【特集】『推しエコノミー』中山淳雄氏インタビュー 雑種の中でうまれるクリエーターを制度的に生み出す仕組み

木村英彦 編集長
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エンタメ領域のプロデューサーとして、そしてエンタメ社会学者として活躍する中山淳雄氏が先月上梓した『推しエコノミー 「仮想一等地」が変えるエンタメの未来』が好評だ。アマゾンベストセラー1位を記録し、早くも増刷が決定した。当サイトでも「推しもオタクもグローバル」を連載している中山氏だが、出版記念特集として、著者インタビューとともに新型コロナで変質したエンタメ業界の現状と展望を語ってもらった。今回は、多様なクリエイターをどう生み出していくのか、その方策について話を聞いた。

――:本書の中ではコンテンツにおけるキャラクターの重要性についても触れられていました。最近の話ですが、バンダイナムコグループは、玩具やゲーム、アニメ、フィギュアなど別々に動いていたものをIPを軸にして連携を強化しようとしています。

バンダイナムコグループは、もともと分権化への意識が強く、それぞれの企業が自分たちの最適化を考える文化が強かったように思います。統合的にディズニー型にしたいという考えはあるのかもしれませんね。かなり前向きな動きで、非常に興味深いですね。これは前著で書いたことですが、マンガ・アニメ・ゲームのハイブリッド時代なんですよね。IPファーストでマンガとアニメ、ゲームが並行で進めていく、ということです。

キャラクターで経済圏を作るのは、当たり前のようにやっている会社って、実は少ないんですよね。版権元やファンからするとどの商品も同じその作品に関するものなのに、IPの最大化という観点からは実はあまり考えていません。

バンダイナムコグループでチーフパックマンオフィサー、チーフプラモオフィサーをつくったように、一つ一つのゲームやプラモといったセグメントではなく本当の意味でIPとファンのつなぎを考えなくてはいけない時代にはいっていると思いますね。

――:あるゲーム会社の人と話していたとき、ゲームの仕組みの模倣は可能だが、キャラクターや世界観は難しいという話を聞いたことがあります。うっかり先行事例が出てヒットしてしまうと、ものすごく叩かれて大変だと。

例えば、これから大正時代で剣劇ものといったら、『鬼滅の刃』のフォロワーかと思われてしまいます。作ろうとしているモチーフでドミナントになっているものがあると、意識的に外す必要があるでしょうね。クリエイターにとっては大変な時代になりました。普通のビジネスはどう真似するか、スピードが大事ですが、クリエイティブな領域ではいかに違いを出すかが大事です。考えれば考えるほど、とらわれてしまって、うまいものが作れなくなってしまうことがあります。ある程度、情報を遮断してクリエイティブに集中する必要があるときもあります。


――:かといって全く遮断してしまうと…。

現実から離れたことでものすごい作品ができあがる可能性があると感じています。アウトサイダー・アートというものがありまして、その代表作家であるヘンリー・ダーガーの作品の中には、顔が大人の女性、上半身が子ども、下半身が男児で構成された人物といったような常人にはとても理解しがたいものができてしまうこともあります。ダーガーは、女性を知らなかったんです。作り手の境遇を想像して涙が出てきました。アートとしては人の心を揺さぶる素晴らしい作品ですが、エンターテインメントではないですよね。

――:中山さんの本を読みながら、日本はどうしていくべきなのかと考えていました。結局の所、作り手の「作りたい」という発露を大事にすべきなのかなと感じました。

日本は考えすぎていると思うんです。もともとクリエイターは、ある意味、社会の枠に収まらない人がなるものだと思うんです。起業家などもそういえますよね。東大から国一行きます、弁護士になります、などのルートに乗れば乗るほどクリエイターから遠ざかるはずです。起業も同様です。それなりの成功が、それを「成功だ」ととらえてしまうことが、確変を阻害してしまう。クリエイターは、ランダムウォークの群れのなかで、偶発的に生まれるものです。

編集者やプロデューサーを育てる必要がありますが、日本型の制作スタイルを海外の人と一緒にできるかどうかが大事になってくると思います。これが脱皮のキモだと思います。日本の詰め文化や他の人と一緒に連携してやっていくことを日本人以外のクリエイターとできるかどうかを意識的にやっていく必要があると思います。おそらく海外でも日本にいるようなクリエイターは存在しているはずです。

日本で漫画編集者がやっているように、魂の叫びのような作品作りをしているアメリカのクリエイターを日本人がプロデュースして、日本的だけど少し違ったアニメを作る、海外とのハイブリッドが必要だと思います。海外のユーザーにおもねるものをつくる、というものとは異なります。ある意味、ディズニーが絶対に使わないような、アメリカのクリエイティブな業界から外れてしまうような人を拾っていくべきだと思いますね。



――:これまでのやり方を踏襲しても限界が見えてきて、そのなかで新しい血を入れる、ということでしょうか。

日本人って、内部に入れ込まないとなかなかその人を協働しづらいという難しさがあります。京都精華大学で初めてアフリカ人の学長が誕生しましたが、20年間、京都に暮らしているからこそ就任できたと思います。移民を入れる必要があるのかもしれませんね。外国から来た人だけど半分日本人といった気質を持った人です。編集者やプロデューサーが海外にでかけなければならないですし、外から来た人が根付いて日本人のように行きてくれることが大事です。門戸の開き方を考え直す必要があるかもしれませんね。

――:純血よりも雑種のほうが頭が良くて元気だといいますよね。

純血って、特化したものは強みとして作りやすいんですよね。しかし、純血種が強すぎると、環境変化に耐えられなくなることはよく言われていますが、これは社会としてもそうなるのかもしれませんね。

 

今回で書籍出版特集の最終回となります。これを記念して、抽選で5名に『推しエコノミー 「仮想一等地」が変えるエンタメの未来』(中山さんのサイン入り)をプレゼントする企画を行います。(後ほど記載)

 
 
■中山淳雄氏略歴
エンタメ社会学者&早稲田MBA経営学講師。リクルートスタッフィング、DeNA、デロイト、バンダイナムコスタジオ、ブシロードを経てRe entertainmentを創業。エンタメ社会学者として研究する傍ら、メディアミックスIPプロジェクトのプロデュース・コンサルティングに従事している。東大社会学修士、McGill大経営学修士。新著『推しエコノミー 「仮想一等地」が変えるエンタメの未来』を10月14日に上梓し、アマゾンベストセラー1位を記録し、早くも増刷も決定した。

 



 

会社情報

会社名
Re entertainment
設立
2021年7月
代表者
中山淳雄
直近業績
エンタメ社会学者の中山淳雄氏が海外&事業家&研究者として追求してきた経験をもとに“エンターテイメントの再現性追求”を支援するコンサルティング事業を展開している。
上場区分
未上場
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