【インタビュー】VTuber輝夜月のVRライブは大盛況…プラットフォームを提供したクラスター加藤社長に聞く会社の今後とエンターテインメントの未来
クラスターが企画・開発・運営をおこなっている『cluster』はVR空間上でイベントを開催できるサービスだ。8月には大人気のVTuber「輝夜月」さんのライブを行い、数百枚あった5000円のチケットは販売開始10分経たずに売り切れ。各都市の劇場で行なった3000円のパブリックビューイングは5000人以上のファンを集め大きな話題になった。
本稿では、VR上で音楽ライブを実現出来るプラットフォームを運営しているクラスターの加藤直人社長にインタビューを行った。学生時の経験から得た開発のきっかけ、肉体は邪魔だと豪語し、働き方すらハックして進化しようとする様子、そしてイマジネーションの加速装置として機能しようとするクラスターの今後の展望を聞いた。
本稿では、VR上で音楽ライブを実現出来るプラットフォームを運営しているクラスターの加藤直人社長にインタビューを行った。学生時の経験から得た開発のきっかけ、肉体は邪魔だと豪語し、働き方すらハックして進化しようとする様子、そしてイマジネーションの加速装置として機能しようとするクラスターの今後の展望を聞いた。
■自宅でライブのグルーブ感を体感したかった…clusterの誕生経緯
クラスター株式会社
代表取締役
加藤直人氏
――本日はよろしくお願いいたします。まず『cluster』の開発のきっかけを教えてください。
SFが好きだった影響で大学の研究は宇宙と量子コンピューターの2つを専攻していて、卒論も2つ書きました。ただ大学院で研究を続けていくにあたって、物理の法則って邪魔だなとか、肉体っていらないよねとか、理論が先に進みすぎて現実が追いついていないとか、色々なところに疑問を感じてしまって、それで研究を辞めてしまったんです。そんな理由で大学院中退後に、3年半ほど引きこもっていました。受託でプログラミングの仕事をしていましたが、時間は余るんです。
当時、声優の水樹奈々さんが好きでライブBlue-rayを見ていたんですが、会場のグルーブ感を自宅で体験できないことに敗北感を感じていまして (笑)。好きでも全部の公演には参加できないですし、そもそも会場に行くのも面倒だしで困ったなと。その後、Oculus DK1を体験した時に、VR は体験のためのデバイスで、価値はここにあると思って『cluster』を作ろうと思ったんです。
■10分経たずに売り切れた、世界初の『cluster』VRライブの反響とは
――そこで『cluster』が開発されるきっかけにもなったんですね。そう考えると当時から設計思想は全くぶれてないですね。8月には『cluster』初のVR音楽ライブ「輝夜月 LIVE@Zepp VR」を開催しました。ライブを終えての反響はどうでしたか。
「輝夜月 LIVE@Zepp VR」のアンケートは満足度が96%以上ととても高かったんです。今回のライブでは数百人が同時接続して、80%近くのユーザーがVR HMDを装着して参加してくれました。そんな状況のなかでもライブ中は体験としての質も落ちませんでした。他のVRのソーシャルアプリは同時接続が30〜50人ほどのところが多いですし、25人超えてくるとフレームレートの低下など体験の質を損なうことが多いです。
そういった意味で今回のライブは質を落とすことなく、ユーザーに届けられたのが満足度の高い理由の一つだと思います。輝夜月さんが実際にそこに居たという感想を見ることも多かったですね。
――自宅でライブを体感するという『cluster』の根本設計思想あってこそと思いました。ただそれを実際に形にするのは非常に困難な道だったと思います。
仮想空間の実現においてボトルネックになるのは2点あります。1つはネットワーク、もう1つがレンダリング。ネットワークに関しては、IoT向けのMQTTプロコトルを使用しています。IoTデバイス向けということは、基本的にデバイスが非力で、通信状況は悪いが、通信のペイロードは小さくていいという状況下で、たくさんのデバイスと通信するための規格です。
実はそれって『cluster』の状況に近いと気づいて『cluster』内で多くのアバターが同期されているけれども、やりとりする情報はキャラクターのモーションの情報だけなのでデータ量は小さく、MQTTとは非常に相性が良かったんです。レンダリング部分に関しては、Unityを使用しています。元々スマートフォン用などマルチプラットフォームを開発するために発達してきたので、レンダリング能力が低いモバイルでもなんとかするという思想のツールだというのもあり、がっつり乗っかってますね。
■ひきこもりの先にあるイマジネーションの加速へ…クラスターが目指すもの
――『cluster』での月乃美兎ちゃんのオフ会を見ましたが、ゲーム領域でもありますね。
実際ゲームの開発環境にも似ています。使ってる技術はUnityで、キャラデザインがあって、3Dモデリングを作って、声優さんがいて、オンライン上で遊んでいる。仕組みはほとんどゲームですよね。
――開発スタイルとしてもゲームに近いのでしょうか。
ゲームを作るのに近いと思います。同じエンターテインメントです。ルールも自分たちで考えて、どうやって高揚してもらえるか、満足してもらえるか、喜んでもらえるか、物理法則は無視した体験の提供、そういう知見が必要になってきます。仮想空間上では消防法もないので、イベント会場内で大きな花火を打ち上げるという現実じゃできないこともできるのがいいですね(笑)
――(笑) 現在働いている開発者はゲーム出身の方が多いのでしょうか。
コンシューマーやソーシャルゲームの開発者が多いですね。新しいプラットフォームが生まれ、様々なジャンルやチャレンジングな作品が出てきているという状況なので、様々な経歴の開発者が多いでしょうか。なので、ゲーム系だけではなくて、ニュースアプリやHRといった分野で活躍していたエンジニアもいます。年齢で言えば、下が19歳で上が42歳、ボリュームで言えば30代が多く、会社もまだ全体で20人程の規模です。
入社するタイプとしては、『cluster』を創りたくて、新しいことにチャレンジしたいという気概の人が多いですね。
――20人だと、これから会社内の仕組みも色々と作っていくフェーズですね。
そうなんです。僕はエンジニア出身ということもあり、考え方のベースとして、アウトプットは働いた時間に比例しているわけではないと思っています。色々な領域をハックして効率的に働こうという考えがあります。今の会社がどういった段階かというと、何もないところで、ジャングルを切り開いているような状態なので、採用も「ルールを自分で作って、道を切り開ける人か」という点を重視していますね。
あとクリエイターエンジニアとデザイナーは体験入社をしてもらってます。その時のフィードバックでは今までのどの会社とも違うと言われますよ。
――実際に一緒に働いてる中でできていった制度はどのようなものでしょうか
行動規範で言えば、「cluster way」があります。
僕がひとりで決めたわけではなくて、クラスターに集まってくれた人たちがTEAM GEEKのHRT(謙虚・尊敬・信頼)の考えに共感している人が多かったので、それをベースに決まっていきました。
また、シャッフルランチ制度を設けていて、週に一度botのガチャでシャッフルして出たメンバーでランチに行ったり、コミュニケーションやコラボレーションが活発になる施策は色々と試していますね。
制度ではないのですが、プロジェクト名が某有名なRPGの街や地名の名前だったりするので、ゲーマーにはとっつきやすいかもしれません(笑)
週1でWIN SESSIONという進捗報告会もしています。進捗報告会って言うと堅苦しいのですが、一人2分で一週間の進捗をみんなに報告するんです。レギュレーションは「ひたすら盛り上げること」。
あと「ひきこもりを加速する」というスローガンを上げているのもあり(笑)、全社をあげてのリモートワークデーを設けています。完全フルリモートワークも検討していますが、まだ効率が悪いですね。リモートで効率的に働けるように、ドキュメントに落とし込む文化もかなり発達しています。
そういった意味で、一番アウトプットが出るように、常にハックポイントを探しています。そんなこともあってか、メンバーからは非常に働きやすいと言ってもらえていますね。
――クリエイターが働きやすくなるためのハックも欠かさないということですね。クラスターの今後の展望をお聞かせください
先日の「輝夜月 LIVE@Zepp VR」で多くの問い合わせがありました。おかげさまで企画も複数走っていて、今後も『cluster』を使った体験の提供を引き続きやっていきます。また常に言っている引きこもりの加速という点はもちろんですが、さらに奥にある自分の欲求を考えると、それはクリエイティビティの「創造力」の加速だとわかりました。
イマジネーションの方の「想像力」があれば、光速を超えたり時間を超越したり、なんでもし放題ですが、現実の物理法則がその実現を邪魔をしている。バーチャルの世界なら、肉体という物理制限から解放されるし、どんどん創造力を発揮していけるんですよね。
色々な技術の制約やリソースを解消するようなものを創って行きたい。クラスターはそういうことができる会社でありたいと思っていますし、そのインフラ作りや仕組みを作って行きたいんです。
そしてその中で、クリエイターたちが商売できるようにしたい。お金のやりとりが発生し経済圏ができることで、人が増え、才能のある人が集う。そんな状況を創りたいと思っています。
――ありがとうございました。
会社情報
- 会社名
- クラスター(cluster)