​【インタビュー】『キャプテン翼 ~たたかえドリームチーム~』の世界マーケティング成功の要諦は多言語対応によるユーザーコミュニケーション



KLab<3656>の運営するスマートフォンゲーム『キャプテン翼 ~たたかえドリームチーム~』が好調で、日本のみならず、北米や欧州、アジア圏でヒットしている。『BLEACH Brave Souls』とともに、KLabGamesの業績拡大のけん引役となっている。

今回、『キャプテン翼 ~たたかえドリームチーム~』(以下『キャプテン翼』)のグローバルマーケティングを担当するKLabGamesの桑原貴広氏、そして同社の動画を中心に動画広告をサポートするCyberBullの小玉裕介氏にインタビューを行い、マーケティング面での取り組みを聞いた。

 
【プロフィール】
桑原貴広氏(写真右)
KLab株式会社 マーケティング部プロモーショングループ Web広告運用チームプランナー
大手広告代理店を経て、2015年にKLab株式会社に入社。アプリ広告運用を担当。国内プロモーションでは、新規ゲームタイトルの立ち上げに携わり、アドプロモーション戦略立案からソーシャルマーケティングの企画立案まで幅広く担う。またグローバルマーケティングでは、インハウス広告運用の導入と運営に携わる。

小玉裕介氏(写真左)
株式会社CyberBull アカウントプランニング局 マネージャー
動画に特化したインターネット広告代理事業を手掛けるCyberBullでアカウントプランナーに従事。主にゲームクライアント様の「ダイレクトレスポンス×動画」でのプロモーションを担当。 



――:『キャプテン翼』の海外展開について改めて紹介していただけますか。

桑原氏:『キャプテン翼』は、当社でも注力しているタイトルで、昨年12月にグローバル版をリリースしました。135以上の国と地域で配信しております。言語対応は、英語、フランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語、繁体字中国語など8言語に対応しております。

最近、MENA(北アフリカと中東)市場で非常に人気となっていることもあり、アラビア語にも対応しました。当社の海外展開は、アプリをローカライズして海外で配信するだけでなく、世界中にいる多くのファンとコミュニケーションを取るために、各言語でのSNS、海外向け自社番組「KLab Games Station」生放送、またアメリカやフランス、台湾などの海外のリアルイベントにも出展している点が特徴となっています。


小玉氏:グローバル展開にあたって、言語対応するかしないかの判断はどういう基準があったんでしょうか。

桑原氏:『キャプテン翼』の知名度が高い地域や高橋先生の作品が流通していることが第一条件となり、言語対応は必須と考えています。日本と同じく、子供の頃、アニメ放送をみていた方を中心に楽しんでいただいているようです。先日、全世界で1000万ダウンロードを突破しましたが、多くのファンの期待に応えられた結果だと思います。


 


――:『キャプテン翼』は香港、エジプト 、マカオ 、クウェート 、アラブ首長国連邦などのセールスランキングで1位をとったことがありますよね。

桑原氏:そうなんです。あとフランス、スペイン、イタリアなどでも大変人気です。


――:多数の国に言語対応しているとのことですが、広告運用はどうやっておられるのでしょうか。

桑原氏:広告運用は、海外ですとFacebookと、動画メディアが強いのでその比重が高くなります。また、その国のユーザーが求めている情報をピンポイントで配信することができるので、ユーザーごとに効果的なコミュニケーションを取ることができます。

小玉氏:海外展開を行う際、重要なのは市場規模もユーザー数も多い北米となります。北米と一口に言っても非常に広いので、地域ごとの違いを認識しておく必要があると思います。アメリカでもセグメントを細かく切って配信するということをやっています。

欧州においても陸続きではあるももの、国が変わるとクリエイティブの効果も大きく変わってきます。いろいろな会社がアプリをグローバルで展開されていますが、こういった地域の特性を理解しておくことがグローバルでのアプリプロモーションの成功には必要になってくると思います。



――:現在、8言語に対応されていて、広告のクリエイティブの準備も大変ではないですか。

桑原氏:そうですね。弊社は、広告クリエイティブの制作はインハウスで対応しており、海外向けの動画に関しても弊社内でもつくっていたのですが、『キャプテン翼』の場合、言語対応と出稿メディアが多いだけでなく、動画の制作スピード、数量、品質が要求されており、CyberBullさんと一緒にやらせてもらうことにしました。CyberBullさんは以前から弊社ともお付き合いがあったので、動画に強いことはよく知っていました。クリエイティブだけでなく、言語別・国に合わせた広告出稿プランの作成などもお願いしました。

小玉氏:動画広告については、1本動画を作って広告配信するだけでは大きな効果が得られません。高速でPDCAをきちんとまわすことで大きな効果を発揮します。そのためには、動画を毎週5~10本くらいのペースで配信する必要があります。8言語ありますし、一部静止画のお手伝いもしておりますので、クリエイティブは週に100本ほど作ることもあります。


 

 
こうなると、通常の広告代理店や制作会社だとコストも時間もかなりかかってしまい、対応は難しいですが、CyberBullでは動画制作を内製化しています。KLabGamesさんでは海外プロモーションチームがいて、その国や言語、ゲーム内のイベントなどに合わせたクリエイティブを議論して作っています。例えば、サッカー日本代表ユニフォームを着た選手たちが登場する「サッカー日本代表ガチャ」、登場キャラ全員が集まっている集合絵と、キャラクター1人1人をフォーカスしたものをつくっています。

桑原氏:原作には、フランスやイタリア、ドイツなどの選手が登場しますが、クリエイティブについても配信した国のファンに喜んでいただけるキャラが出るようにもしています。例えば、ドイツであれば、「シュナイダー」がでてくる、といったような感じですね。そういったファンとのコミュニケーション追求しながらCyberBullさんと対応するようにしています。

小玉氏:面白いのが全世界で同じクリエイティブを配信しても、配信する国によっては効果が違うことがあるんです。あくまで例え話ですが、主人公の翼くんにフォーカスしたクリエイティブを配信してもある国では効果がよく、他の国ではそうではない、ということもあります。KLabGamesさんとは毎週の定例の場で、データに基づいて「この国ではこういうクリエイティブがファンに刺さるのでは」という仮説を元にディスカッションしてクリエイティブを決めて広告を配信し、その効果についても議論しています。



――:広告配信の事例で、なにか印象的なケースがあったら教えていただけますか。

小玉氏:例えば、静止画ですと、アメリカでは日向くんのクリエイティブ、フランスではキャラクターが集まっている集合絵、ドイツでは翼くんのクリエイティブの効果があるなど差がありました。これは静止画だけでなく、動画でも同じような傾向があり、その地域のファンに向けてクリエイティブを作り直して新しいクリエイティブを配信する、といったことをやっています。

 
 
――:効果検証はどれくらいの期間でやっているのですか?

小玉氏:先ほど毎週の定例とお話しましたが、効果検証はデイリーで行っています。定例では、先週の広告の効果はどうだったのか、今週はどうしようか、この国は効果が良かったので寄せようか、などの話を行っています。


――:かなりタイムリーに対応されているんですね。

桑原氏:はい。当社としてもとても助かっています。ローカライズしている8言語対応は必須でやりつつも、英語圏で利用されているSNSを通じて全世界に英語で配信してみて、成果の上がる国を絞って集中的にセグメントを変えながら配信先を絞っていきました。そこから社内で「MENA市場がいい」ということがわかりました。またMENA市場のファンからSNSやメールで当社宛にアラビア語で対応して欲しいという熱いリクエストを何度もいただき、アラビア語への対応も行いました。

小玉氏:CyberBullも広告配信する前はMENA市場でこれほどダウンロードされるとは予想していませんでした。実際配信してみたらインストールされているし、広告売上も大きいものでした。海外の動画マーケティング市場は非常に大きくなっています。Facebookがメインですが、枠もどんどん広がっています。グローバルでアプリを展開する際にはFacebookは外せない媒体になっています。アプリの海外展開をされる場合、弊社からはまず全世界で英語クリエイティブ(テキスト・静止画・動画)を配信してみて、効果のいい国に寄せていきましょう、と提案させていただいています。



――:日本における動画マーケティングとの違いはなにかありますか。

桑原氏:まず、動画の素材自体はあまり変えていません。アプリ内では、国ごとに違うイベントをやるのではなく、全世界で共通のイベントが走っています。したがって、広告クリエイティブもそれに合わせたものとなっています。ただ潜在的なユーザー層にアプローチする配信先については国によって対応が変わります。日本ですと、FacebookやLINE、Twitterなどを組み合わせますし、海外ですとFacebookを中心に据えてそれを補完する形で動画メディアに配信することになります。

小玉氏:媒体によってそれぞれ規定があって、準備するクリエイティブも変わってきます。媒体によっては15秒の動画が必要になる時もありますし、30秒の動画が必要という場合もあります。10個以上の媒体に出稿していますので、それぞれの規定に合わせたクリエイティブを作る必要があります。プラスで、それぞれ言語対応も必要になってくるわけです。


 


――:これまで大きな成果が上がっていますが、これまで苦労したことがあったら教えて下さい。

桑原氏:なんといっても多くのファンとコミュニケーションをとるためのクリエイティブですね。多様性のあるクリエイティブをアプリ内のイベントのタイミングに合わせて、然るべきタイミングで然るべき場所で出せるようにすることでしょうか。ユーザーが求めている情報をピンポイントで配信することで、効果的なコミュニケーションをとることができます。動画広告のクリエイティブ制作はインハウスだけでなくCyberBullさんの力をお借りしています。CyberBullさんのクリエイティブは、社内のチームはもちろん、版権元も満足いただけるようなクオリティになっていると思います。

小玉氏:当社も、グローバル配信するうえで、その地域のファンを理解することと、高い品質のクリエイティブを用意することが重要と認識していますが、個別のアプリでどういったものを用意すればいいのか、すぐにはわかりません。まず、全世界共通で使える汎用のクリエイティブを制作し、効果検証を重ねながら徐々につかんでいきました。まさにKLabGamesさんとは二人三脚でやらせていただいています。どういったキャラクターがどの国の媒体で効果が良いのか、国によって効果の高いメディア、そうでないメディアがあります。その意味で、KLabGamesさんからはいろいろとトライをさせてもらっています。アプリプロモーションにおいては、クライアントと代理店が協力し合っていくことの重要性を本作のプロモーションを通じて学びました。

桑原氏:日本では一般的にはROAS(ロアス)をKPIとしているところが多いかと思いますが、我々もデータドリブンである部分は当然ながら、ユーザー視点での改善を重視しています。その国や状況、目的によって、ROASやCPI、DAU、継続率などを使い分けることで、より多くのファンとコミュニケーションを図りたいと思っています。

小玉氏:KPIをどこに置くかが重要になってきます。目的として、インストール数を増やしたいのか、売上を増やしたいのか。それによって、クリエイティブも変わってきますから。


 


――:アプリの局面によっても当然、広告の目的は変わりますよね。

桑原氏:そうですね。一般的には、アプリリリース後に大きく広告費を使うので数字が大きく跳ねますが、3ヵ月くらい経過すると数字が落ち着いてくるものです。したがって、初期は、新規インストール数をまず増やすため、多くのユーザーにアプリの存在を知って遊んでもらう必要があります。KPIは、継続率やDAUなど、アプリ内に楽しんでもらっているかどうかを測る指標がいるわけです。広告経由でインストールしたユーザーの継続率などのアプリ内動向を分析しています。

小玉氏:クリエイティブによって継続率も変わってきますね。これはアプリ全体にいえることです。動画広告は、静止画の広告とは効果が大きく変わります。継続率の高いユーザーを獲得する際には動画の方が効果的です。



――:クリエイティブを制作する際に気をつけているポイントはありますか。

小玉氏:訴求軸といって、そのアプリの推しポイントや、ファンに刺さるポイントを抽出して、動画を作っています。作品の価値を損なわないようにしつつ、キャラが多いという特徴がありますので、キャラにフォーカスしたクリエイティブを多く用意しています。先程お話に出ましたが、当社には、『キャプテン翼』専任の担当者がいて、動画の制作を内製化しています。担当者がファンと同じ目線でいられるようゲームでずっと遊びながら、様々なアイディアを出していきます。作品とゲームへの理解度が低いとクリエイティブもチープなものになりがちです。


――:KLabさんとしての感想は。

桑原氏:非常に良いです。全世界のファンに向けて、国別、言語別、訴求別の軸を考えて作っていただいていますので、本当に助かっています。またCyberBullさんですと、最短で早くて当日、翌日にやっていただけます。ここまでやっていただける代理店はなかなかないと思います。本当に早いです。動画メインでやってらっしゃるので、量と質の両方を実現していただいています。

小玉氏:ありがとうございます。最初に作ったクリエイティブが100%うまくいくとは限りません。実際に配信してみて、どう改善していくか、当社のPDCAの体制を評価していただいているのかなと思っています。



――:最後に今後の展開をお聞きしたいのですが。

桑原氏:多言語対応によって全世界のファンにアプリを知ってもらう機会を増やしたいと思っています。開発チームもすばらしいクリエイティブと企画でユーザーに楽しんでもらえるよう試行錯誤しています。広告運用についてもユーザーコミュニケーションがより活発になるようチャレンジしていきたいと考えています。

小玉氏:当社としても、MENA市場の対応が始まりますし、『キャプテン翼』のいっそうの成功のために動画広告を軸に貢献していきたいと思っています。



――:ありがとうございました。
KLab株式会社
http://www.klab.com/jp/

会社情報

会社名
KLab株式会社
設立
2000年8月
代表者
代表取締役社長CEO 森田 英克/代表取締役副会長 五十嵐 洋介
決算期
12月
直近業績
売上高107億1700万円、営業損益11億2700万円の赤字、経常損益7億6100万円の赤字、最終損益17億2800万円の赤字(2023年12月期)
上場区分
東証プライム
証券コード
3656
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