【インタビュー】Wright Flyer Studiosとグリーアドバタイジングのキーマン対談 ~スマホゲーム市場におけるデジタルマーケティングの最前線~
新規リリースタイトルの増加、外資ゲーム会社の参入、ゲーム以外のエンタメアプリとの可処分時間の奪い合い等、日本のモバイルゲーム市場の競争環境は益々激化している。
今回、成熟期を迎えたスマホゲーム市場でヒットを連発しているWright Flyer Studiosのデジタルマーケティングを牽引するシニアマーケターの加藤耕輔氏と、そのWright Flyer Studiosにハウスエージェンシーとして伴走するグリーアドバタイジングの柴田直人氏の2名にインタビューを実施。Wright Flyer Studiosとグリーアドバタイジングのこれまでの取り組みから、Wright Flyer Studiosのデジタルマーケティングに関する施策、『ヘブンバーンズレッド』リリースの裏話や今後の展望に至るまでの話を伺った。
加藤 耕輔
(かとうこうすけ)
株式会社WFS Studio本部Marketing部 シニアマネージャー / シニアマーケター
柴田 直人
(しばたなおと)
グリーアドバタイジング株式会社 代表取締役
両社で取り組んだインハウス化の恩恵
――:本日はよろしくお願いします。まず始めに、お二人の現在の役割を教えてください。
加藤氏(以下加藤):グリー株式会社の100%子会社である株式会社WFSに所属しています。現在は株式会社WFSのゲームブランドWright Flyer Studiosが提供するゲームタイトルのデジタルマーケティングを統括しています。
柴田(以下柴田):グリーグループで広告事業を担うGlossom株式会社で広告代理事業を管掌しています。中でもモバイルゲームの広告代理事業はGlossomの子会社グリーアドバタイジング(以下、GAI)で担っており、GAIの代表も務めています。
――:GAIとWright Flyer Studiosの関係性について教えてください。
柴田:4年ほど前からWright Flyer Studiosの広告運用に関わっています。当初は広告代理店の一社として他の代理店と同じような関わり方でしたが、当社メンバーがWright Flyer Studiosに出向し広告運用全般をサポートするなど、Wright Flyer Studios側のニーズに応じて取り組みが深化してきました。現在はハウスエージェンシーの立ち位置でWright Flyer Studiosの広告運用を担当しています。
――:これまでの両社の取り組みについて教えてください。
加藤:これまでの大きい取り組みとして、2019年頃にWright Flyer Studiosとしてデジタルマーケティングの知見を深めることがスタジオの競争力に繋がると考え、GAIと連携してインハウス化に取り組みました。
広告の入稿方法や、キャンペーンの考え方といった広告運用に関わる基礎的な知識を、GAIのメンバーから教えてもらいました。インハウスで運用することで、代理店と広告主の関係性だと、難しいような運用のテストも実施することができました。また、クリエイティブ制作についてもその頃から内製化を図り、現在もWright Flyer Studiosのマーケティング部の中に担当チームがおり、制作しています。
現在はメディアプランニングやクリエイティブ制作はWright Flyer Studiosで継続して行い、広告運用はGAIに依頼する形をとっています。
柴田:インハウス化のプロセスを通じてWright Flyer Studios側がデジタルマーケティングに関する知見を深めてくれたことで、連携がスムーズになり広告運用をスピード感をもって効率的に行えるようになりました。
加藤:広告代理店が行っているオペレーションが理解できたので、共感性をもったコミュニケーションがとれたり、メディア担当者が抱える悩みを理解し、根本的な課題解決に向けて一緒に打ち手を考えたり的確な指示が出せるようになったと思います。
Wright Flyer Studiosの広告クリエイティブの独自フレームワーク
――:広告のクリエイティブ制作をWright Flyer Studios内部で行っているというのは珍しいケースだと思いますが、どのように取り組んでいるのでしょうか?
加藤:インハウスに取り組んだ際に苦労した点でもあるのですが、もともとゲーム開発の第一線で活躍していた2Dデザイナーに異動してきてもらったり、動画クリエイターを採用したりして、まず広告クリエイティブの制作チームを立上げました。ただ、作ったチームで既に世の中にあるクリエイティブと近しいものを作るだけでは独自色が出せないと思って、Wright Flyer Studiosとしての提供価値や強みなどを整理した上で、デザインに関するフレームワークを0→1で作っていくような手順を踏みました。1年程取り組みを継続して、Wright Flyer Studiosの広告の色や形といったものが自分たちもわかってきて、お客様にも受け入れられるようになってきたと思います。
自分たちの独自色を出したい場合はWright Flyer Studios内部で制作を行っていますが、一部GAIに依頼しているものもあります。GAIに依頼する際も上がってきたクリエイティブをただ監修するというスタンスではなく、Wright Flyer Studios側の戦略に基づき、どのようなクリエイティブを制作してほしいか具体的な指示を行っています。
――:広告クリエイティブ制作におけるWright Flyer Studiosのフレームワークとはどのようなものでしょうか?
加藤:一般的な「世界観」「キャラクター」等といった訴求軸に加えて「感情」のパラメーターを取り入れているのがWright Flyer Studios独自の特徴です。Wright Flyer Studiosのビジョンである「新しい驚きを、世界中の人へ。」という言葉の通り、ユーザーの感情の動きを非常に大事にしていて、クリエイティブのフレームワークにおいても「訴求軸」×「感情」という形で整理をしています。簡単な例で言うと「かっこいい」だったり「かわいい」といったユーザーに喚起させたい感情のパラメーターに訴求軸を掛け合わせ、クリエイティブのパターンとして網羅性を持たせながら、それぞれのクリエイティブをお客様が見た時に毎回違う感動を届けられるようにしています。
柴田:Wright Flyer Studiosのフレームワークやクリエイティブのリサイズなどのノウハウも共有を受けており、グリーグループの他のスタジオや外部の広告主に対しても提供可能な状態になっています。
――:広告クリエイティブの成功事例があれば教えてください。
加藤:『アナザーエデン 時空を超える猫』(以下、アナザーエデン)の広告で最近パフォーマンスが良かったのが、部屋でパソコンの前でスマホでゲームをしている男性とその手元が写っているアニメーションの広告でした。『アナザーエデン』の価値である”シングルプレイでRPGに没入して、スキマ時間が豊かになる”を広告クリエイティブとして表現した結果、ユーザーのエンゲージもパフォーマンスも高い結果を出すことができました。Wright Flyer Studiosらしい「感情」を突き詰めたチャレンジを行った結果、定量的な結果もついてきた良い事例になったと考えています。
広告主視点を持った代理店ならではの付加価値提供
――:Wright Flyer Studiosから見た時のGAIの強みはどこだと感じられてますでしょうか?
加藤:広告代理店でありながらゲーム広告主の視点を持たれているところだと思います。GAIのメンバーは元々グリーのゲームスタジオでマーケターとして経験を積んだ方が多いので、ゲーム広告主が抱える悩みに対して共感性がとても高く、業務を先回りして困りごとを解決してくれることも多いです。プロダクトマーケティングの担当者と一緒にマーケティングの実行をしてきた経験を持つ人がこれだけの数揃っていて、広告の運用をしてくれる広告代理店は珍しいと思います。
また、Wright Flyer Studiosなどの広告費の投資回収基準の策定にもGAIは関わっています。そういったバックグラウンドがあるので、個別のタイトルでプロモを掛けるべきかどうかの議論をする際にも広告主の立場から意見を言ってもらえますし、プロモを掛けるべきでない時にはブレーキをかけてもらうこともあります。
柴田:過去の広告費の投資回収基準については、もっと投資できたという声もあれば、もっと早く広告を止めるべきだったという声もありました。投資回収ロジックの精度を高めたことでこれまでできなかったような追加投資ができた実績も生まれましたし、逆にこれまでよりもプロモーションできなくなることでプロダクトの改善に注力できたというケースもありました。投資回収基準の作成プロセスに関われたことで、広告主の事業PLや経営視点からも、意見を伝えることができるようになりました。
Wright Flyer Studiosマーケティングが大事にしている価値観
――:Wright Flyer Studiosのマーケティングにおいて大事にしている価値観を教えてください。
加藤:大事にしていることは3つあります。1つ目は「お客様と真摯に向き合う」ことです。中でもYouTube等のコミュニティ施策に注力していて、ほとんどのタイトルで生放送番組を週1回から少なくとも月1回以上は行っています。放送では最新情報を伝えるだけではなくお客様とのコミュニケーションも重視しており、コミュニティを活性化させるような企画を盛り込んでいます。最近の事例では、リリース前から12回の生放送を行った「ヘブバン情報局」です。番組の中でクローズドベータテストのアンケート結果と改善策について、1時間半くらいの時間を使ってお客様に説明を行った取り組みは、非常にWright Flyer Studiosらしい取り組みだったと思います。
2つ目は「感情と論理のバランス」を重視しています。デジタルマーケティングは定量化しやすいため、数値がいい方ばかりを見てしまい、結果的に画一的なクリエイティブに寄ってしまうことでプロダクトのライフサイクルに悪影響が出てしまったり、ブランドも毀損してしまうということが考えられます。お客様がゲームを遊んでくれる理由には短期的なモチベーションとは別に、ゲームの世界観に没入したい等の長期的なモチベーションもあるので、そういった部分についてもプロモーションを行っていくことでブランドとしての体験をしっかりと持つ、ということを意識してやっています。
後者の場合でも定量での評価はしますが、定量だけで考えていくと思考がどうしても狭まってしまうところがあるので、そこを別の視点で壊していくということを大事にしています。
3つ目は「REFLECT(内省する)」ということです。Wright Flyer Studiosのプロモーション施策は、タイトルを超えて、施策がつながっていることが多いのが特徴です。『アナザーエデン』でやったことが、数ヶ月後くらいに『ヘブンバーンズレッド』でさらにブラッシュアップされてやられているといったパターンが多く、成功や失敗をしっかりと次につなげてやっていこうという意識づけや情報共有がされています。
過去最大の広告規模になった『ヘブンバーンズレッド』
――:大ヒットとなった『ヘブンバーンズレッド』のマーケティングについて特に印象に残っている点について教えてください。
加藤:リリース最初の1週間が激動でした。リリース直後から広告を回し始めていたのですが、リリース2日目に初日の広告レポート数値を見て、想定以上にパフォーマンスがよく、広告費の投資回収基準も上回っていました。そのため、直ぐに適切なプロモーション規模を試算して、Wright Flyer Studios内でも経営層とも細かく議論を行い、追加投資して、またレポートをもとに見直ししてと、連日細かくチューニングを行いました。
柴田:機動的な意思決定を行い、リリース2日目にはプロモーション予算を増額し、その後も毎週予算を追加してと、前例のないプロモーション規模となりました。運用人員体制も計画の8倍必要となったのにはさすがに悲鳴を上げました(笑)。GAIとして過去一番の規模での広告出稿となりましたが、投資回収も順調に進捗しており、広告代理店として、Wright Flyer Studiosの事業成長に貢献できたと思っています。
加藤:広告運用をインハウス化したままだった場合、今回の規模感での広告出稿は対応しきれなかったと思います。GAIがフレキシブルに運用リソースを確保し、かつ広告主目線でマーケティングを経験してきたメンバーが運用者として関わってくれたことで、プロモーションを実施することができました。それも成功要因の一つだったと思います。
――:最後になりますが、今後の両社の方針についてお聞かせください。
加藤:Wright Flyer Studiosが配信している『ヘブンバーンズレッド』や『アナザーエデン』などの作品をより多くのお客様に届け、国民的な作品にしていくという目標に対して、マーケティングの側面から貢献していきたいと思っています。現状ではまだ足りないスキルや経験も多いので、採用も絶賛募集中です。
Wright Flyer Studiosには挑戦することを推奨する文化があるので、たくさんの挑戦をして失敗しながらも「REFLECT」して一歩ずつ目標に向けて歩んでいけたらと思っています。
柴田:GAIとしては、ゲームやメタバースといったグリーグループの各社事業を支援する中で培ったアセットを武器に社外の広告主のマーケターに伴走するコンサル型の広告代理店としてプレゼンスを上げていきたいと考えています。
今回お話しきれなかった、『ヘブンバーンズレッド』のプレマーケティングからリリース後の初動対応、グリーグループのアセットを活用したソリューション等のお話は6月22日(水)のオンラインセミナー(ページ下部に詳細記載)で余すところなくお伝えしたいと思います。現状のゲームマーケティングに課題感をお持ちのご担当者はぜひご参加ください。
【2022年6月22日(水)開催】セミナー情報
【Wright Flyer Studios × グリーアドバタイジング】2022年モバイルゲームのデジタルマーケティング最前線
〜新作スマホゲーム ローンチプロモーションの舞台裏〜
ATT導入後のデータ制限によるiOSのインストール減少、海外ゲームパブリッシャーの参入や他アプリとの可処分時間の奪い合いによる市場競争が高まる中、モバイルゲームアプリの新規インストールコストは上昇傾向が続いております。
市場の逆風が高まる中で事前登録数50万人以上、配信3日で100万DLを達成した『ヘブンバーンズレッド』のデジタルマーケティングの戦略と実行の舞台裏をWright Flyer Studiosの加藤氏とデジタルプロモーションを広告代理店として支えたグリーアドバタイジングの柴田、二人のキーマンが赤裸々に語るイベントです。
日程 2022 年 6月 22日(水)18:50開場、19:00開演
開催方式 オンラインセミナーにて開催
参加費 無料
主催:
Glossom株式会社
※Wright Flyer Studiosは、株式会社WFSが展開するゲームブランドです。
会社情報
- 会社名
- グリー株式会社
- 設立
- 2004年12月
- 代表者
- 代表取締役会長兼社長 田中 良和
- 決算期
- 6月
- 直近業績
- 売上高613億900万円、営業利益59億8100万円、経常利益71億2300万円、最終利益46億3000万円(2024年6月期)
- 上場区分
- 東証プライム
- 証券コード
- 3632
会社情報
- 会社名
- グリーアドバタイジング株式会社
会社情報
- 会社名
- 株式会社WFS
- 設立
- 2014年2月
- 代表者
- 代表取締役社長 柳原 陽太
会社情報
- 会社名
- Glossom株式会社