【特集記事】アニメ×ゲームジャム 京都ミーティング取材 アニメ制作プロセスの革新:「アジャイル型アニメ制作」でアニメファンにもゲームのような「体験」を届けたい

中山淳雄 エンタメ社会学者&Re entertainment社長
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アニメが革新的な作品を生み出していることは知られている通りだが、アニメが革新的な「創り方」をしているかどうか、と言われれば首をひねらざるをえない。アニメーターの生産性や給与待遇、時間に忙殺される労働環境など、アニメ業界自体が抱える課題はここ数十年ずっと同じことが言われ続けている。それを解決するには「創り方」自体を考え直す必要があるだろう。今回「ゲームエンジンを使って2日間で直接会わずにアニメを作る」というアニメ版ハッカソン(本来はゲーム開発)を主催したNPO法人ANiCが、京都市と共催イベントを取材した。このイベントを振り返りながらアニメ最前線の人々と「アニメの創り方のイノベーション」について考えたい。

 

  

■第一部:創りたいものは、いま作っているものでいいんですか?アニメハッカソン振り返り

2023年2月23日(木)に京都で「アニメ×ゲームジャム 京都ミーング~アニメ・ゲームクリエイターから生まれる新しい表現と作り方〜」が開催された。アニメ・ゲーム業界を目指す学生や教育関係者・京都のアニメ・ゲームスタジオ関係者を集めてのカンファレンスであり、その半年前となる22年7月2・3日にANiC※が「Unity※を使ってオンラインで2日間だけでアニメを作る」というアニメ・ハッカソンを振り返った。この映像が当時の成果である。25名の参加者 が3~4 名ごとに分かれ、そこにメンターも付き、9チームが30~60秒ずつのアニメをつくり、つなぎ合わせてつくった5分間のアニメ映像である。

※ANiC:2021年設立、アニメ産業イノベーションを目指して技術的な支援や学生イベントなどを行うNPO法人。今回は理事長のまつもとあつし氏(作家・学者)、理事の濱中良氏が司会として参加
※Unity:ゲーム開発用のミドルウェア。パワーポイントのように様々な描画アセットが入っているツールで、現在のモバイルアプリゲームの7割、PCゲームの5割、家庭用ゲームの5割のタイトルがUnityを使っていると言われるほど普及した一般的ツール。今回はUnityがアニメ制作向けに開発中で無償公開しているパッケージ「Anime Toolbox」を使用した。

 

▲第一部発表者は左から司会のまつもとあつし氏、大前広樹氏(ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン 代表取締役)、平澤直氏(グラフィニカ代表取締役)

 

そもそもほとんどが初対面、アニメ制作未経験者も含まれる初めて顔を合わせた人たちが、たった2日間でどうやってアニメを作るのか?というところから話ははじまる。このイベントの肝は「ゲームエンジンUnityを使う」×「オンライン」という条件で行われた。2日間とはいいながら、オリエンテーションから懇親会まで入れると実質10時間足らずといった時間の中で、アニメ制作がなされている(事後のブラッシュアップも含め結果的には合計30時間くらいは費やしている)。その後任意で、約1週間を使ってチームでブラッシュアップする時間は設けて最終発表となっている。最初「こんなやりかたが成立するのか?」という懸念があったというグラフィニカ平澤氏。半年から数年かけて職人たちがつくるアニメを未経験者も含んだ人たちが2日間で、という最初の構想自体があまりに荒唐無稽に思えた、という。業界経験者がメンターに入ったとはいえ、先ほどの完成動画のように成立したアニメがつくれたことは率直に驚きであった。

 

▲アニメ・ハッカソンのイベント全体像

 

この取り組みは総括すると「アジャイル型のアニメ制作」になる。元来、アニメとは制作工程がしっかりと組みあがり、各セクションでパーツの仕事がそれぞれ組みあがり、最終的に合成させる「ウォーターフォール型」である。アニメは他産業に比べて作り方が標準化されている色彩が濃く、だからこそアニメーターは違う職場に移っても比較的容易にその工程にフィットできる。タイムシートから絵コンテから撮影まで、基本的に作業はどの制作会社も変わらない。だから業界での人材還流も早く、かつ企業をまたいだ共同制作がしやすいのも「ウォーターフォールで作り方が決まっているから」というメリットを存分に享受している産業だ。「アジャイル型でアニメを作る」というのはゲームや他の作品では想像もできないほど、現場でハレーションを生むのだ。

監督が描いた絵コンテにあわせてアニメーターが完成品を出してきて、それを採用するか出し直しするか、基本的にはこの部分的な外注作業の繰り返しである。だが全部あわせて編集作業となったときに、「あとからわかること」は監督でもいっぱいある。あ、そもそも絵コンテ段階でこう描くべきじゃなかったな、と。しかし後の祭りで、今から作り変えるとなると多くの外注工程にひずみがうまれる。とても完成スケジュールには間に合わない。このパート、変だけど仕方ないか・・・。よほど熟練をしてプロセス段階で完成フェーズまで見通せるようなプロ監督でないと、常に想定以下の繰り返しの末の凡作に収まることも起こりえる。

デジタルを一切使っていない、という意味ではない。「背景(雲・車・ビル・群衆)」でゲームエンジンを使う取り組みはなされており、もはや手描きのみで完結しているようなアニメはほぼ無い。ただ、こうしたある程度テンプレート化できる部分以外は、手描きが中心、というのは海外のアニメスタジオにもない日本アニメ業界のみの特色である。

今回のアニメハッカソンではオンボーディングイベント(参加者向けのチュートリアル)の中で、アニメーターのりょーちも氏によるモーションキャプチャが自宅でスマホで行われた。もちろん精度は甘いにせよ、これまでのようなプロフェッショナルで高額な設備と熟練工でしか作れないもの、ではなくなってきている。今後についてゲームエンジンの利用が進みそうな工程は?と聞くと、「プリプロでのCGによる絵コンテ(プリビズ)」だという。すでに米国アニメ業界では当たり前だが「絵コンテを簡易な3Dを使い、音入れやビジュアライズしてみる、それをもって絵コンテを再度ブラッシュアップする」といった使われ方がなされている。Disneyの『ライオン・キング』もUnityを使って創られている。ツールを使うことで、工程の効率化にもなるし、そもそもその工程自体が必要なのか、という創り方自体を見直す機会にもなる。

ただ「単純にデジタル化すればScalability(拡張性)が上がるかと言われれば、懐疑的だ」と大前氏。正直デジタルツールは複雑化すればするほど横での同期がとりづらい。リテラシーの違いで、“同期しながら作る”ハードルがある。「覚えるまでが大変」というのはマイクロソフトオフィスもそうだし、PCのタイピングも同様といえる。皆がそれはスタンダードだよねというレベルにまでシェアが広がらないと、不便さは残り続けるのだ。

アニメ会社にCTOを、という動きも必要だろう。ゲーム会社にエンジニアはマストだが、アニメ会社となるとまだ一般的ではない。かつアニメ会社のエンジニアは「昔のシステム部の人」のような位置づけにとどまることも多い。アドビのプラグインが動かないから助けて!と駆け込みで依頼がくるような、電気水道ガスのように「ゼロ状態に戻してくれる」ことのみ求められる傾向が強かった。そうした中で、エンジニアを採用し、新しい作り方を希求し続けるような、グラフィニカのようなアニメ制作会社は徐々に増えている。

「アニメ会社もワークフローが変わるということに、コミットする必要がある」という大前氏の言葉が全てを集約している。作るモノは変わっても作り方自体を変えることは稀だったアニメ業界で、今回のアニメハッカソンの事例は一つの波紋を呼び起こす考え方でもある。「あなたが創りたいものは、今つくっているソレでいいんですか?」という問いかけが、このワークフローを変える取り組みの中には詰まっているといえるだろう。

 

■第二部:「若者への白紙委任」が技術イノベーション、『けものフレンズ』が見せたアニメの真価

前述のように、「最終的にこの絵にしたいんだ」という監督の絶対的権限に、現在のプロセスでは口を出すのは難しい。そのイメージは監督の頭の中にしかないのだから。だがアジャイル型でビジュアルにしながら議論をすると、そのヒエラルキーの破れをつくることが可能である。

大前氏は「イノベーションには『若者への白紙委任』が必要だ」という。過去、アニメの製作過程でも大きな変化が生まれたのは、手がまわらなくて若者に「任せざるをえなかった時代」だという。板野サーカス※も、テレビでの放送作品数が増えすぎて「もう任せる」となったことで、やりたかったことを存分にやろうとした結果生まれた技法でもある。ただ経験浅い若者への白紙委任は事故る。それを防ぐために脇をベテランで固める必要もあるのだ。そしてベテランが警鐘を鳴らしているのに、目をつぶって“危ない橋”を渡り切ってしまう事例が出てくる。そうしたなかでベテラン自身もハッと驚くようなイノベーションが生まれるのだ。

産業にはたまに「乱世」のような状況に突っ込むことがある。誰もがゴールがみえないなかで成長期待だけで人が動いている時期だ。今のWeb3やメタバース領域などがそれにあたるのかもしれない。「自分がやったことが正解になる」「何が正解かは自分が決める」、こうした環境で人材は圧倒的に伸びる。

※板野サーカス:アニメーター板野一郎(現在グラフィニカに所属)が生み出した、高速で動く物体を高速で動くカメラで捉えた映像にスピードと迫力を付けるための技法

 

▲二部の登壇者は左から濱中良氏(ANiC理事)、大前広樹氏、武田康廣氏(GINAX京都代表)、糸曽賢志氏(アニメ監督)、小宮彬広氏(グラフィニカ京都代表)

 

2部のテーマでもあるが、アニメの制作工程は、大きな意味合いとして2つに別けると、「クリエイティブコントロール」と「クオリティコントロール」で、あくまで後者は製品 の品質管理のためのものであり、その部分はウォーターフォール型であるべきだ、とグラフィニカ京都スタジオ代表の小宮氏。作品の方向性が決まった後の量産段階でどこまで品質を上げられるかの、まさにブラッシュアップの工程である「クオリティ」部分は昔ながらのやり方がすでに確立している領域である。一方で、「クリエイティブ」は何度も訴求して企画をやりなおせるアジャイル型への変換が可能であり、作品本質である「面白み」を練る部分であるので、イテレーションを繰り返すべきである。

実はこの転換の鍵を握るのは、「アニメーターのマインドセット」というある意味ソフトな部分である、とガイナックス京都の武田氏は語る。『天元突破グレンラガン』(2007、GINAX)でもロボットならCGを使ったほうがという場面もあったが、そこは「ロボットを手描きで描きたい」というアニメーターの意向を尊重し、宇宙から来るモブ敵などだけをCGにしたという。業界の基軸は40~50代のベテランアニメーターが担っており、彼らが確立した「ウォーターフロー型のアニメ制作ワークフローの完成度が高すぎるゆえに、それを崩すのは容易ではない」という。早い話が、現場の納得が得られないのだ。

実際にグラフィニカではゲームエンジンをいれたアニメ制作のテストケースとして行った社内開発プロジェクトで見えてきた問題もあった。Unityと並ぶ『Fortnite』のEpic社提供のUnreal Engineを使って、試験的に開発したときのことだ。一般デザイナーでは不慣れなUnreal EngineとSVNを使用してのバージョン管理を、皆違う場所から違う時間軸で作業しあうことで、ぐちゃぐちゃになったことがあったことから、「知識の標準化、そろったデジタルリテラシーがないと、ゲームエンジンやバージョン管理ツールを使用したアジャイル工程自体がうまくいかない」ということもある。特にアニメジャムなど一時的なイベントのためだけに慣れないツールを覚え、使いこなすのは難しく、メリットは少ないのだという。ゲームエンジンは 言葉通りゲームを作るソフトのためであり、簡単に映像制作をするというのは適していないのかもしれない。余計なことに手間をとらせず、クオリティに集中するためのゲームエンジンも、それを覚えるための工数が発生するのであれば、本質的なゲームエンジンの目的に適していない。

「鉛筆は生きた線、デジタルは生きていない」というアニメーターの言葉もあったそうだ。“アニメーターは野性の生き物”、好きで線を描いてきた人々である。彼ら自身がマインドセットをどう変えて、「創り方を変えること」に同意してもらえるかが現場で直面する問題だろう。

ただそうして積み上げた技量をすべて塗り替えるような、壮大なコンセプトが存在する。『けものフレンズ』は3DCGを使った意欲作だったが、実はアニメのビジュアルも声優があてた演技もどちらかというと厳しい評価が多かった。それでも武田氏は「この作品はどこまで自分を運んでくれるのか、どこにいこうとしているのか」で途中からのめり込むように見てしまった、という。全編通してみて、「こんな面白いアニメは久しぶりだ!」と感動する気持ちは、線のきれいさや創りこまれたアニメの完成度からくるものではない。粗削りな部分部分を忘れてしまうほど「全体で表現したいもの」の面白さに圧倒された、という(ちなみに「覇権アニメ」という表現を用いるなら『けものフレンズ』は2017年1-3月期の確実な覇権アニメであった。Twitterのフォロワー数も放送初期0.6万から最終週は8.2万と、その数年でかつて見たことのないような伸びをした。あまりにほのぼのした世界観の裏側に終末戦争後の地球と思われるような、壮大な謎がそこらここらに隠され、人々は深読みに没入した。これは現在「ちいかわ」などにも引き継がれる世界観かもしれない)

 

 

■「創って見せる」で終わるアニメ。ゲームのような「体験させる価値」が望まれる未来

ここまでアマチュア視点で、アニメの製作手法に新しい風を、という議論を行ってきた。ゲーム事業は特に、アニメとは違って他社と連携したり標準化のレベルをそこまで上げる必要がなかったため、各人が各社それぞれくみ上げた自社エンジンに習熟していくことを厭わなかった。その結果として、ゲームがアニメにはできなかったことをやってきた、という点について着目したい。

スタジオジブリ東小金井村塾出身で北米なども渡り歩き、現在はアニメ監督と同時に大阪成蹊大学の芸術学部長として研究者・教育者としての側面ももつ糸曽氏は以前、ED映像を担当した『炎炎ノ消防隊 弐ノ章』(2020、デイヴィットプロダクション)でゲームを作ったことがある。実況キャラも入れて、横スクロール的なアクションのアプリを作ったことでアニメのプロモーションとしても画期的な成果を残した。これもゲームエンジン上でアニメを製作していた副産物でもある。

武田氏も同様の経験がある。『新世紀エヴァンゲリオン 鋼鉄のガールフレンド』(1997、ガイナックス)でPCゲーム化を試みた。アニメで次回作を作るカロリーに比べればかなり安く作れるとのことで展開したが、当時はタイトル1本1万円という販売価格で10万本も売れる大商いとなった。アニメからのゲーム化というメディアミックスがまだ一般的ではなかったこの時代でも「ゲームが広げるアニメ後の体験」の効果を実感した経験だったという。

ゲームがなぜアニメより予算が1桁多いのかと言えば、「体験をつくること」を目指しているからだ。アニメは一方通行であり、見終わった後にそのキャラクターや世界観を愛するようになったユーザーは二度見するくらいしか手段がない。そこでフィギュアを買って、部分的にでもその世界にまた没入できるきっかけを「別途つくる」しかないのだ。アニメを観終わったあとに「一粒で二度おいしい」をどう作れるのか。最近ではアプリの中で自分がゲームによってつくったキャラをプリントしてフィギュアとして郵送してくれるサービスもある。
 
アニメで視聴率1%ということは、100万人が視聴しているのだ。日本全国放送としての1%といったときには感じないインパクトも、100万人という絶対数で考えれば相当な経済圏となる。そしてそのうちの1%、1万人が何かを購入したいと思っても、アニメ作品の作り手たちはそこへ新しい体験を届ける手段を持たないのだ。ゲームやフィギュアなど「体験機会を与える展開」にもっていくためにも、ゲームエンジンを使ったアニメ制作など創り方自体を考えるメリットはある、といった議論で最終的に今回のアニメハッカソンを振り返る議論は終結した。
 
京都市から「京都でアニメ×ゲームジャムを開催するなら」というアジェンダも提供されたが、「京まふでの作品発表」「京都の名所・祇園・鴨川・時代劇セットなどをフェアユースとして自由に使えるようにする」「クリエイターの京都誘致」といったアドバイスも提案された。また、講演会以外でも「ゲームがもたらす体験価値」の影響力はこれまで以上に大きくなっていることを実感する機会があった。
 
今回のカンファレンスが開かれた「京都デザイン&テクノロジー専門学校」は、日本全国で80校、4万人もの学生を擁する一大専門学校グループである慈慶学園の一つである。同校の名前では大阪に800人、京都に200人もの学生を抱え、専攻学科はテクノロジー/デザイン/ゲーム/eSportsの4つに分かれる。大学進学よりも専門学校を選ぶ学生は、企業にとっての即戦力性を優先され、卒業時の給与は院卒の22万円よりも多めで23~24万円となることが多い。このコロナ禍で学校側にも変化があった、という。それは「ゲーム志望者の増加」である。以前であれば雇用窓口の広い、通信やTech企業にいく「テクノロジー」が全体の3割で人気があったが、ロックダウンの中でゲームに親しむ人が増えたせいか2022年からの入学学生は明確に「ゲーム」や「eSports」を志望するようになっている。

今回のイベントを通じて、業界の革新が常に辺境から起こる、という通説を思い起こした。グラフィニカやGINAX京都などの最先端にいる企業のみならず、ANiC、Unityや慈慶学園など、周辺を支援するプレーヤーが学生向けに展開する手法のなかに、プロ自身が自ら振り返るような機会がある。「白紙委任できるような若者のプロジェクト」を通じて、プロ自身が間接的に学ぶこともできる。産官学の連携というと古めかしい響きがあるが、事実米国のゲーム業界からハリウッド映画界まで、世界的な作品を生み出す「産業クラスター」にはすべからくこうしたエコシステムが関与している。それは意識せずに勝手に出来上がっている東京エリアでは気づきにくい「人力でエコシステムが出来上がっている」という事実を、まさにアニメづくりにおいては“辺境”である京都において、改めて感じる機会となった。

 

▲開催場所となった京都デザイン&テクノロジー専門学校。「eSports学科」も併設する。

会社情報

会社名
Re entertainment
設立
2021年7月
代表者
中山淳雄
直近業績
エンタメ社会学者の中山淳雄氏が海外&事業家&研究者として追求してきた経験をもとに“エンターテイメントの再現性追求”を支援するコンサルティング事業を展開している。
上場区分
未上場
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