「NFT」という言葉が話題になっている。スクウェア・エニックスがブロックチェーン技術を活用したNFTデジタルシールを発売を発表したことや、米国人アーティストのビープル(Beeple)がNFT作品が競売にかけられ6930万ドル(約75億円)で落札されたことも記憶に新しいのではないだろうか。
国外に目を向ければ、『ポケモン』ライクなNFTゲーム『Axie Infinity』はフィリピンなど新興国を中心に人気だ。そのフィリピンではコロナ渦もあいまって、失業者が増え同ゲームタイトルをプレイすることで生計の足しにしている人もいるという。中には家を購入したと主張する猛者が現れたとも伝えられえている。
最近では『フォートナイト』『Gears of War』などの開発を担当した複数のスタッフが「Big Time」という会社に集結し、NFTに対応したMMORPGの開発を行っており、NFTやブロックチェーンを利用したゲームの開発は今後も増えそうだ。
本稿ではそんな話題のNFTとはなにかを改めて確認しつつ、そのベースとなるブロックチェーン技術とその周りを取り巻く状況に触れていきたい。
■NFTは改ざんできないデジタル署名付きファイル
NFTとは「Non Fungible Token」非代替性トークンとなる。所有者などの情報が記録されたデジタルデータの総称と言っていいだろう。デジタルデータには、改ざんできない署名がつけられことをイメージするとわかりやすい。
なぜこのようなことが可能になったか。それはブロックチェーンの技術をベースとしているためだ。
ブロックチェーンは、ネットワーク内での取引の記録を「ブロック」と呼ぶ部分に記録する新しいデータべースとなる。これまでの中央集権的なサーバーとは異なり、P2P技術、古くはWinnyなどのファイル交換ソフトでも利用された技術をベースにしている。考案者は「サトシ・ナカモト」という人物だが、本名なのか、そもそも日本人であるのかなど、その素性は今でもはっきりわかっていない。
そのブロックチェーンは、ナカモト氏が2008年に公開した「Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System」 という論文をもとに生まれた技術と鳴る。
ブロックチェーン技術の特徴の一つとして、先述した非改ざん性がある。ブロックチェーンはその仕組みとして、「ブロック」に過去の履歴を含めた記録を保存した上で連結させている。そのため改ざんを試みても、全てのブロックのデータ変更を行うことが困難であることから、非改ざん性が強いと言われる理由となっている。
NFTもそんなブロックチェーンの非改ざん性の強みを生かした技術となる。デジタルデータとして従来どおりかんたんにコピーは可能であっても、この技術によって所有者として信頼が得られるというわけだ。改ざんができないため、信用の担保が得られるというのが、NFTの大きなポイントになる。
■作ったファイルが利益を生み続ける、NFTマーケット
多くの人がNFTという言葉を耳にしたのが、2021年3月のニュースではないだろうか。1766年創業の老舗のオークションハウス「クリスティーズ」において、NFTデジタルアートが約6930万ドル(約75億円)で落札されたことで、「NFT」という言葉が飛び交うようになった。
この落札をきっかけに海外のNFTマーケットの「Opensea」や「Nifty Gateway」での取引の様子がニュースになっている。
「Opensea」では日本のVRアーティストの「せきぐちあいみ」さんの作品が1300万円で落札。「Nifty Gateway」では、シンガーのThe WeekendがNFTマーケットに複数のデジタルアートを出品した。その中には未発表音源「The Source」もあり、最終的に5400万ドルで落札。DJ Zeddのデジタルアート「DIORAMA」も12万1212ドル(約1300万円)、高値をつけオークションが終了している。
また所有者とこれまでの取引の履歴の確認ができることから、落札して転売するごとに、NFT作成者にも一定の利益が得られることも特徴となっている。実際にせきぐちあいみさんは、自身のTwitterにてNFTアートの2次流通のロイヤリティがあったことを報告している。
国内では、『TOKEN LINK』が2021年1月に、3月『nanakusa』、4月には『NFT Studio』とNFTマーケットプレイスが立て続けにオープンした。
さらにメルカリの子会社であるメルコインが2021年4月に創業し、
NFT(Non-fungible token)等、これまでのモノ・お金に限らず、サービスやデジタルコンテンツなどのあらゆる価値を誰もが簡単に交換できる新しい取引の形を創出し、さらなる顧客体験の向上や顧客基盤の拡大に繋げていきたい考えです。
とコメントを発表するなど、NFTやブロックチェーンにまつわる動きが活発になっている。
■注目集まるNFTを扱ったブロックチェーンゲーム
NFTを扱ったゲームにはどのようなタイトルがあるのだろうか。
例えば日本のブロックチェーンRPG『My Crypto Heroes』では、大会の報酬でアイテム(デジタルアセット、NFT)を入手し、育成したキャラクターをNFTマーケット(opensea)で販売することができる。
冒頭にも登場した『Axie Infinity』は、アクシーと呼ばれる空想上の生き物を集めて育てるゲームとなっている。こちらもアクシーをNFTマーケットで取引ができる。
お金の動きという面では、ブロックチェーンサッカーゲーム『Sorare』が話題になった。今年3月にユベントスに所属するクリスチャーノ・ロナウド選手のNFT化したレアカードに28万9920ドル(約3200万円)の値がついた。
価格はさておき、ゲームで利用されるNFTはキャラクターやカードといったアセットがNFTとなっており、売買されるケースがほとんどとなっている。
またゲームというカテゴリーよりも大きくなるがメタバースと呼ばれる仮想空間においても、親和性の高さがあり同技術は注目を集めている。最近ではオタクコイン協会が、東北ずん子と愉快な仲間たち特別限定NFTの販売を行った。その特典としてNFTオーナーにはメタバース上で構築された劇場で特典映像を視聴できる、といった試みも始まっている。
■黎明期に課題やトラブルはつきもの
ただし、まだ黎明期でもありトラブルや課題も表面化している。NFTマーケットで、製作者に2次的な利益が得られるという話をした。ただしマーケット間での互換性などまだ心配な面もある。また出品者の選別を行っていないマーケットでは、本来の著作の権利者ではないにも関わらず、勝手にマーケットに出品するという問題がある。
NFTの制作という面でも問題を抱えている。データをNFT化にするにあたって、そのほとんどが暗号資産(仮想通貨)でもあるイーサリアムを利用している。ただし、イーサリアムが自体が1年前に比べて非常に高騰しているため、NFT化する際に求められる手数料(ガスフィー)が馬鹿にならない状況だ。
イーサリアムの価格は、2020年7月の段階で1イーサ2万5000円ほどだったものの、2021年5月12日に45万8000円ほどまで上昇するなど、1年も立たずに価格が20倍近くに膨れ上がった。
その一方で、イーサリアムやビットコインといった暗号資産は、非常に不安定な面があり、影響力の強い人物の発言で価格が乱高下するケースが多々見られる。
例えば、テスラCEOのイーロン・マスクが5月12日に「テスラのビットコインでの支払いを停止する」という発言で、ビットコインの価格は下落、イーサリアムもそれにつられてしまった。
5月19日には中国が暗号資産についての規制を打ち出すなどで、さらに価格が続落しており、市場としての健全性を疑問視する声が多々上がっている。
▲この1ヶ月のビットコインの値動き。イーロン・マスクの5月12日の発言後、下落傾向に。5月19日の中国の仮想通貨に対しての規制が明らかになり、さらに下落した。当日はBitflyerが緊急メンテナンス、Coinbaseのサーバーが落ち、Twitterでは仮想通貨がトレンド入りするなど大きな祭りとなった。余談だが、当日に結婚を発表した新垣結衣さんが引き起こした「ガッキーショック」というネタも散見された、
▲イーサリアムも同様に影響を受け、価格は大きく下落している。5月12日と19日に注目。
ゲームという視点ではどうだろうか。現在のモバイルゲームの売上げランキングTOP30に入る多くのタイトルが、ガチャによるもの。NFTは資産性を有するデータであるため、これらのデータを排出するような有償ガチャを行うことは賭博に該当する可能性が高いとされている。
(※)この点に関しては、ブロックチェーンコンテンツ協会のガイドラインを公開中だ。あわせて確認してみよう。
https://www.blockchaincontents.org/guideline
そのためガチャでの売上という既存の方法を、ブロックチェーンやNFTをゲームそのまま流用することは、かなりのリスクを伴う可能性がある。新たな売上方法の確立を模索する時期が続く可能性もある。
■未来の生活を変える技術
様々な課題は浮き彫りになってきたものの、NFTやブロックチェーン技術への期待は高く、問題に対しての様々なアプローチも行われている。
2021年5月18日の財政金融委員会の答弁では、文化庁出倉審議官と麻生財務相大臣がNFTの問題について触れるなど、政治においても少しづつではあるものの、認知をされ始めている。
先述したガスフィーに関しても、イーサリアムのレイヤー2ソリューションの一つである「Polygon」により技術的な解決を行っている。加えてイーサリアム自体も、これまで従来の「プルーフ・オブ・ワーク(PoW)」から「プルーフ・オブ・ステーク(PoS)」と呼ばれる大量の電力を必要としないシステムへの変更を実施する予定だという。
先の2次利用の問題点に関しても、スタートバーンがサービスを横断した二次流通管理を含めた様々な課題に取り組んでいる。
またブロックチェーン技術を利用し様々な仕組みで世の中を変えて行こうとする動きも目に見えて活発になってきた。例えば、LayerXは同技術の改ざんができないという点から、地方自治体と手を組み電子投票システムに取り組みを行っていることも、そのひとつだ。
ゲームにおいても、これまでの枠組みから出た強力なタイトルが出てくる可能性もある。冒頭にあったように、AAAタイトルの開発経験者が集まっている。5月31日には、double jump.tokyoが新作NFTゲーム『マイクリプトサーガ』のサービスを開始するなど、ゲーム分野においても盛んになってきている。
筆者個人としては、1990年代後半にあったIT革命以来の大きな流れになると信じており、これからも様々な情報を取り扱っていく予定だ。
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