これまで、アプリゲーム事業におけるデータ分析の重要性を解説してきた。また第二回では「ユーザー理解と施策との連動の重要性」を示した。適切なユーザーグループを作り、素早くKPIの変化を察知、ThinkingEngineが備える分析メソッドを用いて効率的に分析を行い、施策を立案するというものだ。
しかし、日本市場においては、以下のような声をよく耳にする。
分析の必要性は感じているが
具体的な施策を実行し
その後のビジネス価値に繋げられない
そこでThinkingEngineは、分析からアクションへ繋げるエンゲージメント機能を正式にリリースした(関連記事)。
今回は、顧客接点を創出、管理、評価するためのエンゲージメント機能を具体事例を交えて紹介する。多様化するユーザーを捉え、ゲーム性を理解してもらい、しっかりとゲームを楽しんでもらうために必要な情報とアイテムを提供する顧客接点の戦略的なデザインは極めて重要だ。具体的にPDCAを回し改善していき、ユーザーのエンゲージを高めていくことが、力強い差別化要素になる。(執筆者:シンキングデータ社)
目次
1.「分析とアクションが分断する」問題
この記事で「分析の必要性は感じているが、ビジネス価値に繋げられない」という声に対して、データ分析と施策立案、総合的な観点をそれぞれ指摘した。概要をまとめると以下の通りだ。
データ分析の観点
- 分析の粒度は適切か
- 分析の手法は適切か
施策立案の観点
- ビジネス目標が立てられているか
- 実現可能な施策の一覧が立てられているか
総合
- データ分析とビジネス目標が関連しているか
- 運営メンバーと分析実行者間で認識に差がないか
データ分析は、数字を傾向に、傾向を示唆にしていく営みと言え、示唆を具体的なアクションに繋げることが求められる。
これまで示唆の粒度を「あるユーザー層は、この変数を変更することで主要KPIを向上させる可能性が高い」というレベルまで明らかにすることが重要であると示してきた。そのため、ここでいう具体的なアクションは、「この変数を変更する」ために何をしたらよいかということになる。
例えば、「課金率が低い」という数字を捉えたとき、「初心者がメインストーリーを進展させておらず、離脱の傾向がある」と傾向を捉え、「初心者が、特定のストーリーの後に離脱しているために、それを阻止することができれば、初心者が中級者に進展し、課金率が向上する可能性が高い」という示唆を得られたとする。
その場合にはもちろん、変数である「特定のストーリー後の離脱を阻止しよう」と考えるわけだが、その具体的なアクションにはストーリー自体の難易度を変更しようだとか、次のステップへの導線を最適化させようだとか、複数の種類がある。なおかつこれらを実行するためには時間と労力を要する。
データドリブンな運用の利点に、データをもとにした説得力のある示唆を提供することで、組織行動の迅速化を図ることがあるが、実際には「やりたいのだけれど...」が往々にして発生する。この機会損失は膨大だ。このようにして、分析と具体的なアクションが分断されてしまう。
2.顧客接点の役割と施策のカテゴリー
この記事で「共通項から主要KPIの意味を理解する」ことを試みた。アプリゲームにおいては、ユーザーはインストールしなければ起動しない、起動しなければゲームプレイはできず、ゲームプレイをしなければ特定の行動をしない。この、ユーザーを増やしていくこと、アクティブにし続けること、特定行動をさせること、が運用面で重要になってくる。
戦略的に顧客接点をデザインすることの重要度は高い。ゲーム性を理解してもらい、しっかりとゲームを楽しんでもらうために必要な情報とアイテムを提供することはユーザーの適切な育成に繋がり、正しくエンゲージメント向上に寄与する。顧客接点の拡充については、接点自体のデザインと、その接点でどのような内容を提供するかのデザインを検討する必要がある。それぞれを見ていこう。
2.1 顧客接点の役割と接点のカテゴリー
一般的に顧客接点の拡充には、さまざまな役割がある。大きく分けて以下の観点がある。
- 顧客ニーズの補足
a. 顧客接点を厚く広く持つことによって、顧客のニーズを捉えることができる。そのニーズを整理し、顧客接点の全体像を改善していく活動は必須だ。 - 顧客理解の促進
a.ニーズを捉え、整理していくことで、更なる顧客理解を深めていくことができる。顧客理解によって、顧客接点の質の向上させていく活動は必須だ。 - 顧客満足の向上
a.顧客接点の質を向上させていくことで、顧客満足を向上させることができるだろう。
例えば、アプリプッシュを送信したとする。その開封率によって、その情報が対象者にとって重要であったかどうかを評価することができる。それによってその対象者のニーズを捉え、対象者の理解にも繋がり、もし求められている情報を提供することができれば、満足度を高めることもできるかもしれない。
つまり、顧客満足の向上(その背景には売上や利益があって然るべきだ)を目的として、「必要なユーザーに必要な情報を、必要なタイミングで与えること」を重視しながら、顧客接点をデザインすることが求められる。
最初に、顧客との接点自体については、さまざまな観点で区分することができる。一般には「デジタル」か「リアル」であったり、「受動的」か「能動的」と区分することが多いが、アプリゲームにおいてはどちらもパッとしない。そこで以下の通り、区分してみる。きっと馴染みがある。
- アプリを起動していないとき
- アプリを起動しているとき
極めて簡単にそれぞれを説明すると、アプリを起動していない場合の顧客接点は「起動促進」を目的として行うものであり、アプリプッシュに代表されるだろう。一方、アプリを起動している場合の顧客接点は「行動促進」を目的として行われるものであり、アプリ内ポップアップに代表されるだろう。
2.2 施策のカテゴリー
次に、接点でどのような内容を提供するかのデザインを検討してみよう。翻って、顧客接点の目的は「顧客満足の向上」であることを思い出す必要がある。顧客に満足してもらうために、事業者が提供できるものはなんだろうか、もしくは満足感を要素分解していく必要がある。それぞれを分解して、整理してみると、以下のようなものになる。
顧客満足の要素を分解することは困難だが、単にゲームプレイを楽しめるような機能的な面と、アプリに対するロイヤリティを高める心理的な面で分解した。また提供できるものとしても、情報とアイテムに分解した。
例えば、「クエストを連続で失敗しているユーザーに」「ゲームプレイのコツ」を提供することでゲームをより楽しんでもらえるかもしれない。また、「誕生月のユーザーに」「お祝いのメッセージ」を送ることでアプリに対して親しみを感じてもらえるかもしれない。このように顧客満足の向上を目的として施策を考えていくことができる。
3.エンゲージメント機能の活用
ThinkingEngineはこれまで述べたような施策の実行や管理、評価が全て行えるエンゲージメント機能の提供を開始した。グローバルでは先んじて提供を開始しており、満を辞して日本での公式リリースとなる。グローバルでどのような利用方法がされているかを紹介しながら、分析からアクションへどのように繋げていくかを解説していく。
3.1 顧客接点の捉え方 | 事例
グローバルでは、顧客接点を以下のように捉えることが多い。
運営側が求める行動を促すための情報共有の手段として捉え、「必要なユーザーに必要な情報を、必要なタイミングで与えること」を重視する。一方で、情報を制限することで、ユーザーの混乱を防止する。特に起動時のホーム画面でのポップアップの連続や、プッシュ通知の連続は避け、顧客接点を持ち続けられる(つまり、ゲームプレイを継続することを第一の目的に置く)ことを目的にする。
3.2.顧客接点のデザイン | 事例
「必要なユーザーに必要な情報を、必要なタイミングで与えること」を重視しつつ、それに適した顧客接点のチャネル(アプリ内ポップアップが適しているのか、プッシュ通知が適しているのか)の判断を行う。この一連の検討手順は「ユーザーの状態」「提供する情報」「必要と思われるタイミング」を整理していき、どのようにユーザーにゲーム性を理解し、ゲームを楽しんでもらい、どのように売上や利益に繋げていくかを検討する。往々にして以下のプロセスを経る。
- 求めるユーザージャーニーの策定
- 提供する情報の精査
- ユーザーの状態の精査
- 情報を提供するタイミングの精査
- 適した顧客接点チャネルの精査
加えて、情報が連続が通知されていたり、ポップアップが大量にホーム画面に表示される、プッシュ通知が1時間おきに届いてしまう、などを防止するため、以下の検討を行う。
- 同一のユーザーの状態、タイミングにおいて、ユーザーが最も欲している情報はどちらかの優先度を明確化する
a.レベル5でクエスト10を突破したユーザーに対して、ギルドの情報を与えるべきか、アイテムドロップが良い初心者クエストの紹介を行うか - そのユーザー状態にとって不必要な情報は何かを明確化する
a.新しいステージの追加はインストールから1日しか経っていないユーザーには不必要ではないか
このような捉え方とデザインの手順によって、グローバルでの事例では、それぞれのクエストを突破したユーザーに対して、それぞれ異なる内容のポップアップを表示させており、そのポップアップの内容もユーザーの状態(例えば、その時のレベル、その時のクエストに要した時間、その時の戦闘力、その時に使用したキャラ etc)によって区分していた。結果として、数千以上のシナリオで顧客との接点をデザインしていたことになる。
3.3 ThinkingEngineでの実現方法
エンゲージメント機能に対する考え方は、分析を行った上で各ユーザーに対して具体的なアプローチをするものであり、そのためプッシュ通知やアプリ内ポップアップ、アプリ内メール(お知らせ)は同一のものと捉え、それぞれを区分して提供していない。ただ、技術的なアプローチ方法により以下のように構造化できる。
また、強力な分析基盤・分析支援によってユーザーのセグメントをタイミングを設定することができる。最大活用することで、ユーザー一人ひとりに、そしてリアルタイムで、顧客接点をデザインすることができる。しかも、ダッシュボードでの操作のみで、だ。
さらに施策の実行には、それ自体の管理と評価がつきまとうがそれらもダッシュボード上で完結できる。以下のような特徴がある。
- 日々変わる条件を動的にすることにより、ユーザーセグメントをより正確にする
- 施策実行・管理を自動化することで、煩雑な作業から解放する
- 施策評価を常時監視することで、ユーザー体験を最適化する
- グローバルな運営のために、多言語・多タイムゾーンに対応する
- 分析基盤との連携により、施策の効果をより深く、より長く分析する
4.まとめ
今回は、顧客接点を創出、管理、評価するためのエンゲージメント機能を具体事例を交えて紹介した。それぞれの観点でポイントは以下の通り。
- 分析とアクションが分断することはゲーム運営上、発生することが多い
- 顧客接点はユーザーにゲーム性を理解してもらい、しっかりとゲームを楽しんでもらうために必要な情報とアイテムを提供することはユーザーの適切な育成に繋がり、エンゲージメント向上に寄与する
- 顧客接点の役割には、顧客ニーズの補足、顧客理解の促進、顧客満足の向上がある
- 施策のカテゴリーには、顧客満足を要素分解した、機能的なものと心理的なものがある
- 施策のカテゴリーには、提供できるものを要素分解した、情報とアイテムがある
- グローバルでの事例をまとめると「必要なユーザーに必要な情報を、必要なタイミングで与えること」が重視されている
- ThinkingEngineのエンゲージメント機能はそれらをユーザー一人ひとり、リアルタイムで実現することができる
今後も、「ゲームデータ分析道場」ではゲーム開発や運営に役立つ分析手法や考え方を公開予定だ。
ThinkingData特設ページにて今後の記事も掲載予定となり、その他のコンテンツも掲載されているので気になる人はチェックしてみよう。