【連載】中山淳雄の「推しもオタクもグローバル」第26回 テーマパーク×カフェ×アニメの新境地―年200億のテーマカフェ市場の巨人LTRの仕事

中山淳雄 エンタメ社会学者&Re entertainment社長
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テーマカフェはすでに「市場」化している。今回、日本で最大規模のテーマカフェを展開するLTRを取材して、それが確信に変わった。コラボカフェやアニメカフェと呼ばれるこのジャンルは、この10年でテーマパークのような体験を目指す「テーマカフェ」として確立したものになってきており、“日常空間で味わえるテーマパーク"として1,000億円といったポテンシャルがあることも語られている。


■年間400万人動員、200億円のテーマカフェ市場。コロナ禍でも成長し、2.5次元ミュージカル市場に迫る成長領域

――:自己紹介からお願いいたします。

谷:株式会社エルティアールの代表取締役社長の谷丈太朗と申します。販促マーケティング会社レッグス(現在はCLホールディングス)に1998年に入社し、上海・シンガポールなどで日本のIPコンテンツを活用したマーケティングを推進してきた後、ここ5年はIPを活用したフードエンターテインメントとしての、テーマカフェ事業に奔走しております。2021年9月にパートナーであるトランジットジェネラルオフィスと、テーマカフェ事業を推進する合弁会社「株式会社エルティアール」を設立致しました。

星野:トランジットテーマカフェオペレーション社長で、今回LTR取締役になります星野天宏と申します。もともと飲食店の運営をするトランジットジェネラルオフィスでテーマカフェ事業を担当してきました。


――:LTRさんの特徴的なところって、アニメコラボカフェに「IPコンテンツプロデュース側:レッグス×飲食運営側:トランジット」という2社がきれいにタッグを組んで展開したところですよね。

谷:はい、弊社では一般的なアニメコラボカフェではなく、一種のエンターテイメントの“身近な非日常体験を提供する、まるでテーマパークのような「テーマカフェ」をプロデュースしています。レッグスは(ブシロードでお付き合いもあった)中山さんもよくご存じの通り、年商約200億(現在はCLグループ合算で約320億円)の会社で、IPを活用した、販促プロモーションや限定グッズを扱う会社で、約8年前にテーマカフェ事業に進出しました。でもアニメ版権をとってくる力があっても、都度都度カフェやレストランと交渉して場所を借りてテーマカフェをやっていくのはあまりに大変だった時代があります。そこで常設店舗をもち、オペレーションができるトランジットさんと提携しました。

星野:トランジットは2001年設立で「遊び場を作る」をコンセプトに様々なクリエイティブ空間をデザインする会社なのですが、約9年前に売上がうまくいかない店舗があって、その時にたまたまお付き合いのあったサンリオさんに提案して『マイメロディカフェ』をやったら凄くフィットしました。そこからテーマカフェ事業に進出していきましたが、弊社は空間やフードデザイン・運営オペレーションができても、アニメ・キャラクターの世界観を版元と一緒に作り上げる事は、専門家ではなく得意ではなかった。そこでレッグスさんとの提携になります。


――:お互いピッタリ違うスキルセットを持ち寄ったような事業提携ですよね。レッグスさんが版権管理、トランジットさんが飲食・オペレーション管理ですね。レッグスさんは最初のテーマカフェって、どの作品をやったんですか?

谷:2015年に展開した大人気のK―POPアーティストのカフェです。全国のライブツアーがあって多忙を極める中、なかなかファンにコンテンツを届けられない。それなら本人の稼働無しで世界観にだけは浸れるカフェがいいんじゃないかと展開してみたところ、爆発的にお客さんが来ました。
 

▲左から谷丈太朗氏(LTR代表取締役社長)、星野天宏氏(LTR取締役)

――:この業界でいうと、LTRさんかアニメイトさんが2大勢力としてテーマカフェ展開をしている状態です。このコロナ期は厳しかったんじゃないでしょうか?

谷:確かにコロナの直後は大変でしたね。毎年ゴールデンウィークは大きな需要期になるので、当時は20数店舗での展開を予定していました。3月末から4月頭にかけて随時オープンさせていたところで、緊急事態宣言になりました。グッズや食材を数億円分も準備していたので、、、恐怖しかなかったですね、あのころは。


――:この2年間は飲食系が軒並み売り上げガタ落ちですよね。御社の数字はどのくらいなのでしょうか?そもそもテーマカフェやコラボカフェ、キャラカフェ市場というデータは中山も見たことがなくて、、、

谷:弊社推計ですが、年200~300億円くらいになるのではないかと思います。こちらが弊社のここ5年の年間動員数をまとめたもので、2020年は開催数も動員数も落ちましたが、この2年で回復して、2022年は過去ピークの2019年を超えて、100万人の動員となる想定です。日本全体での市場となると、動員数でいうと、およそこの5~6倍くらいになるのではないかと思っています。

 
――:テーマカフェ市場全体で年間500万人動員って、もう上野動物公園と東京ドームシティの間くらいで、もはやテーマパークのトップ5に入るレベルですよ。あと、コロナでそこまで数字落ちてないんですね!?普通の飲食ってもう5~7割くらい落ちてますよね。

星野:先ほどの2カ月は完全に何もできませんでしたが、その後はすべて予約制にして、版権元の了解も頂きながら、30%、50%、70%といった集積率を考えながらオペレーションをしておりました。あと、やはり『鬼滅の刃』の大ブームもありましたし、ファンの方の作品への情熱自体はむしろ高騰していたので、開催できるだけは開催するともう予約だけで全部埋まってしまう状態ではありました。


――:凄いですね!こう考えると、年間250万人2.5次元ミュージカル市場とそんなに変わらないのですね。ミュージカル市場は約700億なので約1/3がアニメ化しているといえますし、7,000億のテーマパーク市場や1,500億のカフェ市場全体から考えると、もっと伸びそうですね。

谷:あ、2.5次元ミュージカルは確かに非常に似ている市場ですね。作品にあわせた舞台を考え、オペレーションとして一定期間バズが起こるように工夫する。


■テーマカフェ史上最大の作品「Harry Potter Cafe」

今回は実際に6/16にハリー・ポッター舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』開幕にあわせて、「Harry Potter Cafe」が展開されている赤坂Bizタワーに訪問してきた。再現性も図るため、1997年から発売のハリー・ポッター小説版7冊、その後の映画版8作、新シリーズである「ファンタスティック・ビースト」3作を追いかけ続けるハリー・ポッターファン20余年の女性と同行した。『ハリー・ポッターと死の秘宝』から19年後のストーリー、舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」は、魔法省で働く3児の父となったハリー・ポッターとホグワーツ魔法魔術学校への入学を控えた次男のアルバス・セブルス・ポッターの物語を描いている。
 

▲『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』でハーマイオニーが使った「逆転時計」が祭壇に祀られている。平日日中にも関わらず、多くの撮影者が集っていた。
 

▲TBS前の赤坂Bizエリアは玄関口から大きなふくろうが来場者をお出迎えする。
 

▲カフェの入口。開店初日ということもあり、ローブと杖のコスプレをしたファンも多く、“遠征"してきたとみられるスーツケース持ちもちらほら。ノーコスプレの著者はいたたまれない気持ちに。。。
 

▲50席の限られたスペースで、80分完全予約制のため向こう1カ月はすでに完売済。時間もずらして、5分単位で少しずつお客を入れるため、混雑することはない。
 

▲外にはTake outコーナーでグッズもここで購入可能。席が限られているため、予約がとれなかったファンはここで並んで購入している。
 

▲内装の再現度が非常に高く、「過去これだけ設備費をかけたテーマカフェは見たことがない」というレベル
 

▲とにかく食事の再現度が凄い。プレートから料理まで4つの寮ごとにしつらえられており、ファンタスティック・ビーストの主役ニュート推しの彼女は迷わず「ハッフルパフ(黄)」を選択
 

▲このプレゼンテーション力。普通にウマい。特にハッフルパフ(黄)は皿も料理内容もすべて一貫性ありと大興奮の状態
 

▲天井を見上げれば、壁面にはハリー・ポッターシリーズを象徴する肖像画の数々
 

▲持ち帰りグッズは、そんなに主張するスペースはとらず、上品に並べられている。あくまで空間と料理を楽しみ、物販は限られた程度、という印象
 

▲ショップのほうも行列が切れなかった
 

▲舞台の開演は2022年7月8日から。TBS赤坂ACTシアターは本作のために改装を行っている。
 

▲ハリー役は藤原竜也、石丸幹二、向井理。


■アイドル・アニメ・キャラクターファンに新しいエクス・テインメントを届ける事業

――:ハリー・ポッターカフェで感じたのは確かに「身近なテーマパーク」で、いつもの日常空間のなかで数時間でもパッとその世界に入れるのは大きいなと感じました!

谷:やっぱり自分の生活空間の近くで、しかもカフェという日常的な活動の一環で作品世界を味わえるもの、と考えるとそのポテンシャルはかなり大きいと思います。ほぼ1日使って数万円といった消費額になる「非日常のテーマパーク」に比べると、ほんの数時間の空き時間でも行けてしまうものですし。最近ポップアップショップが増えているのもそうした背景があると思います。テーマパーク市場自体が年間7,000億円あることを考えると、テーマカフェ市場も1,000億くらいにはなっていくのではないかと思います。


――:ぜひ協会つくって統計取り始めてほしいです笑。版権とる力も大きいですが、レッグスさんのデザイン部隊も競争優位性があるなと感じました。売れたキャラクターをもっている会社って、とにかく忙しくて自社で絵を描いている暇もないし、むしろ監修であがってくる提案に目を通すだけでも精一杯。そうしたときに、「商品企画提案書」「宣伝パンフ」「版権絵を使った商品デザイン」とか逐一デザインを描き起こしてくれるレッグスさんとはだいぶやりやすい感じでした。

谷:そうですね、レッグスは計200人くらいの企画制作を専門とするチームがあるんですよ。大手CVSチェーンのキャンペーンや、IPを活用した流通限定物販を企画したりしています。元々が販促マーケティングの会社ですし、プロダクション機能(企画開発製造のディレクション)を創業以来強みとしてきました。その経験やノウハウとサプライチェーンが今に生きてますね。現在は、レッグス側でいうとエクス・テインメント(エクスペリエンス×エンターテインメントを掛けあわせたレッグスの親会社であるCLホールディングスの造語)を提供する会社になる、ということを会社ポリシーとして掲げています。

 
――:2.5次元ミュージカルもそうですが、レッグスさんもアニメとともに成長してきた会社ですよね。

谷:初期は広告代理店経由でいただく販促プロモーションの一部業務だけをやっている中小企業でしたが、2000年ごろから直接のメーカー様や流通先様から発注いただく機会が増えたんですよ。その中で、顧客のニーズに合わせて、版権ビジネスなどの仕組みについても習熟してきていて、いまですともう売上の7―8割はこうしたコンテンツ系なんですよね。


――:あとテーマカフェに訪問して中山も感じましたが「飲食としての再現度」が、ファンにはかなり大事なんだなと感じました。

星野:そこは弊社の一番大事にしているところですね。マンガ・アニメの世界観なので、やろうと思えばいろんな発想があるんですが、材料費が高すぎたり時間かかりすぎて量産できないとそれはそれでオペレーションも滞りますし。彩りとかデザインとか、それに対する調理者の習熟度、店舗スタッフのオペレーションも考えたうえで「落としどころ」としての最大限のクオリティと、最適なオペレーションのポイントを探ることが腕の見せ所です。


――:テーマカフェの海外展開ってどうなんですかね?中山も韓国のアニメイトさんとか、タイでもいくつもテーマカフェは見てきましたが。

谷:まさにパートナー募集中で、このスキームを弊社もアジアだけでなく北米にも持っていきたいなとは思ってます。


――:マンガからのアニメ化や、アニメのグッズ化、ゲームの舞台化などは日本のお家芸ですけど「再現度」がすごく問われますよね。いかに原作に沿って、ファンが一番喜ぶ形のものを“再現できるか"。正直この10年いろんなコラボカフェがありましたが、ホントに「クオリティ」はまちまちですよね。同行したファン女性曰く、「成功しているテーマカフェ事業者はよく知らないけど、あそこのはヤバいというブラックリスト事業者はよく知ってます」とのことでした笑。

谷:版権の人気にあやかった“搾取モデル"みたいになってしまっている事例もありますよね。初期はホントにいろんな会社さんが片手間に手がけましたが、もう200億を超える市場になるなかで、結構きちんとした事業者さんだけが生き残る世界になってきています。


――:残念なのは、LTRさんやアニメイトさんなど「担い手」はあまり表にでてこないですよね。あくまで「どこかがやってるワーナー、小学館、東宝作品のカフェ」になっていて。

谷:作品を作り出しているのは我々ではなく、版権元さんですからね。我々は裏方として、そのファンによる好きであふれる世界を作りたい。好きをつなげて大きくする仕事をしたい、と考えております。

 

会社情報

会社名
Re entertainment
設立
2021年7月
代表者
中山淳雄
直近業績
エンタメ社会学者の中山淳雄氏が海外&事業家&研究者として追求してきた経験をもとに“エンターテイメントの再現性追求”を支援するコンサルティング事業を展開している。
上場区分
未上場
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