要です。クリエイティブのノウハウは会社の資産として考えて、クリエイティブに投資することをお勧めしています。


――:最後に日本のゲームデベロッパーに向けてメッセージをお願いいたします。

リック氏:以前はプラットフォームを使って一社のデベロッパーが世界中の19億人に向けてアプローチできるということはありませんでした。しかし現在は、Facebookの19億人のプラットフォームを利用して、適切なメッセージを持って、適切なユーザにターゲティングすることができます。日本のゲームデベロッパーは、自分たちのゲームに対するグローバルでファンを獲得することができ、未来のための新しいフランチャイズをつくることを意味します。私たちは今まで以上に日本のゲームデベロッパーと強いパートナーシップを組み、日本のゲームデベロッパーのビジネス成長をサポートしたいと考えています。


――:本日はありがとうございました。


 
(取材:森山晃義)
Meta(Facebook)

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