【CEDEC 2019】Cygamesシナリオチームマネージャーが明かす、シナリオ外のテキストで魅せるモバイルゲームのテキスト作成術とは?


9月4日~6日にかけて、パシフィコ横浜で行われたCEDEC 2019。その2日目のセッションの中から、「モバイルゲームのテキスト作成術~シナリオ外のテキストで魅せるには?~」の模様をお届けする。

近年のモバイルゲームの進化にともない、シナリオの重要性は徐々に認識されるようになってきた。一方でシナリオ以外のフレーバーやカードコメントといった細かなテキストについては、あまり顧みられていないのが現状。

しかし物語を体験させるのはシナリオのみではなく、多くのカードやキャラクターが登場するモバイルゲームにおいては、フレーバーやシステムボイス等は世界観を伝える立派なツールになり得る。また、ライトからヘビーまで多様なユーザーを相手にするモバイルゲームでは、Tips作成にも工夫が必要となる。

本セッションでは、Cygamesの坂本正吾氏(シナリオチーム マネージャー)が登壇し、モバイルゲームにおけるテキストを分類し、種類に応じた作成の仕方を実例を交えて解説していった。



ゲームのテキストと聞くと、メインシナリオやキャラクターシナリオなどをイメージするが、モバイルゲームではそれらと一線を画したシナリオ外の多種多様なテキスト群があり、「それによって支えられている」と坂本氏。

テキスト群にはどんな種類、特徴があるのか? それらを明らかにし、特徴を踏まえた上で高品質、高速度で量産するシナリオ外テキスト群を書くためのポイントと手法が公開された。


▲Cygames開発タイトルを例に、ゲーム画面のありとあらゆるところにテキストが仕込まれていることを示した坂本氏。プランナーが書いたものもいくつかあるが、ほとんどはシナリオチームが書き起こしているという。

これらシナリオ外テキストはフィーチャーフォンゲーム黎明期に産声を上げ、必要に応じて進化してきたシナリオとはまた違うテキスト群。

代表的なものとして、カードフレーバー、アイテムフレーバー、カードコメント、イベントタイトル、サブタイトル、あらすじがあり、それらはシナリオ外テキスト群は、「仕様の把握はもちろんのこと、キャラクター性、表示された時のマッチングも考えて作成しなければならない」と坂本氏は語る。

①カードフレーバー執筆法



カードフレーバーは、イラストに紐づけられた一番代表的なテキスト。モバイルゲーム、カードゲームの中にはカードに付いているテキストはこの1種類のみというものが多いそうだ。


▲一人称によるカードフレーバー。そのアイドルのセリフから彼女の心意気、心掛けを語っている。

フレーバーには、状況説明、魅力拡大という2つ役割があるという。特に魅力拡大については、説明するだけではなく、そのシチュエーションの中でのセリフ、ツッコミ的な解説をユニークに書くことで面白さを広げるという効果があるそうだ。


▲イラストのドラゴンは、一見カッコ良さが際立っているが、実はチョコレートでできている、という情報をテキストにすることで意外性を持たせ、更なる魅力を引き出している。

ここで坂本氏は、"レア度と文調を合わせる"、"コンセプトを立てる"ことがカードフレーバーを書く上での最重要点とし、「それを常に意識することで安定したクオリティで書ける」と説明。




▲レア度に合わせた文調の例として紹介された『神撃のバハムート』のスケルトン。モンスターにしゃべれる知性があるか、そしてどの程度の強さなのかを着目点として、テキストの文調を変えていることがわかる。

レア度と文調を合わせる点においては、強さに準じた着目点から最適な書式を割り出すことで、カードとの一体感を生み出すことがポイント。「文調を選ぶ際はケースバイケースではなく、どれがハマるのかを計算して割り出すようにしている」(坂本)そうだ。

一方、コンセプトを立てる方法には、"売り要素を強化する"、"欠点を克服する"という2つのアプローチがある。

売り要素の強化で例として用いられたのは、大人ぶりたいJKアイドルの速水奏。水族館にプロデューサーとこっそり遊びにくるという彼女を主役としたシチュエーションのカードから売り要素を探し、強化していくというわけだ。



「彼女の性格を頭の片隅に置いてじっくりイラストを見て、売りとなるポイントを探す必要がある」という坂本氏は、色々見えてくる中から、"美しく描き込まれたクラゲ"、"どんな心境で着てきたのか想像が膨らむ奏の衣装"、そして"水槽の裏に隠れている奏の同僚アイドル達"をピックアップ。

そして、要素が盛り沢山のイラストと、奏の大人ぶった魅力的な口調を踏まえて立てられたコンセプトを"大人ぶって、全部拾う!"に決め、「あらゆる要素を独特の言い回しで拾っていこうと。せっかく要素が盛り沢山なので、その全てを奏に拾ってもらい語ってもらえば、それが一つのウリになる」(坂本)とのこと。



▲奏のフィルターを通したフレーバーの完成形。何故これらの言葉をチョイスしたのかも解説された。

"売り要素を強化する"のが攻めのコンセプトなら、"欠点を克服する"は守りのコンセプトと言えよう。

カードイラストには、稀に様々なマイナス条件を持ったカードがあるそうで、坂本氏はそれをカバーするフレーバーテキスト例として、『シャドウバース』の"トランプナイト招集"を紹介した。



不思議の国のアリスをモチーフにしているこのカード、よく見るとトランプと言いつつダイヤのナイトが描かれていないのだ。

これはイラストレーターの描き忘れではなく、そもそもダイヤのカードがゲーム仕様の都合で実装されていないため。そこでは坂本氏は、ダイヤ不在をうまく活かすという逆転の発想でフレーバーを考えた。

そこで実装されたカードフレーバーが、"ダイヤの奴はヘマして首を切られたらしい。"というもの。アリスの赤の女王はすぐに首をはねろという口癖があるという設定を活かした格好だ。

逆転の発想、そして仕様の穴を魅力にしてしまうこのカードフレーバーのコンセプトは、「ユーザーもクスっと笑える"面白く帳尻合わせ!"になりました」(坂本)


▲SNSでアピールしたいがとある事情でできない、という欠点をカバーした事例。荒木比奈のクリスマスのカードは恒常ガシャで通年引けてしまうため、クリスマスと謳うと入手時期によって季節外れになる。そこで「スターライトステージのフレーバーは普段目に触れにくい位置にあるので、こっそり仕込めばクリスマスに触れてもそこまで目立たない」(坂本)という形になったという。

②アイテムフレーバー執筆法

アイテムフレーバーはゲーム内アイテムの説明文ということで比較的自由に書けそうだが、「何でも良いと言うわけではない」と坂本氏。ゲーム仕様上の嘘は書かないことが大前提のルールと説明した。



▲"プリぐるみ(ぺコリーヌ)"のアイテムフレーバー。このアイテムは戦闘時に有利になる効果はないので、"戦闘でご利益がある"という文言はNGとなる。

実際に実装されたアイテムフレーバーは盛り上げつつも機能的な嘘は書かれていないのでベストだが、「クオリティ的に更に上を目指すことができる」と坂本氏。そのための最重要点は、やはり"コンセプトを立てる"。このポイントは、あらゆるフレーバーに共通して言えるのこと。



次に、上の家具アイテム「新田美波のポスター」のアイテムフレーバーの作成事例を紹介。

この場合、イラストではなくポスターとして見たとき、人はどう感じるか? 「その特徴を捉えることが大事」という坂本氏は、このポスターに関して"見つかったら恥ずかしいほどのセクシーポスター"が特徴であると解説。

欠点は特にないため魅力拡大の方向性で、かつ官能的にするよりも笑わせることを意識し、"親に見られないよう、こっそり貼る"というコンセプトを打ち出した。

また、このポスターはゲーム内の部屋に実際貼れるルームアイテムであること、さらに面白い事に実際家具の裏にポスターを隠せることがわかった。

この仕様条件を参考に、実際に隠せることをユーザーに伝えることで、よりリアリティがあり笑えるフレーバーが完成した。



③カードコメント執筆法



カードコメントは、イラストに描かれた人物と紐付いたセリフのテキストで、その数は10~50個程度とカードフレーバーに比べて用意する数が格段に多い。また、書式は一人称限定という制限もあるという。



そのカードコメントの執筆で最重要点となるのが、"両視点で見る"と"リアリティで数を稼ぐ"。

まず両視点だが、これはユーザー視点と登場人物視点の二つの視点で見ること。ユーザー視点では、ユーザーから見える登場人物と環境から見えるコメントの材料になりうる要素を拾う。対する登場人物視点では、キャラクターの意識で見えるもの、感じるであろう要素を拾うことだ。



▲登場人物視点では、その場所にいるキャラの視覚や聴覚から感じるであろう要素をテキスト化する。

ただ、「両視点でコメントの数は稼げるが万能ではない」と坂本氏。それを補うのが"リアリティで稼ぐ"こと。

例として挙げられたカードには、帽子やカンガルー、南国の樹、生暖かい風など両視点で拾える要素はあるものの、カードコメントは数が必要ですぐにネタが尽きてしまう。

そこで坂本氏は「こういう時は考え方をスパッと切り替えて」と、キャラになりきって見たものを感じたままに書くという。思いつくままに書けば、ネタは弱くてもリアリティで成立し、数か膨大であっても一定水準のコメントを必要数揃えられるというわけだ。



④イベントタイトル作成法



ゲーム内の期間限定イベントなどの題名となるイベントタイトル。アニメやドラマの各話タイトルに相当するものだが、坂本氏曰く「それらとは違う独特の留意点がある」。

それが"短く少なく単語連想!"、つまり文字列は短く、画数は少なく、既存イメージを利用した単語連想という3つの原則を心掛けることが重要とした。



▲上段のイベントタイトルは3つの原則から外れており、それをブラッシュアップしたイベントタイトルが下段。いつの間にか染みついたイメージを利用し、文字数を削り、カタカナ表記で画数を抑えている。


▲イベントタイトルは必ずロゴになることを意識することも重要。坂本氏は「最終的なデザインを意識し、コンパクトにまとめあげる。迷ったらデザイナーと相談すると良い」とアドバイスを送った。

⑤サブタイトル作成法



各話ストーリーのタイトル、そしてゲーム面のタイトルの2種類があるサブタイトルだが、「何となく雰囲気で付ける方もいると思うし、なかには汎用的になったりネタバレになってしまう」と、サブタイトルを考えるのが苦手な人もいると坂本氏。

サブタイトルにおける最重要点を"先出しor後出し"とし、「この2種類のアプローチを覚え、そのルールに則って考えることで良いタイトルが付けられる」と語った。


▲先出しは、一番のウリを最初からサブタイトルとして書き出す手法。写真のサブタイトルは"絶交"となっており、ストーリー上の重要なポイントがそのままタイトルに。ユーザーが興味を惹かれるであろう核の部分に触れている。


▲こちらは後出しのサブタイトル例。"28・26・26・25・(17)"と数字が並んだ不思議なタイトルだが、ストーリーを読み進めると登場キャラの年齢であることがわかる。フックになる要素を作り、その意味を後で明かす手法だ。


▲巨大な岩石が転がってくるステージの場合の先出し、後出しのサブタイトル例も紹介。

⑥あらすじ執筆法



最後に紹介するあらすじとは、ストーリーを読まずにスキップした時に表示される要約文。

ここで言うモバイルゲームのあらすじは、小説のそれとは役割が違い、読前に読むのではなくストーリーを読まない時に表示されるストーリーラインとなる。

一見、工夫のしようがないように思えるが、「実は用途に応じて書き分ける必要がある」と坂本氏。それを踏まえたあらすじ執筆法の最重要点が、"その後の手引き"。つまり、あらすじの後にユーザーをどこに誘導したいかで書き分けるというのだ。



実例として挙げられたあらすじのテキストを読んでみると、話を読まない人のためのあらすじなのに、中身が伏せられている。坂本氏は、「中身が気になるフックを作り、この話だけは何としても読ませたいという狙いがある」と解説。

つまりストーリーをスキップさせたくないなら"興味を煽るあらすじの書き方"を、次はクエスト(バトル)に進ませたいなら"文末で戦う目的を明確に"する書き方、そして特に誘導の目的がないなら"ただの内容要約"と、あらすじの書き方も状況によって違ってくるという。

「ただの説明に止まらず、ユーザーの手をとって誘導したい所に連れていくための書き分けが必要」と坂本氏は語った。

以上の計6項目が、Cygamesシナリオチームのモバイルゲームのテキスト作成術だ。

最後に坂本氏は、「一番大切な事は、"すべてのテキストはユーザーのために!"という気持ち。色々な手法を駆使して書くのは、全てユーザーの喜びのためです」とその想いを口にした。

そして「もしかするとパッと見られるのは一瞬かもしれませんが、そのシーンは強く心に残るもの。しっかりアプローチ方法を考えて、一つ一つのテキストワークを、中身が空っぽにならないようにしっかり積み上げる。それが大筋にあるシナリオとは異なるシナリオ外テキストだと思います。ストーリーラインという線を書くのではなく、点の積み上げがあってこそ、というものをしっかりと心がけていきます」とメッセージを送った。