【連載】中山淳雄の「推しもオタクもグローバル」第62回 『ハンドレッドノート』―出版社がゼロイチでIP開発を行うと、どうなるのか?

中山淳雄 エンタメ社会学者&Re entertainment社長
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講談社からYouTubeアニメ発のコンテンツが発表された。本来週刊マンガ誌→コミックス→アニメ展開といったルートを辿る出版社の王道コースとは全く異なる動きであり、こうした新規事業チームがどういったプロセスで新規IP開発を行ってきたのかについてインタビューを行った。それはとりもなおさず、「出版社がなぜ週刊誌からこれほど多くのIPを生み出せたのか?」「出版社・編集者が得意技を封じながらIPを作るときに何が強みになるのか?」を振り返る機会にもなった。今回は講談社のIP開発ラボの第一作『ハンドレットノート』の取材である。

 
【目次】
頭がいいってカッコいい、を追求する新IPプロジェクト「ハンドレッドノート」
なぜ講談社がIP新規事業をはじめたのか?源流にあった「講談社2030プロジェクト」
出版社がもつ「クリエイターと仕事し続けている」プラットフォーム力
編集者にしかできないモノづくりとは?

 

■頭がいいってカッコいい、を追求する新IPプロジェクト「ハンドレッドノート」

――:自己紹介からお願いいたします。できればこれまでの異動歴などもあわせて。

岡田:岡田 幸美(おかだ ゆきみ)と申します。2005年講談社入社で、11年間女性誌でFRaU・ViViデジタルの編集長などを経て、2年前からKIss編集部でマンガ編集の仕事をしながらIP開発ラボチームの仕事を兼務しております。

橋本:橋本 脩(はしもと しゅう)と申します。2008年入社で13年間ずっと週刊マガジン編集部におりまして、2015年からはマガジンポケットの編集長をしておりました。私も2年前からヤングマガジン編集部に所属しつつ、IP開発でプロジェクトを進めております。

 

――:「IP開発ラボ」は得意のマンガなどの「出版物」を初としない、かつ自社で出版権のみでなく版権全体を保有しておこなうIP創造プロジェクトとして、22年6月にDAYS NEOなどをたちあげた鈴木綾一さんのクリエイターズラボの下に発足されました。私自身もアドバイザーとして1年以上一緒に動いておりました。ついに公に向けて第一プロジェクトが始動、となって感無量です。

岡田:本当に大変お世話になってます。中山さんが入ってくれたおかげで出版社としてこれまでやったことのないこの動きの展開も、だいぶスピーディに進んだ実感あります。

橋本:ちょうど企画立ち上げをしてリリースまで1年強ですよね。意外に短かったともいえますが、心理的には長かったなという感じもします。

 

――:新規プロジェクトといいながら、その前身から全員が30代後半~40前半の部長・編集長クラスの“本気人材"で構成されていて、ちょっと講談社としての力の入り方に大変驚きました(IP開発ラボチームは2021年からパルシィ編集長の助宗佑美氏をチームリーダーとし、岡田氏・橋本氏に文芸第三出版部長の鍛冶祐介氏を加え、4人がスタートメンバーとして始まっている)。

岡田:全員が兼任状態でしたからね。よくここまできたものだと思います。

 

 

――:では改めて、なのですが2023年5月に女性向け名探偵コンテンツ『ハンドレッドノート(以下:ハンドレ)』を発表されました。こちらはどんな企画なのでしょうか?最初、橋本さんの企画書からはじまりましたよね。

橋本:「名探偵プロジェクト」として、犯罪都市・TOKYO CITYで奇人・変人・悪人ばかりの名探偵たちが謎を解きまくります。名探偵たちにはそれぞれ序列がついていて、そのランキングを争っている、という設定です。まずはYouTubeアニメをPlottさんと展開していきます。

 

――:ちょうどこちらでYouTubeチャンネルが立ち上がったばかりですね 。動画はTiktokもあるし、ショート動画もあるし、様々な内容が同時に展開が進んでいます。世界観としてはどういう設定なのでしょうか?

橋本:1人の「名探偵」に2人のサポート役での「記録者」がついて、3人1組のユニットが「ハウス」となります。現在はこのハウスが5つあり、ホークアイズスワロウテイル、アグリーダック、クラウンクレイン、ナイトアウル、最初の2ハウスが個別のYouTubeチャンネルでアニメ展開されます。あとはもう1つ、Youtubeオリジナルのスネイクピットという怪盗チームのチャンネルも。詳細はこれから、ですね。

 

▲ハンドレッドノートのキービジュアル

 

▲各ハウスごとの関係性相関図

 

――:ちょうど2022年初頭にチーム全員がどんな企画をやりたいかで出してきたところからスタートしましたが、この『ハンドレ』は満場一致でスタートが決まりました。

橋本:もともと僕は小説読みで、入社時の志望も小説部署でした。特にミステリーをよく読んでいて、中でも「名探偵」が大好きでした。だってカッコイイじゃないですか、名探偵!漫画編集者としてもミステリー・サスペンスジャンルの作品を多く担当していたこともあって、これなら面白いことができるんじゃないかと思って提案しました。

 

――:“いちばん頭がいいのは、誰だ?"という決め文句が、まさに綾辻行人などミステリー文芸や『金田一少年の事件簿』からミステリー漫画を手掛けてきた講談社っぽさも表していて、そういった文化的背景も含めてチーム全体でGOとなり、一年間かけてつくりあげてきたプロジェクトです。

橋本:ミステリーというジャンルには、まだまだとてつもなく大きな可能性があると思っています。物語の面白さ、キャラクターの魅力に加えて中山さんと様々分析してきた近年の傾向を取り入れていけば、新しいものが作れるんじゃないかと思いました。そのためには、コンスタントに映像を出していき、日常回も含めていろんな入口があって、作品を複層的にユーザーさんが好きに深堀りできる要素が必要だと。

岡田:それもあってYouTubeで定期的に動画を更新していけるパートナーを探してたんです。ViVi時代からYouTubeコンテンツは色々作ってきたんですが、そのとき知り合った方々がベストだと教えてもらったのが「テイコウペンギン」「混血のカレコレ」など小中高の学生向けにも多くの視聴者をもつPlottさんでした。

 

――:初動の反響はどう見られてますか?

岡田:公開してまだ数時間、ひっそりと始めるつもりだったのですが思ったよりも早い段階で多くの方にチャンネル登録していただき、ありがたいコメントをいただいています。ただ、大胆に変化させながら続ける!がテーマでもあるので、数字やリアクションも見ながらよりYouTubeで愛される動画にするべくアップデートしていきます!

橋本:先に公式サイトやTwitterをオープンしていたこともあって、動画公開を楽しみにしてくださっていた方々がいらっしゃいました。その方々に満足してもらえるかハラハラしていたのですが、コメントなどを見る限り、まずまずのスタートを切れたのかなとほっとしています。これからさらに良いものをたくさん出していくことで「ハンドレ」を育てていきます!

 

――:そうですね、ちょうどこちらの謎解きの長編動画がUPされましたが、もなかなかに見ごたえありますね。

 

▲すでに次の展開も考え、アクリルキーホルダー・缶バッチなどのグッズ制作済

 

■なぜ講談社がIP新規事業をはじめたのか?源流にあった「講談社2030プロジェクト」

――:IP開発ラボはそれ以前からやっていた講談社全体のプロジェクトからの事業部化と聞いています。お二人はどうしてそこに呼ばれたのでしょうか?

岡田:2020年夏ごろに「講談社2030プロジェクト」というのが発足しています。10年後の本業になるだろう事業をつくれ、ということで。6事業部(第1:ノンフィクション、第2:女性メディア、第3:少年・少女コミック、第4:青年・女性コミック、第5:文芸、第6:児童)から1~2名ずつとチームリーダーとしての局長数名ですね。

橋本:なんで呼ばれたのかとかは、よくわからないんです。あ、「耐久力が高い」と言われたかも。集まったメンツをみると、「なんでもやりたがって新しもの好きな6人」という感じだったかと思います。

 

――:そこからどのようにプロジェクトが発展していくんですか?

岡田:2020年夏から半年くらいかけて、10~20人、社内外の見識者に個別にインタビューして(中山さんもその時にブシロード執行役員として最初にお呼びしましたよね!)、色々話をお伺いしたうえで、2030のプロジェクト案をまとめていきました。

橋本:初期にどんな展開に興味があるかと言われて、僕と岡田さんが「IP創出」だったんです。だから我々2人にとっては当初から「IPをどう作っていくか」というプロジェクトでしたね。

 

――:お二人はなぜそこでIPづくりというテーマを選ばれるんですか?

橋本:僕は『オタク経済圏創世記』を読んだことが大きかったです。これはお世辞じゃなく(笑)

 

――:え、僕の本ですか!?それは初耳です笑。そっか、それでインタビューにも呼んで頂いたんですね。

橋本:衝撃でした。こういうものづくりの仕方があるんだ、僕たちもこういう作り方にトライしてみていいんじゃないかって思いましたね。僕がどっぷり浸かっていた漫画の世界だと『ONE PIECE』は絶対王者でした。その『ONE PIECE』の市場規模をラブライブ!が抜いているという話を読んで、大げさじゃなくて眩暈がしました。その時の自分の価値観ではまったく理解できないことだったんです。ここには僕の知らないものづくりの世界がある、だったらチャレンジしてみたい、と思いました。

 

――:認知度は圧倒的なものをつくってきたのが週刊マンガ誌ですからね。岡田さんはどういった経緯でIPに興味をもつんですか?

岡田:女性誌視点からみて、勿体ないなと思うことが多かったんです。K-POPでBTSやBLACK PINKが出てきている中で、日系の音楽会社や事務所が攻め切れていない時代だったんです。シンボルとなる3次元"キャラクター"と伴走して、結果的にViViがアジアのガールズカルチャーに影響力があった時代をギリギリ体感していたので、自分たちもこれからの時代のキャクター創出に積極的に関与して、もう一度そういうチャレンジをしたいなと思っていました。人とお金の投入の仕方を大胆に変えないといけないので難しかったんですが。

 

――:確かに、作家と密につくっていく他の事業局に比べると、第二事業局(は外とつながる機会が多いから、そこで感じる外部の動き、ありそうですね。

岡田:あと単純に、私はMARVELが好きだったんですよ。女性誌だったのでディズニーさんともお付き合いがあって、それこそ2008年のユニバースが開始する前は全く知らなかったけれどMCUの展開が始まった後にディズニーやmarvelの方に説明を受けて、すごい構想だなと。「Marvelが昔からキャラクターを大量につくってきていた。それを大胆に整理し直して、MCUとして映画を作り直していく」というところから教えて頂いて。でもその後ディズニーが再編成する際に「どんなに売れなくても一定のフェーズまでは出す予定。やりきったら絶対に売れる」みたいな商品展開に憧れて、すごいなと純粋に思いました。marvelは同じ出版社だし、ああいった展開ができる機会はないだろうか、というところでこの2030のプロジェクトがチャンスだとおもったんです。

 

――:色んな見識者の話きいたと思いますが、お二人が印象的だったのってどんな方の話だったんですか?

岡田:中山さんのお話が面白かったのと、伊藤憲二郎さん(株式会社ポケモン 最高ビジネス責任者)もとても刺激になりました。

橋本:あと、IP創造とは違う文脈ですけど川上量生さん(KADOKAWA元代表取締役)とオードリー・タンさん(台湾デジタル担当大臣)も面白かったです。事業アイデアというよりは、ものの見方みたいな話でしたけど。

 

――:伊藤さんと川上さんとオードリー・タン!?いやいや、すごい並びですね笑。社内講演会のアサイン力が凄すぎる。じゃあIP創造だけでなく、ホントに多様に「社外の知」をいれたんですね。

岡田:はい、そこで聞いた話をもとに、2021年は課外活動のように「IP班:IP創造チーム」「DJ(Digital Journey)班:DXを言い換えた社内プロセス改革」「TK(楽しい講談社)班:」の3つに分かれてそれぞれで深堀調査をしていって、このIP班が2022年6月にIP開発ラボとして独立した形です。

 

――:こうやって社内横断プロジェクトやったり、部署になるというのは、よく講談社でやっていることなのでしょうか?

岡田:社内横断はよくやってます。事業部ごとに全然違うことやっているんですけどそういうのはサイロにならないように、「社内風通し」とか「皆横で繋がれ」とか横ぐしプロジェクトはよくやります。ただ、今回のように予算も専従社員もついて、実際に部署にまでなった、というのは結構珍しいと思います。

橋本:そのおかげで実際に事業部を超えてのつながりは年々強くなっている実感はあります。今回の「ハンドレッドノート」でも数えきれないくらい多くの社員の力を借りてやってきました。

 

――:そうそう、お二人ともそもそも2010年代半ばからデジタル新規事業やってますよね。それ自体も、結構キャリアとしては珍しいですよね。社内的には期待値高かったですか?

橋本:どうでしょう。当時はまだ紙が主流で、デジタルは傍流、という意識が強かったと思います。でも実際には雑誌の売上も下がってきたし、週マガのプレゼンスも落ちるのではないかという危惧はありました。マガポケの検討が始まったころは、小学館の「マンガワン」(2014年12月~)はあったけど、集英社「少年ジャンプ+」(アプリ版2015年3月~)もなかった時期です。マガポケ自体も、2015~16年は単なる週マガのミラーサイトのようなつくりで、17年11月のリニューアルで初めてマガポケオリジナル作品を恒常的に出していく体制が整いました。「待てば無料」のシステムを導入したのは2018年3月。ちゃんと成果が出たのはそれ以降です。

岡田:女性誌の紙の広告収入もどんどん下がっていくなかで、各雑誌編集部ごとにそれぞれがデジタル化、ではもう間に合わないとなってきてたんですよね。同じくらいのタイミングで、女性誌全体で初めて横断で改革となりました。それ以前はデジタルで事業を興すとなると、手はほとんどあがらなかったのを記憶しています。

 

――:デジタル化は2015年時点でもかなり社内的には抵抗があったんですね。

橋本:この8年で隔世の感があります。社内の抵抗というよりは、単純に体制が整っていませんでした。当時はカウンターとなる社内のデジタル関連部署の人員も十分ではなく、少人数でコツコツやっていました。その時のメンバーに恵まれなかったらどうなっていたことか……。たとえば、パフォーマンス広告を出す経験もあまり多くない時代だったので、宣伝費の獲得で四苦八苦です。ROASやらLTVやら継続率やら言っても当然通じない。それでも、「わかんないけど、まあいいよ、やってみなよ」的な感じで好きにやらせてもらったのは、自社ながらつくづくすごい会社だなと思います。

 

――:ただ2015~18年ごろのそうした四苦八苦の格闘があったからこそ、2020年のコロナ期にマガポケも急激に躍進しましたよね。

橋本:必ずしもそのころの成果とは思いませんが、新しい事業が芽を出すには数年くらい必要だ、という気持ちはあります。だから今IP開発ラボでやっている、新しいルートの開拓や作り方のノウハウも数年後にきっと生きてくる、と信じてます。

 

  

■出版社がもつ「クリエイターと仕事し続けている」プラットフォーム力

――:この1年でIP開発ラボも、佐川俊介さん(メタバースラボチーム長)も入り、他ハンドレの担当スタッフも入り、だんだん所帯も大きくなってきましたよね。皆さん、(いまだにですが)ほとんど兼務だったので、それはそれは大変だったかと思いますが。

岡田:そうですよね。私も橋本くんも鍛冶くんも、ほぼ現部署での担当業務もちながら、兼任でやってますからね・・・。

 

――:逆に現在部署・責任をもちながら新規事業をするメリットもあるなと傍目で感じる場面もありました。

橋本:鍛冶さんが特にそうだったんじゃないでしょうか。部長職で部下10人以上いる状態でのIP開発プロジェクトでした。稼働が限定的になる反面、実は「現役の編集チームと作家との関係性がある部長がいること」がハンドレでは大変ヘルプになりました。

 

――:確かに作家のアサインは、ちょっと僕がいままでみたプロジェクトの中でも群を抜いてました。「あ、〇〇先生、来週なら空いてるからプロット打ち合わせしましょう、だそうです」と、会議中に議題が出た瞬間ブッキングがどんどん決まっていきましたもんね。

橋本:それによる良し悪しもあるんでしょうけど、「日常的にやりとりしている作家さんの中で、新規プロジェクトの相談ができる」「人間関係のなかでクセも含めて協働できる」「目線の揃ったチームがあって、仕事も振れる」など“意思決定ポジション"の人間が新規事業チームにいることのメリットも存分に享受しました。

 

――:あれはチーム作りとしても珍しいと思いました。既存部署からすると新規事業って煙たいですからね。既存の中枢の人が(めちゃくちゃ忙しいながら)並行で新規をやると、新規自体で得た知見も既存に持ち込めるし、なによりリソースを使えるという点ではちょっと僕も目が開かれました。

橋本:ハンドレはミステリーなので、特に文芸局の協力は企画成立のためには不可欠でした。のちのちバレると思いますが、『ハンドレ』のメインストーリーのプロットは現役ミステリー作家さんにも参加してもらっているので、クオリティが高いです。

 

――:完全にYouTube向けコンテンツにはオーバースペックな感じでしたね。分厚い資料がモリっと出てきて。

橋本:だからこういうショート系なども合間に挟みながら、ミステリーはミステリーでしっかりした筋を追えるものをホークアイズスワロウテイルも用意してます。尺の長さ的に完全にYouTube動画のセオリーをはずしてるんですが、ちゃんとしたミステリーが見たいという希少なユーザーさんにも歯ごたえのあるものを出していきたくて。

 

――:実際に出版社の新規事業としてIPづくりをしてみて、「出版社のすごいところ」ってどういうところだと思いました?

橋本:思ってたより講談社ってすごいんだなと思いました笑。プロジェクトを進めていく上で何か困ったことがあっても、社内を探せば詳しい人、助けてくれる人がいる。新規事業と言いつつ、結局は社内の既存部署の方々に助けられながらようやくつくった感じです。

 

――:具体的にはどんな部分で既存の講談社アセットを活用してきたのでしょうか?

岡田:社内アセットというより、人とのつながりが大きかったです。小説家の方には肝となるストーリー編のプロットを依頼できましたし、漫画家さんにはシナリオのネーム化(絵コンテ)やキャラクターラフ案の相談ができました。劇伴やキャラ・ハウスごとのテーマ曲は過去に別の仕事でご一緒して素晴らしいなと思った方にお願いしました。声優さんのアサインについても、普段アニメを作っているライツの方に間に入ってもらいました。公式サイト制作については各編集チームでWeb制作をやってきた経験者に聞いて、信頼できるパートナーさんを見つけられました。

とにかく「作る人たち」とのネットワークがすごいんです。自分たちの部署で新しい会社さんを見つけて作ろうとしていたところ、結局はいままでの事業部のネットワークをそのまま使うのが一番早いし、しかもクオリティもいい、という結果になりました。

 

――:逆に従来の出版社では「足りていないかったところ」はどういうところでしょうか?

橋本:「イラストレーター」さんとのつながりでしょうか。「ハンドレッドノート」はイラストレーターさんの力がとても大事な企画です。しかし、講談社として深くお付き合いをしている方はあまり多くない印象でした。漫画家さんとのお付き合いはたくさんあるのですが。

 

――:マンガ家の絵とイラストレーターの絵が結構違う、ということは僕自身、はじめてこのプロジェクトで知りました。

岡田:misaさんにメインのキャラクターデザインをお願いしています。チーム長の助宗さんがバタバタしている我々の代わりにイラストのディレクションをやってくれて、かなりギリギリまで絵をつくりこんでいただきました。

やっぱり「絵そのものを売っている」イラストレーターの方の一点もののキャラ、服装、ポージング含めた創りこみはちょっと別種なんですよね。だからプロジェクト全体でそろえてハイクオリティなイラストを量産するために、というパイプラインづくりが一番難航したところかもしれません。

 

――:外部の有名絵師さんたちも巻き込んだりしましたが、そこらへんも難航したところでしょうか?

岡田:普段の関係性がホントに大事なんだなと改めて感じました。上記のシナリオ作家や漫画家さんはだいたいどこかの事業部の仕事ではご一緒したことがあって、そのおかげで連絡も取りやすい。でも「イラストレーター」さんに関しては、連絡先が見つからなかったり、やりとりがつづかなかったり。うまく業務に移るまでが苦労しました。

 

――:「講談社」ブランドもイラストレーターには効かないんですか!?

橋本:ブランドなんかより、大事なのは関係性なんですね。日々何かしら一緒にお仕事をさせていただいていて、「関係性が続いている」「仕事の循環がある」ことが出版社としてのアセットなんだなと改めて気づかされました。結局、クリエイターさんとのつながりこそが講談社最大の強み、ということですね。 

 

 

■編集者にしかできないモノづくりとは?

――:同じ「出版社が手を出しにくかった領域」でいうとPlottのYouTubeアニメなんかもそれに当てはまりますかね。

岡田:自分たちは完成されたものだけで勝負してきたんだなと改めて考えさせられました。作ってるものの発想が根本から違うんですよ。こっちも「え、このショート、かなり思い切ったIF設定ですね」とか、細かいところが色々気になってしまって。Plottさんを見ていると良い意味で割り切りがあって、「最近こういうのが流行っているから」とサクサクとリアクションをみながら出していくし、途中で変えていく。トレンドにあわせてちゃんとマーケットインしているなと感じます。

 

――:スピードと量が大事になるフェーズがありますよね。もしくはルールだと思っていた「質」が、プラットフォームが変わると通用しなくなってしまったり。そもそもテレビ・映画の映像業界に対するYouTubeが創り上げたクリエーション世界がそのままそういうことですよね。

橋本:僕たちは「クオリティにこだわる」のが、ものづくりの神髄だと教わりました。それはそれで真実だと今でも思っています。そういう我々のこだわっている部分と、Plottさんのもっている強みとをあわせながら、ハンドレもよい落としどころを探れればと思っています。

 

――:確かに初動で3チャンネルを週3~4回で更新し続けるというサイクル自体が、、、出版社がやるYouTubeとは思えぬ物量とスピードです。

橋本:YouTubeのアルゴリズムの中で、ちゃんと検索されてちゃんと視聴されるか、というところは、Plottさんのノウハウに依存するところが大きいです。Youtubeというプラットフォームにあわせたモノづくり、という意味では僕たちはぜんぜん及びません。

 

――:新規IPづくり、と一口にいっても、最初の世界観・キャラの設定、仲間づくりのための企画書制作、HP制作から声優アサイン、版権絵を量産する体制の構築など、かなり膨大な作業を経てここまでやってきました。そうした中で「編集者」としてベテランのお二人からみて、編集者というのはどういうところで活躍できるものなのでしょうか?

橋本:たぶん編集者の特徴って「白紙からゼロイチでモノが生まれる瞬間」をめちゃくちゃ見てきたことなんだと思います。どんなに人気になった作品も、白紙に一文字目を書く、一本の線を引くところから始まっている。そのことを僕らは体感として知っているので、良くも悪くもものをつくるということに「構える」ことがないのかもしれません。とにかく、えいっと踏み出すことができる。こういうと当たり前のことに聞こえそうですけど、本当にゼロイチでモノが出来上がっていく瞬間を、こんなにたくさん目の当たりにする職業は珍しいんじゃないかなと思います。

 

――:確かに拝見していて、「場数の多さ」が編集者の強さだなと思いました。もともとゲームよりもアニメよりもたくさんの失敗をしてきてるから、出版社って思いのほか編集ごとに任せるカルチャー強いんですよね。だから作家さんにあったやり方で、いろんな挑戦をしていろんな失敗して、そのなかで大きなヒットに出会い、経験値を深める。

岡田:編集者で養われるのは限られた情報で想像ができる力、だと思います。協業相手にしても作り手にしても、普通の会社だとリファレンスとして先例や競合事例を見せてそこを基本に作る必要があるんですけど、たぶん数限りないゼロイチプロジェクトをやってきているから、「任せたらどのようなものになりそうか」という想像力が、担当も承認者にも比較的働くんですよ。たぶんそこも出版ではないモノづくりでも生きるところなんじゃないかと思います。

 

――:今後はハンドレのみならず、第二弾・第三弾のプロジェクトがIP開発ラボから出てくると思います。まずはこのハンドレからのスタートですが、お二人としてはどういうユーザーに、どんなふうにこの作品をみていただきたいですか?

岡田:とにかく楽しみ方の傘を広げる、が今回のテーマなんです。だから何も考えずに、「この名探偵、好みなんだけど」でふれあってくれる人もでてくれば、逆にミステリーにこだわりあって動画読み込んで考察するような人にも楽しんでもらいたいです。入口がいっぱいあって、まるで迷路のように一個一個の隘路で個別の楽しみがうまれるような、そういうテーマパーク的なコンテンツにしていきたいです。

橋本:ハンドレには多くの方がかかわってくださっている反面、すべてを統括するキークリエイターがいません。一つの強い哲学がひっぱるのではなく、多くの個性をマージすることで新しいものを作っていきたいと思っています。この作り方がどういう化学反応を生むのかまだ僕たちにも見えていないところもあります。そういう「油断ならない感じ」とか「独特の面白さ」みたいなものを色んな角度で味わっていってほしいと思います。

 

▲左から橋本脩氏、岡田幸美氏

会社情報

会社名
Re entertainment
設立
2021年7月
代表者
中山淳雄
直近業績
エンタメ社会学者の中山淳雄氏が海外&事業家&研究者として追求してきた経験をもとに“エンターテイメントの再現性追求”を支援するコンサルティング事業を展開している。
上場区分
未上場
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講談社

会社情報

会社名
講談社
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