【ブシロードTCG戦略発表会2021秋 事前特集1】 東大生作家が分析! カードゲームデザインの裏側

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こんにちは、西岡壱誠です。僕は高校2年生まで偏差値35でただのカードゲームオタクだったのですが、一念発起して2浪の末に東京大学に合格。今はその経験を買ってもらい『東大読書』などの書籍を執筆したり、東大受験をテーマにしたドラマ『ドラゴン桜』の脚本を監修したりと、さまざまな活動をしています。

僕は偏差値35の時からずっと変わらずカードゲームが好きなのですが、東大生になってみて、さまざまなプロジェクトに触れ、改めて考えてみると「ああ、このカードゲームってすごく頭のいい人が作っているんだろうな」と感じることがあります。

そこで今日はTCG(トレーディングカードゲーム)メーカーの雄・ブシロードさんご協力のもと、カードゲームのゲームデザインを一手に引き受ける有限会社遊宝洞(ゆうほどう)さんに取材しました。

インタビューに応えてくれたのは、代表の中村聡さん、スタッフの笹沼希予志さん、中尾宗也さん。みなさんTCG界でプレイヤーとしてもゲームデザイナーとしても多くの実績を残されてきた方々です。今回はブシロードTCGを創り上げてきた3人の方々に、ブシロードTCG3タイトルのゲームデザインについてお聞きしました。

 

ヴァイスシュヴァルツ

 

「ヴァイスシュヴァルツ」は、2008年に第1弾が発売されたブシロード初のトレーディングカードゲーム。さまざまな作品の主人公やヒロインなどキャラクターが一堂に会し、100以上のタイトルが同じ舞台でファイトする、“超エンターテイメントTCG”です。ルールとしては、相手を攻撃してダメージを与え、7枚ダメージを与えたら相手の「レベル」が上がり、相手のレベルを4にしたら勝ち、というものになっています。

ヴァイスシュヴァルツで僕がおもしろいと思ったのは、「クライマックスカード」と呼ばれる横向きのカードです。

クライマックスカードの数ある効果のひとつとして「ダメージを受けるために自分の山札をめくっている際にクライマックスのカードが出たら、そのダメージをキャンセルすることができる」というものがあり、この「キャンセルできるか?できないか?」というハラハラ感こそが、大きな楽しみのひとつになっています。

遊宝洞:ヴァイスシュヴァルツはさまざまな作品の世界観をカードで再現して、同じ舞台でぶつかり合うことが基本のゲームコンセプトとしてあります。ではその作品の見せ場はどこにあるか、キャラクターが輝けるかというと、やはり“物語のクライマックス”にあると思ったんです。そしてもうひとつ、ブシロードさんから、『周囲の人たちも見ているだけで盛り上がれるようなギミックを作ってほしい』というオーダーがありました。

これはプレイヤー間の戦いを考え続けていた僕達にはなかった視点で、2つのことを考えました。まずは膠着状態が続くよりも、好きなキャラクターたちがどんどん戦ったほうが周囲は盛り上がるから、とにかく攻撃(アタックする)ことが得になるゲームシステムにしようということ。

そして“クライマックスカード”は作品の見どころのシーンが描かれた最大の切り札として、どんなに劣勢でも出たら逆転が起こるかもしれない、そのハラハラ感が楽しめるギミックにしたらどうかなと。そうして、“クライマックス”がヴァイスシュヴァルツというゲームを左右する要素に出来上がったんです。

つまり、ルールとしての運の要素もそうですが、「キャラクターがどうやったらファイト上でより輝くように見えるか」という“周囲からの見えられ方”を重視している、ということになります。また、このような運の要素が強いシステムが搭載されてはいても、それがゲームのおもしろさを損なわず、むしろ運の要素がゲームを引き立てています。

ヴァイスシュヴァルツのゲームデザインを考えている際に想定されたのは、実は麻雀だそうです。麻雀は実力だけではなく運の重要性も強く、周囲も盛り上がりやすいゲームとして人気を集めています。

そして運要素が何より重要なのが、“初心者でも勝てる期待”があるということです。例えば囲碁や将棋などのトッププロと僕が戦っても、勝てる可能性はほぼゼロパーセントです。ですが麻雀ならば、配牌やツモ次第で「もしかしたらトッププロでも勝てるかもしれない」という期待感を持たせてくれます。

その上で、ヴァイスシュヴァルツはクライマックスに至るまでの戦略も多く用意されていて、勝てるプレイヤーのデッキ構築(今はデッキ圧縮と呼ばれる技術が重要とされていますが、今回は省略します)も明確にあることで、初心者と玄人が両方楽しめるゲームになっています。

「勝ったら実力、負けたら運が悪かった」。

こう考えられて、負けても「もう一回遊ぼう!」と言いたくなるわけです。僕もヴァイスシュヴァルツでよく遊ぶのですが、そんな絶妙なゲームバランスを実現していると、毎回感心しながらプレイしています。

カードファイト!! ヴァンガード

 

「カードファイト!! ヴァンガード」(以下、ヴァンガード)は、ブシロード初のオリジナルTCG。2011年にスタートし、今年で10周年を迎えました。

ゲームとしては、“ヴァンガード”と呼ばれるプレイヤー自身を現す主人公カードと呼べるような役割のカードを1ターンずつ成長させていきつつ、相手の“ヴァンガード”に6点のダメージを与えた方が勝ち、というルールになっています。

ヴァンガードは、僕が高校時代からプレイしている思い入れのあるゲームです。“シャドウパラディン”というクラン(属性のようなものです)で、クランの特性である相手を退却させて戦っていたのはいい思い出です。

ヴァンガードの特色のひとつは、「主人公カード(ヴァンガード)がずっとフィールドに残り続ける」と言うことです。多くのカードゲームはゲーム開始時にはフィールドに誰もおらず、そこからモンスターやクリーチャーを召喚し、戦っていきます。そしてそのカードがバトルで負けたら、フィールドを退場しますよね。

しかしこのゲームでは、ヴァンガードはゲームスタート時には「ファーストヴァンガード」として配置されて、成長し、どれだけ負けてもずっと退場はしません。他のTCGではカードがどんどん退場し、盤面を取り合う(=相手の盤面をゼロにちかい状態に持っていくことで勝つ)という概念が存在していますが、ヴァンガードはそうではなく、「ヴァンガードvsヴァンガード」というバトルがずっと繰り広げられます。

これは一体、どうしてなのか? それは原作者・伊藤彰さんの思いをカードゲームとして表現するということが強く意識されているのだそうです。

「先導するもの」という意味のヴァンガード。プレイヤー自身を示すヴァンガードが、誰よりも一番前に立つ姿を出したい。一緒に前に出て戦い、誰よりも傷つき、誰よりも戦い、ファイトする。それがプロジェクトを立ち上げたとき、伊藤さんから提案されたコンセプトだったそう。

そしてもうひとつおもしろいのは、このコンセプトが基本的に攻撃した方が得であるというゲームシステムの根幹も成している、ということです。

これはマーケティングとして、「大人だけではなく、子供もより楽しめるようにする」という願いが意識されていたからだと言います。攻撃しないという戦略の幅を楽しむゲームではなく、ストレスなく気持ちよくバトルすることが正解になる、というシステムが意識されていたのだそうです。ヴァイスシュヴァルツと同じ要素でありつつも、違うアプローチなのが興味深いですよね。

そしてゲームシステムを作る中で一番苦労したのは、伊藤さんの世界観から少し逸脱してしまうかもしれないけど、ゲーム的に絶対に必要な要素を入れるということで、それは「ヒールトリガー」が最たるものだったそうです。

ヒールトリガーは、特定の条件で受けたダメージを回復することができるカードですが、これがあることでゲームとしては最後までさらなるハラハラドキドキが生まれることになります。たとえ5ダメージ食らっていても、もう1ダメージ食らうときにヒールトリガーが出れば、敗北を回避できるのです。

だからゲームの長い間、「まだ勝てるかも」、と言う状態を維持することができます。この部分こそ、遊宝洞さんのゲームデザインの哲学が垣間見えます。

遊宝洞:ゲームというのは、“自分もまだ勝てるかもしれない”と思えるような時間がいかに長いか“が大切な要素のひとつです。だからヒールトリガーというギミックをぜひ入れたかったんですが、それは漫画を描く伊藤先生に多大な負担を強いることでもありました。

漫画では主人公に気持ちよく勝ってほしいシーンでも、ヒールトリガーを確認するまで勝利宣言できなくなってしまいます。にも関わらず、伊藤先生にご了解をいただき、ルールとして採用することができました。

この「まだ勝てるかもしれない」という運の要素と実力の要素の融合も、ヴァイスシュヴァルツとも似ていますね。

そしてヴァンガードは今年『overDress』と世界観がリニューアルし、ゲームシステムにも大幅な変更が加えられました。ゲームシステムとしての最大の変更点は「確定ライド」というシステムで、それは「最初のターンで手札にカードがなくヴァンガードを成長させられない」という「ライド事故」を防ぎ、自分が思い描く理想の成長を実現できるようにする、という意図があったそうです。

僕も経験があるのですが、「ライド」というシステムは運の要素があり、ライドできないといつまでも自分のヴァンガードが弱いままで、最初から「この試合は勝てないな」となってしまうことがありました。それがこのシステムで、確定でヴァンガードを強くできるようなりました。ここでは運の要素を減らすことで、ゲームをより楽しくすることができるという決断だったわけです。

他にもクラン制が国家制に変わるなど、大きな変更点が加えられたヴァンガードですが、これらのゲームシステムの変更へと至るまでにはやはり遊宝洞さんとブシロードさんの間で、多くの議論が交わされたそうです。

遊宝洞:今回の『overDress』では、伊藤先生の変わらない基本コンセプトのもとに、これから10年20年ヴァンガードを続けていくためにも、ゲームデザインも何も今の時代に合わせて変えるべきところは変えていきたいんだ、というブシロードさんの熱意がありました。

でも例えば料理が塩を足したら同じ量の砂糖を入れればバランスが取れるのか、というとそうではないように、カードゲームでもひとつのことを変えるということは、全てのものが変わっていきます。だからどこが変わった? と言われると“すべて変わった”としか言えなくて、ゲーム部分だけじゃなくて放送されているアニメも何も、すべてそうだと思います。そしてその熱意があったからこそ、僕らも大幅に変更するという決断ができたんです。

あらゆる人にそれぞれのヴァンガードへの思いがあるなかで、その最大値を取ってユーザーと向き合っていく。遊宝洞のみなさんの言葉には、ヴァンガードという作品への強い思いを感じました。

「Reバース for you」

 

「Reバース for you」(以下、Reバース)はヴァイスシュヴァルツと同じく、さまざまな作品が参戦タイトルとして一同に集う“オールスターTCG”です。基本のゲームシステムは「エントリー」と呼ばれる場にあるカード同士が戦い、相手の「リタイア」を7枚にできれば勝ちというルールのカードゲームで、エネルギーを貯めて、それを使ってキャラクターを出し、次々と戦うというものになっています。

元々Reバース は「サンデーVSマガジン トレーディングカードゲーム」「ヴィクトリースパーク」というTCGの後継カードゲームとして誕生しました。

遊宝洞:熱心なユーザーさんが多くいてくれるTCGだったんです。ブシロードの方々も常にチャレンジングな試みをしてくれていたのですが、その精神はReバースにもちゃんと受け継がれています。ゲーム性もブシロードTCGの中では一番じゃないかというぐらい、スピーディーで派手に動くゲーム性ですね。

Reバースの特徴として、戦いに敗れるなどして「エントリー」のスペースが空いたら、手札からではなく山札から「エントリー」に新しくカードを置くという「エントリーイン」という仕組みがあります。この「エントリーイン」は非常に強力で、発生するたびに劇的に戦況が変化し、常に何が起こるかわからないドキドキにあふれたゲーム性が実現されています。

こうした派手な展開とスピーディーなゲーム性が両立した結果、負けた人が「もう1回やろう!」と言いたくなるゲームになっています。僕も経験がありますが、1回のファイトが10分ほどで終わることがあるほどです。

遊宝洞:Reバースは自分が育てたデッキがどんどん動いて戦っていくので『さてどういう展開になるかな』って自動進行的なハラハラ感を楽しめることも大きな魅力です。だから、たとえばプログラミングやシミュレーションゲームが好きな人はReバースも好きになるんじゃないかなって思います。

ここで「プログラミング」や「シミュレーション」と聞くとガチガチな戦いを想像する人もいるかと思います。しかし、Reバースはガチガチとは真逆の特徴も持っています。それが表れているのが「スタンバイフェイズやメインフェイズで行うことの順番が、厳格に定められていない」というルールです。

他のカードゲームでは「まずカードを引き、次にスタンバイフェイズに入ってこういうプレイをして、今度はメインフェイズでこんなことをして……」というのが厳格に定められています。ですがReバースはそうではなく、フェイズ内ではどの順番でどうプレイしても自由、となっています。これは一体なぜなのでしょうか?

遊宝洞:新しい時代に合わせてReバースを作ろうとしたとき、もっといろんな人に遊んでもらうためにやっぱり変えられるところは変えていこう、と。その中の一例として、もし進行ルールがガチガチに決められているところにハードルを感じる人がいるなら、もっと“ゆるい”ルールにしてもいいんじゃないかという提案があったんですね。

プレイする方が気持ちよくプレイできるのが何より大切で、Reバースは『やっぱり自分のターンが来たらまずドローしたい』といった心理的なものを優先させられるというか、それが正しいルールになるようデザインされています。

多くの人に遊んでほしいという思いこそが、他のTCGにはない自由さを得たということはとても興味深いことです。そしてその自由さは、今やTCGの情報を伝える手段として切っても切り離せない動画やWeb配信番組でも、さらに良い効果を生み出しましています。

遊宝洞:最近は公式の動画やWeb配信で声優さんがプレイされたり、ユーザーさんがプレイ動画を上げていただいたりすることがあります。その中でも、『ルール通りじゃない』なんてツッコミを心配することなく、気持ちよくプレイしていただけると嬉しいですね。 

 

Reバースは現在、初心者講習会をWeb配信で定期的に行うなど、その特色を活かした試みを数多く行っています。そのファイトはまさに“配信向き”になっているんですね。

“おもしろさの総量”を増やすために「このゲームで何を楽しんでもらうか」を考え続ける

今まで紹介したTCGに共通しているのは、「どうやっておもしろいと思ってもらうか」という仕組みを本当に多く考えているということでした。遊宝洞のみなさんは、“おもしろいTCG”に共通する要素について、ひとつパターンを挙げてくれました。

・ターンが進むごとにやれることが増えていく
・しかし情報量が増えすぎたり減りすぎたりはせず、一定量で増え続ける
・なるべく長い間「勝てるかも」「逆転できるかも」という時間が味わえる

これらのパターンは世界最大のTCG「マジック・ザ・ギャザリング」から脈々と受け継がれている要素で、この基本を踏まえた上で「このゲームで何を楽しんでもらうか」という製作者たちの思いが掛け合わせられることで新しいTCGが生まれるという考えもあるということでした(逆に、あえてこの基本を外すTCGもあるそうです)。

その中でブシロードTCGが共通して楽しんでもらおうとしていることは「運の要素」や「相手に攻撃(アタック)することが基本的に得になる」といった要素を掛け合わせることで、「初心者と熟練者が同じ場で戦えて、それをみんなが見て楽しめる場を作り上げる」ということではないかな、と思いました。それはまさに“ブシロードTCGらしさ”というものではないでしょうか。

初心者でも勝てる可能性があるし、実力者もその運だけで負けることのないように戦えるようにゲームをデザインしたり、逆に運の要素が強すぎるポイントを調整することで長い時間「まだ勝てるかも!」と思える余地を残せるようにしたり、ルール自体も時代に合わせて作ったり、変更したり……。僕が感じたのは、遊宝洞のみなさんは、ルール1個1個に対して、本当に多くのことを考えながらゲームを作っているということでした。

最後にすべてのゲームデザインに共通する哲学について、最も印象に残った言葉を紹介します。

遊宝洞:私たちゲームクリエイターは、『おもしろさの総量』を増やすのが仕事だと思っています。遊んでくださる人だけでなく、横で見ている人も楽しめるならずっといいですよね。だから、運の要素を入れることでワーワー騒ぎながら楽しめるゲームにして、横にいる人にも楽しそうだなと感じてもらったりして、色々な角度から『おもしろい』と感じてもらえるものを、目指していきたいと思います。

“『おもしろさの総量』を増やす”という言葉に、ゲームデザインが目指すべきものが詰まっている。そう感じました。

 

西岡壱誠Twitter
https://twitter.com/nishiokaissey

遊宝洞公式サイト
https://yuhodo.jp/

9月12日に「Reバース for you」のWeb講習会を開催予定。
https://rebirth-fy.com/events/teaching_online/

9月14日にはブシロードTCGの最新情報が一挙に公開される「ブシロードTCG戦略発表会2021秋」を生配信予定です。
https://bushiroad.com/presentation2021a

 

文・西岡壱誠

株式会社ブシロード
http://bushiroad.com/
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会社情報

会社名
株式会社ブシロード
設立
2007年5月
代表者
代表取締役社長 木谷 高明
決算期
6月
直近業績
売上高487億9900万円、営業利益33億8500万円、経常利益45億300万円、最終利益20億5000万円(2023年6月期)
上場区分
東証グロース
証券コード
7803
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