【CEDEC 2021】"「確率機?」と勘違いさせない!何度も遊んでもらえるプライズマシンのつくりかた"を、タイトーの梅山プロデューサーが解説

コンピュータエンターテインメント協会(CESA)は、8月24日~26日の期間、オンラインにて、国内最大のゲーム開発者向けカンファレンス「コンピュータ・エンターテインメント・デベロッパーズ・カンファレンス 2021」(CEDEC 2021)を開催した。

本稿では、"「確率機?」と勘違いさせない!何度も遊んでもらえるプライズマシンのつくりかた"と題したセッションの模様をお届けする。

登壇したのは、タイトー ゲーム開発1部の梅山洋介プロデューサー。

プレイヤーの技量で結果が決まる実力機であるはずのプライズマシンが、なぜ抽選によって結果が制御されている確率機だと勘違いされてしまうのか? その考察を交えつつ、プレイヤーに確率機だと勘違いされない解決法や、プレイ意欲を高めて売り上げを伸ばす(何度も遊んでもらえる)方法を、同氏が携わるプライズマシン「ゲッタースピン」を例に解説していった。


▲タイトー ゲーム開発1部の梅山洋介プロデューサー。

「ゲームセンターに置いてある機械の中に景品が入っていて、うまく操作すると景品をゲットできるもの」と、梅山氏はまずプライズマシンの定義を解説。

現在、風営法対象の店舗で稼働しているプライズマシンは、実力機と呼ばれるプレイヤーの技量により結果が決まる機械のことを指す。

その対極にあるのが確率機。パチンコ、スロットなど技量ではなく抽選によって結果が制御されているもので、当たりの確率が来ないと全く取れない。

梅山氏曰く、「いま、実力機であるプライズマシンが確率機だと勘違いされています。例えば"3000円使わないとアームパワーが強くならず景品が取れない"と、プレイ意欲の低下につながり、売り上げが落ちてしまうという現象が起きていたりもする」という。

では、なぜプライズマシンは確率機だと疑われてしまうのか? その原因について梅山氏は語り始めた。

「プライズマシンは、大きく分けて2種類あります」と梅山氏。一つはクレーンゲーム機(キャッチャータイプ)で、機械の中のキャッチャーメカを操作して景品を掴むなどして落とし口に落としてゲットするもの。

二つ目は、周辺プライズ機と呼ばれるクレーン以外のゲーム機だ。こちらはキャッチャーメカを使わずに、景品が乗ったテーブルを傾けて落とし口に落としたり、紐に吊るされた景品をハサミの形をした機械を操作してゲットするものなどがある。

これらプライズマシンは難易度を設定できるという。

まずクレーンゲーム機は、景品を掴んだキャッチャーメカが落とし口まで移動する際に斜めに動くか、X軸、Y軸で動くかなど、難易度設定できることは以下の通り様々あるそうだ。

そしてクレーン以外のゲーム機では、難易度に関わる挙動/演出の速度や、当たり判定の大きさの変更が可能とのことだ。

「確率機?」と疑われる要因として、クレーンゲームをプレイした時に、しっかり景品を掴んだのにメカが動いている最中スルっと落ちてしまったり、クレーン以外のルーレット機の場合はタイミングが合っていると思ったのに当たりのマスからズレて止まったなどが挙げられる。

これにより、「あれ?おかしいぞ、とプレイヤーは思う。なぜそうなったのか理解できないと強く感じたとき、これって確率で制御されているのでは? と判断する人が多い」と梅山氏。

つまり、プライズマシンをプレイしたときに感じる理不尽さが"疑い"につながるというわけだ。

そのような疑いを持たれる中で、「確率機?」と勘違いさせない2つの手法と実現方法を梅山氏が解説していった。

まず、シンプルにプレイヤーがプレイ時の操作と結果に納得できるようにすることが「一番効果的」(梅山)。

その手法は、自分の操作したタイミングと機械が作用するタイミングにズレを感じさせないようにする。そしてプレイヤーがプレイ時の機械の挙動と自分の操作による作用(影響)を、自分の目で追って理解して納得できるようにすることだという。

「どうすればいいのか?」と考えた梅山氏は、シンプルかつダイレクトに、操作とその作用がすべて目視できるメカトロ制御の機械をつくることにした。そして完成させたのが、プレイ結果に納得して遊べるプライズマシン「ゲッタースピン」だった。

「ゲッタースピン」は、景品が乗った回転テーブルのターゲットに、プッシュロッドを下降させてうまく押し当てるとテーブルが傾き、景品が落ちてゲットできるという機種。今年4月から全国で稼働を開始し、この4ヵ月で「これは実力機だ」ということを証明し、幅広いプレイヤー層と店舗に受け入れられている。

■何度も遊んでもらい売り上げを伸ばす方法とは?

ここから「ゲッタースピン」稼働後の話に。何度も遊んでもらって売り上げを伸ばしていくには、「売上はプレイヤー数(客数)×プレイ回数(客単価)で決まります。よって、この両方を増やすことが重要」と梅山氏。

プレイヤー数を増やすためには、プレイヤーのプレイ意欲を高めることが大切とのこと。

梅山氏は「プライズコーナーの客層は、カップルや友達同士などが多く、遊ぶ時に説明書を読まない。遊び方が複雑だと面倒臭いと感じ、一般的なクレーンゲームに流れていってしまう。それを防ぐための施策として、待機中常にメカが動き続けるようにしたり、モニターでプレイ動画を流し続ける」と良いという。つまり、プレイヤーがひと目で遊び方を想像しやすくするということだ。

加えて、「プレイヤーに、"こうすれば景品が取れるんだ"と自分が成功する姿を想像しやすくさせて高揚感を得てもらうことも重要」(梅山)とのこと。そのために、モニターで景品ゲット時の動画をループで流しているそうだ。

実際、お客さんがモニターの前で足を止めギャラリーができて、通路が塞がり店舗スタッフが交通整理する、という事例もあったという。

プレイヤーがひと目でお得感を得られるようにする。「これがかなり重要」とは梅山氏。プライズは夢を売る商売なので、どれだけお客さんに夢を見せられるかが売り上げに直結するという。

その具体的な手法については、プレイヤーにとって高い価値のある景品(人気IPのグッズなどの高単価景品)を置いたり、プレイエリア内の景品密度をおかしやカップ麺などの低単価景品を置いて高めるというもの。

ぎちぎちに景品を詰め込み、当たりを引いたら全部手に入れられてお得と思わせるこの手法は、実店舗で運用実験を行ったという。

「密度を高めるために、景品を置くテーブルを2段にして単純に密度を2倍にしました。その結果、実際にお客さんがゲットできる景品量はそのままの状態で、プレイヤー数が最大150%増えた」と梅山氏は振り返った。

続いて、プレイ回数を増やす方法だが、梅山氏は「テクニックが向上(攻略)していく楽しさを感じられるようにする」こと。そして、「景品を取った時(攻略できた時)に達成感を得られるようにする」とした。

どうすればいいかというと、プレイに関わる挙動を目で追えるようにして、お客さんがプレイ内容に理解と納得感を得られるようにすることが重要とのこと。

「ゲッタースピン」においては、挙動に関わる設定はまずプッシュロッドの初期位置の高さ、プッシュロッドの下降速度、テーブルの回転速度を設定できるので、それを踏まえて攻略していくという。

プレイヤーは実際に何が遅いか、早いか理解しながらタイミングを調整し、徐々にスキルを向上させながらプレイして、最後に景品をゲットできるようになっている。「これができると、プレイ回数がどんどん増えていく」と梅山氏は語った。

さらに、「惜しい!あともう少し!」と思わせるものをつくることも重要。当たりをギリギリはずした時に景品が少しだけグラグラ動くようにすることがポイントで、それを見た時に「惜しい!」「あともう少し!」という気持ちにさせるという。

加えて、当たりをはずしても、小さな当たりとして景品をゲットできるようにする仕組みも。

小さな当たりは、ターゲットをかすめてテーブルが少し傾いた際に景品が1~2個落ち、大きな当たりでは3~4つ落ちる。これにより、「いま惜しかったけど、次ドンピシャのタイミングならもっと得できる。ここに気付いたお客さんは、プレイを重ねてくれるようになる」(梅山)。

そして、初心者でもギリギリターゲットを擦ることができそうな難易度にすることも忘れてはならない。

「結局、ターゲットをはずしてばかりで、"もうダメこの機械じゃ絶対景品とれない"とお客さんに思わせたてしまったら負けです」と梅山氏。そこでターゲットを擦ったときの挙動を、ドンピシャで押せてないけどかすった時に少しテーブルが傾いて、景品も揺れるようにする。そうすると、「あともう少し!」という感情になるわけだ。

「ゲッタースピン」はプッシュロッドの高さを調整できるので、「なるべくターゲットに近い位置に設定するといい」とアドバイスした梅山氏。また、店舗側として、これだと景品を取られすぎて原価割れするという場合は、テーブルの回転速度を調整すると、うまい具合に煮詰まった難易度になるとのことだ。

次に、小さな成功体験をつくってプレイ意欲の低下を防ぐ施策について。

こちらは、当たりで落とせる景品とは別に、当たり以外でもゲットできる小さな景品を用意するというもの。その景品は飴など小さいものを散らせて置き、少しでもテーブルが傾くとポロポロと落ちる景品を用意するといいそうだ。

梅山氏曰く「これにより、一人あたりのプレイ回数が増え、最大で売り上げが1.5倍になった」とコメントした。