【連載】中山淳雄の「推しもオタクもグローバル」第70回 VTuber炎上後の大復活:経営力×ポートフォリオで突き抜けた「第三のVTuber企業」

中山淳雄 エンタメ社会学者&Re entertainment社長
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Brave groupという名前を知る人は多くないかもしれない。2018-19年にゲームジャンルのVTuberで一世を風靡し、炎上事件でほぼ売上ゼロになった会社が奇跡の復活を遂げ、今「第三のVTuber企業」として頭角を現している。「ぶいすぽっ!」18人グループは、FPS(第一人称視点のシューティングゲーム)を中心にesportsやゲームの面白さ・良さを広げていくことを掲げているVTuberグループで、全員あわせてYouTube登録者数約700万人。様々なesports大会でも数多く活躍しており、VTuber最協決定戦やCrazy Raccoon Cupといった著名なイベントで複数の優勝実績もあるほどの腕前。正直1人1人の数字でいえば、「中小規模」からは脱していないかもしれない。だが65人以上もの所属VTuberはほぼほぼM&Aによって買収・グループ化していったものであり、同業界ではいち早く英国・米国に海外拠点も設立。こうした「経営上手な」VTuber事務所という意味では異彩を放っている同社、その若干33歳ながら「経営者10年選手」でもある野口圭登氏に“VTuber市場・事業のポテンシャル"について伺った。

 

 

■VTuberビジネスを「経営」するBrave group、業界三番手の刺客

――:自己紹介からお願いいたします。

Brave groupの野口圭登(のぐち けいと)です。ペットオーナー向けメディア・アプリ事業を運営するVapesを2016年にベネッセホールディングスにM & A後、いろいろエンジェル投資をしながら、2017年10月に現在のBrave groupの原型である会社を共同創業しました。

――:VTuber企業といえば年商200億円規模のANYCOLOR社にじさんじ、カバー社ホロライブが有名ですが、「第三のVTuber企業」としてBrave groupが最近だいぶ注目されていますね。

そうですね、全VTuber65キャラで合計約800万登録(2023/8/1時点)までいきました。弊社グループの主力は次世代Virtual esportsプロジェクト「ぶいすぽっ!」で、ここを運営する株式会社バーチャルエンターテイメントの売上が大きいです。そこにバーチャルミュージックレーベル「Blitz Wing」「Meteopolis」「汽元象レコード」(株式会社RIOT MUSIC)や、バーチャルアイドルグループ「Palette Project」(MetaReal株式会社)、中国展開VTuber「MUGEN LIVE」(And Epoch株式会社)、VLiverグループ「HareVare」(株式会社ENILIS)など続いていき、新設で海外向けには米国拠点の「V4Mirai」、欧州VTuberプロジェクト「globie」を展開しています。こうしたVTuberプロジェクトに並行して、企業のメタバース進出を支援したり、メタバースの学校「MEキャンパス」を創ったりしております。

 

――:M&Aを積極的に展開されているのと、海外展開が早いのは貴社の特徴でしょうか。

はい、おそらくVTuber企業でこれだけM&Aや海外拠点展開をしている企業はなかなかないとは思いますね。これまで3社の買収と、キャラクター単体・個人VTuberのIPについても買収経験があり、また「あおぎり高校」は2023年4月にゲオHDのviviON社に事業譲渡もしています。海外も2023年3月に英国と米国の海外支社を新規設立しており、現在VTuber業界の中では積極的に海外拠点進出をしている企業にあたるかと思います。

――:そして、今回はシリーズDの1st Phaseがクロージングしたということで、取材させていただきました。

はい、この8月にシンプレクス・キャピタル・インベストメント株式会社をリード投資家として東京理科大学イノベーション・キャピタル株式会社、HIRAC FUND(マネーフォワードベンチャーパートナーズ株式会社)、株式会社リヴァンプ、株式会社アドウェイズの5社から19.9億円の出資をいただき、累計で50.3億円の調達となりました。社名変更前も含めると下記のように6回目の資金調達になります。

 

<これまでのBrave group(旧:Unlimited)の資金調達>
■ シード(2018年3月):basepartnersなどから4千万円調達
■ シリーズA(2018年9〜11月):REALITY株式会社などから2.7億円調達
■ シリーズB(2020年6月):gumi ventures、セプテーニ、マイナビ、アニヴェルセルHOLDINGSなどから8億円調達
■ シリーズC(2022年8月):Dawn Capital、大阪ガスなどから13.7億円調達
■ シリーズC-2(2023年1月):Animoca Brands株式会社などから3.3億円調達
■ シリーズD-1(2023年8月):シンプレクス・キャピタル・インベストメントなどから19.9億円調達⇒今回

 

――:野口さんご自身はどこまでVTuber事業に関わっていますか?

僕自身はほとんど事業そのものにはタッチしていません。いわゆる経営業務全般、人事、財務、PR、海外戦略などを行っており、どんなコンテンツを展開して、日々どうやって事業をグロースしていくかといった部分は、現在11社になったグループ会社が各社それぞれの判断で行っています。

――:全部で社員142名(23年8月1日時点)ということで、このサイズで11社というのはかなり多いですね、Brave group自体はホールディングスのような機能なのでしょうか?

はい、まさに私がホールディングス社長として経営に特化し、そこに各チームがVTuberプロジェクト・サービスごとに1社ずつ専業しているような状況です。

 


■下町の起業家サラブレッド。華麗なる起業家人脈の中で、26歳で1社目EXIT

――:野口さんは学生起業とのことですが、いつごろから起業は考えていたのですか?

親が東京都北区赤羽で寿司屋をやっていて、親戚も飲食関係で事業やっている人が多く、小さいころから「将来は自分で事業をやる」ということが当たり前だと思ってましたね。ただ実家の寿司屋自体は、もう小学校の時には弟が継ぐことに決まっていました。

――:え、小学生で家業を継ぐか決まってるものなんですか?

いや、うちの弟が特別で。いわゆる「スーパー小学生」ですよ、もう小学校低学年のうちから包丁もって魚さばいていて。最初から才能が開花していた弟と違って、僕は魚が苦手だったというところもあり笑、母親は早いうちから塾にいかせて勉強方面でなんとかしていたようでした。僕だけガリガリ勉強させられているなかで、ちょっとしたラッキーも重なり、慶應中等部に入学します。

――:名門じゃないですか!しかも「幼稚舎(慶應小学校)」からの金持ちも多くて有名ですよね。

まさにそれで、有名企業の役員のご子息や芸能人なども多くて中学に入るなりビックリでした。そういうグループに北区の下町から出てきた自分が混じっていくわけですからね、コンプレックスもそれなりに芽生えました。友達の家に遊びに行くといわゆる「社長宅」といった趣で憧れもあって、高校に上がるころには「社長を目指す」「起業家になる」というのは決めてました。

――:野口さん、慶應大学から東大で有名な起業サークルのTNKにも入ってましたよね。「ホリエモンのカバン持ち」で有名になった保手濱彰人さんが創設者のサークルです。僕、今保手濱さんの会社の社外役員やってるんですよ。

あ、そこが繋がっているんですね!そうなんです、もう高校の時には保手濱さんが創ったTNKの存在も知っていて、大学に入ったら所属しようと思ってました。
※TNK―2005年に保手濱彰人氏が設立し、毎年100人応募から厳選されて20~30人が「入塾」する2年間限定の学生起業家サークル。東大生は3割くらいで都内の多くの大学から起業家志望が入ってくる。出身者ではナイルの高橋飛翔氏、Candleの金靖征氏など。

――:しかし意識高すぎませんか?高校時代から大学起業サークルをウォッチしているとは。慶應大学に進学したら、授業とかサークルとかじゃなく、もういきなり起業家ルートなんですか?

はい、すぐにTNKに入って、そのまま色々な会社でインターンさせてもらって、最初の大学生活2年間は週5で働いていましたね笑。それで2011年3月、大学3年生になる手前で東日本大震災を経験したことで覚悟が決まるんです。あ、もうこれは将来どうなるかわからないし、早く起業したほうがいいな、と。それで当時インターンをさせてもらっていたナイルの高橋飛翔社長に、インターンを辞めて独立します、と言ったんですよね。

――:野口さんは1990年生まれとのことですが、世代的にクラスで何人も起業家目指すような時代だったりするのでしょうか?それとも「あいつ、イキってる」みたいな感じなんでしょうか?

高校や大学のクラスメートではそんなに起業家はいませんね。やっぱり「あいつ、イキってる」とみられてた気がします。実際「社長になる!」とめちゃくちゃイキってましたし笑。クラス以外で外ではほとんど起業家コミュニティに出入りしていたので、そこでは珍しくはなかったです。

――:1972-73年世代のホリエモンや藤田さんを第一世代とすると、1980年代にそれに憧れをもって企業していった第二世代の、ちょっと下くらいの年代ですかね。2000年代だとあまりVCも発展してなかったですが、2010年代はホントに起業家が増えた気がします。

はい、その第一世代に憧れをもつ世代の起業家たちが「先輩」として、その背中をみながら起業家目指した第三世代に入るんですかね。

――:でも問題はテーマですよね。ナイル辞めて何で起業したんですか?

見つかってなかったんですよ。そこが一番難しいですよね。「決まってないですが、とりあえず会社作ります」という状態だったんですが、「それは決めてからやったほうがいい笑。一緒に考えよう」と高橋さんに言っていただいて。それでいったん当時WEBマーケティング事業を行っていたナイルの営業代理店みたいな形でスタートするんです。SEO対策やリスティング広告の案件をガンガン営業して自分たちでもまわしながら手数料で商売をしていて、営業ばかりの毎日でそれなりの売上は作れるようになりました。

――:2011年の学生起業ですね。最初から売上もあがり、「うまくいった起業」という感じなのでしょうか?

いや、自社サービスがないので、途中で「何やってんだろうなあ」という気持ちになるんですよ。5~10人というサイズの営業会社で、色んな企業さんのお手伝いはしているんですけど、会社名言っても誰も知っているわけじゃないし、自分たちのプロダクトが何かあるわけじゃない。

――:ちょうどWebメディアだった食べログとかがアプリ化していったタイミングですよね。

メディア企業が高く評価されていた時代なんですよね。ただ競合も多くて、コスメでいえばアットコスメ、レストランでいうと食べログ、料理でいうとクックパッド・・・とほとんどがトップサービスの寡占市場となっていました。模索した末にたどり着いたスキマが「ペット」だったんです。

――:キュレーションメディアでいうとWELQ事件(2016年11月)の影響はでなかったんですか?

ペット情報といっても医療情報に関わるようなものはそんなにやっていなかったので、数人チームで業務委託の方にお願いしながらひたすら記事を量産して、広告費とアドネットワークで売上を作っていましたね。ただ月のUU、売上もそれなりの規模まではいったのですが、その先を描けないんです。

――:そこで売却というオプションが出てくるんですね?

よく僕は経営者の先輩方に相談にのってもらうんですが、その中でとある先輩から売却という選択肢についてご意見いただいて、ハッとして。そうか、ずっとVapesをやり続けることにしがみつくんじゃなく、大きな資本のあるところにEXITしたっていいんだ、と。それでその先輩からベネッセの方を紹介していただきました。

――:ベネッセさんがM&Aというのは大変驚きました。もともとVC(ベンチャーキャピタル)をそんなに積極的にやっている会社でもないですし、M&A自体がほとんどない会社ですよね?

そうなんですよ。M&A仲介の会社さんも使って色々探したりはしたんですが、結局そのご紹介のときの直談判がご縁で、雑誌『いぬのきもち』『ねこのきもち』との連携も含めた業務提携についてご提案したところ、結構な速度で決めていただきました。それで2016年、26歳のタイミングでベネッセグループ入りしました。

 

■50社エンジェル投資の先に見つけた“金鉱"、創業1年で爆発的成長とVTuber史上初の大炎上

――:ただVapesとしては自分でなんとかしなきゃ!というフェーズは終わり、安定軌道にのるわけですよね。野口さんとしては次の目標はどうなるんですか?

並行で個人のエンジェル投資をはじめたんです。学生時代から5~6年経営者をやってきたわけですが、自分の社長としての能力に限界を感じるようになっていたんです。Vapesもそこまで大きくできなかったですし、当時のメンバーや株主の期待にも大きくは応えられませんでした。そこで色々な会社をみて経営者としてのあり方を勉強していこう、と思って50社以上にエンジェル投資していきました。

――:Brave groupの前身となる会社を2017年10月に立ち上げられますが、当時の共同創業者(前代表)もその50社のうちの一人だったんですか?

はい、その通りです。最初は僕もベネッセにいながらの共同創業者としての支援だったので、当時はその前代表が社長をやっていました。彼はクリエイティブ面・事業面でめちゃくちゃ天才だったんです。ただ逆に財務やマネジメントのようないわゆる経営管理業はとても苦手だったので、僕はその部分を補填するような役割分担をしていました。

50社も投資しているとさすがに自分の強みは明確になっていて、「事業を創れる人とタッグを組む」「自分が社長として矢面にたって社長業に就く」、このパターンが一番うまくいくと考え始めていました。まさにそれが一番ハマったのがUnlimitedでの前代表との2人体制でした。

――:そしてはじめたのが「ゲーム部」だったんですね。

2018年4月に開始したVTuber「ゲーム部プロジェクト」は、1年で45万登録くらいまで急激に伸ばしてました。当時のVTuber業界は、キズナアイに次いで四天王(「ミライアカリ」「電脳少女シロ」「輝夜月」)が出てきていて、そうした中でも、勢いよく伸びていたのがゲーム部だったんです。

――:そんな勢いがあったんですね!?2016年のキズナアイ時代、17年の四天王時代ときて、2018年がゲーム部の時代だった、ということですね。

たぶん当時あのままいっていたら相当なものだったと思います。その時の体制での資金調達も順調。シードで0.4億円、シリーズAで2.7億円で合計約3億円を調達しました。ただ・・・それが19年4月の炎上事件で壊滅的な結果に陥ります。

――:噂に名高い「ゲーム部大炎上」ですよね。

はい、概ね当時出した声明文の通りでしたし、それを阻止できなかった経営陣の責任です。前代表には退任してもらい、僕が代表取締役CEOとなって経営再建していくことになります。

 

 

■毎月赤字の危機的な状況で奇跡のシリーズB、経営力が問われた「楽しかった」時代

――:あの一連の炎上事件が、逆にVTuberの人気度を証明して、むしろその後注目度をあげていったようにも思いました。野口さんはCEOに就いて、どのように対応していったんですか?

ゲーム部は中止となり、組織のダウンサイズを行い、他の不採算事業も全て閉じて、一部のプロジェクトだけを残して再出発しました。毎月8,000万円にも及ぶような赤字垂れ流しの状態でしたので、新しい資金調達も必要でした。私個人からも多額の貸付を行い、なんとか存続させている状況でした。

――:野口さん個人で補填までしていったんですか!?29歳で直面した地獄ですね・・・しかし今までの稼ぎ頭のゲーム部がなくなった状態でいきなりは売上回復しないわけですよね?どうやって資金調達していったんですか?

なんとかシリーズBで8億円を調達しました。

――:えええ!?あの状況で売上もほとんど落としていたのに、資金調達できたのって、相当すごくないですか?しかもダウンラウンドにはならなかったのですよね??

もうほぼ売上はゼロベースに落ちていましたが、コストを抑えに抑えて、事業も絞った上で、新しく展開する事業にこれだけポテンシャルがあるよということを伝えていきました。シードやシリーズAの投資家が追加出資をするのは難しかったので、新しい投資家に期待をかけてもらうしかないですよね。事業そのものだけでなくそれまでの10年近くの起業家人脈をすべてフルで使った調達という感じでした。

――:あの段階で資金調達ができたということ自体が奇跡ですよ。それは野口さんのハットトリックですね。しかし起業家としては相当な“地獄"な状態でしたよね?

いや、実はアドレナリン出まくってるから、逆に「楽しい」感じなんですよ。あと数か月これ続くと破産だな、みたいな状況で、自分以外にこれを救える人間もいない。やるべきことも決まって、相当な集中力で再建にフォーカスしていました。

――:それ、野口さんもだいぶぶっ飛んできてますね笑。これってベネッセでのポジションはどうなっているんですか?

2016年からのベネッセグループでの仕事は、この2019年4月にそれどころじゃないという状況になって退任しています。ただ不義理だけはしたくなかったので、Vapesの法人の箱自体は買い戻しますという約束をしたんですよ。

――:え、Unlimitedでそんな状態なのに、自腹切って買いもどしたんですか??

はい、そうです。(笑) たぶんそういう「男気」のところを気に入っていただいたこともあり、そのままベネッセの創業家である福武さん個人でBrave groupのシリーズBに入れてもらったんです。

――:へ~~!それは、Exitの美談ですね。ご恩とお返しのような感じでお金がまわったんですね。

福武さんが出資してくれたことをきっかけに他にも5千万円~1億円で出資してくれる会社や個人が10社近く集まり、結果として8億円が調達できました。そして2020年4月にUnlimitedから名称変更して、現在のBrave groupになります。

――:でも野口さんが経営、前代表プロデュースという関係性でうまくいっていたんですよね?このシリーズB以降はどうやって回復させていったんですか?

それが実は難関でした笑。2019年の騒動が終わり、2020年にBrave groupに社名変更をしたのですが、その時はとりあえず「死ななくて済んだ」という感じなんです。窮地に立たされている時の方がある意味楽だったなと思うこともありました。一度落ち着いてしまうと、どうやって事業を創っていくかといういつもの日常の問題に直面する。前代表のような“天才"がいるわけじゃないですからね。ただ自分としてはスタンスを変えずに経営業にフォーカスしつつ、RIOT MUSICとあおぎり高校、それぞれ各プロデューサーに任せて権限移譲していく。そうしていくうちに徐々にコンテンツとしても評価され、どんどん人気があがっていきました。

 

■ポートフォリオ型VTuber事務所Brave group、第三の選択肢としてグローバルで勝てる事業展開を

――:「ぶいすぽっ!」も「Palette Project」も買収した案件と聞いていますが、いつごろ組み入れたのでしょうか?

2019年にゼロスタートした「道明寺ここあ(現RIOT MUSIC所属)」を運営するBrave groupは「ぶいすぽっ!」を創っていた星のバーチャルエンターテイメント、「Palette Project」を作っていた金(現Brave groupのグローバルビジネス本部)のMateRealの2社をM&Aする形で2022年6月に経営統合しました。

既存株主からはこの経営統合に反対する声もあったんです。ただ前に申し上げた通り、私が経営に集中し、逆にグループには「事業を創れる人材」をどんどん入れて広げていく、という形どおりの動きでした。経営統合の1年前からそういった話をしていました。ただそのまま寄せ集めただけでなく、グループ化する価値もあるんです。「ぶいすぽっ!」に関しては実際統合後に飛躍的に成長しました。星の代表・プロデューサーとしてリソース的に実現できていなかったことを巻き取ったり、採用支援をしたり、お金をかけないとできないイベントに投資したりすることが、経営統合後の付加価値になっていったと思います。

――:なるほど、一緒にグループ化していく価値が明確にあるんですね。2-3年前に聞いたときはBraveも数億円サイズの小規模事務所でしたが、その後快進撃で数十億円サイズにどんどん成長されていきました。

正直こういうグループ型経営をしているVTuber事務所がほかにない以上、弊社にグループジョインのご相談をいただくケースもあります。「第三のポジション」ともいえますが、ANYCOLORさんとカバーさんが率先して切り拓いていってくれているからこそ、広げた市場のなかで弊社もポジションをとれている状態にあります。

――:一方で新興で色んな大手企業が参入してきていますが、結構失敗もしてますよね。VTuber事業の成功ってどういう経験・人が必要な事業なんですか?

前代表もそうでしたが、プロデューサーとして時代感覚にあわせてコンテンツを創っていく力が必要だと思います。そこにエンタメへの情熱も必要です。弊社の各プロデューサーは、エンタメに対する想い入れや熱意が尋常じゃないレベルです。さらに、人のマネジメント力だったり、クリエイティブを実現する技術力も必要になります。投資額も大きいので経営力も必要になる。したがってVTuber事業を創れる人は総合力の高い方だと思います。

――:そうなんですね。もっと「タレント頼り」な印象がありました。

弊社が特にそうなのですが、すでに後発でスタートしたので、BTSのように事務所のプロデュース力・マーケティング力で勝負していくしかなかった。だから余計に経営力・プロデュース力を鍛えていったんです。

――:だからポートフォリオという意味でもホールディングス型の経営をされているんですね。

そうですね、うちは「受け皿が多い会社」なんです。週刊誌のように、表紙には「ぶいすぽっ!」が並んでいても、中を見るとRIOT MUSICやPalette Projectが並んでいて、一緒になってファンを増やしていく。グループ全体のシナジーを活かし強化していく経営方針です。

――:まさに「戦略で勝っていく」感じですね。色合い的には集英社より講談社のほうが近いかもしれませんね。サンデーの小学館には有名作家が集まる。ジャンプの集英社のようにシステマチックに新人育成もできない。そうなると、編集がプロデューサーとなって、マーケティングも含めて出版社側がやる部分が大きかったのが講談社のマガジンでした。

確かにそうですね。その上で、どこかで「合理的に非合理的な意思決定ができるかどうか」ということもエンタメ事業ならではの難しさです。短期的には赤字を掘ってここでファンの方が喜んでもらうというポイントをつくることが後々重要になったりする。

――:非常にわかります。ある意味そういう「弱者の戦略」を合理的・戦略的に展開していったことが他のVTuber大手との差別化になっていったということですね。

海外拠点をいち早く作ったのも、短期的には合理的な意思決定とはいえないです。せっかくデジタルで配信できるサービスをあえて運営コストの高い米国と英国の拠点でやることは必ずしも「正解」ではない。でも時差がこれだけ大きい中で、タレントの近くで寄り添って一緒にモノづくりができる事務所、というポジショニングは中長期ではバリューを出せるはずだと思って決断しました。

――:やっぱりそうですよね。しかしVTuber事業は若い経営者も多いし、海外経験人材も少ない。大手2社すら苦労しているところを、どうしてそんなにサクッと海外拠点作れたんですか?

群島型で経営できている文化が大きいのではないかと思います。英国、米国でそれぞれビジネス経験が豊富な方と出会って、お任せできるなと思ったのでその人ありきで拠点を作りました。こうした判断は、他の企業だと一朝一夕にはできないと思います。

――:野口さんはVTuber事業のポテンシャルってどのくらいあると思っているんですか?「投資家」として見られていた時期もあったかと思いますが。

僕は次のリクルート、サイバーエージェントといった日本を代表する企業を創りたいと思ってずっとやってきました。そのために前提として掲げていたことが2つあります。1つ目に「大手が手を出しづらい新興領域である」ということ。これはもうITという成熟産業において、新しい分野を見つけるのが難しいのは一社目のVapesで証明済だったんです。だから大手がまだ手を出せていない、もしくは出してもうまくいっていない領域を見つける必要があった。そして2つ目が「いかに海外でポジションが築けるか」。最初からグローバルにいけるジャンルしか狙いません。

実は炎上騒動の前に新しく2社目を起業しようという計画は持っていたんです。50社以上ものエンジェル投資を行い、さまざまな業界をみていった上で、この2つともに合致していて、しかも自分の得意技が求められている会社でいうとBrave group以外に考えられなかった。そのくらい、この領域は高いポテンシャルがあります。

――:ほかにはチャンスと思える領域はなかったんですか?

日本でポテンシャルがあることって結構もうスキマが少なくなっていると考えています。VTuber市場はそうしたなかで戦略も活かせるし、最初からグローバルなファンが育ってますし、まだまだ伸びると思っています。

――:もう日本ではVTuberはそれなりの競争率になってきていて成熟化しているとも見られています。それでもまだ伸びますか?

まだまだいけると思います。海外に目を向ければVTuberになりたい人はめちゃくちゃいます。アジアでも米国でも英国でも。自分のアバターを使って発信したいって人は何十万人、何百万人いるんです。そして日本のVTuberを観ている海外ユーザーも多い。

メディアミックスとしてもまだ不十分です。実際にアニメ化・ゲーム化までいけているVTuberもほとんどいない。VTuberもアニメ・マンガ・ゲームの市場をとっていければまだまだ伸びます。そういった意味でVTuberのみならず、海外・メタバースやeスポーツにすそ野を広げているBrave groupに期待していただきたいです。

 

会社情報

会社名
Re entertainment
設立
2021年7月
代表者
中山淳雄
直近業績
エンタメ社会学者の中山淳雄氏が海外&事業家&研究者として追求してきた経験をもとに“エンターテイメントの再現性追求”を支援するコンサルティング事業を展開している。
上場区分
未上場
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Brave group

会社情報

会社名
Brave group
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