【連載】中山淳雄の「推しもオタクもグローバル」第17回 カカオピッコマが出資する日本第一号の“NFTクリエイター事務所”Mintoの軌跡(1)~wwwaap中川元太の場合~

中山淳雄 エンタメ社会学者&Re entertainment社長
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2021年韓国Kakao子会社の日本法人であるカカオピッコマは、単体で時価総額8千億をつけるほど成長し、Webtoonという新しい市場を形成している。その新進気鋭の企業が5/10に出資を発表したのが、2021年に統合して新設されたマンガ広告とWebtoonとNFTの「Minto」である。今回、新生MintoとなったwwwappとQuan、2社の創業者に話を聞いた。まず第一回はwwwappの創業者中川元太氏である。


■入社3年札幌でのドブ板営業、次の3年は漫画家発掘のドブ板営業
――:自己紹介からお願い致します。

中川元太と申します。いままでwwwaap(ワープ)というSNSマンガ広告の会社を創業してきましたが、2022年にQuan(クオン)社と合併して新たにMinto社の取締役になります。

――:今回はWebtoonのお話がメインですが、その前に中川さんの前歴が大変興味深く、サラリーマン時代、起業時代、合併してWebtoon目指す現在の3段階に分けてお話をきければと思います。最初はセプテーニに入社なんですよね?

はい、広告代理店セプテーニに2010年に入社しまして、最初の3年は北海道に赴任となりました。名古屋出身だったので、縁もゆかりもない地方支社からのスタートです。現地にいったら所長1人と自分の2人所帯でした。

――:もう入社3年目では札幌支社長になっているのですよね。中山も人材派遣会社出身で地方営業の悲哀を実感してましたが、特にデジタル広告中心の商材を地方で売るって、なかなか厳しいですよね?

まさにその通りで、同期と比べた時に1桁も2桁も低い営業成績で、しかも2010年当時だとそもそもデジタル広告という概念自体がまだまだ浸透していません。当時おこなっていたセミナーが「ホームページを持つメリット」でした(笑) まずはHPをもってもらうところからのスタートという会社すらあり、完全にゼロイチの営業でした。

――:2010年にホームページ!?たぶん工務店とか観光業者とかそういう会社さんも多いですもんね。

隣の八百屋で野菜を売っている横に立ちながら営業とかしていました(笑)。ただ悪いことばかりじゃなくて、地方だからこそ新規の企業数も多くて、初年度で新規受注社数の歴代記録を作れました。単価は低いし営業成績としては東京の比ではなかったですが、せめて数で結果を残さないと社内の誰からも認識すらされないと思ったので(笑)

あと当時の北海道はインバウンドが盛り上がってきており、スキー場のアジア・オーストラリア向けの広告出稿を手掛けさせてもらったたり、クライアントだった漁業組合の担当者がドバイでの魚販売を兼務してたりと、実は現在につながるような「海外でビジネス」にふれる機会が何度もありました。こうした経験が「海外でビジネスしたい」という布石になっています。

 

――:中川さん、口癖が「グローバルで勝てる日本作品」ですもんね(笑)。新卒のこの時期から、グローバル向けビジネスにこだわりがあったんですか?

当時たった1人の先輩だった上司がシンガポール法人の立ち上げに行くことになったことも影響して、海外で通用するビジネスをすることをかなり意識するようになっていました。その中で、facebookやTwitterなど海外プラットフォームが日本でも覇権を握っていく中で、条件的に日本発であればコンテンツ、それも世界的に評価されてる漫画・アニメ、伝統芸能、食などで勝負すべきではと考えるようになりました。

――:2013年春にセプテーニはマンガアプリ事業を始めます。

最初はアプリではなくて、マンガ家版ベンチャーキャピタル(VC)事業だったんです。まだ羽ばたいていないマンガ家さんたちを探して、投資して、デビューしてもらおうと。セプテーニ社長の佐藤さんが相当マンガが大好きな人で、「あれだけビジネスの慧眼がある佐藤さんが目をつけるくらいだから、相当有望だろう」と社内公募にも50人くらい集まったと聞いてます。自分としてもこれはひそかにテーマにしていたサービスだ!と速攻応募しました。結果的に2人の初期メンバーに選ばれ、東京に行き、社長直轄でGANMA事業が始まりました。

――:当時はマンガアプリ市場はどういう環境だったんですか?

無かったです。マンガアプリというもの自体がなくて、2013年夏ごろからマンガアプリを立ち上げはじめ、同時期にちょうど始まったのがNHNのComicoと、DeNAのマンガボックスでした。そこに数か月遅れて13年末に「GANMA!」がスタートしています。

――:出版社の「漫画Webサイト」自体が2012年ごろになってようやく創刊ラッシュ、の時代ですもんね。『マンガワン』や『ジャンプ+』『マガポケ』などが出てきて、「マンガアプリ」が市場として隆盛するのは、そこから1-2年して2015年ごろですかね。でも漫画と縁もゆかりもないセプテーニが漫画家を募集するのは、どのように集めるんですか?

普通に専門学校にいって描きたい人に声かけたり、ウェブ上で読めるマンガを片っ端から読んで直接声をかけたり、といったことをやってました。出版社の仕組みもよくわかっていなかったので、ビジネスを教えてもらおうと『マンガ進化論』の中野晴行さんを紹介してもらおうと突然出版元の会社さんに飛び込みで電話したり。

正直、当初はプロでもアマでもなく、有象無象の状態でした。当時マンガ家の方はオフィス出入り自由だったんですが、お風呂はいっていないと思われるホームレス風体のもじゃもじゃ髭に鼻水がからまっているおじいちゃんが、大関カップ片手にオフィスで一日マンガ読んで帰っていくとか。ネームの修正依頼をしたらその場で号泣されちゃったりとか。僕の伝え方が拙かったのも会ったと思いますが。

――:カオスすぎますね。中川さんとしては心挫けないんですか?札幌でも大変だったけど、そもそも東京でも広告営業やっている同僚をみながら、マンガ家の卵を1から育てる業務ですよね。

「GANMA!」は他社作品を載せる形じゃなくて、全部自社オリジナル作品のみの一本勝負というアプリでしたので、知名度の面でも集客の面でも苦労はしました。ただ黎明期だったこともあり、着実に連載作品のレベルが上がるごとに、作家もユーザーも集まっていました(2018年には1000万DL突破)。専門学校で「GANMA!を知ってる人」と聞いたら、9割の手が上がったことが記憶に残ってます。とにかく夢中だったので、なんだかんだありましたが、やる気が落ちるということはなかったですね。もともと最初の3年も地道な営業していたので、慣れていたという点もありますが(笑)。


■2016年の独立、SNSマンガというブルーオーシャン事業
――:3年札幌の広告営業でグローバル向け展開に興味をもち、次の3年でゼロイチでマンガアプリを立ち上げ、そして2016年に独立されます。これはどういった経緯での独立だったのでしょうか?

セプテーニの佐藤さんに強く影響を受けていて、「ビジネス×マンガ」という2つの得意分野を組み合わせてすごい事業を作れるんだなと痛感しました。グループ全体の社長なのに、週3で「GANMA!」の立ち上げにコミットされてましたし。自分もこのまま会社員やっている限りは、同じレベルには到達できない、と。当時27歳だったので、30歳までにやるべきことを見つけようと、考えもなしに「いったん独立します」と宣言したんです。
最初は「テーマ」を見つけるために週5で違う会社で受託事業を受けて、とにかく「いろいろしよう」のフリーランスでした。webマーケをしたり、営業のインターン教育をしたり、なぜか採用活動の手伝いをしたり。そうしたなかで、インフルエンサーマーケティングが盛り上がっているのに、漫画家はSNSでフォロワーがいても全然広告の仕事はなく、ものすごく生活に困ってることに気付き、資料にまとめて広告代理店にプレゼンしに行ってみたんです。

――:おおー、そこでSNSマンガなんですね!?たしかに3-4年前から急激にマンガを使った広告が増えましたよね。それまでは一切見なかったのに。

営業してみたら、すぐに大手飲料メーカーの案件を頂けました。3人のマンガ家さんに広告マンガ書いてもらって、合計3000リツイートを超えたんです。かたや有名な某インフルエンサーは100リツイートもいってなくて。

メーカーさんも大喜びで、僕にもお金が入り、3人の作家さんにもお金を還元したら「それほどリツイートが伸びなかったのに、こんなにもらえるのですか!?」と、まさに三方よしのビジネスだな!と確信しました。それでこのSNSマンガがビジネスになると思ってwwwaap(ワープ)を2016年に創業します。(※当初の社名はXavier(ザビエル))

――:同じマンガ事業ということで「GANMA!」とは切り分けできたんですか?

マンガを広告に使うので、マンガアプリ事業とはビジネスが違うんですよ。ただ仁義は切りにいかないとと思って、「GANMA!」とは競合事業をやりませんという誓約書を佐藤さんにもっていったら「もうそういうの面倒くさいから、出資するよ」と言っていただいて。出資も入っての新会社が立ち上がりました。

――:SNSマンガって、ほとんどwwwaapさんが手がけてますよね?体感値7-8割くらいのシェアじゃないかと思うのですが。

そうですね、市場統計などは出てないのですが、マンガはSNSプロモーションにおけるパフォーマンスが高く需要が有りますが、一方で漫画家と広告主という両者のバランスを取ることが難しく、そこが優位性になったと思います。

 

■Quan社との経営統合、キャラクター創造×SNSマンガ広告×NFT×Webtoonの会社に
――:そして、自分の会社wwwaapとキャラクター会社クオンとの経営統合が2021年に実現してMinto(ミント)が誕生します。界隈では相当話題になってましたね。

最初に水野さんにお会いしたのが2017年12月でした。そのころには共同代表の高橋伸幸が(セプテーニ時代の同僚、その後DeNAで横浜ベイスターズ事業などを手掛ける)ほとんどビジネスをまわすようになっていて、自分はSNSマンガ広告の次の事業を探し始めていました。クリエイターと海外向けIPづくりをやりたいと思ったときに、想像していた以上に手掛けている会社がほとんどなくて。どう調べても行き着くのがクオンだったんです。

水野さんにお会いして中国や韓国でのビジネスの話など聞きながら、これは面白い!と感じ、一緒に中国のLicensing Expoなどにも同行させてもらいました。お互い色々話すうちに、BtoBでクライアントと結びつきの強いwwwaapと、BtoCでゼロからキャラクターを作るQuanとカニバリもなく、お互いに補完関係がもてるということがわかってきていました。クリエイターが多かったQuanは、本来創り手であるべき水野さん自身がマネジメントや営業をしなければいけないのが本当にもったいないなと思っていました。水野さんもまったく同じ考えだったようで、「wwwaap買いたいんだけど」「クオン買いたいんですが」と飲みながらよく話していて、だったら経営統合でもよくないか?となったんです。

――:どちらか一方による買収というケースは見ますけど、こんなにきれいに2社が経営統合して、というのは僕もあまり見たことがないんです。本当に「出会っちゃっての結婚」みたいなイメージがありますね。どのくらいのサイズの会社同士の統合だったんですか?

2011年創業のQuanが45名程度、wwwaapが25名程度ですね。あとQuanはこのサイズでも果敢に海外展開をしており、上海5人、ベトナム2人、タイには15人の拠点がありました。このキャラクター開発・販売ができる海外拠点がある、というのも非常に魅力的でした。

――:やはり中川さん自身のテーマでもあるように、海外向けという文脈で、Quanの力が必要だったということですか?

中国のライセンスショーにいったときに驚いたことがありました。ドラえもん、クレヨンしんちゃん、名探偵コナンなど現地で一番人気のキャラクターたちがJapan Pavillionにないんですよ。「現地ライセンシーに委託しているよ」と全然違う場所で、人だかりができている。これだけ人気があるキャラクターだけど、日本企業にはノウハウも何も残っていないんだなと衝撃を受けました。

海外で直接キャラクターを売り込むことをしている会社は数えるほどしかなく、ほとんどがライセンス商社にマスターライセンスで完全に委託してしまっている。そうした中でQuanは自社キャラクターがWechatで10億ダウンロードされたり、韓国で買ったキャラクターが中国でバカ当たりしていたり、「キャラクターを日本以外で売っていく」ノウハウが詰まってました。こういう点では何年かかってもQuanには追い付けない、一緒になるほうが全然いい!と思いました。

 

▲Minto社Mongmong、韓国のイラストレーターが描くキャラクターで中国で10億円級のビジネスが広がっている。スタンプDLは2千万回を超える

――:そして2022年に突然3倍くらいの会社が出来上がるわけですね。Webtoon事業はどちらが主軸でやっていたのでしょうか?

wwwaapもIP開発で新興市場だからとチャンスを感じてWebtoon事業をやろうとしていたところで、実は同じくQuanもやっていたんですよ。そうした中で水野さんが「だったら中川さんがwebtoonやって僕がweb3のほうをやるのがいいんじゃない?」ということで、2社ともに展開しようとしていた事業を一緒に進めようとした感じです。

僕としては「GANMA!」でやってきたことと近いという感覚はありつつ、webtoonなら「世界が近い」と感じてて。そもそも韓国発で世界中に広がり始めてたこともありますが、マンガの「白黒であること」と「読み手にリテラシーが必要」という世界展開における課題を一気に払拭してたので。


■Webtoon市場における日本企業の勝ちパターン獲得
――:中川さんのキャリアは3年単位で変わっている感じがしますね。3年間札幌、3年間[GANMA!、3年間WaaapのSNS広告、最後の3年間でQuanとの経営統合まで、と。実際はじめてみてWebtoonビジネスはいかがですか?

世界市場がターゲットになるので、入ってくるお金の桁も違いますし、すごくニーズはあるなと感じてます。2020年の世界Webtoon市場は約2600億円(23.4億ドル)、これが2027年には約1.85兆円(164億ドル)になるといわれています。現在のWebtoon市場は紙・電子あわせたマンガ市場約7,000億円の半分以下ですが、グローバルに開かれているので、倍以上に広がっていくことが予想されます。

弊社は「スタジオ」の位置づけで、Webtoonのアプリを自社で出したりプロモーションをするわけではなく、あくまで作家と向き合い、Webtoon作品をつくることに特化しています。

――:Webtoon市場は分業化ができている反面、これまでのマンガと違って「職業化」していて、時給換算されたり、なかなかお金もかかりますよね。連載のパターンも最初数話ではなく、最初から20~30話用意する必要がありますし。

そうですね、絵の色付けまで含めて人数もかかるので、30話で1本そろえるのに1000~1500万円といった金額がかかります。紙・電子マンガよりは初期コストが圧倒的に高いですよね。でも出版業界にとっては「高すぎる」んですが、実は映画・アニメ業界にとっては「1桁以上安い」んです。原作をつくるのにあたって、すでに人気があるWebtoonを原作として買い上げる費用としては十分に投資対効果に合う。

『梨泰院クラス』(2020)の成功が大きかったと思います。Webtoon原作ってこんなに数字が出るのか!と映像系の会社さんが大きな予算をもってWebtoonに参入してきています。

――:どんな方々がWebtoonの作家になっているのでしょうか?

正直、まだどの“山”にいる人の才能が一番向いているかは手探りなんです。マンガ家・ラノベ作家・イラストレーター・ゲームクリエイターなど色々な人がいて、先駆的な感覚でWebtoonという新業界に挑戦しようという作家もいますし、「まだ見えていない市場」という感じがしていますが、これはまさに「GANMA!」で最初にやっていたことですし、その後の成長過程を体感してきているのでそこまで心配していません。

――:大手出版社もWebマンガ、マンガアプリでは成功していますが、Webtoonは本腰いれてませんよね。そもそもマンガと競合しているのかすら判別がつきません。マンガ家たちがWebtoonに移行してるわけではないですし。

はい、webtoonを読む感覚はTikTokを見ることに近いと言われています。暇つぶしにサクサク読んでいる、ついつい少額課金してしまう、そんな感覚は「物語やキャラクターをしっかり読み込んでいく」マンガとはちょっと違うんです。

webtoonはマンガでもアニメでもない、新しい感覚の新たなジャンルだと感じるからこそ、マンガアプリの時以上に若い感性を集めるスタートアップに、すごくチャンスがあると感じています。

――:まだゲームとアニメとマンガとSNSの中間にある市場なのですね。今回Webtoonで国内最大手のカカオピッコマさんから出資を受けるということですが、どういう意図があるのでしょうか?

我々としてはMintoの全ての事業でシナジーがあると感じ、より深く連携させてもらうために出資頂くこととなりました。

webtoon事業においては、カカオピッコマさんが持つ国内最大のノウハウとデータを活用させて頂き、ヒット作品を輩出したいと考えています。広告事業においても、弊社が蓄積してきたSNS×広告コンテンツのノウハウを活用しながら、新たな広告表現に挑戦させて頂いています。またWeb3領域においても、直近でカカオピッコマさんは暗号資産交換業者の買収をしたこともあり、今後連携していきたいと思っています。

経営統合および出資受け入れも完了し、目指すビジョンへの挑戦をしていく土台が整ったタイミングですが、ひとつ課題を抱えています。それは、これからの事業を一緒に創ってくれる人材がまだまだ足りていないということです。今のMintoは、チャレンジングで面白いタイミングにいる会社だと胸を張って言えます。少しでもご興味を持っていただけたらぜひコンタクトをとっていただければ嬉しいです。

 

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