【連載】中山淳雄の「推しもオタクもグローバル」第29回 推しと金融―「普通の人」の金融リテラシーを上げるべく推し活×金融教育を“布教"する『お金の専門家』

中山淳雄 エンタメ社会学者&Re entertainment社長
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金融教育というものを私は受けたことがない。株式も暗号通貨も、基本的には自分で本を読んでSNSで見ながら自分のリスクで投資をしてきた。だが日米の金融資産の対比をみると、日本の2,000兆円の余剰資産は貯金5割保険3割で、いわゆる株式投資信託が1割強しかない日本に対して、米国は約1京円のうち貯金1割保険3割、株式は4割にも及ぶ。こうした「お金の使い方」が他国と著しく異なる日本はどうなってしまうのか。という矢先にオタクの推し活をみてみると、そんな「統計」がばかばかしくなるような、カラッと明るい消費をしていたりもする。それが一体どういう生態なのか。「推しと金融」―ちょっと意味がわからない組み合わせで解説ができそうな人、ということでは唯一無二な横川楓さんに取材してみた。


 

■アイドルとオタクの「周辺」で生きてきたお金エキスパート

――:自己紹介からお願い致します。

横川楓と申します。「お金の専門家・金融教育活動家」としてお金の知識を誰よりも等身大の目線でわかりやすくをモットーに、お金の相談にのったり、セミナーをしたり、コンテンツ制作をしたり、執筆やテレビ出演などをしたり、お金の知識を普及する金融教育の活動の何でも屋をしています。


――:横川さんのことは元アイドルのお金の専門家とお聞きしております。そもそも他で聞いたことのない組み合わせなのですが、昔からアイドル自体も兼業でやってこられているのでしょうか?

それよく聞かれるんですよね。確かに昔少しアイドルをやっていたのですが、今はプロフィールにも入れていなくて。元アイドルという情報は過去に少しやっていたというだけで昔プロフィールに入れてしまったのですが、そのせいでそればかり聞かれてしまい困っています(笑)

アイドルとしては活動していた期間自体もそこまで長くなく、それでいうと学生時代はほかに表にでる仕事や実家の会計事務所の手伝い、ほかのアルバイトなどもしていましたし、学生の傍らやっていたことなのでアイドルメインでは全くないというか。

公立の小学校、中学校に通って、私立の高校に通って、一般受験で明治大学に入学して、大学院でMBAを取って、その後「お金の専門家」として活動するようになりました


――:横川さんは面白いのはプライベートでは相当なオタクで、アイドルの推し活もかなり長いことされているんですよね?

はい、そちらはもう、昔から大好きで、一言でいうと「アイドルオタク」ですね。そもそも自分がアイドルがやりたいというよりは、アイドルが頑張っているところを見るのが大好きだったんです。小嶋陽菜さんを高校時代から追いかけていて、彼女がデビューした2005年初期からずっと応援していました。代々木体育館での卒業コンサートも、AKB48劇場での卒業公演も行きました。


――:アイドルだったというよりは「アイドルの周辺にいた」という感じなんですね。小嶋さんが引退したのは結構ショックだったんでしょうか?

2017年にAKBを卒業されてしまうんですが、2018年に「Hear Lip to」でご自分のブランドを立ち上げられたときはうれしかったですね。公的に彼女を応援できる手段ができた、という感じで。ファンって応援したいんですけど、卒業などでその人との結びつきがなくなることが寂しいんですよ。でも何か買うことでその人を支援できる、ってなったら、それはファンにとっての喜びでもあります。

ちなみに今日着ているこの服も、Her lip toのものです。


――:ほかにはどんなものが好きなんですか?

マンガやアニメが大好きで、今は電子書籍を購入していますが、コミックで買っていたときは家の廊下の両サイドの壁が本棚で、上から下までマンガがびっしり入っているくらいの数を持っていて。今も隙間時間さえあれば漫画を読んでいます。時短のためにお風呂の壁にスマホを貼り付けてシャワーをしながらマンガを読んでいたりします。

マンガやアニメのグッズを買ったり、コラボカフェに行ったり、推し活にたくさんお金を使っていますね。写真に写っているパソコンに貼っているシールも、呪術廻戦のキャラクターです。私自身が推し活にお金を使っている人間ということもあり、推し活とお金についてのコラムやイベント登壇をすることもあります。


――:以前、推しについても記事書かれてますよね。「推し」に使うお金は、人生の「必要経費」という言葉は響きました。

オタクってそもそも計画的な人種なんですよ。グッズは発売日が決まって先に予約している事が多いし、コンサートだって事前に日程とそのチケット代が発表されています。あらかじめスケジュールをたてて、いつごろどのくらいお金を使うのか、それまでにどうやって貯金をためておくのかというお金のやりくりを、無意識にやっているのがオタクなんです。

今は誰でも推しがいる時代。推しの存在が、毎日、元気に頑張るための活力になっている人もいるはず。物として残らないからNGとされがちなソシャゲにも私も課金していますし、趣味だから無駄遣いというわけではない時代なんです。そういう意味で「推しに使うお金は、人生の必用経費」と思います。

食べ物や住まいにたくさんお金をかけたいと思う人がいるように、自分の好きなことにお金を使うことを楽しみながら、その上で上手にお金のやりくりをすることが大切だと全力で推し活をしているお金の専門家として伝えていきたいです。


 

■お金の大切さを身に染みた親の離婚

――:お金の専門家というのは、いつごろから金融に興味をもたれていたんですか?

実家が会計事務所を経営していてお金に関する知識に触れる機会が多かったことと、小学生のときに両親が離婚したことがきっかけでした。親子三人暮らしから、離婚後一時は会計事務所を経営する母方の実家である一軒家に住んでいたのですが、中学の時に母親が家計として独立して、母と2人暮らしになりました。

やはり片親で子どもとの家計を維持していくのってとても大変で、母と2人暮らしになったときに、ぼろいアパート暮らしになりました。でも、その後に片親家庭の支援制度などを使い、高校生ではキレイな公営住宅に引っ越すことができたんです。

そこで、家族の形はもちろん、お金があるかどうか、制度を利用するかどうかで住む場所もこんなに変わるんだということを子どもながらに体験し、お金に関するリテラシーがあることで選択肢が広がることを原体験として実感しました。


――:それでもちゃんと大学、大学院まで進学していったんですね。

母方の祖父や叔父がかなりサポートしてくれたおかげもあって、母子家庭であったとしても基本的には恵まれていたんだと思います。


――:なるほど。華やかな世界に関わりながら、横川さんがなぜ金融のような“固い"ところにも足をつけているのか原点が見えますね。でも祖父が税理士をして、援助もしてくれていたのであれば、家業を継げという話にはならないんですか?

まさにそうですね(笑)。実家の手伝いをしている中で、「自分がやりたいのは、これではない」というモヤモヤがずっとあったんです。経営をしている人には携わるけど、私は困っている人や、お金の知識をあまり知らないという人に、お金のことをもっと知ってもらう活動がしたいなって。


――:株でいうと「株アイドル」みたいなものが流行っていた時期でもありますよね。皆気軽に投資して、賢くお金を稼ごう、という感じで。

私も昔「お金の知識を普及したい」っていうと「株アイドル?」って聞かれたことがあります。そう言ってくるのは100%男性でしたし、女子が何かお金に関する活動をする=株アイドルというステレオタイプはとても嫌でした。そもそも私は「お金の知識をわかりやすく普及する活動がしたい」といっているのに、バカにされているなという印象を受けましたね。稼ぐことももちろん大事ですが、私のやりたかったことはどんな人にでもお金の知識を伝えるという金融教育だったので。


――:なるほど、どんな人にも金融教育したいということなんですね。ファイナンシャルプランナーなどもその役割は果たせていないのでしょうか?

私自身もファイナンシャルプランナー(FP)の資格は持っていますが、FPはライフプランニングをするのがメインでもあるので、私のように「お金がないときは何をしたらいいですか?」「税金ってなに?」というくらいのレベルの基礎知識からどんな質問でもきいてほしい!という活動や、お金のことをわかりやすく伝えるコンテンツ作りがしたい!となると、私が肩書的に使うのは違うかなと思いました。


――:先日横川さんが出演していたこの番組などもまさにそうですね(BSテレ東「ボーっとしてるとお金は消える!?いまを楽しむ“投資"をはじめよう」。そもそも日本の金融教育ってどういうレベルなのでしょうか?やはり足りていないんでしょうか?

家庭科や公共の授業で経済、家計管理、投資の仕組み、消費者教育などの金融教育があります。しかし、他に教えることとの兼ね合いでじっくり教える時間がとれなかったり、先生側も投資などをやっている方が少なかったり、土台となる金融の知識がない状態でやっている方も多く、十分とはまだいえない状態かと思います。

届けるという意味では、漫画が好きということもあり、科学マンガである「Dr.Stone」のようにマンガとして楽しく、面白くお金を学べるコンテンツ制作をしていきたいと思っています。


――:確かに!人類の科学史をあれだけビジュアルに可視化した作品ないですよね笑。ああやって体系的にどの技術がどの技術と結びついていて、みたいなストーリーがあると、体系的に金融が学べるのかもしれませんね。

 

■女性専門家としての葛藤、困っている層に寄り添うための金融教育

――:現在はビジネス系タレントの事務所に所属されています。こちらはどういった経緯があるのですか?

メディアの方とのやりとりをしてもらったり、トラブルに巻き込まれないために所属しています。女性として個人で専門家の活動をしていると、少し危険な目にあったりすることもありまして、、、。

ですがそういったメディア活動以外の相談業務やコンテンツ制作、監修、アドバイザー、講師などお金の専門家としての活動は、個人での活動となります。お金のことをわかりやすく伝えるための、なんでも屋さんですね。


――:確かに横川さんの著書(『ミレニアル世代のお金のリアル』フォレスト出版2019)を拝見していると、ベーシックかつ広範な内容になってますよね。

最近の「貯蓄から投資へ」という国の方針などもあり、お金の教育というととりあえず株式投資や金融商品についてみたいな「投資教育」の話になることが多いのですが、そもそも投資をする以前の段階で「貯蓄ができない」若者も多いんですよね。なにより驚くのは、そのうちの20代全体だけにフォーカスして金融資産を含む貯蓄額の「中央値」を出してみると、なんと「8万円」なんです(金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査]令和2年調査結果」)。若い世代ほど奨学金を借りている人も多く、一人暮らしだと特に残るお金も少なくて、貯金に回すお金がないという声も多く耳にします。


――:そういうなかで、どう貯金をためていくかなど、確かに現実に即したお話が色々出てましたね。「銀行に預けるより、家でタンス預金するほうが貯められてよい」などはなるほどな~と思いました。

そうなんですよ、決済が楽になってクレジットもしやすい便利な社会になったことで、むしろ一番滞在時間の短く、消費行動から遠い場所である「自宅」にしかも「現金」でおいておくことが貯金手段になったりします。大金をおいておくのは危ないですが。銀行に預けてても、お金が増えない時代ですからね。


――:こうした実践的にお金のしくみを、「困っている」層にも寄り添って金融教育していきたい、というのが横川さんのやりたいことなんですね。

はい、お金は人生の選択肢を増やすツールでしかありません。それを増やすことを目的化するよりも、まずそれに囚われないくらいに自由に「使いこなす」ものにしてほしいんです。「推し活」を楽しんだり、自分の生活を整えたり、人生を豊かにする手段として、お金はあります。そして私が知識や制度を活用することで選択肢が増えたように、お金のリテラシーをつけることで、より上手にお金を使いこなしていけると思います。

私自身も全力で推し活しながら、誰もが平等にお金のリテラシーを身につけ、活用できる社会にするため、頑張っていきたいです。

 

会社情報

会社名
Re entertainment
設立
2021年7月
代表者
中山淳雄
直近業績
エンタメ社会学者の中山淳雄氏が海外&事業家&研究者として追求してきた経験をもとに“エンターテイメントの再現性追求”を支援するコンサルティング事業を展開している。
上場区分
未上場
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