Cygamesは、9月1日に「CEDEC2017」において「ゲーム開発者が作るゲーム開発のための教科書 ~ブラウザ、ネイティブ、コンシューマ全てに共通するゲーム開発技術を書面化するための取り組み~」のセッションを行い、Cygames Researchシニアゲームエンジニアの金井大氏(写真)が登壇した。
本セッションでは、Cygames社内での「教科書プロジェクト」の取り組みを例に、ゲーム開発ノウハウという知見の書面化と共有をどのように進めていけば良いのか聞くことができた。
最初にCygames社内で行われている「教科書プロジェクト」とはどのようなものかの説明を行った。「教科書プロジェクト」は3Dグラフィックスの知識力向上のために、プランナー、ディレクター向けに行われた資料作成や講義などの施策となる。
プロジェクトは、2016年12月頃から開始され、講義は月に1,2回程度の割合で開催し、1回につき20から30人ほどの参加があるという。作成資料は「コンピュータゲーム開発基礎」、「3Dグラフィックスワークフロー」、「3D基礎技術」の3パートとなり、合計200ページ強のスライド資料となる。これは3DCGアーティスト、プログラマ、プランナーが「教科書プロジェクトチーム」を結成し、3Dグラフィックスの基礎知識を形式知としてまとめたものだという。
続いて、教科書プロジェクトの事例を紹介した。3DCGは、プランナーやディレクターも知識が必要となるが、ひとりで勉強するには限界があり、さらにCygamesには様々なキャリア、バックボーンの1000人以上のスタッフが在籍することから、3DCGの知識を一定レベルに引き上げたいというニーズもあり、「教科書プロジェクト」は生まれた。プロジェクトのゴールは「3DCGの基礎を形式知にする」、「対象スタッフに講義を行い、理解度を上げる」、「教科書を念頭に形式知のストック」の三段階を設定している。
では、なぜ知識を書面化する必要があったのか?書面化しなくても伝えることはできるが、属人的なコミュニケーションに依存するため、知識を書面化し「形式知」とすることでより効率的に伝えることが可能と考えたという。
自社で書面化と講義を行う必要はあるかについて、当初は社外に講義を依頼していたが、実際の開発現場での事例を聞きたいという声も多かったという。また自社で作成することで、開発事例を織り込み、聴講者の意見のフィードバックからすぐ改善を行うこともできた。運営にとっても内容が伝わるスライドや講義の作り方がわかったという。
結果として、2017年の6月までに約450名が受講し、アンケートではすべてのパートで「解説するくらい理解できた」「理解できた」の合計が90%を超えた。また現在も開催しており、内容の評価が他部署に広まっていき、最終的には全スタッフが受講するかたちに規模が拡大したという。
なぜ「教科書プロジェクト」は上手くいったのか。金井氏は、「聴講者が理解できることを目指す」、「運営側のモチベーションを保つ」、「広げすぎない」の三点を主な理由として挙げた。
①聴講者が理解できることを目指す
様々なバックボーンを持つスタッフに説明することは難しいため、パートに分けて資料作成や講演を行った。また多人数への講演のノウハウが少なく内容が伝わらない可能性もあったため、最初は少人数を対象に講義を行い、聴講者が理解できることにフォーカスして、改善を繰り返しノウハウや経験を蓄積したという。
②運営側のモチベーションを保つ
教科書プロジェクトは専任のスタッフがいるわけではなく、どうしても開発の仕事の優先度が高くなる傾向があった。そのため短期間で結果を出すことが難しく長期的な運営になるため、運営側のモチベーション維持が課題となっていた。この問題に対しては、トピックがなくても直接顔を合わせて毎週ミーティングを実施する、良い点があればほめる、聴講者の意見を必ずもらい、資料の改善を繰り返した。
③広げすぎない
上手くいったことでありがちだが、3D以外の分野など将来的にいろいろやりたいという声もあった。しかし、プロジェクトのゴールに設定した「3Dグラフィックス」を優先し、最初は制御しやすい少人数のレビューから開催を続けたという。ただ実際には全社的にクチコミで広がり、現在では人事部に運営を移管、新卒研修カリキュラムへの組み込みも行われるなど、結果的に拡大したと語った。
セッションの最後には今後のプロジェクトの課題として、「3DGC以外のトピックの追加」、「講義資料の保守をどこまで行うか」を挙げた。
「3DCG以外のトピックの追加」については、SECIモデルでのサイクルで考えているという。SECIモデルは、個人の暗黙知は、「共同化」、「表出化」、「結合化」、「内面化」、という知識の状態を表すナレッジマネジメントのモデルとなる。Cygamesでは、スキルサーズデーやアクティブラーニング型の勉強会を実施、社内スライドシェア、社内資料の一元化など、表出化と結合化のための場はあるが、社内の誰が知識を持っているということはわかりづらく、例えば「スライドにまとめてみんなに発表してみたら」など社内でお互いにコミュニケーションを行うことで、より表出の機会が増えるのではないかと語った。
「講義資料の保守をどこまで行うか」について、資料を変更したいと思っても講演者の負担が大きくなる。講演者の負担を減らすために作業優先をどのように行っていくかが課題となっているが、3DCGの実績から費用対効果を算出し優先度決めていきたいという。また形式知になっているのであれば、講演者の引き継ぎも可能となり、より負担を減らせるのではないかと語り、講演を終えた。
(撮影・記事執筆 森山晃義)