昨今、スマホゲーム業界では、新規ユーザーの獲得の難易度が高まる一方で、既存ユーザーや休眠ユーザーをターゲットにしたマーケティング施策の重要性が年々増しており、徐々にサービスが増えてきた。今回、ドリコム<3793>が提供を開始したファンコミュニティ促進サービス「Rooot」(ルート)に着目し、同サービスのプロデューサーの五十嵐啓之氏(写真左)と、サービスの共同開発者である株式会社MOTTOの佐藤基氏(写真右)にインタビューを行い、サービスの特徴と開発経緯について話を聞いた。
――:よろしくお願いいたします。サービスの概要を改めてお願い致します。
五十嵐氏:「Rooot」は、「ファンをよりファンにする」をコンセプトとした、Twitter上でユーザー同士で盛り上がれるキッカケや、ユーザー同士で繋がるキッカケを与えるキャンペーンを行えるサービスです。具体的には、特定のハッシュタグが付いたツイートに対して「いいね」や「リツイート」(以下、リアクションとする)した人にポイントをプレゼントでき、ユーザーは獲得したポイントを使ってRoootが用意する特設サイト内でゲーム内アイテムとの交換やグッズへの抽選応募ができるサービスです。
――:こちらはゲームの公式アカウントではなく、ユーザーがツイートした内容が対象なんですか。
五十嵐氏:はい。ゲーム運営やマーケティングをやっていると、新規ユーザーの獲得が難しくなっており、すでに遊んでいるユーザーにいかに継続的に遊んでいただくかが大事になっています。ゲームの質を上げてより楽しんでいただくとはもちろんですが、他のユーザーとゲームを通じて様々なコミュニケーションを行って盛り上がっていただくことも大事です。
今回、ゲーム関係のコミュニティで最も人数が多く、そして活発にコミュニケーションが行われているTwitterに着目しました。ユーザー同士でコミュニケーションをとってもらって、コミュニティが盛り上げることができないかと思っています。つながりを生むには、公式のツイートに対して何かするだけではなく、一般のユーザーのツイートに対してリアクションすることが重要になると考えています。
――:素朴な疑問ですが、なぜツイートした人にポイントを配布しないんでしょうか。
五十嵐氏:大きな理由としては、ツイートに対してインセンティブを付与すると、意味のない投稿が増えてしまう懸念があるからです。サービスの趣旨としては、ツイートの内容を見て共感したものに対してリアクションを起こしてほしいと思っています。
またツイートした人には、他の人からツイートに対してリアクションがもらえるというインセンティブもあります。ハッシュタグを付けて意味のある投稿をすることで、自分のツイートのインプレッションが上がりますし、そして他の方からリアクションをしてもらえることになります。ツイッター上ではツイートしたものの、1つもリアクションのない投稿は少なくありません。
逆にポイントがほしいという方は、他の人のツイートを探してリアクションしていただくことになります。もちろん、ご自身でハッシュタグを付けてツイートしながら、他の人の投稿に対してリアクションする、といったことも可能です。
佐藤氏: 「Rooot」では「好き」が表現されやすいサービスになっています。「このゲームのこういうところが好きなんだよね」と普段から多くの方がツイートされていますが、「Rooot」のキャンペーンではそれがより強調されやすくなって、「それ、わかる」といった反応が得られやすくなっています。ゲームでは、ファンの方が愛を表現するとき、ファンアートを使いますが、絵が描けない人だと、うまく伝えるのは難しいです。「Rooot」を通じてかなり伝わりやすくなっているのではないかと思います。
――:既存サービスとの違いは。
五十嵐氏:比較されるサービスとしては、インスタントウィンがあります。インスタントウィンは、公式Twitterとユーザーをつなげる施策ですが、「Rooot」はユーザー同士をつなげることが目的です。インスタントウィンは、公式Twitterをフォローし、ツイートに対してRTすることで完了しますし、「Rooot」の場合は、一般ユーザーのツイートが対象です。この時点で大きく異なっていることがわかるかと思います。
佐藤氏:インスタントウィンは、報酬が欲しくてアクションを起こすことになりますが、我々の場合は、報酬はあくまできっかけに過ぎません。先ほどお話したようにツイートした人にとっては、リアクションがもらえることになってこれが強いインセンティブになるので、より良質な投稿を、ということになりやすく、質のいいキャンペーンになります。過去の実績では、通常のインスタントウィンと、「Rooot」を比較すると、「Rooot」の投稿数が5倍ほど多く、リアクションの数も数百万規模になります。
五十嵐氏:全然知らない人のツイートにリアクションするのは意外とハードルの高い行為なんです。例えば、学校に突然集まって知らない人同士でコミュニケーションをとるのは難しいでしょうが、レクリエーションなどきっかけがあると話すことができるようになりますよね。
ゲームであれば、みなさん、その作品が好きで集まっているわけですから、ゲームに関する話題が大きなきっかけになりえます。「Rooot」を使ったキャンペーンでは、ポイントをきっかけとして提供することで、リアクションに関連したハードルを下げ、他の方とコミュニケーションをとっていただけます。
佐藤氏:Twitter上では、ゲームに関して活発に投稿されていますが、ツイートしても誰からもリアクションされないことが多いんです。それでは、他の方はゲームの投稿を見ていないのかというと、そういうわけではなく、きちんとチェックしています。いわゆるROMが多いんです。ROMの方々がキャンペーンを通じてコミュニケーションを始めることでゲーム仲間ができることを意図しています。その点は、インスタントウィンと全く違っているかと思います。
五十嵐氏:インスタントウィンは、公式Twitterアカウントに対して資産が蓄積される施策です。アカウントをフォローしていただいた上でツイートをRTしていただくことで、フォロワーが増えてリーチできる人数が増えていき、その後のツイートにも拡散効果が生まれてきます。これはこれで大きな意味があります。
「Rooot」の場合は、多数いるユーザーの投稿に対してリアクションされるので、リーチが増える効果がありますが、ユニークなのはユーザー側に資産ができるという点です。キャンペーンに参加してツイートをすると、リアクションされるだけでなく、フォロワーも増えます。キャンペーンへの参加をきっかけに交流が始まるからです。
過去の実績では、キャンペーン参加者のうち、60%がフォロワーを増やしています。そして、多い方では40%も増やしました。100人フォワ―のいる方ですと、さらに40人増えることになります。我々がコンセプトとしてやりたかったことと一致していると感じています。
――:効果測定はどうされていますか?
五十嵐氏:Twitter上のアクションやつながりがゲーム内のKPIとどうつながるのかは継続的に研究すべき課題ですが、一定の数字は取れるようになっています。自社内でキャンペーンを使った事例としては、売上や継続率への効果です。
売上への効果については、キャンペーン参加者と不参加者を単純に比較するのではなく、傾向スコアを用いて選択バイアスを減らし、分析対象者を「同様の熱量のユーザー同士であること」を前提とした上で、キャンペーン参加者と不参加者で比較分析すると、キャンペーンに参加した人の方が活発に有料アイテムを購入いただく傾向がでています。
キャンペーンを始める1ヶ月前のタイミングで、利用金額やプレイ傾向、所持キャラクターなどで条件を定めて同等の熱量があるユーザー同士のマッチングを行いセグメント化し、キャンペーンに参加した人としなかった人を比較したところ、ARPPUに1.5倍の差がありました。こういった分析はどうしてもバイアスを排除できない部分があるので、さらにキャンペーン1ヶ月後にマッチングをしたユーザー同士の動きも確認したところ、同等の利用金額やプレイ傾向などに戻っていました。つまり、熱量が下がっていたから参加しなかったというわけではなさそうだ、ということで、売上に対して一定の効果があったと言えると考えています。
もうひとつは、新規ユーザーの継続率です。キャンペーンを通じて入った方とそうでない方を比較し、各種の継続率をみていくと、11ポイントほどキャンペーン参加者の方が高かったです。1Day継続率が50%のタイトルであれば、キャンペーンに参加した方の継続率は61%になります。初期の段階で熱量が高いコミュニティと接点が持てたことでゲームに対して定着率が高まったのではないかと見ています。
ゲーム内KPIで比較すると2点になりますが、副次的な効果として、ツイート数やユーザーのフォロワーの増えた数、エンゲージメントの数などの変化も見られる指標になるかと思います。
佐藤氏:重要なのは、参加したユーザーが特定できるという点です。どなたに参加いただいたのかがわかります。キャンペーンをきっかけとしてどういう変化が起きたのか、どういった方が参加いただいたのかをみることができますので、それによっていろいろなことが分析できる仕組みになっています。
――:数字としては予想しているより多くのものが取れる印象です。
佐藤氏:Twitterなどのコミュニティの施策の重要性は指摘されて久しいですが、マーケターとしては効果があるのかと問われることが多いです。世の中にあるTwitterキャンペーンはそこに行き着くわけですが、「Rooot」の場合は一定の数字が出ますので、曖昧な部分は残っているものの、全く効果がみえないものではない、と捉えていただきたいです。
五十嵐氏:効果とはまた違っていますが、あるクライアントさんから、ゲームで遊んでいないときでも、Twitterなどユーザー同士でつながってコミュニケーションをとることも重要なゲーム体験のひとつと捉えている、というお話を聞いたとき、本当に共感しました。
――:サービスの企画はどのくらいから始めたんですか?
佐藤氏:2年くらい前から企画をはじめて、ゲーム会社にヒアリングに伺って徐々にサービス内容を固めていきました。1年前に1回目の事例が出ました。その後もいろいろな会社に使っていただくようになって、本格的に世に広げていきたいと考えています。
五十嵐氏:昨年の1月から仮説検証のような形でやらせていただく中で、去年の秋から本格的に販売をはじめました。サムザップさんの『この素晴らしい世界に祝福を!ファンタスティックデイズ(このファン)』※運営チームからは初期の段階からサービスの趣旨にご賛同いただき、初期の段階から導入いただきました。昨年5月と11月に実施しました。
佐藤氏:「#このファン好きと繋がろう」Twitterキャンペーンで、記事も掲載していただいたかと思います(関連記事)。
――:あれだったんですか。キャンペーン名がストレートでわかりやすいですね。
五十嵐氏:1回目は2020年5月でしたが、『このファン』では当時はフレンド機能がなく、ファン同士で交流したいというユーザーのつぶやきが多かったんです。そこで公式として「つながろう」と打ち出して、ハードルを下げるためのきっかけを提供したところすごく盛り上がりました。Twitterのトレンド2位に入りましたし、数百万のエンゲージメントが増えました。そして、参加者のフォロワーが増える効果もありました。
昨今、新型コロナの影響でオフラインイベントができなくなっています。ユーザー同士をつなげたり、一緒に盛り上がったりする場が作りづらくなっています。Twitter上ではもちろん限度がありますが、一つのお祭りとして盛り上がっていただけたらと思っています。そういった部分がクライアント様から評価いただいています。
――:昨今、オフラインイベントができなくて、オンラインイベントだけでは限界があります。現状ではいろいろな施策を組み合わせて補完していくしかないですよね。
佐藤氏:人気ゲームではこれまで大規模なオフラインイベントを行ってきました。運営からユーザーに新しい情報をお伝えする目的がありますが、実は友達と一緒に行ったり、オフ会のように仲間同士で集まったりする場としても活用されています。今のオンラインイベントでは、そこが代替することがなかなかできていません。
オンラインでそれをやりたいというご相談をいただくことがあって、そういうニーズに対応できたらとも思っています。一緒に遊んでいる方の存在や熱量をゲーム以外でも感じる場を作りたいというニーズはゲーム会社に結構あるんですが、コロナの影響で限られている状況にも応えていきたいと思っています。
――:オフラインイベントに取材に行きますが、ゲーム内の友達が数人で集まってオフ会のようなことをやっている場面を見ることが多いです。
佐藤氏:そうですね。それが特別な体験なんだと思います。
五十嵐氏:オフラインだと同じ空間で好きな人が集まるという心理的な安全性があって、知らない人同士でも話がしやすい状況になりやすいんですが、オンラインだと難しい部分があります。「Rooot」をきっかけにつながるきっかけになればいいと思います。
――:運営していて、周年がいいとか、施策と施策の谷間がいいとか、どういうシーンで有効活用できる、といった知見はありますか。
五十嵐氏:複数ありますが、周年やハーフアニバーサリーなど運営がユーザーに感謝を伝える場合には有効です。それに限らず、サムザップさんの『このファン』のように、ユーザー同士でつながりたいというニーズがあれば、活用いただくことで盛り上がっていただけると思います。
また、最近、IPとのコラボが積極的に行われていますが、見ている限り、ゲームのファンと、コラボ先のIPのファンの交流がなかなか生まれづらい状況にあります。この施策を活用することで、異なるセグメント・クラスター同士をつなげる橋渡しにも使えるのではないかとも思っています。
――:公式Twitterを一生懸命運営する会社が多いですが、ユーザー同士のつながりを意識的に作るのは難しそうですね。
佐藤氏:ゲームの場合だと公式アカウントを運用して、ゲーム運営とユーザーの関係づくりに注力しておられるところが多いです。確かにそれはすごく意味があって、ユーザーからすると、この運営が信頼できるかどうかまでチェックされています。一方でユーザー同士の関係に関しては、なかなか打ち手がないのが実情なんです。
ヒアリングをした限り、ゲームの運営側も過度ではない範囲でユーザー同士の盛り上がりを作っていきたいとは考えていて、その重要性が増していくということで、我々とも認識が一致していることが多いです。なぜなら他のユーザーと一緒にゲームを楽しむこと自体がすごくゲームを楽しくさせることだからです。このサービスをきっかけに、Twitterがあるからこそゲームがすごく楽しくなるような状況にしたいです。
――:ありがとうございました。
©︎2019 暁なつめ・三嶋くろね/KADOKAWA/映画このすば製作委員会
©︎Sumzap, Inc.
(※)写真は、撮影するタイミングのみマスクを外しています。
会社情報
- 会社名
- 株式会社ドリコム
- 設立
- 2001年11月
- 代表者
- 代表取締役社長 内藤 裕紀
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 売上高97億7900万円、営業利益9億300万円、経常利益7億9300万円、最終利益1億400万円(2024年3月期)
- 上場区分
- 東証グロース
- 証券コード
- 3793