【インタビュー】『STEPN』などの新しいゲーム体験でも活用される地図情報…マップボックス・ジャパンが描くロケーションを活用したゲームの新しい可能性とは

『ポケモンGO』や『ドラゴンクエストウォーク(以下、DQウォーク)』など、位置情報を活用したゲームは今世界中で親しまれている。そんなゲームを支えているのが位置情報になるが、そのデータは様々な企業から提供されることでゲームも実現されている。

マップボックス・ジャパン合同会社(以下、Mapbox Japan)     もその会社の一つだ。Mapboxではさまざまな地図情報データの提供を行なっており、多くのサービスで活用されている。

ゲームにおいても、今年話題となった『STEPN』にも採用されており、その拡張性の高さが評価されているようだ。

今回、gamebizではMapbox Japanの金原氏と佐藤氏にインタビューを実施。同社のサービスについてや今後の展望について話を聞いてきた。

 

「地図のない世界に光を」…NGOの支援から始まったMapboxとは

マップボックス・ジャパン合同会社
アカウント・マネージャー
金原 寛直(写真右)
テクニカル・アカウント・マネージャー
佐藤  舞姫子(写真左)

――:本日はよろしくお願いします。まずはじめに、Mapbox Japanについてお聞かせください。

金原Mapbox Japanは、米国のMapbox Inc.とソフトバンク株式会社の合同会社として設立された企業です。もともとのMapbox Inc.は、2010年に設立された、デジタル地図データを提供している企業となります。

Mapbox Inc.のルーツは、創業者のエリックが、アフガニスタンでの選挙活動の支援を、ジャーナリストという立場から取り組んでおり、インフラなどが整ってない地域にて、情報伝達をどのようにして行うかを考えた際に、地図情報が分かりやすいのではということで、まずはオープンソースをベースとして、地図情報データの開発を始めました。

このように母体ができあがり、日本市場に合わせた展開を行っていくために、ソフトバンクとMapbox Inc.で、合同出資で合弁会社を立ち上げたのがMapbox Japanです。

――:諸外国のデータインフラ提供から立ち上がった会社なのですね。そんなMapboxが、現在のゲーム分野においては、どのように関わっているのでしょうか。

金原Mapbox自体が、デジタル地図のサービスとして、主に開発者向けにAPIやSDKを提供しています。

そういったパーツアセットを展開することで、ゲーム業界であれば、ゲームの開発に生かしていただけるという側面があります。

やはりゲーム業界さまと弊社のようなデジタル地図、Mapboxの関わりでいうと、そのベースマップとなるデータを提供して、あとはゲーム内で使っていただけるようなPOI情報を提供するという取り組みを、今の段階では行っております。

※POI:Point of Interest。地図上の特定のポイント(地点)のこと。

――:『ポケモンGO』や『DQウォーク』といったゲームですね。

金原おっしゃる通りです。従来ですと、地図を見ながら歩いて遊ぶっていう形態が多かったですが、最近では別の領域でもご一緒していることもあります。

『STEPN』のようなPlay to Earnとか、Move to Earnなど、新しい要素が取り入れられたゲームにも、Mapboxを活用いただけるような取り組みは行っております。

佐藤また最近ですと、入っていい場所と立入禁止区域などの地図情報をGoogle社がゲーム向けに提供していたのですが、その提供をやめるという発表がありました。

ですので、それに代わるようなサービスを開発すると同時に、もともとGoogleを利用していたプロダクトで弊社のサービスをご活用いただきやすいように、あまりソースコードを変えないままご活用いただける、コンバーターみたいなものも開発しています。その機能が実装されますと、より簡単に、ゲームへご活用いただけると思います。

――:Mapboxの強みとしては、どういった点が挙げられますか。

金原グローバル規模のユーザー数を支えている堅牢性とスケーラビリティを兼ね備えたサービスであるのがまず1点です。

▲導入されているアプリは4万件を超えるという

ゲーム業界にかかわらず、例えば、何百万人が使うような、天気情報のサービスだと、大量のデータをホスティングしていく部分をMapboxに預けていただいています。

その強みを土台として、ゲーム開発においては、データレイヤーを全てアクセス許可している部分がMapboxの独自性でもあります。

これまでの地図のサービスでは、データが独占されていて、アクセスができない部分が多かったのです。ただ、Mapboxでは、由来がオープンソース思想ですので、全体として130レイヤー以上のデータレイヤーが提供可能になります。

それを皆さんがご活用いただくことでこれまでできなかったようなデザインや、仕様に影響されない、独自のブランドイメージやアプリやサービスの世界観に則した地図のデザインができるのも特徴です。

――:多様なゲーム性とも組み合わせることができるカスタマイズ性の高さがMapboxの特徴であると。

金原加えて、平面の地図データをデザインするだけではなく、3D空間も注力しています。

例えば、空とか宇宙を表現したりなど、これまでにないような3D空間をデザインし、より没入感を与えていけるような機能もアップデートされていく予定です。

おそらくは、他の企業のAPIとゲームエンジンを組み合わせても、あまりシームレスでない状態だったと思いますが、Mapboxが地図のプラットフォームから提供することで、開発の一気通貫性も保てるようになる点も貢献できるのではないかと思います。

――:3Dとなりますと、昨今、盛り上がりを見せているメタバースでも活用価値がすごく高そうですね。

金原実際に、最近はよくご相談をいただいております。メタバースに関するサービスにおいては新しい使い方も多く、かなり柔軟な姿勢で取り組んでいるつもりです。

▲メタバースプラットフォームでも活用されている。

ゲーム業界ではないですが、B to Cアプリでも幅広く活用されています。それこそ、大規模から小規模のアプリまで、われわれが認知しないところでも、実はMapboxが実装されていたりしています。

それだけ、取り組みやすく、すばやく実装に踏み込んでいただけるサービスです。

 

 

ロケーションデータを活用した新しいゲーム体験を一緒につくりたい

――:導入にあたってはどのような流れで進められるのでしょうか。

金原まずは技術サイドの確認からはいります。実際にMapboxのデータが、企画されているゲームに対して、要件が合っているかを確認させていただきます。

APIのサービスになりますが、ゲームを楽しくするにはどういったデータが必要かを話し合っていきます。

そこで、色々と条件などの確認もやりとりをさせていただいて、佐藤のような技術的な役割を担う人間も交え、どういった形で実装していくかを進めています。

――:ちなみに、現状でゲーム会社からはどういったご相談を受けることが多いのでしょうか。

金原導入いただく経緯としては、位置情報ゲームにおけるデータ活用や開発のしやすさという点でMapboxを選んでいただくことが多いです。

そのコアとなる機能が、ゲームのスポット生成であるPOI情報ですね。「Mapboxプレイアブルロケーションズ」と呼ばれるものなのですが、そのPOIデータの精度向上や、他のパラメータとして使えるものは何があるのかをご相談いただくことは多いです。

ゲーム会社の皆様は”面白さを出していくためには何が使えるのか”という目線で、われわれに相談いただくケースが多いです。

現在、提供しているのが、ランダムに生成されたPOIデータと、建物情報から生成されたPOIデータの二つが合わさったプレイアブルロケーションズを提供しています     が、もっと変数的なものはないかと聞かれることも多いです。例えば、渋滞情報や天気情報に影響される情報などですね。

――:リアルタイムで変化がある情報などですね。そのリアルタイム性もゲームに活かすことができないかという相談などでしょうか。

金原おっしゃる通りです。人の集まる所に人を集めたいとなった際、そのPOI情報を出すためには何のパラメータが使えるのかと考えたときに渋滞情報などを活用する、といったものでしょうか。

――:すごいですね。渋滞情報もゲームに活かそうという発想もすごいです。

金原あとは、Mapboxはまだ実装されていませんが、店舗の稼働率やレビューサイトの店舗評価や来店人数とか、駅の乗降者数なども活用できるようになると思います。

例えば、駅だったら、特定の混んでいない状態だと、ゲーム内のスポットになるとか。

――:実際の人の行き来みたいな部分にもリンクしたようなデータを活用したゲーム性も、実現できそうで面白そうですね。

佐藤可能性は多大に感じますよね。

今現在の、地図情報を使ったロケーションゲームというと、基本は”散歩する”をゲーム化したという作品がほとんどだと思います。ただ、個人的には、ロケーションというものはもっとロマンがあるものだと思うんですよね。

それこそ、私がMapbox Japanにいる理由にもなりますが、人が留まるにせよ、移動するにせよ、そこには必ず何か理由や動機があるはずなので、その動機をエンターテインメントとして楽しませることが何につけてもできるんじゃないかと思います。

『DQウォーク』や『ポケモンGO』は、本来する必要のない移動を、ゲームによって起こしていると思いますが、そういったエンタメ化は昔からスタンプラリーといった形でもありましたし、最近でも街歩き系の謎解きとして見かけます。

このように昔からあったエンタメが、デジタル化していき、今後はメタバースとかも組み合わさって、よりリッチな形でゲーム化、エンタメ化していく際に、カスタマイズ性の高い弊社のサービスは皆様に大きく貢献できるのではないかと考えています。

――:確かに、いろいろな遊び方ができるのかなと思います。例えば、渋谷駅を、ゲーム内では違う世界のビジュアルで体験できるとか、そういったものにも活用できそうですね。

佐藤数年前に、『セカイカメラ』というアプリが流行りましたよね。当時でも多くの人が楽しんでいましたが、あの頃は端末も通信もまだまだ発達しておらず、アイデアとしては面白いけど、実用性や拡張性がないという側面があったと思うんです。

最近になって、環境が整ってきたので、より発達した、ロケーションデータを活用したものが出てくると思います。

――:現在の通信技術や端末の進歩にて実現できるエンタメもありそうです。

佐藤そうなると、新しい市場を創出していく側面も出てくるはずです。

今は、皆様が弊社のサービスを使うところを伴走するといった形での取り組みが多いですが、今後はもっと活用事例が増えてきて、やれることも増えてきたら、こちらからも新しいエンタメをご提案できるようになっていたいなと思います。

――:今後の展望やアップデートについてもお聞かせください。

金原Mapboxにおけるゲームソリューションはまだ始まったばかりですので、これからどんどん進化していきます。

ですので、Mapboxのゲームソリューションの主なポイントとなっている、プレイアブルロケーションズを土台として、他にも様々な機能を取り込んでいく予定です。

もっとゲーム会社さんの開発において楽になったり、ゲームが注目を浴びるような機能を用意していきますので期待していただきたいです。

あとは、ゲームパブリッシャーさんが大規模な展開に向けて作っていくようなアプリだけでなく、ライトな使い方にも実装いただけるようにしていきたいです。

例えば、それがゲーム業界じゃなくて、旅行会社もそうですし、小売店もそうかもしれませんし、電力会社が利用することもあります。

そういったライトな使い方に向けた個別化、小規模化はまだできていないので、そこもカバーできるようにしたいです。

今あるような、ゲームフィケーションを含まれたポイント獲得サービスや、単純に地図を見て、歩いて、ここ通過したらポイントがもらえるサービスに、Mapboxは背景地図としてだけ使用されている状態なですが、その機能的な側面にも、もっと活用しやすいサービスでありたいです。

――:かなり柔軟に対応しているのですね。インディーゲーム開発者も利用できるのでしょうか。

佐藤おっしゃる通り、企業だけではなくて、個人で開発されている方で、鉄道のリアルタイムな位置情報を出すようなのを作っている方もいます。

他にも何か時事的なニュースにて特定の地域が話題になった際も、すぐに、いつ、どこでその出来事が起きたかを地図で表示されるものを作成されています。

慣れてくると本当に簡単に、いろんな情報を組み合わせて、オリジナルのロケーションデータを個人の方でも簡単に作れますので、UGCといった面白さもあると思います。

金原多くの方々に使っていただき、いずれは自治体の方々も当たり前のように利用いただくようなサービスでありたいなと感じます。

――:最後に、読者に向けて一言お願いします。

金原まず皆様にお伝えしたいのが、Mapboxは、非常に柔軟な会社であるということです。

それはサービスだけじゃなくて、会社として非常に柔軟な会社であり、エンタープライズの大企業と違ったお客様の要件をヒアリングする間口が大きいという点と、API、SDKのサービスも用意してあり、マルチデバイスへの対応ができ、ハイパフォーマンスなアプリが実装いただけるという点です。

そういった素晴らしいサービスを、まずは無料からご利用いただけるというところを知っていただきたいです。

結構、地図の情報サービスはハードル高く見られてしまうことが多いのですが、MapboxではUIも整えられており、簡単に利用できるのでお気軽に試していただきたいです。

佐藤金原も申し上げたように、無料で使い始められるところも、Mapboxの強みだと思います。

いきなり本格的な実装を相談するというのは、心理的なハードルも高いはずです。

コードベースではなく、画面上で色を変えたり、表示する情報を変えたりといった機能を視覚的に確認しながら一通り試すことができます。

『Mapbox Studio』というブラウザー上で動くツールがあるので、まずはそこからご覧いただいて、どういったことができるのかを確認してみてもらいたいです。

ロケーションデータを組み合わせると、これまでにない新しい遊び方や体験はたくさんあると思います。ちょっとしたアイデアでも構いませんので、お気軽にご相談いただきたいですね。

金原そうですね。「こんなことができないか!?」といった妄想からのご相談でも全然ウエルカムなので、ぜひご相談ください。それだけMapbox Japanは柔軟な会社です

――:ありがとうございました。

  


 なお、マップボックス・ ジャパンでは2月のIGDA日本でも講演予定だ。 地図情報を活用した新しい体験や地方創生について講演予定なので 、気になる人はチェックしてみてほしい。

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■セミナー概要
催事名:IGDA日本 SIG-地方創生セミナー 2023.2.3
主 催:特定非営利活動法人 国際ゲーム開発者協会日本(NPO法人 IGDA日本)
協 賛:マップボックス・ジャパン合同会社
日 時:2023年2月3日(金) 19:00~21:30(18:30開場)
19:00~講演
21:00~交流会
会場:TUNNEL TOKYO(東京都品川区西品川一丁目1-1住友不動産大崎ガーデンタワー9階セガサミーグループ本社内)
Zoomオンライン配信併催
参加費:無料

申込み: https://sig-rr-02.peatix.com
会場参加の場合:会場参加券をお申し込みください。
オンライン参加の場合:オンライン参加券をお申し込みください。
申込期間:2023年1月31日(火)23:55まで
※売り切れの場合は期間終了前に発売終了となります。あらかじめご了承くださいませ。
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