2016年12月渋谷に登場した VR体験施設「VR PARK TOKYO」は既存の客層だけではなく所謂ゲームセンター離れをしているイマドキの若い層の多くにも支持されている。
2017年12月には2店目となる「VR PARK TOKYO IKEBUKURO」をオープン。渋谷とは異なりグループで体験できるアトラクションを増やした施設となった。
ゲームセンターの売上が低迷する中、VRを利用してアミューズメント市場の再起をどのように考えているのか、アドアーズでVR事業を専門にするレボリューション部の執行役員 石井 学氏にお話を聞いた。
アドアーズ株式会社 レボリューション部担当 執行役員
石井 学 氏(写真)
ーー本日はよろしくお願いいたします。学生の頃からアーケードに親しんでいたとのことですが、ゲームセンターとの出会いとアドアーズ入社までをお聞かせください。
石井氏:私が小学生の頃インベーダーブームがありました、自分の家のマンションの下がインベーダーハウスだったんです。
当時学校では禁止されているものの、そんな身近にアーケード施設があって行かないわけないですよね(笑)
ーー(笑)
石井氏:そこから私とゲームセンターとの歴史が始まりました。1980年代はアミューズメントが活況で、タイトーさんがインベーダーを、ナムコさんがパックマンやゼビウスを出していました。
私が中学生くらいの時にファミリーコンピューターが発売になり、家庭内でゲームが出来る環境になったのでずっとやっていましたね。
高校生になって時に体感ゲームシリーズ『ハングオン』や『アフターバーナー』が出てきた。
当時は1プレイ200円と高価でした。もっと小さい子供であれば手が出ない額でしたが、アルバイトをしていたのでプレイできる余裕があって、どんどんアーケードにのめり込んでいったんですね。
高校で将来の進路を考えた時に、自分の生活には常にゲームがあってゲームに関わる仕事がしたいと思ってアドアーズの前進となるシグマに入社したんです。
入社した当時は、シグマ社の創業者である真鍋氏によって日本式に考案されたメダルのイン・アウト方式により、国内にメダルゲームを普及させたとして、メダルゲームのパイオニアと呼ばれ、メダルゲームを定着させた存在だったんです。
入社してからはずっと店舗の運営に従事していて、店の作りは3分の2がメダルゲーム、残りがビデオゲームでした。自分が想像していたのとは違うゲームセンターの形でした。
それから2001年くらいまでずっとゲームセンターの店舗で営業をしてました。
ーーその後ゲームセンター・アーケードの売上がドンドン伸びていった時期になっていきます
石井氏:そうなんです。ゲームが本格的にネットワーク化し始めて、セガさんのサッカーゲーム『WORLD CLUB Champion Football』が流行りました。
ゲームをやるとカードが出てくるんです。それが今までにないスタイルだったんですね。
このゲームは熱狂的ファンも多く、売上が信じられないくらいありました。
その他に『マージャンファイトクラブ』も出てきて、一世風靡したんです。
メダルゲームでは『スターホース』というゲームタイトルの持ち馬を育成しながらメダルゲームを楽しめるという新たな概念が生まれて、プリクラのブームも重なり、新たなお客様を掴んで、各ジャンルで革命が起きた時期です。
2000年代に入って、メダルゲームは筐体のサイズが大きく店舗も大型化していきました。
店舗の大型化で物件を探すときには、なかなか大きな物件は出ないので、地方郊外にロードサイドで展開して爆発的に店舗も増え、ユーザーも増え市場はぐぐっと延びたのが2000年代前半でした。
ゲームセンターのピークは2006年です。ただ、その後モバイルゲームが出始めて、2008年にはiPhoneが国内での発売されます。家庭用のゲーム機だとPS3やWiiなども出てきました。
それから家庭用やモバイルゲームにも押され始め、アーケードはどんどん縮小していきました。
2015年からの1、2年は数字上がってはいますが、これはクレーンゲームの影響でメダルゲームやビデオゲームは前年を下回っているんです。
ーーアドアーズでは”脱ゲーセン”というスローガンがあるとお聞きしています、この言葉は何時から出始めたのでしょうか。
石井氏:社内では2015年からです。アーケードを開発するメーカーもスマートフォン事業に移行していきます。
当時はゲームセンターで、新しい機械をいち早く入れて短期で回収するというプロセスが主流でしたが、現在は破綻しているんですね。
要因は、スマホアプリに代表されるような手軽に遊べるゲームの登場です。ゲームは無料で遊ぶもので、その先に課金という概念が今の若者には定着しているため、イマドキの子は見向きもしません。
そういった意味で脱ゲーセンしよう、脱皮しようというのが先のスローガンです。
ーー2015年というとVR出るかでないかくらいのところですね。
石井氏:そうなんです。
当時の私の役割は新規事業をやっていて、新しい業態を模索しておりました。会社としてはカラオケだったり、アニメやゲームとコラボするカフェだったり、色々な業態をしていました。
ただ思った以上に店舗の数を増やせる状態ではなく、決め手にはならなかったです。
そんな時「VR」という言葉がにわかにニュースで出てくるようになってきました。
特に一番のきっかけになったのは、「The Void」という、アメリカのVRアトラクション施設です。
当時ニュースリリースは僅かな情報しかありませんでしたが、ゲームに長年付き添ってる身としてはしっくり来たし、「新しいゲームが生まれるな」というインスピレーションがきたんです。
2015年の末には、VRを手がけている会社と会う機会もあって体験しました。
その体験時のイマジネーションが具体的になって、これはゲームセンターだけではなく、革命を起こすテクノロジーだと感じて事業に展開できないか考えたんです。
ーー2015年のタイミングで、VRの施設を作ろうというのはアドアーズとしてあったのでしょうか
石井氏:我々の店舗のオペレーションは強みとして持っていましたし、物件も繁華街の一等地を持っています。
そこをうまく使えば、「VRを使ったでサービスができるのではないか」とふわっとした感じですがありました。
2016年前半は海外の会社のアタックして、とにかくあるものを日本に持ってこれないかひたすらアトラクションを探していました。
その後、店舗展開をしようとしたのが、2016年の6月〜7月くらいです。
ーー2016年の12月に「VR PARK TOKYO SHIBUYA」をオープンしているので、その間は半年ほどなんですね。
石井氏:VRの機械がどこで手に入るのか、何がユーザーに受けるのか、事前情報がなかったので前にプレイした感覚を頼りに、自分が面白いと思うものを基準としました。
アメリカで開催したE3に行ったり、日本でもVRの展示会などにも参加して直接アポイントを取ってといったことをずっと夏場にしていたんです。
同時期にグリーさんも施設型VRにアプローチをするというリリースを発表しておりましたので、オリジナルのVRタイトルを作ろうという話になり、そこで業務提携をさせていただき、常設型施設の具体的な話が進むわけです。
ーー2016年12月にいよいよ「VR PARK TOKYO」オープンしました。施設内の稼働率は非常に高い状態で運営していたとお聞きしています。
石井氏:実は稼働率に関しては12月と1月に関しては「やっちまった」(笑)って思っていました。
「VR PARK TOKYO」はアドアーズ渋谷店の4Fにあって、お客様はフロアに上がってきてくれるけれど、値段見て帰ってしまう人が多かったんです。
その「やっちまった」理由の一つとして考えていたのは、「VR PARK TOKYO」は料金が特殊で時間制限のある入場料制ということです。
これは私としても一つの賭けでもありました。ただ当時はそれが裏目に出たと思っていたんですね。お客様に敷居が高いと思われてしまったと。
その時は1プレイ辺りの料金にした方がいいかなと思った時もあったんですよ。
ただ、1月に某局の人気情報番組で取り上げていただいて、お客様の来店状況が劇的に変わったんですね。
それを境に数か月間何らかのメディアの取材が続いて、お客様の認知が広がり、稼働率が高い状態が続き、今でも休日などは高い稼働率を維持しています。
ーー料金設計の問題ではなく認知度が原因であったと。
石井氏:そうですね。ただあの料金体系は繁華街だから通用すると思っています。価格帯もそうですが。地域によっては変更が必須だと思っています。
ーーTV放送がきっかけで来場者が増えたということは、そもそもVRの存在を知らない方が多かったのでしょうか。
石井氏:そうです。TV放送前まではどちらかというと、アーリーアダプタやVRに詳しい人の割合が多くて、年齢層も30歳以上で6割強が男性でした。
それが放送後には男女比はほぼイーブンになり、年齢層も20代が増えて、普段ゲームセンターに来ない層の人たちが来てくれるようになりました。
この時に新規業体は情報発信地でやらないといけないなと改めて思いました。
ーー渋谷でオープンしたのが成功だったんですね。
石井氏:はい。ただアドアーズ渋谷店の業績は悪くなかったので、その一角で新しい試みを実行するのは勇気がいりました。
他の業態もそうですが繁華街以外でやると、認知をしてもらうのにも時間がかかります。
そしてメディアにも取り上げられにくいですね。
ーー2017年のVR業界を見たときにどういった感想をお持ちでしょうか
石井氏:ハードの普及が立ち遅れているなと思いました。ゴールドマン・サックスが出してるVR市場予測などがありますが、あの通りにはいってない状況です。
価格を考えると、今の日本の一般消費者の価値観だと仕方ないかなとも感じます。
話題という点から見ると、他社さんが大型施設をオープンさせたり、新しいコンテンツの投入が続くなど、この夏場は話題に事欠かない状況でした。
VR PARK TOKYOでも7月から女性の比率が多くなりました、女性のグループが増えたんですね。彼女達の中ではVRを体験するのがブームになっているのかなと思います。
ーーブームという観点からすと、下火になるのは怖いと思います。「VR PARK TOKYO」のリピート率はどうでしたでしょうか
石井氏:リピータとして再訪されるユーザー様は徐々に増えています。当初はアンケートでもVR体験を聞くと、初めての人が95〜98%なんですね。
夏超えてからは90%前半になっているので、確実に増えています。
オープン以来2017年10月までは新規タイトルを増やしているので、そういった点も大きいと思います。
ーー海外からの来場者はどうでしょか
石井氏:中国圏の国慶節だったり、海外のホリデーの時は、外国のお客様の比率が増えます。
ーー観光客としていらっしゃってそのまま体験されるとった形で?
石井氏:そうですね。海外のメディアにも掲載していただいるので、それを見て体験しに来てくれています。
ーー「VR PARK TOKYO IKEBUKURO」 が2017年12月7日にオープン。今回設置しているアトラクションはリピーター率を高めようとする意図を感じました。
石井氏:その思いもあります。渋谷はカップルでデートスポットとして利用してもらうといった形ですが、池袋というマーケットの特性上、そこに合わせたアトラクションを用意しています。
池袋に関しては"目的"を持ってその街に来る方が多いんですね。
埼玉からの距離も近くて北関東中心に、池袋に遊びに来る。アニメの聖地にもなっています。そのため志向性の高い人たちを想定したアトラクションを導入しました。
池袋はグループで行動する人も多いので、同時に体験できるVRアトラクションも多く設置しています。
ーー池袋店では同時プレイのタイトルが多いなと感じていました。またホラーを題材にしたタイトルも目立っています。
石井氏:そうなんですよ。VR PARK TOKYOだけで体験できる最新のアトラクションを導入しようとすると、海外製のアトラクションが多くなり、FPS「 ファーストパーソン・シューティングゲーム(First Person shooting game)」によるものが多く、ホラーやアンドロイドなどが簡単、明快で受け入れられやすいという意味で、結果的にコンテンツが寄ってしまったというのが本音です。
アドアーズは純粋なオペレーターという立場を利用し、メーカーのような縛りがないので、最新のコンテンツを素早く手に入れることができ、そこが差別化を図れる大きな武器だと思っています。
ハプティクス(触覚)といった技術もそうですが、最新の技術で完成されたものがすでに有ります。そういった技術を含んだコンテンツが海外では多く、それを日本でいち早く披露するというサイクルを今後もやっていきたいです。
ーー新たに導入したSF系VRシューティング『BLACK BADGE』で使用する斬撃再現ベストなどもまさにそれですね。
石井氏:そうです。家庭用のVRゲームとの差別化でそこを追求しないと店舗の良さがなくなります。
VRもモバイルやPlayStation VRなどのコンソール、ロケーションベース(店舗型)という3つの軸があった時に、ロケーションベースはリッチコンテンツを追求しないと、手軽さでは負けます。
そう考えると「ハプティクスという要素はロケーションベースのためにあるのでは?」と思うので、最新のものはどんどん取り入れたいですね。
ーー「VR PARK TOKYO」でお気に入りのコンテンツはありますか
石井氏:ハシラスさんが製作した、『ソロモンカーぺット』ですね。導入する時に企画書も何もなかったんです。
ハシラスの安藤社長が「こういうの考えてます」って口で言って、私も聞いただけでイマジネーションができて、「それください」って即決しました(笑)
出来上がったアトラクションは安藤さんの言うとおりにもなっていましたし、私のイメージ通りでもありました。
ーーそのスピードはベンチャー企業のような速度ですね(笑)
石井氏:社内でもVR事業をやるにあたって、前例がないのでエビデンスが少ないんですね。だから、「あまり躊躇せずスピード重視でいこう」というコンセンサスを取りました。
ーー渋谷店でもひっきりなしにアトラクションが増えていくので、相当な速度で動いているなと思っていたんです。
石井氏:実はまだ設置しきれていないものも沢山あるんですよ。場所があれば設置したいのですが、、、。場所も限られていますし、嬉しいことに様々な企業や制作者から依頼が殺到している状況なんです。
設置しているVRアトラクションは全て、私が設置の判断をしています。私のゲーム人生を背景に、ゲームへの目利きは誰にも負けないという自負もありますし、それを信じて決めています。
ーー2018年のVR市場の展望についてはいかがでしょうか。
石井氏:マーケットの広がり方としては、ロケーションベースが起点になると思っています。
様々な企業が参入してきて、地方でも施設が動き始めていて、日本各地にVRを基軸として店舗型のサービスが、2018年は広がるのではないかと思っています。
ーー池袋のみならずに今後も考えられていると思います。現在1年で1店舗の出店ペースですが、今後は更にスパンを短くして店舗を出店していくのでしょうか
石井氏:2017年に池袋以外にも、12月に北海道にもう1店舗出店しました。年明け以降には更に2、3店舗出そうとも思っています。
2018年はロケーションベースVRの年になると思っているので、そこでイニシアチブを取るために、我々もある程度店舗を出して行く必要があります。
直営で45店舗を持っている強みもあり、戦略的に店舗数を増やしいきますよ。
ーー市場をより大きくするにあたって改善しなければいけない点はどんなところでしょうか
石井氏:VRならではの仕掛け・体験が欲しいですね。プレイヤーが予期しない仕掛けがあると良いと思っています。
そしてそれがリピーターに繋がります。ロケーションベースではリピーターを作るのが必須課題でしょう。
渋谷や池袋のような人口が流動しているところは、一回の体験で「楽しかった」ということで短期的には事業は成り立ちます。
これから安定した収益店舗を増やそうとした場合、1回だけ楽しむお客様のみでは事業として成立しません。
それにはいくつもステップがあって、そもそも既存のHMDの利用からも脱却しないといけない。長時間やると首も目も疲れます。技術的に改善することも同時に必要だと思いますが、そのあたりはすでに進化が見られ始めています。
リピートが出来、家庭用との差別化が図れることが大事だと思っています。
ーー最後にメッセージをお願いします。
石井氏:私は社歴が29年、小学校低学年からゲームセンターと共にいるので、そういう意味ではゲームセンターの歴史を40年見てきています。
そこで培った感覚ではVRの存在がこのアミューズメント業界に革命を起こす一つのツールだと思っています。その感覚を信じてVRを起点に事業展開をしていきたいと考えています。
ーーありがとうございました。
(取材・文・撮影 : 編集部 和田和也)
2017年12月には2店目となる「VR PARK TOKYO IKEBUKURO」をオープン。渋谷とは異なりグループで体験できるアトラクションを増やした施設となった。
ゲームセンターの売上が低迷する中、VRを利用してアミューズメント市場の再起をどのように考えているのか、アドアーズでVR事業を専門にするレボリューション部の執行役員 石井 学氏にお話を聞いた。
■インベーダー少年だった幼き日、ゲームセンターとの出会い
アドアーズ株式会社 レボリューション部担当 執行役員
石井 学 氏(写真)
ーー本日はよろしくお願いいたします。学生の頃からアーケードに親しんでいたとのことですが、ゲームセンターとの出会いとアドアーズ入社までをお聞かせください。
石井氏:私が小学生の頃インベーダーブームがありました、自分の家のマンションの下がインベーダーハウスだったんです。
当時学校では禁止されているものの、そんな身近にアーケード施設があって行かないわけないですよね(笑)
ーー(笑)
石井氏:そこから私とゲームセンターとの歴史が始まりました。1980年代はアミューズメントが活況で、タイトーさんがインベーダーを、ナムコさんがパックマンやゼビウスを出していました。
私が中学生くらいの時にファミリーコンピューターが発売になり、家庭内でゲームが出来る環境になったのでずっとやっていましたね。
高校生になって時に体感ゲームシリーズ『ハングオン』や『アフターバーナー』が出てきた。
当時は1プレイ200円と高価でした。もっと小さい子供であれば手が出ない額でしたが、アルバイトをしていたのでプレイできる余裕があって、どんどんアーケードにのめり込んでいったんですね。
高校で将来の進路を考えた時に、自分の生活には常にゲームがあってゲームに関わる仕事がしたいと思ってアドアーズの前進となるシグマに入社したんです。
入社した当時は、シグマ社の創業者である真鍋氏によって日本式に考案されたメダルのイン・アウト方式により、国内にメダルゲームを普及させたとして、メダルゲームのパイオニアと呼ばれ、メダルゲームを定着させた存在だったんです。
入社してからはずっと店舗の運営に従事していて、店の作りは3分の2がメダルゲーム、残りがビデオゲームでした。自分が想像していたのとは違うゲームセンターの形でした。
それから2001年くらいまでずっとゲームセンターの店舗で営業をしてました。
ーーその後ゲームセンター・アーケードの売上がドンドン伸びていった時期になっていきます
石井氏:そうなんです。ゲームが本格的にネットワーク化し始めて、セガさんのサッカーゲーム『WORLD CLUB Champion Football』が流行りました。
ゲームをやるとカードが出てくるんです。それが今までにないスタイルだったんですね。
このゲームは熱狂的ファンも多く、売上が信じられないくらいありました。
その他に『マージャンファイトクラブ』も出てきて、一世風靡したんです。
メダルゲームでは『スターホース』というゲームタイトルの持ち馬を育成しながらメダルゲームを楽しめるという新たな概念が生まれて、プリクラのブームも重なり、新たなお客様を掴んで、各ジャンルで革命が起きた時期です。
2000年代に入って、メダルゲームは筐体のサイズが大きく店舗も大型化していきました。
店舗の大型化で物件を探すときには、なかなか大きな物件は出ないので、地方郊外にロードサイドで展開して爆発的に店舗も増え、ユーザーも増え市場はぐぐっと延びたのが2000年代前半でした。
ゲームセンターのピークは2006年です。ただ、その後モバイルゲームが出始めて、2008年にはiPhoneが国内での発売されます。家庭用のゲーム機だとPS3やWiiなども出てきました。
それから家庭用やモバイルゲームにも押され始め、アーケードはどんどん縮小していきました。
2015年からの1、2年は数字上がってはいますが、これはクレーンゲームの影響でメダルゲームやビデオゲームは前年を下回っているんです。
ーーアドアーズでは”脱ゲーセン”というスローガンがあるとお聞きしています、この言葉は何時から出始めたのでしょうか。
石井氏:社内では2015年からです。アーケードを開発するメーカーもスマートフォン事業に移行していきます。
当時はゲームセンターで、新しい機械をいち早く入れて短期で回収するというプロセスが主流でしたが、現在は破綻しているんですね。
要因は、スマホアプリに代表されるような手軽に遊べるゲームの登場です。ゲームは無料で遊ぶもので、その先に課金という概念が今の若者には定着しているため、イマドキの子は見向きもしません。
そういった意味で脱ゲーセンしよう、脱皮しようというのが先のスローガンです。
ーー2015年というとVR出るかでないかくらいのところですね。
石井氏:そうなんです。
当時の私の役割は新規事業をやっていて、新しい業態を模索しておりました。会社としてはカラオケだったり、アニメやゲームとコラボするカフェだったり、色々な業態をしていました。
ただ思った以上に店舗の数を増やせる状態ではなく、決め手にはならなかったです。
そんな時「VR」という言葉がにわかにニュースで出てくるようになってきました。
特に一番のきっかけになったのは、「The Void」という、アメリカのVRアトラクション施設です。
当時ニュースリリースは僅かな情報しかありませんでしたが、ゲームに長年付き添ってる身としてはしっくり来たし、「新しいゲームが生まれるな」というインスピレーションがきたんです。
2015年の末には、VRを手がけている会社と会う機会もあって体験しました。
その体験時のイマジネーションが具体的になって、これはゲームセンターだけではなく、革命を起こすテクノロジーだと感じて事業に展開できないか考えたんです。
ーー2015年のタイミングで、VRの施設を作ろうというのはアドアーズとしてあったのでしょうか
石井氏:我々の店舗のオペレーションは強みとして持っていましたし、物件も繁華街の一等地を持っています。
そこをうまく使えば、「VRを使ったでサービスができるのではないか」とふわっとした感じですがありました。
2016年前半は海外の会社のアタックして、とにかくあるものを日本に持ってこれないかひたすらアトラクションを探していました。
その後、店舗展開をしようとしたのが、2016年の6月〜7月くらいです。
ーー2016年の12月に「VR PARK TOKYO SHIBUYA」をオープンしているので、その間は半年ほどなんですね。
石井氏:VRの機械がどこで手に入るのか、何がユーザーに受けるのか、事前情報がなかったので前にプレイした感覚を頼りに、自分が面白いと思うものを基準としました。
アメリカで開催したE3に行ったり、日本でもVRの展示会などにも参加して直接アポイントを取ってといったことをずっと夏場にしていたんです。
同時期にグリーさんも施設型VRにアプローチをするというリリースを発表しておりましたので、オリジナルのVRタイトルを作ろうという話になり、そこで業務提携をさせていただき、常設型施設の具体的な話が進むわけです。
ーー2016年12月にいよいよ「VR PARK TOKYO」オープンしました。施設内の稼働率は非常に高い状態で運営していたとお聞きしています。
石井氏:実は稼働率に関しては12月と1月に関しては「やっちまった」(笑)って思っていました。
「VR PARK TOKYO」はアドアーズ渋谷店の4Fにあって、お客様はフロアに上がってきてくれるけれど、値段見て帰ってしまう人が多かったんです。
その「やっちまった」理由の一つとして考えていたのは、「VR PARK TOKYO」は料金が特殊で時間制限のある入場料制ということです。
これは私としても一つの賭けでもありました。ただ当時はそれが裏目に出たと思っていたんですね。お客様に敷居が高いと思われてしまったと。
その時は1プレイ辺りの料金にした方がいいかなと思った時もあったんですよ。
ただ、1月に某局の人気情報番組で取り上げていただいて、お客様の来店状況が劇的に変わったんですね。
それを境に数か月間何らかのメディアの取材が続いて、お客様の認知が広がり、稼働率が高い状態が続き、今でも休日などは高い稼働率を維持しています。
ーー料金設計の問題ではなく認知度が原因であったと。
石井氏:そうですね。ただあの料金体系は繁華街だから通用すると思っています。価格帯もそうですが。地域によっては変更が必須だと思っています。
ーーTV放送がきっかけで来場者が増えたということは、そもそもVRの存在を知らない方が多かったのでしょうか。
石井氏:そうです。TV放送前まではどちらかというと、アーリーアダプタやVRに詳しい人の割合が多くて、年齢層も30歳以上で6割強が男性でした。
それが放送後には男女比はほぼイーブンになり、年齢層も20代が増えて、普段ゲームセンターに来ない層の人たちが来てくれるようになりました。
この時に新規業体は情報発信地でやらないといけないなと改めて思いました。
ーー渋谷でオープンしたのが成功だったんですね。
石井氏:はい。ただアドアーズ渋谷店の業績は悪くなかったので、その一角で新しい試みを実行するのは勇気がいりました。
他の業態もそうですが繁華街以外でやると、認知をしてもらうのにも時間がかかります。
そしてメディアにも取り上げられにくいですね。
■VR業界の未来と、アドアーズのこれから
ーー2017年のVR業界を見たときにどういった感想をお持ちでしょうか
石井氏:ハードの普及が立ち遅れているなと思いました。ゴールドマン・サックスが出してるVR市場予測などがありますが、あの通りにはいってない状況です。
価格を考えると、今の日本の一般消費者の価値観だと仕方ないかなとも感じます。
話題という点から見ると、他社さんが大型施設をオープンさせたり、新しいコンテンツの投入が続くなど、この夏場は話題に事欠かない状況でした。
VR PARK TOKYOでも7月から女性の比率が多くなりました、女性のグループが増えたんですね。彼女達の中ではVRを体験するのがブームになっているのかなと思います。
ーーブームという観点からすと、下火になるのは怖いと思います。「VR PARK TOKYO」のリピート率はどうでしたでしょうか
石井氏:リピータとして再訪されるユーザー様は徐々に増えています。当初はアンケートでもVR体験を聞くと、初めての人が95〜98%なんですね。
夏超えてからは90%前半になっているので、確実に増えています。
オープン以来2017年10月までは新規タイトルを増やしているので、そういった点も大きいと思います。
ーー海外からの来場者はどうでしょか
石井氏:中国圏の国慶節だったり、海外のホリデーの時は、外国のお客様の比率が増えます。
ーー観光客としていらっしゃってそのまま体験されるとった形で?
石井氏:そうですね。海外のメディアにも掲載していただいるので、それを見て体験しに来てくれています。
ーー「VR PARK TOKYO IKEBUKURO」 が2017年12月7日にオープン。今回設置しているアトラクションはリピーター率を高めようとする意図を感じました。
石井氏:その思いもあります。渋谷はカップルでデートスポットとして利用してもらうといった形ですが、池袋というマーケットの特性上、そこに合わせたアトラクションを用意しています。
池袋に関しては"目的"を持ってその街に来る方が多いんですね。
埼玉からの距離も近くて北関東中心に、池袋に遊びに来る。アニメの聖地にもなっています。そのため志向性の高い人たちを想定したアトラクションを導入しました。
池袋はグループで行動する人も多いので、同時に体験できるVRアトラクションも多く設置しています。
ーー池袋店では同時プレイのタイトルが多いなと感じていました。またホラーを題材にしたタイトルも目立っています。
石井氏:そうなんですよ。VR PARK TOKYOだけで体験できる最新のアトラクションを導入しようとすると、海外製のアトラクションが多くなり、FPS「 ファーストパーソン・シューティングゲーム(First Person shooting game)」によるものが多く、ホラーやアンドロイドなどが簡単、明快で受け入れられやすいという意味で、結果的にコンテンツが寄ってしまったというのが本音です。
アドアーズは純粋なオペレーターという立場を利用し、メーカーのような縛りがないので、最新のコンテンツを素早く手に入れることができ、そこが差別化を図れる大きな武器だと思っています。
ハプティクス(触覚)といった技術もそうですが、最新の技術で完成されたものがすでに有ります。そういった技術を含んだコンテンツが海外では多く、それを日本でいち早く披露するというサイクルを今後もやっていきたいです。
ーー新たに導入したSF系VRシューティング『BLACK BADGE』で使用する斬撃再現ベストなどもまさにそれですね。
石井氏:そうです。家庭用のVRゲームとの差別化でそこを追求しないと店舗の良さがなくなります。
VRもモバイルやPlayStation VRなどのコンソール、ロケーションベース(店舗型)という3つの軸があった時に、ロケーションベースはリッチコンテンツを追求しないと、手軽さでは負けます。
そう考えると「ハプティクスという要素はロケーションベースのためにあるのでは?」と思うので、最新のものはどんどん取り入れたいですね。
ーー「VR PARK TOKYO」でお気に入りのコンテンツはありますか
石井氏:ハシラスさんが製作した、『ソロモンカーぺット』ですね。導入する時に企画書も何もなかったんです。
ハシラスの安藤社長が「こういうの考えてます」って口で言って、私も聞いただけでイマジネーションができて、「それください」って即決しました(笑)
出来上がったアトラクションは安藤さんの言うとおりにもなっていましたし、私のイメージ通りでもありました。
ーーそのスピードはベンチャー企業のような速度ですね(笑)
石井氏:社内でもVR事業をやるにあたって、前例がないのでエビデンスが少ないんですね。だから、「あまり躊躇せずスピード重視でいこう」というコンセンサスを取りました。
ーー渋谷店でもひっきりなしにアトラクションが増えていくので、相当な速度で動いているなと思っていたんです。
石井氏:実はまだ設置しきれていないものも沢山あるんですよ。場所があれば設置したいのですが、、、。場所も限られていますし、嬉しいことに様々な企業や制作者から依頼が殺到している状況なんです。
設置しているVRアトラクションは全て、私が設置の判断をしています。私のゲーム人生を背景に、ゲームへの目利きは誰にも負けないという自負もありますし、それを信じて決めています。
ーー2018年のVR市場の展望についてはいかがでしょうか。
石井氏:マーケットの広がり方としては、ロケーションベースが起点になると思っています。
様々な企業が参入してきて、地方でも施設が動き始めていて、日本各地にVRを基軸として店舗型のサービスが、2018年は広がるのではないかと思っています。
ーー池袋のみならずに今後も考えられていると思います。現在1年で1店舗の出店ペースですが、今後は更にスパンを短くして店舗を出店していくのでしょうか
石井氏:2017年に池袋以外にも、12月に北海道にもう1店舗出店しました。年明け以降には更に2、3店舗出そうとも思っています。
2018年はロケーションベースVRの年になると思っているので、そこでイニシアチブを取るために、我々もある程度店舗を出して行く必要があります。
直営で45店舗を持っている強みもあり、戦略的に店舗数を増やしいきますよ。
ーー市場をより大きくするにあたって改善しなければいけない点はどんなところでしょうか
石井氏:VRならではの仕掛け・体験が欲しいですね。プレイヤーが予期しない仕掛けがあると良いと思っています。
そしてそれがリピーターに繋がります。ロケーションベースではリピーターを作るのが必須課題でしょう。
渋谷や池袋のような人口が流動しているところは、一回の体験で「楽しかった」ということで短期的には事業は成り立ちます。
これから安定した収益店舗を増やそうとした場合、1回だけ楽しむお客様のみでは事業として成立しません。
それにはいくつもステップがあって、そもそも既存のHMDの利用からも脱却しないといけない。長時間やると首も目も疲れます。技術的に改善することも同時に必要だと思いますが、そのあたりはすでに進化が見られ始めています。
リピートが出来、家庭用との差別化が図れることが大事だと思っています。
ーー最後にメッセージをお願いします。
石井氏:私は社歴が29年、小学校低学年からゲームセンターと共にいるので、そういう意味ではゲームセンターの歴史を40年見てきています。
そこで培った感覚ではVRの存在がこのアミューズメント業界に革命を起こす一つのツールだと思っています。その感覚を信じてVRを起点に事業展開をしていきたいと考えています。
ーーありがとうございました。
(取材・文・撮影 : 編集部 和田和也)
会社情報
- 会社名
- アドアーズ