【LINE QUICK GAME特集⑤】トーク機能で生きている「たまごっち」を実現…生活の一部として楽しめる『LINEで発見!! たまごっち』の魅力に迫る
LINE<3938>が展開する新たなゲームサービス「LINE QUICK GAME」。ネイティブアプリとは異なりHTML5で開発が行われており、「LINE」のトーク上で即座にゲームがプレイでき、大容量のアプリインストールやダウンロードが発生しない、手軽さが最大の売りとなるサービスだ。
9月18日から正式オープンとなり、現在は、『探検ドリランド ブレイブハンターズ』、『釣り★スタ QUICK』、『にゃんこ防衛軍』そして11月に配信が始まった『koToro_ [コトロ]』など、既に9タイトルを配信している。そこで、Social Game Infoでは、LINE QUICK GAMEに携わる方々を対象に、全6回に渡ってインタビューおよび対談を実施。
第5回となる今回は、バンダイが監修しLINEが開発を担当している『LINEで発見!! たまごっち』についての対談を実施。LINEの中田陽平氏と進藤孝史氏にインタビュイーを務めていただき、バンダイの木次佳織氏と安田江利果氏と共に企画発足の経緯や開発時のエピソードを振り返っていただいた。
写真左から、
・中田陽平氏(「LINE QUICK GAME」プロデューサー)
・進藤孝史氏(「LINE QUICK GAME」ゲームデザイナー)
・木次佳織氏(バンダイ)
・安田江利果氏(バンダイ)
中田陽平氏(以下、中田):まずは、バンダイのお二人に自己紹介をお願いします。
木次佳織(以下、木次):入社以来、ガールズトイという女児向け玩具の企画開発をメインに担当しております。「たまごっち」には7~8年ほど携わっており、商品企画開発やIPを使った展開を行ってきました。今回の『LINEで発見!! たまごっち』もその一環で、本作では全体的な仕様の相談や計画を担当しています。
安田江利果(以下、安田):私は入社して3年目になるのですが、最初の年はトイ戦略室という部署で市場開発業務をしておりました。その際、おもちゃ売り場を回って子どもと一緒に遊ぶなど、現場で開発を勉強してきましたので、今はその経験を活かして昨年から「たまごっち」関連の業務に携わっています。『LINEで発見!! たまごっち』のお話をLINEさんからいただいたのは、ちょうど私が入ったばかりの頃でした。
中田:やはり、バンダイさんと聞くと玩具のイメージが強いですよね。
木次:バンダイナムコグループとしては、ゲーム部門を担当するバンダイナムコエンターテインメントが別会社としてありますので、ゲームとしてはそちらのイメージが強いかもしれません。玩具事業としては、2018年春からバンダイとBANDAI SPIRITSに分社したのですが、バンダイでは引き続き玩具やライフスタイル周りなどの日用雑貨、食品、アパレルなど衣料系を取り扱っており、BANDAI SPIRITSではプラモデルやフィギュアなどのハイターゲット向け事業をメインに取り扱っています。
中田:その中で今回、『LINEで発見!! たまごっち』の企画は弊社から持ち掛けさせていただきました。「LINE QUICK GAME」を立ち上げるにあたって、ラインナップの中に育成ゲームが欲しいと考えたのが主な理由です。育成ゲームは完全新規タイトルとしてリリースするにはハードルが高いジャンルということもあり、既に世間から認知されている「たまごっち」は我々として非常に理想的なIPでした。
進藤孝史氏(以下、進藤):バンダイさんとしては、最初にお話を受けたときの印象はいかがでしたか?
木次:「たまごっち」を題材にして、LINEさんならではのエッセンスを取り入れた企画案をいただいたときはとても面白いと思いました。また、弊社で展開しているサービスや商品ではアプローチが難しいターゲットにもリーチできそうだと感じましたので、ぜひ前向きに考えたいと思ったことを覚えています。育成ゲームというと、他にも選択肢があったと思うのですが、その中で弊社の「たまごっち」にお話をいただけたのは何故だったのでしょうか?
中田:育成ゲームの中でも、お客様が対話をしながらお世話を楽しめるという特性は「LINE」と相性が良いと考えておりましたので、このジャンルを「LINE QUICK GAME」で展開するなら、まず「たまごっち」以外は考えられませんでした。ただ、デジタルゲームへのライセンス提供を積極的にされていないと聞いていたので、今回OKをいただけてホッとしました。
木次:「たまごっち」は今から20年以上前に生まれたコンテンツになるのですが、当時からたまごっちは生きているという感覚を大切にしたいといった想いがあり、これまで玩具として展開し続けてきました。ただ、今回LINEさんからご提案いただいた中に、たまごっちからトークで呼び出しがあったり、たまごっちが勝手に他のたまごっちにおしゃべりしちゃうという内容が含まれていたんです。たまごっちが“生きている”という感覚を「LINE」ならではの形で表現していただけたのだと思い、弊社としても新しい挑戦としてお受けすることにしました。
中田:メッセンジャーアプリ上で遊べるゲームとしては、キャラに話し掛けられるという仕組みが非常にマッチしているのではないかと考えたんです。実際に遊んでみて違和感もなかったので非常に良かったと思います。
進藤:「LINE QUICK GAME」では現在8タイトルを展開しているのですが、その中でもゲーム内のキャラが「LINE」を通じてここまで密接に関わってくるタイトルは他にありません。そう考えると、「LINE」の通知とゲームは必ずしも一体化していないわけです。しかし、「たまごっち」の場合は通知とゲームの親和性が非常に高く、ほぼイコールなんです。この企画は最初その点がコンセプトだったのですが、通知でたまごっちからメッセージが送られてくる仕様は予想以上にお客様にも盛り上がっていただけました。
中田:あとは、どれくらいの頻度で通知を流すのが良いかについては今もテストを繰り返しています。開発初期の段階では、あまりにも頻繁にお世話をしてほしいという通知が来て、トーク画面がたまごっちの辛そうな顔でいっぱいになってしまったので議論も巻き起こりました。
進藤:開発時には玩具版の「たまごっち」を研究して再現したのですが、玩具では一度聞き逃すと取りこぼしてしまうような部分も「LINE」ではメッセージとして残ってしまうため、情報がどんどん蓄積されてしまうんです。通知の頻度に関しては、今後もお客様の反応を見て考えなければいけない部分だと考えています。
安田:基本的に、「たまごっち」が自分から要求を行う際の内容は、困っていることの呼び出しになります。それが文字で蓄積されてしまうと、ある種の構ってちゃんのようなネガティブさになってしまうということですね。
進藤:その通りです。「お腹が空いた」、「遊んで欲しい」、「トイレに行きたい」など、緊急性の高いメッセージほどネガティブな内容になりがちなため、バンダイさんを含め各所からご意見をいただいてポジティブなメッセージも入れるようにしました。
また、実は僕自身が元々「たまごっち」のことを大好きで、たまごっちに関する書籍も読んでいたんです。その中で「ペットというのはある意味面倒くさい。でも、お世話をするために自分がいなくてはいけない。だからこそ可愛いんだ」という思想が描かれており、その点は『LINEで発見!! たまごっち』でも絶対に残すべきだと思いました。そこで、他のゲームではオート機能を入れたり、ガイドで導線を敷いてあげたりすることが常識となっているかもしれませんが、本作では意図的に手間をかける部分を残してあります。お客様には、ゲームではなく、ペットがいると感じていただけるような部分を強く意識しました。
木次:スマホで遊べるゲームだと、自分が遊びたいときだけ遊んで気が向かないときは放置するという遊び方ができるものも多いと思いますが、「たまごっち」はお世話を怠ると死んでしまいます。たまごっちが死んでしまうという重たい事実があるからこそ、お世話のしがいがあり、そこにハマってしまうんです。そういった意味でも、より”生きている”ということを身近に感じていただけるようコミュニケーションが取れる形になっていたのは良かったです。
進藤:「たまごっち」の世界にゲーム的な文法で介入しすぎると、どうしても都合の良いものになってしまうんです。それは「たまごっち」の本質とズレることにもなりますので、実はあえてやっているというポイントは多いです。
中田:「LINE QUICK GAME」に関しては、どういった点に魅力を感じていただけましたか?
木次:LINEさんと弊社ではメインとなるユーザー層が異なっているのですが、今回、「LINE QUICK GAME」で展開したことにより、昔「たまごっち」で遊んでくれていた方に再び遊んでいただけたという点が大きいです。弊社だけではアプローチできなかった方々に新しい形の「たまごっち」を楽しんでいただけるというのは非常に魅力的です。
安田:自分の身の周りの反応を見ても、私が招待したわけではないのに友人が『LINEで発見!! たまごっち』を遊んでいるというのには驚きました。そこで、自分と同世代の方々にまでしっかりと届いているんだという実感が湧きました。また、玩具会社でゲーム制作に携われたことが自分としても貴重な経験をさせていただけたと思っています。
中田:バンダイさんから見て、『LINEで発見!! たまごっち』が玩具版とは異なる年齢層の方々に受け入れていただけた要因はどのようなところにあるとお考えでしょうか。
安田:アプリをダウンロードせず「LINE」から直接ゲームを始められるので、気軽に友達を誘えるという点がポイントだったと思います。もちろん、玩具版も開発を重ねて素敵なものが出来上がっているのですが、同年代の友人に勧めたとき中々手に取っていただきにくいという現実もあります。その点、『LINEで発見!! たまごっち』ならすぐに手に取っていただけます。そうした手軽さが、今回、いつもとは異なる年齢層の方にも受け入れていただけた理由かなと思います。
進藤:制作の流れとしては、まず仕様的な部分を弊社で一旦まとめて、バンダイさんにお渡していましたよね。監修を行う中で印象に残っているポイントなどはありますか?
木次:「たまごっち」には豊富なキャラクターが登場します。そして、どのキャラクターに育つかというのは自分との関わり方によって決まるという点がゲームの基本設計です。そのため、キャラクターに対するレアリティの差や、お金をかけないと会えないなど、キャラクターの優劣が明確に見えるものに対しては根本的な遊びと異なるという指摘を入れさせていただきました。
中田:弊社では、お金や時間を掛けることでたまごっちを復活させるという案も出ましたがバンダイさんから「ダメです」とご指摘いただきました。また、我々が印象的だったのは「食べ物」に対してのご指摘です。
木次:「たまごっち」には、宇宙のどこかにあるたまごっち星に住んでいるという世界観設定があるのですが、その星にいる生き物は魚なども含めて全てたまごっちなので、同じ星にいる生き物は食べないというルールがあります。また、みんな「たまごから生まれる」という背景から、「たまごを食べる」ことに関しては非常にセンシティブです。この辺りは非常にルール化し辛い部分でもあるのですが、例えば、目玉焼きは卵を割った感が強いためNGですが、卵を割ったところをイメージさせない卵焼きはOKです。
中田:イクラもNGなんですよね。面白いなと思いました。
安田:『LINEで発見!! たまごっち』の食べ物には「お寿司」が実装されているのですが、その中にあった生海老はNGだったのでボイルにしていただきました。
進藤:この点に関してはビジュアルだけでなく、たまごっちとの会話に「目玉焼きには何をかける?」と聞かれる選択式の会話もあったのですがNGとなり、世界観への非常に強いこだわりを感じました。
安田:物凄い量の会話リストをいただき、確認してお戻しさせていただいたのですが、中々明確なルール化をすることが難しい部分もあり、LINEさんにもかなり慎重に考えていただいた部分だと思います。
進藤:実は、開発当初は僕を含めてメインの開発陣に男性しかいなかったことで苦労したところもあります。例えば、男性なら「野球とサッカーどちらが好き?」という日常会話もありますが、監修に出した際に「どちらも興味がないです」というご指摘をいただき、そこで女性はそもそもこういった会話をしないなと気付いてハッとしました。そこからは、一緒に会話のネタを考えていただいたり、重点的にチェックしていただくことで的外れな会話をしないようにしてきました。
木次:会話に関しては、進藤さんの拘りも強く感じました。α版テスト後に感想やフィードバックを行った際、普段は寡黙な進藤さんが「今のままでは会話が面白くないことが致命的だと思う」という話を熱く語って下さったことを覚えています。そのときは、お客様同士のコミュニケーションにまで繋げるならもっとバリエーションを増やして面白くしていかなければいけない。そして、たまごっちはペットのはずなのに返ってくる言葉があまりにも的確すぎるというお話をされていました。そこで、大きく会話に対して改修を入れたことが今も心に残っています。
進藤:確かに、会話に関しては一度全て作り直しました。本作の根底にあるのは、「LINE」を使ったコミュニケーションです。リアルな友人との繋がりで面白いことを起こしたいというのが狙いなので、たまごっちへの回答が仲の良い友人に伝わったり、面白い質問があるということがSNSで人気になったりするようなところを狙わなければいけません。ただ、たまごっち側から面白いコメントを発信させるには物凄い量の会話が必要になりますし、繰り返すと飽きてしまいます。そこで、お客様がたまごっちに面白いことを言える仕組みを考えていたのですが、そこがα版では上手く機能していませんでした。選択式ではない質問の答えを友人の噂話として流すのは大変でしたが、ここは『LINEで発見!! たまごっち』の1番のウリになる部分だと思いましたので妥協はしませんでした。
あと、たまごっちは生きているので決してご主人に迎合してはいけないと考えています。その中でモデルにしたのは現在、幼稚園に通っている自分の子供です。子供と話していて分かったのですが、幼稚園児との会話で「お父さんは冬が好き」と伝えても、「私は夏が好き」や「ふーん」といった答えが返ってくるんです。要は、相手に迎合しないということです。バンダイさんからは、たまごっちは幼稚園児くらいの設定というお話も伺っていたので、しっかりと答えを返してくるのではなく、「へー」や「ふーん」、あるいは自分勝手に話す感じが相応しいと思いました。
木次:質問にこう答えたら相手はこう返してくる、という部分が見えてしまうと面白くなくなります。お客様が色々と考えて面白いことを言おうとした結果、「ふーん」と返事される。でも、たまごっちはその内容を覚えていて、翌日、友人のところで勝手に話したりしているわけです。興味なさそうに聞いていたのに実は覚えていて、それが色々な広がりを持つというのは面白いですね。「LINE」というプラットフォームだからこそできたことだとも思います。
中田:リアルな繋がりというところでいくと、玩具版にも導入されている結婚システムは『LINEで発見!! たまごっち』に搭載しました。
木次:玩具版の結婚システムは約15年前に登場した機能です。誰のたまごっちと結婚するのかというのは、子供が玩具で遊んでいても面白い部分で、相手のたまごっちがどのキャラクターであっても”○○ちゃんのたまごっちと結婚する”ということに意義があるんです。この機能を取り入れたら、話題としてキャッチーですし、物凄く広がると思いました。
中田:誰と誰が繋がっていると分かるのは面白いですよね。
安田:社内の中でも「明日プロポーズしていい?」といった会話が飛び交っています(笑)。
中田:顔が見えない「LINE」では玩具版とはまた違った感覚が楽しめますね。
進藤:無意識に人間関係を絡ませられるのが面白いですよね。例えば、僕は女性社員のたまごっちにはプロポーズしない、逆に中田さんは女性の育てているたまごっちとばかり結婚していたというように皆それぞれ自分の中にルールがあるんです。
中田:そうしてリリースされた『LINEで発見!! たまごっち』ですが、現在は10代の女性を中心に、300万人以上(※取材時)の方々に遊んでいただいています。登録していただいた方の活性率が高いというのも特徴的で、SNSへの書き込みやネット上での情報交換も多いです。どのような点が良かったと思いますか?
木次:「LINE」と「たまごっち」を合わせることで、人に勧めたくなるという要素が強くなるという点が大きいと感じます。『LINEで発見!! たまごっち』を楽しく遊ぶには、世代を重ねるために誰かのたまごっちと結婚しなくてはいけません。結婚相手を増やすためにも、友人に勧めたくなりますし、リアルで友人と話題を共有したくなるような要素を入れられたことが上手く広がった要因ではないでしょうか。
中田:LINE側から開発として進藤さんも含め、今後の展開についてはいかがでしょうか。
進藤:先ほど話にもあった通り、現在、我々の予想以上のお客様に遊んでいただいています。ですが、それに伴う不具合やサーバー関係の増設、作業が発生しており、メンテナンスを実施するなど、ご迷惑をおかけしています。まず、こうした部分を最優先で対応し、その後はキャラクター追加やイベント、キャンペーンを開催していきたいです。本作オリジナルのたまごっちも登場しますので、是非そこまでプレイしていただきたいですね。
木次:自分の持っていないキャラクターが友だちのところで育っていると、たまごっちコレクターとしては「その人と結婚したい!」と思いますよね。相手が普段はあまりコミュニケーションを取らない人だったとしても、そのキャラクターがいるからこそコンタクトを取りたいという想いが生まれます。そこから会話も広がると思いますので、キャラクター追加やイベントなどのアップデートは良いタイミング・ペースで行っていきたいです。
中田:我々としても、今後さらに多くの方々に「LINE」で「たまごっち」が遊べるということを知っていただけるようプロモーションなどを含め展開していきたいですね。では、最後に安田さん、木次さんから読者の方々に向けてメッセージをお願いします。
木次:先ほどお話にもありましたが、『LINEで発見!! たまごっち』のおかげでしばらく「たまごっち」から遠のいていた方々に戻っていただけたということを実感しています。玩具であっても「LINE」であっても、同じ「たまごっち」ユーザーとして幅広い世代で共通の話題が持てるのは嬉しいです。年齢や普段の生活を越えて、「たまごっち」という共通言語で様々な世代の方々にコミュニケーションを取っていただけることは素敵なことだと思います。
安田:具体的なところで、私としては祖母に遊んでもらえるようなゲームにしていきたいです。というのも、スマホやタブレットで使える「LINE」は、玩具で遊ばない世代も触りやすいという特徴があります。今後、『LINEで発見!! たまごっち』をさらに盛り上げて、祖母にも遊んでもらえるようなサービスになると嬉しいです。ユーザー数の増加という意味では、昔「たまごっち」で遊んだことがあるという20~30代の女性にもまだまだプレイしていただきたいです。
中田:本日はありがとうございました。
9月18日から正式オープンとなり、現在は、『探検ドリランド ブレイブハンターズ』、『釣り★スタ QUICK』、『にゃんこ防衛軍』そして11月に配信が始まった『koToro_ [コトロ]』など、既に9タイトルを配信している。そこで、Social Game Infoでは、LINE QUICK GAMEに携わる方々を対象に、全6回に渡ってインタビューおよび対談を実施。
第5回となる今回は、バンダイが監修しLINEが開発を担当している『LINEで発見!! たまごっち』についての対談を実施。LINEの中田陽平氏と進藤孝史氏にインタビュイーを務めていただき、バンダイの木次佳織氏と安田江利果氏と共に企画発足の経緯や開発時のエピソードを振り返っていただいた。
写真左から、
・中田陽平氏(「LINE QUICK GAME」プロデューサー)
・進藤孝史氏(「LINE QUICK GAME」ゲームデザイナー)
・木次佳織氏(バンダイ)
・安田江利果氏(バンダイ)
■LINEの”トーク”が生んだ「たまごっち」の新しいカタチ
中田陽平氏(以下、中田):まずは、バンダイのお二人に自己紹介をお願いします。
木次佳織(以下、木次):入社以来、ガールズトイという女児向け玩具の企画開発をメインに担当しております。「たまごっち」には7~8年ほど携わっており、商品企画開発やIPを使った展開を行ってきました。今回の『LINEで発見!! たまごっち』もその一環で、本作では全体的な仕様の相談や計画を担当しています。
安田江利果(以下、安田):私は入社して3年目になるのですが、最初の年はトイ戦略室という部署で市場開発業務をしておりました。その際、おもちゃ売り場を回って子どもと一緒に遊ぶなど、現場で開発を勉強してきましたので、今はその経験を活かして昨年から「たまごっち」関連の業務に携わっています。『LINEで発見!! たまごっち』のお話をLINEさんからいただいたのは、ちょうど私が入ったばかりの頃でした。
中田:やはり、バンダイさんと聞くと玩具のイメージが強いですよね。
木次:バンダイナムコグループとしては、ゲーム部門を担当するバンダイナムコエンターテインメントが別会社としてありますので、ゲームとしてはそちらのイメージが強いかもしれません。玩具事業としては、2018年春からバンダイとBANDAI SPIRITSに分社したのですが、バンダイでは引き続き玩具やライフスタイル周りなどの日用雑貨、食品、アパレルなど衣料系を取り扱っており、BANDAI SPIRITSではプラモデルやフィギュアなどのハイターゲット向け事業をメインに取り扱っています。
中田:その中で今回、『LINEで発見!! たまごっち』の企画は弊社から持ち掛けさせていただきました。「LINE QUICK GAME」を立ち上げるにあたって、ラインナップの中に育成ゲームが欲しいと考えたのが主な理由です。育成ゲームは完全新規タイトルとしてリリースするにはハードルが高いジャンルということもあり、既に世間から認知されている「たまごっち」は我々として非常に理想的なIPでした。
進藤孝史氏(以下、進藤):バンダイさんとしては、最初にお話を受けたときの印象はいかがでしたか?
木次:「たまごっち」を題材にして、LINEさんならではのエッセンスを取り入れた企画案をいただいたときはとても面白いと思いました。また、弊社で展開しているサービスや商品ではアプローチが難しいターゲットにもリーチできそうだと感じましたので、ぜひ前向きに考えたいと思ったことを覚えています。育成ゲームというと、他にも選択肢があったと思うのですが、その中で弊社の「たまごっち」にお話をいただけたのは何故だったのでしょうか?
中田:育成ゲームの中でも、お客様が対話をしながらお世話を楽しめるという特性は「LINE」と相性が良いと考えておりましたので、このジャンルを「LINE QUICK GAME」で展開するなら、まず「たまごっち」以外は考えられませんでした。ただ、デジタルゲームへのライセンス提供を積極的にされていないと聞いていたので、今回OKをいただけてホッとしました。
木次:「たまごっち」は今から20年以上前に生まれたコンテンツになるのですが、当時からたまごっちは生きているという感覚を大切にしたいといった想いがあり、これまで玩具として展開し続けてきました。ただ、今回LINEさんからご提案いただいた中に、たまごっちからトークで呼び出しがあったり、たまごっちが勝手に他のたまごっちにおしゃべりしちゃうという内容が含まれていたんです。たまごっちが“生きている”という感覚を「LINE」ならではの形で表現していただけたのだと思い、弊社としても新しい挑戦としてお受けすることにしました。
中田:メッセンジャーアプリ上で遊べるゲームとしては、キャラに話し掛けられるという仕組みが非常にマッチしているのではないかと考えたんです。実際に遊んでみて違和感もなかったので非常に良かったと思います。
進藤:「LINE QUICK GAME」では現在8タイトルを展開しているのですが、その中でもゲーム内のキャラが「LINE」を通じてここまで密接に関わってくるタイトルは他にありません。そう考えると、「LINE」の通知とゲームは必ずしも一体化していないわけです。しかし、「たまごっち」の場合は通知とゲームの親和性が非常に高く、ほぼイコールなんです。この企画は最初その点がコンセプトだったのですが、通知でたまごっちからメッセージが送られてくる仕様は予想以上にお客様にも盛り上がっていただけました。
中田:あとは、どれくらいの頻度で通知を流すのが良いかについては今もテストを繰り返しています。開発初期の段階では、あまりにも頻繁にお世話をしてほしいという通知が来て、トーク画面がたまごっちの辛そうな顔でいっぱいになってしまったので議論も巻き起こりました。
進藤:開発時には玩具版の「たまごっち」を研究して再現したのですが、玩具では一度聞き逃すと取りこぼしてしまうような部分も「LINE」ではメッセージとして残ってしまうため、情報がどんどん蓄積されてしまうんです。通知の頻度に関しては、今後もお客様の反応を見て考えなければいけない部分だと考えています。
安田:基本的に、「たまごっち」が自分から要求を行う際の内容は、困っていることの呼び出しになります。それが文字で蓄積されてしまうと、ある種の構ってちゃんのようなネガティブさになってしまうということですね。
進藤:その通りです。「お腹が空いた」、「遊んで欲しい」、「トイレに行きたい」など、緊急性の高いメッセージほどネガティブな内容になりがちなため、バンダイさんを含め各所からご意見をいただいてポジティブなメッセージも入れるようにしました。
また、実は僕自身が元々「たまごっち」のことを大好きで、たまごっちに関する書籍も読んでいたんです。その中で「ペットというのはある意味面倒くさい。でも、お世話をするために自分がいなくてはいけない。だからこそ可愛いんだ」という思想が描かれており、その点は『LINEで発見!! たまごっち』でも絶対に残すべきだと思いました。そこで、他のゲームではオート機能を入れたり、ガイドで導線を敷いてあげたりすることが常識となっているかもしれませんが、本作では意図的に手間をかける部分を残してあります。お客様には、ゲームではなく、ペットがいると感じていただけるような部分を強く意識しました。
木次:スマホで遊べるゲームだと、自分が遊びたいときだけ遊んで気が向かないときは放置するという遊び方ができるものも多いと思いますが、「たまごっち」はお世話を怠ると死んでしまいます。たまごっちが死んでしまうという重たい事実があるからこそ、お世話のしがいがあり、そこにハマってしまうんです。そういった意味でも、より”生きている”ということを身近に感じていただけるようコミュニケーションが取れる形になっていたのは良かったです。
進藤:「たまごっち」の世界にゲーム的な文法で介入しすぎると、どうしても都合の良いものになってしまうんです。それは「たまごっち」の本質とズレることにもなりますので、実はあえてやっているというポイントは多いです。
中田:「LINE QUICK GAME」に関しては、どういった点に魅力を感じていただけましたか?
木次:LINEさんと弊社ではメインとなるユーザー層が異なっているのですが、今回、「LINE QUICK GAME」で展開したことにより、昔「たまごっち」で遊んでくれていた方に再び遊んでいただけたという点が大きいです。弊社だけではアプローチできなかった方々に新しい形の「たまごっち」を楽しんでいただけるというのは非常に魅力的です。
安田:自分の身の周りの反応を見ても、私が招待したわけではないのに友人が『LINEで発見!! たまごっち』を遊んでいるというのには驚きました。そこで、自分と同世代の方々にまでしっかりと届いているんだという実感が湧きました。また、玩具会社でゲーム制作に携われたことが自分としても貴重な経験をさせていただけたと思っています。
中田:バンダイさんから見て、『LINEで発見!! たまごっち』が玩具版とは異なる年齢層の方々に受け入れていただけた要因はどのようなところにあるとお考えでしょうか。
安田:アプリをダウンロードせず「LINE」から直接ゲームを始められるので、気軽に友達を誘えるという点がポイントだったと思います。もちろん、玩具版も開発を重ねて素敵なものが出来上がっているのですが、同年代の友人に勧めたとき中々手に取っていただきにくいという現実もあります。その点、『LINEで発見!! たまごっち』ならすぐに手に取っていただけます。そうした手軽さが、今回、いつもとは異なる年齢層の方にも受け入れていただけた理由かなと思います。
■ヒットの秘訣は会話に対する強い拘りにあり!
進藤:制作の流れとしては、まず仕様的な部分を弊社で一旦まとめて、バンダイさんにお渡していましたよね。監修を行う中で印象に残っているポイントなどはありますか?
木次:「たまごっち」には豊富なキャラクターが登場します。そして、どのキャラクターに育つかというのは自分との関わり方によって決まるという点がゲームの基本設計です。そのため、キャラクターに対するレアリティの差や、お金をかけないと会えないなど、キャラクターの優劣が明確に見えるものに対しては根本的な遊びと異なるという指摘を入れさせていただきました。
中田:弊社では、お金や時間を掛けることでたまごっちを復活させるという案も出ましたがバンダイさんから「ダメです」とご指摘いただきました。また、我々が印象的だったのは「食べ物」に対してのご指摘です。
木次:「たまごっち」には、宇宙のどこかにあるたまごっち星に住んでいるという世界観設定があるのですが、その星にいる生き物は魚なども含めて全てたまごっちなので、同じ星にいる生き物は食べないというルールがあります。また、みんな「たまごから生まれる」という背景から、「たまごを食べる」ことに関しては非常にセンシティブです。この辺りは非常にルール化し辛い部分でもあるのですが、例えば、目玉焼きは卵を割った感が強いためNGですが、卵を割ったところをイメージさせない卵焼きはOKです。
中田:イクラもNGなんですよね。面白いなと思いました。
安田:『LINEで発見!! たまごっち』の食べ物には「お寿司」が実装されているのですが、その中にあった生海老はNGだったのでボイルにしていただきました。
進藤:この点に関してはビジュアルだけでなく、たまごっちとの会話に「目玉焼きには何をかける?」と聞かれる選択式の会話もあったのですがNGとなり、世界観への非常に強いこだわりを感じました。
安田:物凄い量の会話リストをいただき、確認してお戻しさせていただいたのですが、中々明確なルール化をすることが難しい部分もあり、LINEさんにもかなり慎重に考えていただいた部分だと思います。
進藤:実は、開発当初は僕を含めてメインの開発陣に男性しかいなかったことで苦労したところもあります。例えば、男性なら「野球とサッカーどちらが好き?」という日常会話もありますが、監修に出した際に「どちらも興味がないです」というご指摘をいただき、そこで女性はそもそもこういった会話をしないなと気付いてハッとしました。そこからは、一緒に会話のネタを考えていただいたり、重点的にチェックしていただくことで的外れな会話をしないようにしてきました。
木次:会話に関しては、進藤さんの拘りも強く感じました。α版テスト後に感想やフィードバックを行った際、普段は寡黙な進藤さんが「今のままでは会話が面白くないことが致命的だと思う」という話を熱く語って下さったことを覚えています。そのときは、お客様同士のコミュニケーションにまで繋げるならもっとバリエーションを増やして面白くしていかなければいけない。そして、たまごっちはペットのはずなのに返ってくる言葉があまりにも的確すぎるというお話をされていました。そこで、大きく会話に対して改修を入れたことが今も心に残っています。
進藤:確かに、会話に関しては一度全て作り直しました。本作の根底にあるのは、「LINE」を使ったコミュニケーションです。リアルな友人との繋がりで面白いことを起こしたいというのが狙いなので、たまごっちへの回答が仲の良い友人に伝わったり、面白い質問があるということがSNSで人気になったりするようなところを狙わなければいけません。ただ、たまごっち側から面白いコメントを発信させるには物凄い量の会話が必要になりますし、繰り返すと飽きてしまいます。そこで、お客様がたまごっちに面白いことを言える仕組みを考えていたのですが、そこがα版では上手く機能していませんでした。選択式ではない質問の答えを友人の噂話として流すのは大変でしたが、ここは『LINEで発見!! たまごっち』の1番のウリになる部分だと思いましたので妥協はしませんでした。
あと、たまごっちは生きているので決してご主人に迎合してはいけないと考えています。その中でモデルにしたのは現在、幼稚園に通っている自分の子供です。子供と話していて分かったのですが、幼稚園児との会話で「お父さんは冬が好き」と伝えても、「私は夏が好き」や「ふーん」といった答えが返ってくるんです。要は、相手に迎合しないということです。バンダイさんからは、たまごっちは幼稚園児くらいの設定というお話も伺っていたので、しっかりと答えを返してくるのではなく、「へー」や「ふーん」、あるいは自分勝手に話す感じが相応しいと思いました。
木次:質問にこう答えたら相手はこう返してくる、という部分が見えてしまうと面白くなくなります。お客様が色々と考えて面白いことを言おうとした結果、「ふーん」と返事される。でも、たまごっちはその内容を覚えていて、翌日、友人のところで勝手に話したりしているわけです。興味なさそうに聞いていたのに実は覚えていて、それが色々な広がりを持つというのは面白いですね。「LINE」というプラットフォームだからこそできたことだとも思います。
■色んな人と話題が広がる”結婚システム”
中田:リアルな繋がりというところでいくと、玩具版にも導入されている結婚システムは『LINEで発見!! たまごっち』に搭載しました。
木次:玩具版の結婚システムは約15年前に登場した機能です。誰のたまごっちと結婚するのかというのは、子供が玩具で遊んでいても面白い部分で、相手のたまごっちがどのキャラクターであっても”○○ちゃんのたまごっちと結婚する”ということに意義があるんです。この機能を取り入れたら、話題としてキャッチーですし、物凄く広がると思いました。
中田:誰と誰が繋がっていると分かるのは面白いですよね。
安田:社内の中でも「明日プロポーズしていい?」といった会話が飛び交っています(笑)。
中田:顔が見えない「LINE」では玩具版とはまた違った感覚が楽しめますね。
進藤:無意識に人間関係を絡ませられるのが面白いですよね。例えば、僕は女性社員のたまごっちにはプロポーズしない、逆に中田さんは女性の育てているたまごっちとばかり結婚していたというように皆それぞれ自分の中にルールがあるんです。
中田:そうしてリリースされた『LINEで発見!! たまごっち』ですが、現在は10代の女性を中心に、300万人以上(※取材時)の方々に遊んでいただいています。登録していただいた方の活性率が高いというのも特徴的で、SNSへの書き込みやネット上での情報交換も多いです。どのような点が良かったと思いますか?
木次:「LINE」と「たまごっち」を合わせることで、人に勧めたくなるという要素が強くなるという点が大きいと感じます。『LINEで発見!! たまごっち』を楽しく遊ぶには、世代を重ねるために誰かのたまごっちと結婚しなくてはいけません。結婚相手を増やすためにも、友人に勧めたくなりますし、リアルで友人と話題を共有したくなるような要素を入れられたことが上手く広がった要因ではないでしょうか。
中田:LINE側から開発として進藤さんも含め、今後の展開についてはいかがでしょうか。
進藤:先ほど話にもあった通り、現在、我々の予想以上のお客様に遊んでいただいています。ですが、それに伴う不具合やサーバー関係の増設、作業が発生しており、メンテナンスを実施するなど、ご迷惑をおかけしています。まず、こうした部分を最優先で対応し、その後はキャラクター追加やイベント、キャンペーンを開催していきたいです。本作オリジナルのたまごっちも登場しますので、是非そこまでプレイしていただきたいですね。
木次:自分の持っていないキャラクターが友だちのところで育っていると、たまごっちコレクターとしては「その人と結婚したい!」と思いますよね。相手が普段はあまりコミュニケーションを取らない人だったとしても、そのキャラクターがいるからこそコンタクトを取りたいという想いが生まれます。そこから会話も広がると思いますので、キャラクター追加やイベントなどのアップデートは良いタイミング・ペースで行っていきたいです。
中田:我々としても、今後さらに多くの方々に「LINE」で「たまごっち」が遊べるということを知っていただけるようプロモーションなどを含め展開していきたいですね。では、最後に安田さん、木次さんから読者の方々に向けてメッセージをお願いします。
木次:先ほどお話にもありましたが、『LINEで発見!! たまごっち』のおかげでしばらく「たまごっち」から遠のいていた方々に戻っていただけたということを実感しています。玩具であっても「LINE」であっても、同じ「たまごっち」ユーザーとして幅広い世代で共通の話題が持てるのは嬉しいです。年齢や普段の生活を越えて、「たまごっち」という共通言語で様々な世代の方々にコミュニケーションを取っていただけることは素敵なことだと思います。
安田:具体的なところで、私としては祖母に遊んでもらえるようなゲームにしていきたいです。というのも、スマホやタブレットで使える「LINE」は、玩具で遊ばない世代も触りやすいという特徴があります。今後、『LINEで発見!! たまごっち』をさらに盛り上げて、祖母にも遊んでもらえるようなサービスになると嬉しいです。ユーザー数の増加という意味では、昔「たまごっち」で遊んだことがあるという20~30代の女性にもまだまだプレイしていただきたいです。
中田:本日はありがとうございました。
・【LINE QUICK GAME特集③】『にゃんこ防衛軍』に見られるポノス特有のアートワークとGame Closureのメッセンジャーゲーム開発力を大解剖
・【LINE QUICK GAME特集④】クイズ王が開発に参加する『みんなでクイズ』の魅力に迫る…新感覚クイズの発明に伴う生みの苦しみも
・【LINE QUICK GAME特集④】クイズ王が開発に参加する『みんなでクイズ』の魅力に迫る…新感覚クイズの発明に伴う生みの苦しみも
(取材・文 編集部:山岡広樹)
会社情報
- 会社名
- LINE株式会社
- 設立
- 2019年12月
- 代表者
- 代表取締役社長 出澤 剛/代表取締役 慎 ジュンホ
会社情報
- 会社名
- 株式会社バンダイ
- 設立
- 1950年7月
- 代表者
- 代表取締役社長 竹中 一博
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高1491億5500万円、営業利益122億4100万円、経常利益134億4600万円、最終利益99億4700万円(2023年3月期)