【連載】中山淳雄の「推しもオタクもグローバル」第34回 Obey Me!:北米で700万DL突破の乙女ゲームトップタイトルを作り上げたNTTソルマーレ「誰もやっていなことをやる」遺伝子
おべいみー(Obey Me!)というアプリゲームをご存じだろうか?イケメン悪魔7兄弟と恋愛ドラマが繰り広げられる、いわゆる“乙女ゲーム"である。日本ではおそらくそれほど知る人も多くないかもしれない。だが、このゲームは海外で700万ものユーザーにDLされ、その大半を占めるアメリカで大ヒットしているという事実が、驚くほど知られていない。今回そんな知られざるビックタイトルを作ったNTTソルマーレという会社のObey Me!プロデューサーをインタビューした。
■NTT西日本のグループ会社で突出して成長するNTTソルマーレ
――:今回、匿名のご希望ということで、Obey Me!プロデューサーの「ObeyP」さんにお越しいただいております。自己紹介からお願いいたします。
すみません、出だしから匿名お願いしてしまっておりまして。いつも「チームで作っていくこと」を大事にしているObey Me!プロジェクトでは1人1人で名前を出さないんです。展開のアナウンスも常にObey Me!チームとして出しているので、今回もせっかくインタビュー頂く機会でしたが、匿名の形にさせていただきました。
――:いえいえ、それでもあまり外で語られることのないObey Me!の真実をお話いただくだけでも非常に貴重な機会だと思っています。ここからはプロデューサーということでObeyP(おべいぴー)さんとお呼びさせてください)。これまでのご経歴、お伺いできますか?
2007年にNTTソルマーレに契約社員で入社しています。最初コミックシーモアの事業部にいて品質管理業務をしていましたが、2012年ごろにゲーム事業部に異動して、2019年12月にリリースしたObey Me!の起案者として、立ち上げからプロデューサーを担当しております。
――:NTTソルマーレ自体がとても不思議な会社なんですよね。もともとはNTT西日本で新しいビジネスにチャレンジするということで立ち上がった会社ですよね?「コミックシーモア」が有名なサービスですが。
はい、2002年の創業当初はPDA端末へのコンテンツ提供事業をやっておりました。その後、携帯のコンテンツのサービスを模索する中でコミックがいけるんじゃないかということで、コミックi(現在のコミックシーモア)を出しました。さらにコミックシーモアに次ぐ第二の柱となるサービスの創出を目指し、2010年前後にゲーム事業もガラケー向けに始めました。
――:NTT西日本からの出向者もいて、社風は全然違いますよね?そもそもNTT系でこんなにコンテンツにコミットした会社ができている不思議もあるんですが、、、
ホントに自由なんですよ。もともと立ち上げた方々がもともと立ち上げた方々が新しいことに貪欲に挑戦していくことを大切にされていて、既存の枠組みにとらわれないようにというカルチャーが最初からありました。プロパーで契約社員・派遣社員から始めた人たちがもう10年以上というキャリアになっていく中で、プロパー社員がその文化を継承していってますね。
全体では300名規模の会社で、もちろん管理職以上は西日本からの出向者が多いのですが、出向者がそのカルチャーを見守る感じもありまして、もはや20年になる会社ですが「誰もやってないことをやろう」と海外向けに乙女ゲームを出したり、声優ライブ配信サービスはじめたり、新しいものがわりとバンバン立ち上がる会社ですね。
――:こちらソルマーレさんの業績・決算公告の数字を図1でまとめてます。コミックシーモアとゲーム事業を柱にちょっとずつ伸びてきたところで2010年代後半に資産50億から200億円まで爆増してますね。特にコロナが大きかったと思いますが「コミックシーモア」と「Obey Me!」の2つがひっぱっているかと推察しています。私が注目してるのはそれ以上に、2011年すでにゲーム事業を北米に展開していたという、、、
そうですね。海外展開がとても早かったと思います。Shall we date? というシリーズを主に北米に展開してきました。
図1:NTTソルマーレ会社業績資料
出典)決算公告資料より著者作成
――:海外拠点はあるのでしょうか?東京もマンションオフィスなくらいですし、基本的には皆さん大阪本社ですよね、、、?
はい、海外拠点はないんです。企画開発からプロモーションまで大阪が中心となっております。
――:ゲームの開発もされているのですか?各事業部は何名くらいなのでしょうか?
ソルマーレ全体では約300名となっています。そのなかでObey Me!に携わっているのが40名くらいです。以前のタイトルは社内開発もしていましたがObey Me!はナウプロダクションさんに開発をお願いしており、運営は弊社で行っています。
――:社内開発までされていた、というのが本当に特殊ですよね。他の大手資本系のモバイルゲームはどちらかというとパブリッシュのみに専門化しているところも多いですもんね。
■2010年代日本の乙女ゲーム、北米展開の歴史
――:2010年前後って「女性向けゲーム」というジャンル自体が珍しかったですよね。最初から特化していたのでしょうか?
最初はいろんなゲームタイトルをつくっていました。もちろん男性向けも。そうした中で乙女ゲーム大好きな方がいて、「挑戦したいです!」といったのをそのまま任せてできたのがShall we date? シリーズの前身となったと聞いています。
――:1本つくるのってそれなりにお金かかりますが、そんなにすんなりできるものなんですか?
やっぱり「誰もやってないことをやろう」というのが会社遺伝子に入ってるんですよね。そして、担当者の熱量をくみ取って任せてくれるというのは、現在でもそうですね。
――:ではそこでShall we date?がヒットしたことでどんどん女性向けに特化していくんですね。Obey Me!が大ヒットするまでの2010年代の作品をみると10~20本単位で大量に派生タイトルつくられてますよね。海外でも結構売れたのでしょうか?
数をたくさん出してシェアをとる戦略だったんです笑。海外というか北米でも手ごたえがある数字は出てましたね。最初にニンジャのテーマで出したら「こんなにいくの!?」というくらい。競合がほとんどいなかったことが大きくて、(当時の感覚でいえば)意外にも日本の乙女ゲーム好きなユーザーが北米に一定数いて、そういった方々に向け、日本でリリース済のタイトルを流用するのではなく、初めから海外のユーザーに特化したものを作ろうと生まれたのが Shall we date?シリーズです。
――:北米向け乙女ゲームだと私がよく覚えているのは、ボルテージさんの『王子様のプロポーズ』(2012)なんですよね。全部キャラクターを北米向けに変えて出していた、、、スゴイ違和感がありましたが。
※乙女ゲームの代表格だったボルテージ社は2011年から北米開発事業をしてきたが、2021年に撤退している。
我々も同じようなトライ&エラーはしてきました。結局「カスタマイズしすぎると逆に受け入れられない」んですよね。北米ユーザーも日本の乙女ゲームだと思ってやっているので、声優は吹き替えせずに日本語のままで出して字幕で対応してますし、ビジュアルも学園モノやジャパニーズファンタジーのままでやっています。
――:逆に変えるようにしているところはどういうところですか?
社内に外国籍の方を含む多様な人材がいるので、現地の文化や考え方を勉強して、それをストーリーや主人公を含めた登場人物に効果的に反映していくことを心がけています。
■海外でしか出さないと決めたObey Me!、海外で700万人のユーザー殺到
――:蓋をあけたらObey Me!はリリース直後から、これまでの数十本のタイトルをすべてあわせたようなサイズのヒットになっています。この勝因は何だと思われますか?
ストーリーやキャラクターを受けいれていただけたというのももちろんですが、いままでのノベル型、チケット課金でストーリーを読んでいくものからゲーム性を変えたことも大きかったと思います。日本で主流のガチャでカードを手に入れて、それを育成していくスタイルは、日本では一般的ですが北米ではまだそういったシステムの乙女ゲームは多くありませんでした。
――:それもある意味「やっていないことをやる」の文化の現れですね。ガチャ育成ゲームってノベルゲームの数千万円って開発費の単位じゃないですよね?数億円かかる、という。
はい、それでナウプロダクションさんのようなゲーム専業会社さんと組んでの開発を行い、予算もこれまでとはケタ違いの挑戦でした。
――:これはそれを承認したソルマーレの経営陣の方々の功績でもありますね。これまでと違う開発費での挑戦を、かつ海外のみで日本には出さずにやりきるという。それを通せたObeyPさんの社内での信用蓄積もすごいですが。
確かにそうですよね笑。もちろん熱量だけで承認いただいたわけではないですが、それでも、大きなチャレンジだったこのプロジェクトを任せてくださったことにはとても感謝しています。そういうのも含めて、やっぱり「やりたい人間に任せる」というNTTソルマーレの文化も大きいですよね。
――:でもいきなり北米向けに作るというのはどこの会社さんもできないと思うんですよ。海外拠点があるわけでもないですし、そもそもObeyPさんのように海外に通じている方を中心に作るのでしょうか?
あ、私英語話せないですよ?笑。住んだこともありません。
――:え!!??そうなんですか?海外700万ダウンロードのゲーム、英語が話せない人が作ったんですか!?
2012年からずっと社内タイトルの海外向けをやってきたので、どういうものが好まれるかはもちろんずっとリサーチしてるんですよ。海外のドラマ、映画は一通りみますし、海外のアニメなども、現地の人が幼少時から何をみて育ってきたかという視点でずっと研究してきました。ロマンスってこういうシーンにぐっとくるんだなとか、そういうのをずーーっと見て、どんな形だったら受け入れられるかを考えるんです。
ネイティブが在籍している翻訳チームにもよくアイディアの相談をしたりしますし。
――:それは勇気がでる話ですね。必ずしも北米に長くいたり、英語ペラペラな人材でつくっているわけではないんですね。
いきなり北米向けの大型アプリを作る、というので共感していただいている事業者さん・クリエイターさんと一緒に創っている感じはありますね。シナリオライターやイラストレーターなど外部の方々も巻き込んで、世界中の乙女がときめくタイトルを創ろうというチャレンジ自体の面白さもあります。
――:海外では北米の次にどんな国で遊ばれているのですか?
売上もユーザー数もアメリカが一番多いですが、他にも欧州、東南アジアといった多様な国の皆様に遊んでいただいています。
■「海外のObey Me!」から日本も加えた「世界のObey Me!」にしていくために
――:これからObey Me!をどのようにしていきたいですか?
英語圏のコミュニティの熱量を日本も含めた他国に広げていきたいです。SNSで感じるユーザーさんたちの熱量をもっと多くの方に知っていただきたいといいますか。こうした「ファンダム」自体をどう広げていけるかというのが課題だと思っています。
――:2021年7-12月にウェブアニメ化の取り組みもされましたよね。
PVをつくってくださったColored Pencil Animation Japanさんが、5分モノですが12話でアニメ化もしてくれて、アプリ内で配信しています。1期のときはFunimationさんで配信してもらっています。なかなか反響も大きくて、この7月から2期も配信しています。
――:コロナ禍があったので、思うように進めづらい時期でもあったかと思います。この規模であれば本当はTVアニメ化もありますし、商品化のチャンスもありますよね。
そうなんです。弊社がやはりゲーム事業でやってきたので、アニメや商品化ではまだまだ課題もあります。2期アニメについてはアプリ内と同時に、Crunchyrollさんで配信もしていただく形になっておりますし、ゲーム以外の部分でも海外への展開をもっと強めていきたいですね。
ただ、700万ダウンロードといいつつ、コロナ禍だったので、実は一度もその「熱狂」を目でみたことがなかったんですよ。22年7月のAX(アニメエキスポ)に、リリース後、初めてロサンゼルスで現地出展させていただきましたが、想像もできなかったようなファンの皆様の熱気を感じさせていただくことができました。
――:確かにそうですよね!!この2年間はイベントもまったく凍結していたわけですから、逆に700万ダウンロードという偉業ですがその熱量が伝わってきにくいですよね。Obey Me!がこんなに米国ですごいことになっているのに、なぜ日本でニュースにならないか不思議でした。
だからこの夏からイベント出展なども積極的に参加して、熱量とともにコミュニティを海外も国内も広げていきたいというのがあります。この夏からいろいろ話題が広がっていくことを期待しております。
▲大盛況で終わった2022年7月のAnimeExpoイベント
――:最後に現在のObey Me!のファンに向けて、もしくはこれからファンになる方に向けてメッセージなどありますでしょうか?
いつもObey Me!を応援していただきありがとうございます。アプリの方は2019年のリリースから3年目を迎えておりますが、これからも皆様を笑顔にするタイトルであるように、新鮮な驚きと多くの感動を提供していきたいと思っております。どうぞObey Me!と魔界・天界・人間界に生きる彼らを引き続きよろしくお願いいたします。
会社情報
- 会社名
- エヌ・ティ・ティ・ソルマーレ株式会社(NTTソルマーレ)
- 設立
- 2002年4月
- 代表者
- 苫名 明
- 決算期
- 3月
- 直近業績
- 非公開
- 上場区分
- 未上場
会社情報
- 会社名
- Re entertainment
- 設立
- 2021年7月
- 代表者
- 中山淳雄
- 直近業績
- エンタメ社会学者の中山淳雄氏が海外&事業家&研究者として追求してきた経験をもとに“エンターテイメントの再現性追求”を支援するコンサルティング事業を展開している。
- 上場区分
- 未上場