【連載】中山淳雄の「推しもオタクもグローバル」第67回 日本最大規模:1万人のクリプトカンファレンスIVS Crypto 2023 KYOTOはイベント運営もDecentralized(分散型)

中山淳雄 エンタメ社会学者&Re entertainment社長
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京都市勧業館「みやこめっせ」で2023年6月28日から30日までスタートアップ・クリプトカンファレンス「IVS 2023 KYOTO / IVS Crypto 2023 KYOTO」が開催された。16年間で30回を数えるIVSにおいて、もともと数百名の限定招待客のみで行ってきた同イベントで「1万人が集まるカンファレンス」という今年の目標自体が、当初あまりに荒唐無稽にみられた。なにより2023は「クリプトの冬」真っ最中でもある。コロナが空けて国境がOpenになったとはいえ、あくまでベアマーケット(下降市況)であるこの市況下で“遅れてきたバブル"のような大規模イベントが成功した理由は何だったのか。今回はその主催者の1人である、IVS Crypto責任者のWhiplus氏にインタビューを行った。

 

 

 

▲豪華ゲストを半世紀前の東映映画ポスターのように陳列したIVS京都の宣伝は、各SNSを大きく賑わかしていた

 

■コロナ明け、「クリプトの冬」だからこそ実現させたかった1万人イベント

――:自己紹介からお願いいたします。

IVS Crypto運営責任者のWhiplus(ウィプラス)です。IVSは2007年秋の初開催より17年目、以来日本のスタートアップ向け最大のカンファレンス・コミュニティとして運営されてきて、今回30回目になります。これまでは「完全招待制」で数百名のみのイベントとして運営されてきましたが、昨年沖縄で開催されたIVS NAHAからIVSと新たにIVS Crypto(Web3特化)が一緒に展開することになり、結果2,000名規模となりました。

今回のIVSは、「プラットフォーム」になることを目指して、招待制でなくオープンに参加者を集める形式にシフトしました。結果、計画どおりに1万人を集める大規模なイベントとなりました。特に海外からの集客を大きく伸ばせたことが成果に繋がったと思います。那覇開催の前回は、海外からの参加者は全体の1割でした。今回は、2割の2,000名以上が海外からの参加者です。

――:海外2割は凄いですね!そしてIVSとIVS Cryptoが一緒だったので、VC・ベンチャー・Web3系の人々が今回は全部一緒くたになっているのですね。

Next Passで入れる3Fスペースも左手がIVS、右手がIVS Cryptoで分かれてますし、Pro PassとVIP Passで入れる地下1Fスペースも緑色4部屋がIVS、青色3部屋がIVS Cryptoで分かれています。それぞれが自分たちのゲストやスピーカーを呼んで、共催という形になっています。

――:だからこんなにVC・TechとWeb3の雰囲気が混在しているんですね。スタートアップ向けイベントとして有名なIVSといえば「LAUNCHPAD」ですよね。ピッチをして投資家を集める、という。

IVSでは、累計でCXOクラス(経営層)をこれまで2万人招待してきて、スタートアップとの接点を作ってきました。参加企業の申請は5,000名以上にもなり、実際に400社以上ものスタートアップがファンドレイズを実現してきました。今までWealthNaviさんやfreeeさんを代表に27社がIPOを実現しており、それに加えてWebPayやLINEなどに33件がバイアウトもされ、こうした実績によってIVSがベンチャーとVCにとっての登竜門のようなブランドを築いてきたことになります。今年のIVS Cryptoでは特別に「SHAKE! KYOTO」という国内最大級Web3ゲームピッチコンテストも開催し、Web3プロジェクトの可能性をもっと引き出したいからです。

――:日本で間接金融でなくVCからの直接金融が一般化したり、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)でYJキャピタルやオムロンベンチャーズといったファンドができてくるのが2010年代、そうした流れを黎明期から作ってきたIVSさんのブランドが今実ってきているという感じがします。それがたぶんIVSの一番のブランドですよね。

LAUNCHPADでレイズされた投資額合計でいうと今までで累計20億ドル(約2500億円)に到達していますね。IVSに出るとVCとマッチングされる、VCもVCでお互いに情報キャッチアップできる、というので結構そこはブランドになっているかと思います。

――:今回も豪華なスピーカーですよね。初日のシークレットゲストとしての本田圭佑選手や、DMMの亀山会長、サイバーエージェントの藤田晋さんも来られるというので、驚きました。

正直なことを言うと、スピーカーを集めるほうはそこまで苦労していないんです。むしろスピーカーで出たいという自己申告をお断りすることのほうが多いくらいなので。1万人を集めるということが今回の最大のチャレンジでした。

――:もうそんな感じになっているんですね・・・それでスピーカーも700人以上、観客も1万人というとんでもないサイズのイベントになったわけですね。しかし、Cryptoの冬といわれるこのタイミングに、よく「1万人開催」を掲げましたね?

いや、「クリプトの冬」だから1万人目標を掲げたんです。2022年にWeb3ブルマーケット(上昇相場)のときは、世界中どこのWeb3プロジェクトも同質的になる傾向があったんです。でも本当のイノベーションって冬に起きるものだと思うんです。

――:たしかに「ベアマーケット(下降相場)こそ真価が問われる」というメッセージが今回の登壇者でよく出てきたキーワードでした。このタイミングで1万人を集めたというのはかなり世界的なメッセージに

間違いなく今段階で世界でも最大級のWeb3イベントですし、今回のことで2,000人以上もの海外VC・Web3関係者達から「日本スゴイ」という印象になっていると思います。

――:IVSはどのような体制で運営されているんですか?

メインはVCであるHeadline Asia・Infinity Venture Crypto (IVC)と京都府・京都市・一般社団法人京都知恵産業創造の森とともに設立したIVS KYOTO実行委員会が主催してきました。

――:価格設定にも驚きました。Next Pass ($399)、Pro Pass ($1,999)、VIP Pass ($9,999)というのは・・そもそもイベントで100万円以上ものチケットというのは私もほかで見たことがないです。

いや、もともとIVSって「完全招待制イベント」で単価はこういったレンジなんですよ。1人45万円で税込だと約50万円、というのを基準に数百人集めてきた歴史があります。そうしたところから考えると、今回のNext Pass($399)、5万円強で入場できるのはむしろ安いんです。

――:なんと・・・今月はWeb3 Summit Tokyo(6.12-13)、Web3 Bizdev Summit(6/18)、Non fungible Tokyo2023(6/22)、AzukiKyoto(6/29)とまさに日本ブロックチェーンウィークでした。

  

■鉄道オタクが実現した「日本初のNFTアート個展」、1年でWeb3トップランナーに

――:Whiplusさんはもともと、どういう経緯で日本に来られたんですか?

中国出身で、上海⇒カナダ⇒ロンドン⇒ニューヨークときて、数年前から日本に住んでいます。普通に企業(リンクアンドモチベーション)に所属してSE(システムエンジニア)として働いていた時期もありますし、自分で起業したり、数千人規模のイベントを参画や運営していた時期もあります。慶應大学メディアデザイン研究科で中村伊知哉先生のゼミに入り、その後岸博幸先生についていました。

――:なんと!中山もいま経済学部で教えてますよ。慶應の学生という立場で日本にきたんですね。日本はもともと好きだったんですか?

もともとアニメが好きだったので、オタクとしての下地が大きかったですね。あと鉄道オタクだったんです。

――:鉄道オタク笑!外国人では珍しいですね。

バンクーバーからトロントまで5日間の旅をしたりしてました。最高でしたね。

――:海外ってあまり電車が豊富じゃない印象があるんですが・・・特に米国は僕も出張で乗ったりしてましたが、Caltrainエライ古いし、時間通りに全く来ないし・・・

中国だと全部新幹線のような車両になってしまっていてわりと多様性が限られているんですよ。Caltrainも最近は新しくなりましたけど、、、確かに電車オタクには日本は聖地のような場所ですね。年3回発売される青春18切符を買って、日本中旅していました。

――:日本語はどうやって覚えたんですか?

来日したときは全くわからなかったです。サークルに入って、飲みまくっていた時期に3カ月くらいで突然スイッチが入ってわかるようになりました。

――:「言語はアルコールと接種すると吸収率が上がる」理論ですよね。わかります。それにしてもWhiplusさんのレベルは早すぎますけど。アニメやゲームも好きだったんですか?

はい、eSportsプレーヤーとしてやっていた時期もあります。Hearthstoneのプレーヤーだったんですけど秋葉原ラジオ会館でやっていたトーナメントで優勝したこともありますよ。

――:マルチですね~アニメ・ゲーム・鉄道オタクなところから、実際ビジネスとしてもエンジニア・起業家だった中で、学生しながらWeb3の世界に入っていく感じですね。最初にNFTやBlockchainゲームなどに触れたのはいつごろなんですか?

2022年の頭です。2022年3月に日本ではじめてNFTコレクションの個展をやったんです。東京藝大出身の日本画家中條亜耶さん、そして東急不動産、HARTi、丹青社、ピクシーダストテクノロジーズ(落合陽一氏の会社)とともに東急プラザ渋谷で日本初のNFTアート個展「浅瀬のおともだち展」を開催し、5000人ものお客さんがきてくれました。

――:日本に来て数年だったWhiplusさんが突然アーティストの中条さんと組むことになったのはなぜですか?

彼女と会ったのも実は旅の途中なんです。日本全国フラペチーノの旅(2021年6月にスターバックス日本25周年で日本全国47都道府県で47 JIMOTO フラペチーノを実施)をしていたときに出会って意気投合して、一緒にNFTプロジェクトを立ち上げよう!となりました。一緒にやってくれたHARTiさんのお陰でもあります。
※HARTi:2019年2月設立のベンチャー企業、英国でアートビジネスを検討していた吉田勇也が設立し、NFTプラットフォーム「HARTi」の運営をしている

 

▲47都道府県のフラペチーノがすべて写真としておさめられていた

 

――:なんと!鉄道・アニメオタクという趣味が、日本にもWeb3にも導く根源になったんですね。それで「日本初」・・・Kawaii Skullさん< https://gamebiz.jp/news/351486> みたいですね。

凄かったですよね、Kawaii Skullさん。僕も実はホルダーなんですよ。伊藤穣一さんがお勧めしていたときに購入していて。まさかご自分で手書きで作るとか、思わないじゃないですか。

――:その後、「日本初のNFT個展アーティスト」のWhiplusさんがIVSに絡んて行く経緯は?

まさにその個展のきっかけでIVS代表の島川敏明さんから声をかけられたんですよ。IVS Cryptoを作るから手伝ってくれないか、と。

――:いきなりの一本釣り!それでいきなりHead of IVS Cryptoになるんですか??

最初からじゃなかったですけどね。入社して1週間してからHeadに、となりました笑。

 

■Decentralize(分散型)イベント、起業家・VC・卒業生が入れ替わり立ち代わり「兼業」

――:今回参加して驚いたのは、そのサイドイベントの数です。毎日のようにUpdateされて増えていきましたが、そもそも「IVS公式イベント・パーティ」自体が1個どころか何十個と乱立していて、一体どこにいったらよいのか迷いました。

サイドイベントで120~130個くらいありますね。昨日(2日目の木曜)だけで1日46個イベントがありました。これも皆が勝手につくって、公式イベントとして認めてほしいものだけ申請して許諾しているもので、非公式のものをカウントすると150個以上ある状態です。

 

▲早朝のマラソンイベントからお寺の禅体験、毎日早朝から深夜まで数十個のイベントがあちこちで立ち上がっていた

 

――:1日目の夜に二条城でやっていたOasysはホント凄かったです。由緒正しい二条城の中でガンガンDJ大沢伸一さんのパフォーマンスもあれば、隣にチームラボの屋外展示もあって、でっかいステージでの発表会などもありました。海外からのゲストはあれが一番感嘆モノでしたよ、京都meets Web3という感じで。

すごかったですよね。二条城は京都府の中原さんが推進されました。京都府・京都市のバックアップがないと実現できなかったものでした。

 

▲二条城とWeb3のテクノ感がマッチして海外来賓客は特に感嘆の声をあげていた

 

▲雨が降っても美しかったチームラボの屋外展示

 

▲日本DJ界の歴史をつくってきた大沢伸一氏のパフォーマンス

 

――:これだけのイベントですが、どういった人員で運営されていたんですか?

コアチームでいうと10名くらいですね。ただ、正直「専業」スタッフは少ないですよ。僕も含めて皆それぞれ投資業務をしたり、自分で会社やったりしているメンバーです。ただ関係者は本当に多くて、プランニングに入っているのがだいたい50人、そこに当日のボランティアも含めたスタッフを合わせて500人くらいですね。

――:10名の「兼業」コアスタッフに、50名のプランニングスタッフ、その周りに500名のスタッフ!?僕もアメリカで1万人のアニメイベントを運営していた経験があるんですが、ちょっと感覚的にはありえない数字です、、、

分散型なんですよね。コンセプトだけ決めた上で、スペースも企画もまるごと渡してしまって、各エリアがそれぞれでで交渉して作っていった。そういったスタッフや企画者に、あまりお金をがっつり出しているわけじゃないので、皆経済的なインセンティブで動いているわけじゃないんです。やっていることが自分のビジネスに関わるかも、という期待もあるし、このIVSコミュニティを大きくしていきたいという気持ちがあって。

――:いや、まさにイベント自体がDecentralizeに運営されていたんだなとわかり、衝撃です。ベンチャー系イベントでいうと(コロナで止まってしまってますが)孫太蔵さんのSlush TokyoなどがIVSと並んで大きいイメージでしたが、もう規模的にはどのくらい開きがあるんですか?

実は僕、Slush Tokyoも関わっていたんです。3年間MCをやってました。

――:えええ?あれ、そういうことなんですか?

当時の運営スタッフで何人も今回のIVSCryptoに入ってますし、この業界って結構根っこのところでやっている人はおんなじだったりしますよね。だから今回は「Slushっぽいよね」とわかる人にはわかっちゃってるみたいで笑。

――:競合とかそういうの、ないもんなんですね。

あと「若者中心」というところも特徴的かもしれません。IVS自体が運営体制を2020年にガラリと変えていて、若者たちに運営任せようとなったことが転機だったと聞きます。IVSもだんだんブランドになりすぎて、どちらかというとWeb1.0やWeb2.0時代の方々が多くなってきてしまった。そうした中で、運営メンバーをがっつり若いメンバーだけに任せてしまったことが、スピーカーも参加者も年齢層をグッと下におしさげる成功につながりました。だから運営メンバーってほぼほぼ20-30代なんですよ。

――:とても面白い話ですね。来年はどちらで開催されるんですか?人数的にも目標などあったりするものでしょうか?

まだ決まってないです。来週からDay0で企画を始めます。僕自身の目標としてはWeb3で日本の良いところをRevitalize(再活性化)するイベントであれたらと思うんです。そして日本発のWeb3プロジェクトをグローバルに輸送していくようなチャネルにしていきたいです。

 

 

会社情報

会社名
Re entertainment
設立
2021年7月
代表者
中山淳雄
直近業績
エンタメ社会学者の中山淳雄氏が海外&事業家&研究者として追求してきた経験をもとに“エンターテイメントの再現性追求”を支援するコンサルティング事業を展開している。
上場区分
未上場
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