エンタメ領域のプロデューサーとして、そしてエンタメ社会学者として活躍する中山淳雄氏が先月上梓した『推しエコノミー 「仮想一等地」が変えるエンタメの未来』が好評だ。アマゾンベストセラー1位を記録し、早くも増刷が決定した。当サイトでも「推しもオタクもグローバル」を連載している中山氏だが、出版記念特集として、著者インタビューとともに新型コロナで変質したエンタメ業界の現状と展望を語ってもらった。第1回目となる今回は、著作を書いた経緯とともに、ブシロードでの経験について話を聞いた。
――:今回の著作、大変好評ですが、どういった問題意識から書かれたのでしょうか。
今回で6冊目の書籍になりますが、ブシロードでの経験をまとめた『オタク経済圏創世記』の続編ともいうべき本です。『オタク経済圏創世記』を書いた経緯について、まず簡単にお話しておきます。私自身、海外でゲーム関係の仕事をすることが多かったのですが、ブシロードでは、ゲームにとどまらず、アニメやマンガ、イベントなど横断的にコンテンツに関わることができました。そこで学んだこと、体験したことをベースに考えたことをまとめたものです。
今回の著書は、そのアップデートとなります。前作では、日本のマンガやアニメ、ゲームは実はすごいものだと伝えたかったのですが、その時から状況が大きく変わりました。その最たるものは、新型コロナの感染拡大です。それとともに、コンテンツ業界において中国のコンテンツが台頭してきました。これから我々はどうするべきなのか、私自身の考えをまとめたのが今回の本となります。
――:アニメの製作委員会の話など基本的なことも紹介されていて、エンタメの教科書としてもとても面白いと思いました。詳しい仕組みはわからなかったので勉強になりました。
教科書としても良いというご意見は、佐渡島庸平さんにもいただきまして、本の帯にも書いていただきました。私としてもアニメのビジネスをちゃんと理解してもらいたいと思いました。これはブシロードで学んだことでもあります。アニメがすごいと伝える前に、製作委員会は、アニメのビジネス構造やキャラクター作りの基礎となる部分ですので、業界外の方にもわかるように、できる限り丁寧に書きました。
――:アニメの製作委員会について、きちんと解説している本って少ないですよね。
う~ん、そうかもしれませんね。特に経済的な仕組みや最近の広がりなどについて触れている本は少ないように思います。ゲームとマンガについては前作で書きましたので、今回はアニメについてもきちんと書いていきたいと思っていました。
――:アニメの製作委員会って、よくクリエイターを搾取する存在として批判されることもありますが、多分に誤解されているように思います。
はい。これは日本に限った話ではないのかもしれませんが、資本家と労働者を対立項に置きたがるし、労働者側につきたがりますよね。これは国民性かもしれません。そんな単純な話ではありませんし、この本を通じて、エンタメ発だけど、全産業に日本の特徴を捉えた産業を理解してもらいたいと思って書きました。
――:本のタイトルにもなっていますが、「萌え」から「推し」ですが、「推し」という単語がすごく一般化したように思います。私自身、「推し」という言葉をみたのはAKB48あたりで、そこまで一般的ではなかったように思います。
ええ、「推しメン」ですね。「推し」という単語自体は、実は1980年代くらいからあった用語なんですが、有名になったのはAKB48あたりかもしれませんね。総選挙の中で自分が誰を推すか、といった文脈で使われていました。意味合いは少し変わっていて、ハイブリッドになってきたように思います。
アイドルオタクの「推し」についてはまだ一般的ではなかったように思います。宝塚やイケメンの「推し」などニュートラルな意味合いを帯びてきて、対象がすごく広がったように思います。
かつての「萌え」は、人を排除、あるいはセレクトしてしまうものだと思います。いまの「推し」って、男女や年齢を問わず、誰かを支援したり、一緒に成長したりという気持ちがあるので、これまでのサブカルチャーとの意味合いが違ってきます。社会的にも認められる行為ではないかと思います。
――:たしかに最近の「推し」の使い方を見ると、以前のそれと異なり、閉じた感じはしないですよね。カジュアルという言い方は少し違うんでしょうが。
最近、「推し」のないことが恥ずかしいのではないか、と思うようになりました。「推し」はなんですかと聞かれて、何かにかけていないなと感じてしまうんです。皆に聞くと、マンガのタイトルなどを挙げられることが多いですね。個人的にはマンガでは『葬送のフリーレン』を推しています。「推し」は、全然仕事と違うことで自分を生き生きとさせること、ポジティブなことです。「推し」がないということは、趣味がないことと、プライベートがないことに近い印象を与えるものになっています。それくらい一般的になっていると思います。
――:本を書く契機になった、中山さんのブシロードでの勤務を通じて学んだことはどういったことだったのでしょうか。
起業の面白さですね。木谷高明さんとお仕事をさせてもらいましたが、起業家と仕事をしたのは初めてなのです。今までの会社はサラリーマン経営者が多く、そのなかで経営企画やコンサルタントのように立ち回ることが多かったんです。どうやったらヒットさせるか、過去のサンプルを集めて、成功事例を分析したり、最近のトレンドを理解したり、数学の問題を解くようにものづくりをしてきました。
それに対して木谷さんは、そういった定石を理解した上であえて外してきます。世の中こうなっているからしばらくここは空いている、見てないところをみようとすることが自然にできている。とてもクリエイティブに経営されていると思いました。
サラリーマン経営者と話しているときは、言葉の世界、ロジックの世界で生きてきましたが、木谷さんは説明すると、「皆はこうやっているということだね」、「どうやったら皆がびっくりするかな」「世の中から注目を集めるにはどうしたら良いかな」など、クリエイター発想で起業していると感じます。クリエイターのように起業するのが起業家です。自分のように分析して皆を一つの方向に向かせるのが事業家のやることで、その違いをすごく感じました。
■中山淳雄氏略歴
エンタメ社会学者&早稲田MBA経営学講師。リクルートスタッフィング、DeNA、デロイト、バンダイナムコスタジオ、ブシロードを経てRe entertainmentを創業。エンタメ社会学者として研究する傍ら、メディアミックスIPプロジェクトのプロデュース・コンサルティングに従事している。東大社会学修士、McGill大経営学修士。新著『推しエコノミー 「仮想一等地」が変えるエンタメの未来』を10月14日に上梓し、アマゾンベストセラー1位を記録し、早くも増刷が決定した。
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会社情報
- 会社名
- Re entertainment
- 設立
- 2021年7月
- 代表者
- 中山淳雄
- 直近業績
- エンタメ社会学者の中山淳雄氏が海外&事業家&研究者として追求してきた経験をもとに“エンターテイメントの再現性追求”を支援するコンサルティング事業を展開している。
- 上場区分
- 未上場