【CEDEC+KYUSHU 2018】堀井雄二氏が自ら語る『ドラゴンクエスト』シリーズの32年に込められた想いとは…当時の秘蔵ラフデザインも公開!?


CEDEC+KYUSHU 2018実行委員会は、12月1日、九州産業大学1号館(福岡市)にて、ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC+KYUSHU 2018」を開催した。

本稿では、当日に実施された基調講演「『ドラゴンクエスト』32年の歩み」についてのレポートをお届けしていく。

こちらのセッションには、『ドラゴンクエスト』シリーズ生みの親でゲームデザイナーの堀井雄二氏と、レベルファイブ 代表取締役社長/CEOの日野晃博氏が登壇。シリーズ誕生から32年に渡る歩みや、今だからこそ語れる開発時のエピソードやこだわり、そして、これからのゲーム業界に対する想いなどを語った。
 

■JRPGの文化を築いた『ドラゴンクエスト』の軌跡


まずは、「CEDEC+KYUSHU 2018」の実行委員長である日野氏が登壇。今年で4度目の開催となる「CEDEC+KYUSHU」に対して日野氏は「クリエイターを目指す、多くの人たちが集まって情報交換することは大事だと思っています」とコメント。ただ、"人を楽しませるからには、自分たちも楽しむ必要がある"と続ける。「今日は、それぞれの教室で面白い講義をしていただけることになっておりますので、みんなでワイワイ語り合いながら各プログラムを楽しんでいただければと思います」と挨拶を行った。

なお、毎年夏頃に関東で開催されている「CEDEC」の来場者は既にゲーム業界に務める開発者が多数となっている印象があるが、こちらの「CEDEC+KYUSHU」は、開催地が九州産業大学ということもあってか参加者の半数ほどがゲームクリエイターを目指す学生であったことも印象的だった。


▲レベルファイブ 代表取締役社長/CEOの日野晃博氏。

そして、ここからは堀井氏が登壇。自己紹介を行った後、改めてこれまでの『ドラゴンクエスト』シリーズの歩みを振り返った。


▲『ドラゴンクエスト』シリーズ生みの親でゲームデザイナーの堀井雄二氏。



まず堀井氏は、『ドラゴンクエスト』を制作した経緯に関して、それまではPC向けにアドベンチャーゲームを作ることが多かったが、ファミコンの登場により「ロールプレイング」という面白いゲームジャンルがあることを子供たちに伝えたかったと話す。当時、ファミコンソフトの主流はアクションゲームであり、搭載できるデータ容量の制限からも「ファミコンでRPGを作るのは不可能だ」と言われていたという。しかし、そこは負けん気の強い性格であった堀井氏。1986年に発売された初代『ドラゴンクエスト』では、テキストやグラフィック、音楽など、全ての要素を凝縮して詰め込み、"敵と戦うことで経験値を得て強くなっていく"というRPGの醍醐味が伝わる形で実現したのである。この点に関しては日野氏も、当時の日本国内には「コマンドを選択して戦うというギミックすら定着していなかった」と振り返る。

また、続く『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』では、冒険の途中で仲間を集めていく楽しさを実現。その翌年(1988年)に『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』を発売する頃には、使用できるメモリの容量も当初の4倍ほどにまで膨らみ、セーブ機能も実装されたことからさらにできることが広がった。しかし、当時は画期的な技術革新だった「バッテリーバックアップ」も、ユーザーからは「ふっかつのじゅもん」の方が良かったという意見も届いたのだとか。理由としては、セーブは3つまでしか持てないのに対して、「ふっかつのじゅもん」は自分がノートに記録する限りいくつでも持っておけるから、というものだったという。ロトシリーズ3部作の開発秘話からは、今でこそ「当たり前」とされている日本のゲーム文化・ルールは『ドラゴンクエスト』が築き上げていったのだということが伺える話が盛りだくさんとなっていた。


▲日野氏がゲーム業界を目指すきっかけにもなったという『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』。ラストシーンで初代『ドラゴンクエスト』の世界に行き着くという展開は最初から考えていたわけではなかったと話す堀井氏。こうした壮大な仕掛けや「職業システム」など、自身の描いてきた理想を『III』でやり尽くしたことで次作の開発は非常に悩ましいものだったという……。

世間的にも大ヒットとなり、プレッシャーも大きくなる中で生まれた『ドラゴンクエストIV 導かれし者たち』は、シリーズ初のオムニバス形式で"仲間たちの人生"にスポットを当てたものとなる。当時、このコンセプトが生まれた経緯に関して堀井氏は「急に知らないキャラを探すのではなく、自分が操作したキャラを仲間として探す方が遊びがいもあり、ストーリーにも感情移入しやすいのではないかと考えた」と明かす。

さらに、続く『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』では親子3代に渡る一大スペクタクルが展開する。堀井氏によると、このときのテーマは「ゲームで本気で悩む」。そのために導入されたのが「結婚」であり、PS2やニンテンドーDS、スマホ向けなど幾度のリメイクを重ねる中でも、新たなシーンやキャラが追加されるなど、未だにその人気は健在だ。

そして、天空シリーズ最終作となる『ドラゴンクエストVI 幻の大地』では、「夢の世界」と「現実の世界」の2マップを行き来しながら冒険を行う斬新な物語が繰り広げられた。それまでも、物語終盤に複数の世界を行き来しながら冒険をするゲームは数多く存在したが、序盤から2つの世界を行き来するという展開や、ボスである「ムドー」との戦いから物語が始まるなど、今でこそ数多くの作品で使われている表現や技法に、当時は多くのユーザーが驚きを与えたのではないだろうか。本作に関して堀井氏は、時代として社会的にも「自分探し」が流行っていたことから、夢の世界の自分が現実の世界にいる自分を探し、2人が合体したときに「本当の自分」になるというテーマが描かれているのだと話した。


▲堀井氏自身としては、天空シリーズ3部作に関してはロトシリーズの時ほど"シリーズ"ということを強く意識していなかったという話も。

『ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち』は、「マップを集めるゲームは面白いのではないか?」という着想を起源としているという。本作は、世界に散らばる"石版"を集めて新たな世界を解放していくというシステムになっているのだが、当時、日野氏は「これまで『ドラクエ』はユーザーに優しかったはずなのに、一度、石版を見失ったら見つからない」とスクウェア・エニックスの関係者に意見をぶつけていたのだとか。しかし、この時に『ドラクエ』が好きだという気持ちが伝わり、堀井氏と直接会うきっかけにもなったというのだから、人生どこで何が起こるのか分からないものである。ちなみに、この時の日野氏の意見が反映されてかは分からないが、ニンテンドー3DSで発売されたリメイク版では石版を探しやすくする仕組みが追加されている。

そして、レベルファイブが初めて関わることになった『ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君』で本シリーズは遂にフル3Dグラフィックに。当時を振り返って日野氏は「子供たちが城を見上げたときにその大きさを感じられるようなものにしたかった」とコメント。「そうした点から世界のリアリズムを感じてほしい」という想いがあったことを明かした。また、ここで堀井氏と共にゲーム制作を行った経験が、『レイトン』シリーズを始めとした後のレベルファイブの作品に大きな影響をもたらしたという。

シリーズ初の携帯機で、最もすれちがったゲームソフトというギネス世界記録にも認定された『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』は、その称号通り「みんなで遊ぶ『ドラクエ』」がコンセプトになっていたとか。しかし、すれちがいによる「宝の地図」機能があれほどの話題を生むことは開発陣も想定外のことだったという。


▲実は、『IX』を制作するにあたって日野氏からは「『ドラクエ』をアクションにしてみては?」との提案もあったとか。この案は後に『ドラゴンクエストヒーローズ 』などスピンオフ作品では実現されたが、ナンバリングタイトルとしては「やはりコマンド選択で、誰でも遊べるものこそが『ドラクエ』である」と堀井氏から直接言葉があったとのこと。

進化が止まらない『ドラクエ』は、『ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン』でいよいよオンラインゲームへ。堀井氏は、最初は『ドラクエ』の主人公に人間以外のキャラを登場させることに抵抗があったが、オンラインゲームということを考えたときに「見た目が同じではつまらない」ということから「種族」という概念を取り入れたのだと経緯を話してくれた。

そして、最新作である『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』は、新たな出発点としてこれまでの集大成になっており、堀井氏も「出し切った感があります」とコメント。『ドラゴンクエスト』シリーズの32年の歩みの振り返りの締めとした。


 

■"いたずら好き"が高じて斬新なアイデアへ!?


ここからは「大ヒットメーカー 堀井雄二を知る」と題して様々なテーマでトークを展開。

最初に問われたのは「ドラクエIが世間に響いた理由」。これに堀井氏は、当時から自身がロールプレイングというゲームジャンルが面白いと感じていたこともあり、「分かりやすく作ればヒットするという感触はあった」と語る。『ドラゴンクエスト』では、ビジュアルやテキストを含め、ゲーム全体として温かみの溢れるテイストに仕上げられたことでRPGが持つ取っつきにくいイメージを払拭できたことが良かったと要因を挙げた。また、堀井氏は「人は自分に対するリアクションを求めている」と話したうえで、当時プレイヤーが名付けた主人公の名前を王様に呼ばれるというのも画期的なアイデアのひとつだったと振り返った。

続く「ゲームデザインでポリシーにしていること」というテーマでは、「何をすればいいか分からないという不安をなるべくなくすこと」と堀井氏は回答。全て分かってもらおうとして詰め込みすぎるとチュートリアルが長くなってしまうため、多くとも4つのシステムを理解するだけで遊べるような仕様を心掛けているという。堀井氏曰く、遊んでいる人を"分かった気にさせる"ことが重要で、その先はユーザーの工夫で「こんなことやあんなこともできる」と気付いてもらえるような設計にしていると、情報の与え方について説明した。

 

また、壇上では日野氏が堀井氏と共にゲーム開発を行った際に学ばされたというエピソードを展開。『VIII』を開発する際、日野氏はメインシナリオとは別に遊べるやり込み要素として「シンボル的なものを30個集められる」という企画を提案。しかしその際、堀井氏から「そうした機能が入ることで、"集めなければいけない"というプレイヤー心理が働くため、数を5~6個ほどに抑えるべきだ」という指摘を受けたという。日野氏としては、あくまでもプレイヤーに「できる」ことの幅が増えるという点を狙った施策だったようだが、堀井氏からそうしたプレイヤー心理を聞いたことで、"できる"と"しなければいけない"の違いを学び、今もポリシーにしていると日野氏は語った。

ここで日野氏が、「あえて『ドラクエ』が抱えている課題を挙げるなら?」と切り込むと、堀井氏は「海外ではあまり知られていないこと」と答える。面白いという感覚は世界共通だが、海外にはまだライトゲーマーが少なく、ゲームは才能が要求される遊びという認識も残っているため、まだゲームを遊んだことがないような人たちにも届くようなものでありたいと展望を語った。

そのほか、「いっしょにつくるクリエイターをどこで評価しますか?」「どんなクリエイターが優秀だと考えますか」という全ゲーム開発者が気になるようなお題にも言及。堀井氏は、クリエイターは発想を形にすることが最も大変なポイントとなるため、それができる忍耐力が備わっているかどうかが大切であると述べた。もちろんセンスは必要になるが、現場では日々状況が変化していくため、ひとつのことに固執しない柔軟性が大事になるとのことだ。




▲そのほか、会場ではキャラクターデザインを務める鳥山明氏とのやり取りの際に用いられたという貴重なラフデザインも公開。詳しく描きすぎると鳥山氏のデザインに影響を与えてしまうため、あくまでも簡易的にとしたうえで「絵が1枚あるだけで伝わり方が全く異なるので、プランナーを務めるのであれば絵心はあった方が良い」とのアドバイスを送った。

本コーナー最後のテーマは「シナリオのアイデアが尽きることはないのですか?」というもの。日野氏は「『ドラゴンクエスト』にはゲームでしかできないアイデアが入っており、映画や小説と違ってプレイすることを考えて作られたシナリオになっている」とコメント。これに関して、何から考えてシナリオを作っているのかを率直に堀井氏に問うた。

この問いに堀井氏は、自身を"いたずら好き"であると評したうえで、みんなが一所懸命なときに何を仕掛けたら面白いか、意表を突けるかということを考えていると返答。これをシナリオの軸として、前後にエピソードを加えながら壮大な物語に仕上げていくのだという。ひとつのイベントを起点に、断片的に作られたエピソードを繋ぎ合わせていくというイメージとのことだ。また、キャラクターを立てて「この後どうなる?」と気になる状況を作ることで主人公により感情移入させていくといったテクニックも明かされた。いずれの際にも堀井氏は「どうすればプレイヤーが驚くか」ということを第一に考えているとの話だった。
 

■『ドラゴンクエストXII』のヒントとは


講演の終盤には、日野氏からより具体的なポイントで堀井氏に質問が投げかけられた。明言こそなかったものの、堀井氏が今現在どういったことを考えているかが伺える貴重な機会となった。



●ドラクエ10の次のオンラインはあり得ますか?
こちらの質問には「長い目で見るとアリだと思っている」と回答。今であればスマホで手軽に誰もがオンラインに接続できるなど、この先、ゲームを遊ぶ環境も変わってくる可能性があるため、そういったところから第2の「ドラクエ オンライン」が誕生するかもしれないとの想いを堀井氏は明かした。

●ドラクエでないものを作る予定は?
この質問への回答は、かつて堀井氏が手掛けた『ポートピア連続殺人事件』の続編を作ってみたいというもの。これまでの話を聞いた日野氏は「堀井さんのようないたずら心を持った方が、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』のようなオープンワールドのゲームを作ったらどうなるのかを見てみたい」という話も。

●12
ゲームファンなら気になること必至の『ドラゴンクエスト』次回作について。堀井氏によると、キーワードは既に思い付いており、現在は方向性を模索中とのこと。まだ先にはなるが、ヒントとして「夢を叶えるようなことができれば」とのコメントを残してくれた。

講演の最後には堀井氏から来場者へ以下のコメントが送られて講演の締めとした。

堀井氏:ゲームを作る側に回った瞬間、作る側の視点に立ってしまってユーザーのことが分からなくなってしまう人が多いと思うんです。なので、自分の作ったものをユーザー視点で見られるということが非常に大事になります。先ほども言った通り、プレイヤーは不安なので「これくらい分かるだろう」と思わず、不安を取り除いて、手取り足取り教えて、しかし教えすぎないように良い感じのところで手を放して、というところに気を遣いながら楽しいゲームを作ってもらいたいと思います。

 
(取材・文 編集部:山岡広樹)



■関連サイト
 

CEDEC+KYUSHU 2018

一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)
https://www.cesa.or.jp/

会社情報

会社名
一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)
企業データを見る