【インタビュー】『バイオ7』の振り返り、そしてクリスが主役の「Not A Hero」の展望とは…カプコンのVRへの取り組みについて川田氏、高原氏に聞く(後編)


もはや説明しなくとも誰もが知っている『バイオハザード』。第1作『バイオハザード』の洋館で窓ガラスを突き破って襲いかかってくるケルベロスに、今なお苦い思い出が忘れられない人も多いのではないだろうか。シリーズ累計販売本数7,700万本(2017年3月31日時点)を超え、『バイオハザード7 レジデント イービル』(以下、『バイオ7』)では全編をPlayStation VR (以下PS VR)でプレイできるVRモードの搭載と新しい試みもみられた。

本稿では本作のプロデューサーである川田氏と、リードVRエンジニアの高原氏に『バイオ7』が発売されておおよそ半年に渡って出てきた反響、クリスの登場で期待が高まる追加無料DLC「Not a Hero」に関してお話を聞いた。

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■発売から5ヶ月…見えてきた反響と、今後の展開に関して

 
株式会社カプコン
バイオハザード シリーズプロデューサー
川田 将央 氏 (写真右)

技術開発室 プログラマー
高原 和啓 氏 (写真左)


ーー:『バイオ7』が公開されておよそ半年が経ちました。プレイヤーからの反響や手応えについて教えてください。
 

川田 将央氏(以下、川田):発表直後の反応も凄かったのですが、発売後にゲームを遊んでいただいたプレイヤーの声も凄くポジティブでしたね。本作のコンセプトは“ホラー”であり、徹底して恐怖へのアプローチを追求した結果、システムの変更やVR対応など行ってきたわけなのですが、それが非常に良い形で結実してくれたと思っています。

また、プロデューサーとしても収益面で目標としていた数字をおおよそ達成することができたので満足しています。

ただ、ホラーというコンセプトを徹底していった結果、商品としてはソリッドな内容となったことで、前作まで行っていた様々なアプローチがスポイルされてしまい、例えばシューター要素を期待されていた方や、前作から繋がるシナリオ展開に期待されていたファンの方には不満だったかもしれません。

そういった方々の期待に関しては、現在制作中のDLCや、更に先の展開では喜んでいただけるように努力したいですね…。あ、あと去年のTGSあたりから「昔からバイオファンだけど怖すぎて遊べないかも?」という声もちらほらいただいており、PRの仕方はすこし偏り過ぎたかな…と反省しています。

というのも、ホラーゲームといってもびっくり箱的な要素だけでは何時間もゲームを遊んでもらえるわけは無いので、今回の「バイオ7」はシナリオ面でもサスペンス的な展開、先の読めない面白さをうまく表現できたと思っていますし、登場するキャラクターも数を絞ることで相当ユニークな設定を作り上げることができたな、と思っています。

ただ怖い思いをするだけのゲームと勘違いされている方がいるのでしたら、恐怖に打ち勝って前に進んでいくことを体験できるゲームだよと伝えたいです。
 

高原 和啓 氏(以下、高原):確かにホラーという部分では「やってやったぜ」感が我々の中で凄くあったんですが、今回はCERO Z版を用意するなど周到な対応を行ったつもりだったのですが、蓋を開けて見ればやり過ぎだったかな…と思う面もあり、バランスがすごく難しかったなと思っています。

川田:グロテスク表現も今回は開発当初から規制を意識した作り方を行わず、制作側でできることを徹底的に行った結果、CERO Z版でもいくつかの表現を修正することなってしまったのは少々心残りです。ただ、このあたりの表現をどうするかと言った問題は難しいですね。

自由に表現したいと考えていても、無秩序な状態では何か大きな問題が起こってしまった時に、そういった表現を持つゲームソフトが一切発売できなくなってしまう可能性だってある。そんな状況を避けるために業界が自主的に運営を行っているのがCEROなのですから。

ただ、残酷描写で毎回頭を抱えているゲーム会社ってカプコンくらいじゃないですかね…(苦笑)。


ーー:怖さという部分では、グロテスクバージョンもノーマルバージョンも違いはなかったのでしょうか

川田:そうですね、“表現”が変わる部分があるので恐怖体験はノーマルバージョンだとマイルドになっているはず、です(笑)、ただ、自分は"恐怖"という感情は直接的な表現だけでなく、例えば何もないところを歩くんだけど、その先に恐ろしいものがある予感の部分により強く感じるのではないかと思います。

そういった意味では、バージョン違いによる恐怖の質は大きく変わらないのではないかと思っています。


高原:お化け屋敷もそうだと思います。お化けが出てくる瞬間よりも、いつ出てくるかわからないときの方が怖い。だからグロテスク版でもノーマル版でも、大きな差はないので、どっちをプレイしていただいても、恐怖を感じる度合いは変わらないかなと考えています。


ーー:“恐怖”というイメージだけが先行してしまうと、遊ぶことを諦めてしまうプレイヤーも出てきます。その恐怖と一般受けのバランスを取る部分は随分考えられたのかと思いました。

川田:そうですね。別の意味で諦められてしまった例では…そもそも誤解をされている方も多いようなのですが、このゲームはPS VRがなくても十分以上に楽しめます(笑)。先日も仕事でお会いしたタレントの方が「いやあ、バイオ7面白そうなんですけど、まだPS VRを買えていないので遊べないんですよ~」とおっしゃられて軽くショックを受けました。

その方はシリーズタイトルをすべてプレイされており、本気で残念そうにされていたのでリップサービスではないと思うのですが、自分たちのPR能力の不甲斐なさに打ちひしがれてしまいました(苦笑)。

恐怖とどうしても対峙できない方には無理強いはできないと思っていますが、ホラーゲームのパーティーでの活用法というのがありまして。大画面で仲間とゲームをプレイすることで恐怖は連帯感に繋がっていくのでお勧めなのですが、これも条件が限定的ですね。困ったな(笑)。

高原:私はSNSでもVRプレイをしている人を見かけるのですが、プレイ中の様子を写真やビデオにとってリアクションを大勢が共有しているというところがすごくVRならではの楽しみ方だと思っています。

VRゆえの、リアクションしか見えていないからこそ、「おまえ怖がりすぎ(笑)」といったようなやりとりは、すごく面白いと思いました。今までもあったんですが、VRならではの新しい楽しみ方が顕著に見られたなと思って凄く良かったです。

川田:ホラーゲームの楽しみ方は確かに増えていると思います。ゲームに詳しくない方が「バイオ7」をプレイする際に感じる恐怖という感情は、それこそダイレクトに感じるものなので、より一般向けに面白さをアピールというのはシンプルに考えた方がいいのかもしれませんね。

ホラー好きな人は買ってください、それしかありませんね(笑)。

ただ、恐怖の質という意味ではVRでプレイする「バイオ」の恐怖は、これまでに誰も味わったことないものだと思っています。没入感が非常に高くなるため、私の体感上では二回りは恐怖が増しますね。

だからゲームを遊ぶ順番としてお勧めなのは、大画面で一回遊んだ後に今度はVRモードをプレイしていただくということ。ある程度ゲームの流れを把握した上で、VRモードで新たに「バイオ7」の世界観を楽しんでみるのもありなんじゃないかなと思います。

内容を知っていてもPS VRで「体感」することの違いが凄く新鮮に感じられると思いますよ。


ーー:『バイオ7』の無料追加DLCである「Not A Hero」について、クリスが主役ということで期待しているファンは非常に多いと思います。
 

川田:公開が延期となってしまったので「製作順調」とはいい難いですが、我々としてもより一定のクオリティを満たさないと、『バイオ7』本編をクリアしたプレイヤーに申し訳ないなと感じており、大幅な見直しとクオリティアップを目指しています。

残念ながら現段階で「いつまでにリリースできます」というお約束をすることができないため大変申し訳ないのですが、必ず近いうちに新情報お披露目させていただきます。


ーー:「Not A Hero」ではシリーズの顔とも言うべき"クリス・レッドフィールド"が主役になっています。彼が主役になることで戦闘シーンが多くなるという印象があります。
 

川田:戦闘シーンは増えます。そのため『バイオ7』本編とは趣が異なります。イーサンとは違い、モールデッドに対しても積極的に攻撃を仕掛けたり、あまりフラストレーションを貯め込まない内容になると思います。

高原:ファンの中で"クリス"というキャラクターに対する強い思いを感じる人達が多くいらっしゃると思うんですが、そのキャラクター性はブレていないと思っています。


ーー:非常に屈強な漢のイメージがあって彼なら素手でも戦えるんじゃないかと(笑)

川田:期待は裏切らないと思います(笑)。

 

■新技術に関するカプコンの想い


ーー:今後VRはどうなっていくと思われますか、またカプコンがVRに対してどういうアプローチをしていくかお話できる内容があれば教えていただけますか。
 

川田:そうですね、ハードメーカーもソフトメーカーもまだまだVRに対して改良、改善できる点があると思いますし、今後はもっと進化していくのではないでしょうか。

ハード面での改良が進めば進むほど、VRでのプレイの体験も向上します。コストを下げることができればVRプレイヤーの数も増え、カプコンとしてもより良いゲームプレイを提供していけます。さらにVRプレイヤーの数が増え、さらにハードの改良が進む…そう言ったサイクルが構築されて、ゲーム業界やVRを取り巻く環境全体が前に進んでいければ理想的ですね。

ゲームは一方でスマートフォンに代表される手軽なモバイル機器があって、いつでも手元で遊べるゲームがある一方、コンソールは表現や内容により深みや多様性や新規性を増したものを求められているように思います。

自宅でのめり込んでプレイできるゲームの提供、という意味では新規性というベクトルの極に位置するVRは、やはり非常に面白い存在だと思います。

高原:今のPS VRをはじめ、Oculus Rift、HTC VIVEなどが進化していって、色々なコンテンツが出てくる流れは今後も変わらないと思います。ただ「今の形状やサービスのままで、スマートフォンレベルまで普及するか」というと、まだまだ難しいとも思っています。

ただ、そういうデバイスが出来上がった時に、カプコンがどんなゲームを作れるか、どんなコンテンツサービスができるか、というところは考えていかなければいけません。

さらなる進化にむけた土台としてPS VRなどの今の世代のVRの研究やコンテンツ開発や、技術検証を今のうちから始められているというのは、カプコンの強みかなと思っています。


ーー:最後に読者の皆様へ、メッセージをお願いいたします。

川田:普通にテレビゲームを遊ぶという行為以上に、新鮮な感覚を感じられるので、積極的にVRを1人でも多くの人に試していただきたいです。ソニーさんもPS VRを増産したり各地でイベントを行ったりしてくれています。

ただ、まだ行き渡っていないという声も聞きますので更に頑張っていただきたいです(笑)。その第一歩として『バイオ7』というタイトルはホラーゲームとしてだいぶ評判が良いそうなので、是非遊んでいただければと(笑)。

高原:『バイオハザード』という大きななIPを使ったVRモードですが、開発の目的の1つでもありました。

シリーズ作のナンバリングタイトルで、VRに完全対応するというのは、なかなか出来ない判断だったと思います。それはある種のチャレンジと言う名の無茶振りがあって、開発も含め社内全体で取り組み、完成、発売に持って行けたこと、それだけでも良かったと思っています。

先程の業界全体のハードルが上がったという話も出ましたが、大変光栄に思いますし、『バイオ7』は一定の基準までやりきれたと自負しています。その意味では業界全体の進歩に対して貢献できたかなと思います。

VR、AR、さらにはMRといった新たな分野が登場していますが、技術開発や研究の土台はまだ整ってない部分があります。そういった分野に興味のある開発の方々、学生さんなども含めて、そこに携わりたい方、『バイオ7』のようなタイトルで世界に衝撃を与えたいという方は、是非カプコンに来ていただきたいなと思っています(笑)。一緒に頑張りましょう!
 

ーー:ありがとうございました。 
 

(編集:ドラゴン・リバー)
(取材・文・撮影 : 編集部 和田和也)
株式会社カプコン
http://www.capcom.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社カプコン
設立
1983年6月
代表者
代表取締役会長 最高経営責任者(CEO) 辻本 憲三/代表取締役社長 最高執行責任者(COO) 辻本 春弘/代表取締役 副社長執行役員 兼 最高人事責任者(CHO) 宮崎 智史
決算期
3月
直近業績
売上高1259億3000万円、営業利益508億1200万円、経常利益513億6900万円、最終利益367億3700万円(2023年3月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
9697
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