【インタビュー】「長く遊ばれるための運営の秘訣とは!?」…4周年『戦国炎舞 -KIZNA-』×10年選手『釣り★スタ』長期運営タイトル対談

昨今、 ゲームアプリのサービス終了が相次いでいます。クオリティの高さと期待度とは裏腹に、なかなかヒットに結びつかないタイトルも数多いです。そうしたなか、セールスランキング上位には長期運営タイトルが肩を並べています。
 

▲「日本マーケットトレンドレポート 2016年12月」よりTOP100タイトルのリリース年分布 -
アプリ分析サービス「
Sp!cemart」調べによると、2016年下半期 TOP100の80%以上が2015年以前のタイトルが占めていました。

新規タイトルが参入できない反面、既存タイトルの踏ん張りが顕著に出た格好となりましたが、果たして長期運営を担う企業は、現状をどのように捉えているのでしょうか。

本稿では、長期運営タイトルとして、現在もセールスランキングの上位に位置する4周年を迎えた『戦国炎舞 -KIZNA-』(提供:サムザップ)、モバイルソーシャルゲーム初の10年選手『釣り★スタ』(提供:グリー)の両プロデューサー陣との対談をセッティング。

運営年月でいえば異なりますが、それぞれネイティブゲームアプリ黎明期のタイトル、ブラウザソーシャルゲーム黎明期のタイトルとして、双方意義深い年にスタートを切っております。当日は“長期運営ならではの苦悩やノウハウ”をテーマに、話題が進んでいきました。

 

■「このままじゃダメだ!」…長期運営タイトルのターニングポイントとは



株式会社サムザップ
『戦国炎舞 -KIZNA-』プロデューサー
竹内 恒平 氏(写真左)
 
グリー株式会社
『釣り★スタ』プロデューサー
高松 亘平 氏(写真右)


――:本日はよろしくお願いします。私は常日頃からアプリストアのランキングを眺めているのですが、ここ近年、セールスの上位は固定してきた印象を持っています。と同時に、リリースから3年を超える長期運営タイトルも多々出てくるようになりました。仕事柄上、色々なゲームアプリ事業者の方々とお会いするなか、“気になるタイトル”としてよく名前が挙がるのが、『戦国炎舞』と『釣り★スタ』です。「なぜヒットを持続できるのか?」と。

一同:(笑)


――:言い換えれば“何で未だに人気なの!?”と失礼な物言いですが、ともすれば、そこには両タイトルならではの運営ノウハウがあるのかと思います。どのような施策と心構えでこれまで運営を続けてきたのか、今日は、おふたりからお聞きできればと思います。

そもそもですが、おふたりはお互いのタイトルに対して、率直にどのような印象を持っているのかお聞かせください。まずは高松さん、リリースから4周年を迎えた『戦国炎舞』についていかがですか。すでにグリーで『釣り★スタ』の運営に携わっていると思いますが。


高松亘平氏(以下、高松):ええ。今から4年前といえば、ちょうどGvG(ギルドvsギルド)が台頭してきた時代でしたね。『戦国炎舞』はリリースした頃に私も遊んでおりますが、正直なところ当時は、数あるGvGタイトルの1タイトルという認識ではいました。

ですが、2~3年経過していくと、そのなかでもいくつかのタイトルが淘汰されていくなか、『戦国炎舞』だけはランキング上位をキープするなど、今ではひとつ上のフェーズに到達した印象を持っています。恐らくその背景には、既存のお客様にアプローチしたり、逐次アップデートを繰り返したりと、きちんとゲーム内を昇華してきた証拠だと思います。

あと個人的には、『戦国炎舞』の公式Twitterにおいて、既存のお客様に向けて丁寧に対応している動きも印象的です。もちろん新規のお客様も重要ですが、いかに今遊んでいる方々に対して、引き続き楽しいゲームを不満なく提供できるかということを主眼に置いているのかなというのが見ていて伝わってきます。
 


――:私が記憶している限り、『戦国炎舞』はリリース当時からスムーズに推移していたのを覚えています。

竹内恒平氏(以下、竹内):たしかにランキング的にはスムーズに推移していましたが、負荷周りの部分では四苦八苦していました。いわゆるGvGは、リアルタイムに進行していくため、少しでもレスポンスが悪くなると戦い(バトル)にも影響してしまいます。そういう意味では、リリース当時、運営側では試行錯誤を繰り返しながら体制を整えていました。


――:当時は GvGの円滑に努めていたと。

竹内:そうですね。そもそも『戦国炎舞』の開発経緯は、当時のディレクターがGvGの面白さに惚れ込んで、「うちでもGvGタイトルを作りたい!」というところから開発がスタートしました。好きだからこそ、理想のGvGを追い求めた結果、負荷がすごいことになってしまったという……。


――:やはり負荷問題とは常に戦い続けますよね。一方で『釣り★スタ』にもGvGが存在すると思いますが、導入されたのは、今から5年前の大型アップデートの際でしょうか。

高松:GvGという意味では、今から2、3年前くらいですね。『釣り★スタ』の場合は、釣果を競い合うもので、本格的なバトルものではありませんでした。どちらかというと、個人間のコミュニケーションの延長戦上にチーム(ギルド)があるという感じです。


――:自分たちのライフスタイルで楽しみながら、たまにギルドの人たちと会話をするという、緩い繋がりみたいなものもありますね。一方で竹内さんは『釣り★スタ』に関して、どういう印象を持っていますか。10年という年月は本当に長いと思いますが。

竹内:まず僕自身、10年前は学生でした。ただ、そのときからTVCMなどで知っていました(笑)。

高松:ありがとうございます(笑)。

竹内:まだ当時は携帯電話でゲームを遊ぶということが、あまり一般的ではなかった時代だったと思います。ただ、僕はほかのFlashゲームを遊びながらも、遊ぶゲームの中の1つに『釣り★スタ』もありました。当時は隙間時間で遊ぶのが主流でしたが、その市場感から“釣り”というコンセプトを基にスタートしたのは、とても面白みを感じていました。


――:実際にゲーム業界に入ってからは、その印象も変わりましたか。

竹内:サムザップ入社後は、『釣り★スタ』もリリースから5年を迎えていましたので、正直なところ少し懐かしいコンテンツという印象でしたが、それでもアプリストアのランキングでは全く衰えを見せていませんでした。いかに長くお客様を飽きさせないよう、かつプレイし続ける心地よさを作っているのかは、運営側に立った今だからこそ感じるところはあります。だからこそ、今回すごくお話を聞きたいと思いました (笑)。
 


――:なるほど(笑)。

竹内:『戦国炎舞』は、ギルドで遊ぶことが前提のゲームアプリなので、ユーザーコミュニティが必要不可欠です。そのため、お客様自らが進んで協力したり、高めあったりと、お互いの関係性が出来上がり、気付くとひとつの社会が築かれていくのです。要するに僕らが意図せずとも出来上がっていくのが大切なのです。
 

ですが『釣り★スタ』の場合は、1人プレイのところから始まり、徐々にPvPやチーム戦などに促していく形だと思います。1人で遊ぶところが主流だったにも関わらず、次のニーズを掴むときに、どのようにユーザーの声やKPI(重要業績評価指標)を見ているのかが、単純に興味があります。


――:リリース当時、順風満帆だった『釣り★スタ』にも、長期運営だからこそ転機があったと思います。恐らくスマートフォンの台頭による、ネイティブシフトがそのタイミングだったでしょう。高松さんが考える、『釣り★スタ』が鈍化した瞬間はどこだったのでしょう。

高松:もちろんスマートフォンの登場もありますが、じつはその少し前から下火になっていくことも気付いていました。そこで大きくモデルチェンジを行ったのです。

これまでの『釣り★スタ』は、ひとりで「釣り」を楽しんだり、「図鑑」を集めたりと、ごくシンプルなFlashゲームでした。ただ、2010年頃から『探検ドリランド』『ドラゴンコレクション』、Mobageさんからは『怪盗ロワイヤル』など、いわゆるレイドモデルやガチャモデルというのが登場し始めました。

その流れのまま踏襲すれば、バトルものに変貌してしまうので、『釣り★スタ』ならではの世界観と、「釣り」というインタラクティブ性を兼ね備えて、2011年にモデルチェンジを進めたのが大きな転換となりました。それに加えて、スマートフォンにも対応しなければならなかったので、それ以降は、徐々にGREE Platformから、App StoreやGoogle Playのマーケットに合わせて細かいアップデートを行うという方針となりました。
 


――:かなり大胆に変化したと思います。

高松:ええ。当時お客様に対しては「世界観拡張」ということで事前に伝えて実施しました。また、釣りに関しては根本的には変えていませんが、遊び方を変えるという部分を意識しました。とはいえ、当時はお客様からも賛否両論はありましたが……。


――:ただ、そこで変えないままでしたら、もしかすると悪い意味でも別の未来になっていたかもしれません。

高松:はい。その通りだと思います。


――:一方で『戦国炎舞』では、衰退まではいなくとも、「このままでは危ない」と感じた瞬間はあったのでしょうか。

竹内:もちろんあります。もともと弊社はブラウザゲームの運用からスタートしておりますので、売上を作るのは月末月初など、運営も固定化していく傾向がありました。


――:なるほど。ビジネス視点から考えたときに、月のどこかでスパイクを作ることはありますが、どこかの瞬間でそれが先行してしまうということですね。また、運用を続けていくと、通常のガチャモデルの販売にも限界が訪れ、“ステップアップ系”“レベルアップ系”など色々なタイプも登場してきました。

竹内:はい。いわゆる運営都合で、かつソーシャルゲーム時代の名残もあり販売形式も複雑化していきました。ただそうした背景を鑑みつつ、市場やユーザーの求めていることを考慮した結果、『戦国炎舞』では以前より一層、シンプルな仕組みとお客様に分かりやすく伝えることを意識した運営にシフトしていきました。また、そのなかで、手に入れたカードにもきちんと深みを与えて、新しい楽しさを組み合わせていきました。

自分が経験してきたなかでは、必要なアクションでしたし、大きな転機となったと思います。


――:ユーザーに対して還元することに徹したのですね。ただ、そのアクションというのは、最終的に『戦国炎舞』に対するポジティブな印象を与えたと思いますし、ユーザーの心象も様変わりしたと思います。

竹内:内心ドキドキでしたが……。

高松:そこを考えるプランナーとプロデューサーは結構……怖いですよね。ある意味0にも100にもなるっていうことですからね。


――:今のお話を聞く限り、お互いどこかのタイミングで、かなり大胆な変化を作っていたことだと思います。このまま運営していても、良い状況が続かないですし、どこかでその予兆というのをお互い感じていたのかもしれません。そうしたスピーディな仕様変更が、第一に長寿の秘訣に繋がったのかなと思います。

また、両タイトルには、サービス年月は大きく異なるとはいえ、いくつか通じるものがあります。それが、既存ユーザーに対するエンゲージメント(愛着度)の向上施策だと思います。ここ近年、とくに両タイトルでも増えてきている印象なのですが、やはり意識されているのでしょうか。高松さん、いかがですか。


高松:そうですね。もちろん、お客様の動きはKPIとしてリリース当時からデータで追っていますが、直近ではアンケートなど定性情報もきちんと考えるようにしています。当然今までもそうしていますが、その比重が変わってきたということです。

恐らくそれが5、6年前であれば、「KPIがこうだから」という話が中心になることが多かったのですが、それだけでは見えてこないものも当然あります。定量、定性、そこの両軸があってこその運営だと思いますし、なかでも直近では後者の定性情報を、ひとつの意見として見るようになってきています。それは決して数値では表れませんが、その姿勢は自ずとお客様にも伝わっていくのかなと思います。


――:リアルイベントなど、ユーザーと直接会ったり、メッセージを届けたりという取り組みも今後増えていくのでしょうか。

高松:はい。これからもお客様との交流は続けていきます。


――:恐らく『戦国炎舞』でも、既存ユーザーに対しての取り組みや、コミュニケーションをはかることなどは、直近の動きを見てもすごく意識されているのが分かります。

竹内:そうですね。もう高松さんがおっしゃった通りです(笑)。
 

高松:なんかすいません(笑)。

竹内:でも、本当に取り組みとしては非常に近いです。とくに市場の変化に対しては、つねに敏感でなければいけないと思います。また、個々のタイトルの話ではなく、全体としてゲーム運営とお客様の距離感は、少し変わってきているという印象を持っています。


――:どういう風に変わってきているのでしょうか。

竹内:僕は以前ブラウザゲームの運営を担当していましたが、やはりそこには距離感がありました。ですが、最近のゲームに関しては、運営側がいかにお客様に情報を発信できるかが、とても大きな要素になってきていると思います。よりMMOのような運営スタイルにシフトしているというか。そうしたアクションが、ひいては運営に対する信頼感にも繋がります。

『戦国炎舞』では、昨年の3周年のタイミングを迎えて、もう少し運営側が見えるようにリアルイベントや生放送などを積極的に行ってきました。生放送の企画では、実際にお客様に会いに行くというもので、西日本まで行きました(笑)。


――:聞くだけでは面白そうですが、結構な工数ですよね。

竹内:撮影メンバー合わせて4、5人くらいで、お客様と待ち合わせて「じゃあよろしくお願いします」みたいな感じです。


――:すごい行動力です。

竹内:どちらかというと、ほかのお客様はそれを見て「運営はこういうふうに交流するんだ」と、ひとりの人間として誠実にコミュニケーションを楽しむことが伝わったのだと思います。


――:その最たる例がリアルイベントですね。

竹内:はい。運営のプロデューサーがステージに立って、自分の言葉でお客様に対して伝えたり、休憩時間に交流をはかったりと、ひとりの人間として会話をすることが、じつはエンゲージメントを高めることの1つの要素だと思っています。

当初リアルイベントは、かなり試験的でしたが、開催後はとても手応えを感じました。KPIとして見られない部分なので、本当にアンケートベースですが、その結果を踏まえて訪れた方々がどれだけ満足しているのかという指標では高水準を記録しました。


――:ことモバイルゲームでは、KPIは定量的なものかもしれません。どれくらいのユーザーが遊んでいるのか、イベントに参加しているのか。それらの数字を分析して、次の施策を考えていく。全体的な指標としてはいいかもしれませんが、もしかするとユーザー自身は嫌々で遊んでいたり、疲弊していたりと、少数意見や不平不満などが分からないのかと思います。定性情報をキャッチアップすることは、そうした“気付き”に繋がってくるのでしょう。

高松:そうですね。もちろん、ひとりの意見が全てではありませんが、深くコミュニケーションを取っていくことで「あぁ、そうなんだ」と気付かされることが多いです。そこに誠意ある対応で臨むことで、お客様にも運営側の姿勢を伝えるきっかけにもなると思います。


――:数字を見れば、「成功」「失敗」は分かりますが、本質的なものはそこではないと。

竹内:ええ。現場では「その指標は正しいんだっけ」みたいな話になることがあると思いますが、それだけを追ってしまうと、色々なものを見失ってしまいます。

 

■“ブラウザゲーム風”からの脱却


――:『戦国炎舞』が4年、『釣り★スタ』が10年。お互い長期運営タイトルをご担当されていますが、ことプロモーションにおいては、新規ユーザーの獲得をどれだけ意識されていますか。予算によっては、既存ユーザー向けに投資したほうが、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を上げられます。それぞれのバランスについていかがでしょうか。

高松:『釣り★スタ』では、2、3年前まで既存のお客様に寄せていましたが、新規にアプローチ出来ないのも非常に勿体ないと思いました。今このタイミングで新しい人に遊んでいただかないと、4~5年後を見据えた際に、負けてしまうのが目に見えていたので、そこからは新規の獲得も意識していきました。


――:なるほど。

高松:我々としては、強い意志を持って“ガラケーのゲーム”という印象から脱却しなければならないと思っています。これは運営だけではなく、開発、プロモーション、全員が一丸となって考えるべき内容です。まだ道半ばですが、これからもしっかりやらなければいけないと思いますし、そういうところの行動は必要だと思っています。


――:『戦国炎舞』は4周年ですが、新規・既存、実際はどんなバランスで考えているのですか。

竹内:高松さんのお話を聞けば聞くほど共通点が多いですね。

高松:早く飲みに行きましょう(笑)。
 

竹内:ええ(笑)。プロモーションとゲーム開発・施策では、考え方を分けるようにしています。プロモーションを考えるときは、自分たちのプロダクトを客観的に見る必要があると思っています。仮に『戦国炎舞』を新規向けにアプローチしたところで、もう市場にはコンシューマゲーム並のタイトルもありますし、魅力のGvGを推したところで世の中的には目新しいものでは無いですし、それで広くTVCMを放映してもユーザーに刺さりづらいと思います。


――:プロデューサーだからこそ、ドライに見る瞬間があるということですね。

竹内:はい。こうした一般的なプロモーションで新規を獲得するには、『戦国炎舞』を今の市場と同じくらいの製品レベルに引き上げない限り難しいと思っています。だからこそ、直近『戦国炎舞』ではゲームエンジンを変えて、これからのアップデートの土台作りをしました。そこでAndroidの描画最適化を行なったり、これからの話でいうとブラウザゲーム“風”からの脱却だったりを、目指す必要があるのです。

また、今と昔ではユーザー体験の気持ちよさも変化していると思います。昔は“点”で気持ちいい瞬間があり、たとえば「釣れた」「お宝を奪った」など、そこひとつで完結していたのですが、今では線のユーザー体験として面白さ、気持ちよさが求められていると思います。


――:点と点を線にして繋げていく必要があると。

竹内:はい。それが今の『戦国炎舞』ではまだ十分に実現出来ていないので、そこをサービスとして引き上げてから、新規のお客様に訴求したプロモーションを考えていきます。ただ、もちろんきちんと既存のお客様に対して、もっと愛着を持っていただき、長く続けていただけることを意識して運営していきたいと思っています。


――:おふたりは、いい意味で自分たちのゲームをドライに見ることができるのだと思います。各社の取り組みでは「新規獲得? じゃあTVCM」となるものですが、自身が携わるタイトルの現在のポジションだったり、市場背景だったりを鑑みて取り組むことについて、かなり慎重かつ意識的に考えているのかと思います。

高松:そうですね。当然、自分たちは「まだまだ行けるぞ」という想いは持ち続けていますが、そのなかで様々な葛藤だったり、新しいものを取り入れると賛否両論があったりと、境目に関しては悩みのひとつだと思います。

竹内:変えるところ、変えないところの境目は本当に難しいです。弊社の現場スタッフは、『戦国炎舞』をやり込んでいます。当然ながらゲームに関してはすごく敏感で、「このテンポを変えたら絶対ダメ!」「このボタン配置が良かったのに!」と、スタッフからも色々な話が出てくるんですよ(笑)。やはりガラッと変えることへのリスクはありますね。



――:長期運営タイトルならではですね。UI(ユーザインターフェース)に関しては、ユーザーも慣れていくので、マイページなどもなかなか変えられないですよね。ただ、新規獲得だったり、ブレイクスルーを起こしたりするのは、その大胆な変化への挑戦かもしれません。

高松:『釣り★スタ』に関しては、画面上にたくさんの情報が表示されるため、新規のお客様に対しては見えづらいことがあるかと思います。ですが、逆に長年遊ばれているコアなお客様の場合は、情報量があることで利便性を感じていることもあります。新規向けにシンプルにすると、それはそれでコアな方々には刺さらない……よく議論になる話題で、いつも平行線になります。


――:万人受けするのは難度が高すぎですよね。ただ意外なのは、情報量が多いことが既存ユーザーにとっては、良いことなんですね。

高松:取捨選択をしながら読み込んでくれるようです。こちらの意図も伝わりやすいのです。


――:この捉え方はすごく難しいですね。

高松:既存のお客様向けのままだと、妥協点として捉われそうですが、それはそれで必要なのです。

 

■まずはゲームをやり込む


――:おふたりはプロデューサーとして、ひとつのタイトルを長く運営しておりますが、そのうえで大切しているマインドはどういうものがあるのでしょうか。個々のタイトルに限らず、ゲーム全体でも構いません。

高松:たとえば、新しく入社したスタッフには「とにかくやり込め!」と言いますね。
 


――:ゲームをとにかくやり込むと。

高松:ええ。最初にやりがちなのですが、よくプレイせずに「このゲームはこれをやっているから、こういうのをやりたい」という発想。全てのゲームが全てのユーザーに刺さるわけでは無いので、何故今これをプレイしているのかを知って、何が面白いのか、何が面白くないのか、それが理解できたうえでコンテンツを作っていくのが大事です。

外のマーケットを意識するのは大事ですが、まずは自分たちのゲームを愛すること。最終的に「自分には合わない」という判断は構いませんが、合わないのならじゃあこのゲームをプレイしているお客様は、どこが魅力であると思われているのかを把握してから業務に臨むことは伝えています。

『釣り★スタ』は段位ですので、入社した方には「とりあえず10段まで上げて」という感じです。それが終わったら、次は外のマーケットを見ることですね。『釣り★スタ』を遊んでいない方に、どのようにアプローチしていくのか。日々の業務に追われていると、なかなか意識的に取り組めないこともありますが、視野が狭くなるとガラパゴス化のように、取り残されて行ってしまうケースが多くなることがあります。


――:竹内さんはいかがですか。

竹内:……また僕も同じことで……(笑)。


――:共通点多いですね(笑)。

竹内:やり込むことは、会社としても常々言っています。たとえば『戦国炎舞』では、「今の戦力、レベルはどれくらい?」という感じですね。僕が伝えなくとも、現場のスタッフが自主的に新しく入ってきた方にはミッションを課してくれます。やはり己を知ることが大前提です。逆に遊んだうえで「自分には合わない」というのは別にいいですが、きちんとそこで面白さや、つまらなさの情報を抽出しなければなりません。

対して、あまりにもやり込みすぎると、ハマっているが故に「この施策でも全然いけるでしょ!」というよく分からない過信が生まれてしまうときもあります。やり込みながらも、必ず外の世界にも目を向けて、自分のタイトルを客観視して欲しいと感じています。スタッフだったら、“言われてやる”と思いますが、お客様の場合はそんなこと絶対ないじゃないですか。進んでゲームを遊んでいるので、そこの入口の部分は乖離しないように、ステップごとに覚えていってほしいと思います。


――:運営スタッフであれば、自分が担当するゲームを客観的に見て、さらに魅力を分解して理解する必要がある、ということですね。

竹内:やはり相対的に見なければならないところもあると思います。「このゲームは全部面白いです」となると、ちょっと違いますし、楽しさの本質を見抜けるようになって欲しいと思っています。


――:KPIだけで判断するのではなく、ほかの情報もということですね。

竹内:ええ。そうすると「他のゲームでこれやっているからこれ入れようぜ」という、浅はかな考えには至らないと思います。「僕らのタイトルにそれは大事」「それは大事じゃない」という話し合いも出来ると思います。


――:そうして深い議論にも発展していくと思います。では、逆に両タイトルでは何をKPIとして追っているのでしょうか。今度は数字としての考え方になりますが。

高松:データとしては、ありとあらゆる情報を調べていく形ですが、とくに新規のお客様に関しては、どこ経由で訪れているのか、それが広告なのか、オーガニックなのか、今後定着してくれるお客様なのか見るようにしています。

そのほか、ゲームとして面白くなっているのかも見ます。たとえば「釣り」のなかでは、釣る回数に応じて長く続けてくれることが分かっておりますので、お客様がいかに何回釣っているのかという部分はよく見ています。

竹内:『戦国炎舞』では、イベントとガチャを切り分けて考えるようにしています。なかでも意識するのはGvGの参加率です。既存はもとより、新しく遊んでくれたお客様の参加率が変わってくると、それを踏まえて次のアクションを考えるなど、意識して見ているポイントですね。

 

■劇的に変化し続けるゲームアプリ市場


――:これはおふたりに聞くにはお門違いと思いますが、2017年、まだまだ様々な新作ゲームアプリが出てきているなか、やはり上位を見てみると固定化している印象を持ちます。率直に、おふたりは現在のゲームアプリ市場をどのように捉えているのかお聞かせください。

高松:難しいですね……僕らが言っていいのかというのはありますが、もともとモバイルゲームは先ほど申し上げたように隙間時間で遊ぶものでした。まさに、『釣り★スタ』がそうでした。そこから次第に、『パズル&ドラゴンズ』や『モンスターストライク』など、やり込める、長く遊べるタイプのゲームに切り替わってきましたが、とくにここ1年で可処分時間を奪い合うことに、そろそろ限界が来たという印象を持っています。

そうしたなか、差別化を図るためにも、今改めて隙間時間でちょこちょこ遊べるようなタイトルも上がってきていると感じます。全体的にクオリティ高いゲームばかりですが、いかに差別化していくのかが必要なのかもしれません。
 

竹内:そういう意味ですと、直近だと『アナザーエデン』は衝撃的でした。完全ソロプレイで完結させるという。市場の変化でいえば、隙間時間に遊べる→PvPやレイド型→GvG→再びPvPと来ていたところに、この時代、ソロプレイに行き着いたのです。

まさに、多様性があることを受け止めなければならないと思いました。昔は数種類くらいに分かれていた市場も、今では本当に様々なゲームのジャンルが溢れています。そこからさらに新しい芽が出てきたのを見ると、今後もそうした新機軸のゲームが出てくるのではないかと思っています。

ひとつは『アナザーエデン』のように、シナリオや世界観に重きを置いて世界観レベルでの差別化を図るなど、今までのスマホゲームの運用スタイルに囚われない手法も選択肢として出てくるのではないかと思います。


――:『アナザーエデン』は頻繁にイベントやキャンペーンを行う運営型ではなく、大きなアップデートを積み上げていくフォーマットなのかもしれません。

竹内:今でもそういうタイトルは少なくないと思いますが、よりゲーム性やターゲットに合った運営スタイルが問われるタイミングかもしれません。


――:とはいえ、おふたりの今ご担当されているタイトルは、そうした市場のトレンドにいきなり対応していくとも思えないのですが…いかがでしょうか。

高松:すぐに変えることはないと思います。ただモデルはきちんと意識するようにしています。今は我々もネイティブで作ろうとはしていますが、ブラウザゲームの時代から考えると、開発期間が飛躍的に増えていますので、新しいことを検討したらすぐにGOということは難しいと思います。ですが、新しいモデルについては、つねに意識して採用を検討していきたいと考えています。


――:予算や工数のこともそうですが、まさに先ほどの変えるところと変えないところ。

高松:とりあえず我々は「釣り」という部分からは逸脱しないように作っていきます。竿で殴り合うことになったら大変ですし (笑)。ただ、特別な制約を作る必要はないかなと思います。今の状態が未来永劫続くとは我々も思っていませんし、遊んでくれている人のニーズに対応していく必要があるのかなと思います。


――:『戦国炎舞』では、変わるところと変えないところのバランス、どのように気を配っていくのでしょうか。

竹内:まずは自分たちで弱みと強みを理解しなければならないのが大きいです。弱みひとつとっても、それは変える必要があるのか、それとも必要ないのかという判断ですね。芯の通った考えがないと、市場の影響を受けやすく、間違った選択肢を取ってしまうことがあると思います。自分たちがやりたい本質と一致しているのであれば変えるべきですが、そうでないのであれば、別に変える必要はないと思います。

逆に、どっち付かずでフワッと何となくの状態で進めて失敗することほど愚かなことはありません。「何故それをやるのか」「誰に向けてやるのか」、プロデューサーとしてメンバーと一緒に認識を合わせて改めて考えていくべきことだと思っています。


――:ちなみに、お互いで聞いてみたことなどはありますか。

竹内高松:あります!

(※運営裏事情を挟むゲームの核に関わる質疑応答が行われました)
 


 
――:いやはや話題は尽きません。それでは、時間も差し迫ってきたこともあり、最後にユーザー向けてメッセージをお願いします。

高松:おかげさまで『釣り★スタ』はサービス開始から10周年を迎えることができました。恐らくモバイルソーシャルゲームでは、世界初なのではないかと思っています。ただ、無事に迎えられて嬉しい反面、「10年迎えて安泰だね」とは全く思っていません。

各社からは大型タイトルが次々とリリースされていくなかで、今後より道は険しくなっていくのかなと思います。いかにクオリティアップを実現できるかが、鍵となります。また、『釣り★スタ』をより多くの方々に知っていただくためにも露出を考えておりますので、ぜひご期待いただければと思っています。

竹内:僕はそもそも『戦国炎舞』を、5年、10年続くサービスにしたいとずっと言っている人間なので、今日10年選手である『釣り★スタ』の高松さんとお話出来て刺激を受けました。4周年を迎えて、僕にとっては長く感じることもありますが、今振り返るとお客様にも恵まれていたのだなと思います。

ですが、今はさらなる楽しさを提供するためには、一度脱却した考え方をしなければならないと痛感しています。市場も劇的に変化していますし、目移りしてしまうくらい魅力的なゲームがたくさん出てきているなかで、いかに自分たちのゲームを遊んでくれているお客様に、引き続き遊んでいただくのかを常に考えなければならないと思っています。

エンゲージメントを高めるための様々な施策は継続していきますが、さらにそれらを打開するための新しいことも考えていきますので、ご期待ください。


――:本日はありがとうございました。
 
(協力:Sp!cemart)
(企画・取材・文:PickUPs! 原孝則)
(撮影:TAESOO KANG)


■『戦国炎舞 -KIZNA-』
 

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■『釣り★スタ』
 

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公式サイト


 
■Sp!cemart(データ協力)
 

企業サイト

 

グリー株式会社
http://www.gree.co.jp/

会社情報

会社名
グリー株式会社
設立
2004年12月
代表者
代表取締役会長兼社長 田中 良和
決算期
6月
直近業績
売上高754億4000万円、営業利益124億9800万円、経常利益130億8600万円、最終利益92億7800万円(2023年6月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
3632
企業データを見る
株式会社サムザップ
https://www.sumzap.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社サムザップ
設立
2009年5月
代表者
代表取締役 日高 裕介
決算期
9月
企業データを見る