前回は、アプリゲームにおいてデータ分析が必要な理由を解説した。この真意はユーザー理解を行うことで、プロモーション施策やアプリ内キャンペーンの企画、アプリ内のゲームシステム、エコシステムの最適化、さらにはストーリーシナリオやキャラクターデザインを企画する際にエッセンスを与えてくれることである。
今回は、ユーザー理解とゲーム運営の連動に関して概観を示した後、ゲーム運営に繋げる分析のコツ、具体的な実現手段としてThinkingEngineを紹介する。重ねて、ユーザー理解が疎かになることで、方向性のない非効率な施策実行が横行する。データ分析においてはグローバルで実績のある「成功の方程式」が転がっており、それを採用しない手はない。一刻も早くデータ分析を行う基盤や体制を構築しよう。(執筆者:シンキングデータ社)
目次
ユーザー理解をゲーム運営にいかす2つの方向性
前回、ビジネスにおける顧客満足度の分解をおこなった。それは、サービス自体の価値+パーソナライズされた価値というものだった。楽しみ方が多様であるアプリゲームにおいて、本質的にユーザーが求めているものが複数あるためサービス自体の価値も複数のシナリオに分けられる。一方、アプリという特性上、インストールされた時点プッシュ通知という一つの強力な顧客接点を抑えており、この点ではパーソナライズがしやすいとも言える。
図1:顧客満足を高めるメカニズム
パーソナライズされた価値の向上
デジタル消費
エンタメ市場ではグローバルで、個別最適化されたコンテンツ提案が広く一般化している。ユーザーの検索や閲覧などの行動、ユーザーの基本情報などからコンテンツの提案がほぼ自動化されている。
アナログ消費
デジタル消費に比べ、商品の生産等に手間がかかるため普及するまでには至っていないが、着実に拡大しており、根強い人気を誇っている。このような業態をC2Mという。例えば、以下のような事例が存在する。
- アゥカン、靴
- Cotte、衣服
- Fabric Tokyo、衣服
- Sparty、化粧品
アプリゲーム業界においてもサービス自体の価値とパーソナライズされた価値の総和が顧客満足度に直結するといえる。
例えば、サービス自体の価値向上の点では、全ユーザーのキャラクター人気度の分析から、人気となる要素を分解、キャラクターデザインに活かすことができるかもしれない。
パーソナライズされた価値向上の点では、他社事例で、ユーザー一人ひとりの行動から個別課題を見つけ出し、施策を検討、企画、実行しパーソナライズされたプッシュ通知やアプリ内メッセージによってリテンション率や課金率を向上させている。
このようにユーザー像全体を捉えサービス全体を最適化している方向性と、ユーザー毎に施策を個別に最適化していく方向性の大きく2つの方向性がある。それぞれの特徴は以下の通り。
図2:顧客満足を高めるメカニズム
1.1 多様な遊び方を理解する
ただアプリゲームにおいて気をつけなければならないのは、多様な遊び方が存在することで一概に全体最適を行えない点だ。多様な遊び方については例えば、簡単に以下のような分類ができるかもしれない。
図3:多様な遊び方の類型
このように一つのアプリにおいても単にゲームプレイといっても多様な理由や背景が存在しており、それぞれが求めるものが相反している場合もあり得る。強いキャラを求めるユーザー層もいれば、可愛いキャラを求めるユーザー層もいるだろう。それらを全体最適を目的として「〇〇ゲームを遊ぶ全てのユーザー」として分析することは、時に非効率であるとも言える。多様な遊び方についてを全て分解、理解することはできない。しかし一方でこの点を事前に理解しておくことは非常に重要だ。
1.2 共通項から主要KPIの意味を理解する
その上で、共通項を探ってみよう。基本的なことだが、ユーザーはインストールしなければ起動しない、起動しなければゲームプレイはできず、ゲームプレイをしなければ特定の行動をしない。このカスタマージャーニーを再認識する必要があり、それぞれの連動についても検討しなければならない。
図4:単純化したジャーニーと対応するKPI
これらのサイクルの中で、アプリゲーム業界での主要なKPIは3つに分類できる。
- ユーザーを増やす方向性
a. 例:インストール数 - ユーザーをアクティブにし続ける方向性
a. 例:リテンション率 - アクティブなユーザーのうち特定行動を促す方向性
a. 例:課金率、売上
このように極めて単純化したジャーニーだが、ユーザー行動を起点とした主要KPIの見直し、それらの意味を再認識するためには十分だ。さらに多様な遊び方を理解することでそれぞれのKPIを分解していき、ゲーム運用に活かしていこう。
2.施策立案に繋げる分析のコツ
アプリゲーム業界の方々と会話をすると「分析の必要性は感じているが、ビジネス価値に繋げられない」との声をよく耳にする。このような状況においては、データ分析とビジネス価値の橋渡しとして重要な以下の点が抜け落ちていないかを確認することから始めよう。
データ分析の観点
- 分析の粒度は適切か:
粒度が荒すぎると一般的な洞察しか導き出せずに施策につながらず、逆に細かすぎると施策も細かくなりすぎて施策実行の優先度が下がってしまう - 分析の手法は適切か:
正しい手法が取られていない場合、信頼性の低い洞察しか得られず、施策実行を行うメンバーの行動に繋がらない
施策立案の観点
- ビジネス目標が立てられているか
ビジネス目標が起点となってデータ分析が行われ、それによる洞察に基づく施策立案、実行まで繋がっていく。ビジネス目標がなければそれらを行う目的を見失ってしまう - 実現可能な施策の一覧が立てられているか
実現不可能な施策が立案されたり、費用対効果の低い施策が立案されないように、ゲームシステム内で変更や改善が容易な点を一覧化しておくことは有効だ
総合
- データ分析とビジネス目標が関連しているか
ビジネス目標に紐づく主要KPIの変化を起点としてデータ分析が行われ、施策の目的が主要KPIに紐づいているべきである。関連していなければ非効率なデータ分析と施策立案がなされる可能性が高い - 運営メンバーと分析実行者間で認識に差がないか
データによる共通言語化ができていない場合、双方の認識がズレ、次第にコミュニケーション不足につながる可能性が高い
これらを抑えることで、現実的な分析の工数において、「あるユーザー層がこの変数の変更する(=現実的な施策)ことで主要KPI(=ビジネス目標)を向上させる可能性が高い」という分析と施策立案までの橋渡しを行える。
しかし、前途の通り、多様な遊び方が存在するアプリゲームにおいてはどのユーザー層を分析対象とするのか、さらに分析の起点として主要KPIの変化をいかにして察知するのか、という課題が残っている。これらは一般化することは難しいが、以下のポイントは押さえておくことは有効だ。
2.1 適切なユーザーグループを作る
アプリゲームには多様な遊び方が存在している。さらにゲームプレイにも多様な理由や背景が存在しており、それぞれのユーザーが求めているものが相反していることもある。そのために適切なユーザーグループを定義づけた上で、比較分析することが重要だ。ユーザーの気持ちを捉えることにほぼ等しく、雲をつかむように難しい。
適切なユーザーグループを作成する方法として以下のようなプロセスが考えられる。
- 多様な遊び方の仮説を検討する:
実際のゲームプレイにおいてどのような遊び方が考えられるのか、前途の例を参考に検討する。 - 特徴的なアプリ内行動の仮説を検討し、検証する:
それぞれの遊び方において、考えられる特徴的な行動を検討し、それが実在するかを検証する。 - 実際のユーザーの行動ログを確認し、更なるエッセンスを得る:
2で存在することが確認された複数のユーザーの行動ログを確認し、特徴的な行動に関して更なるエッセンスを得る。 - 2.3.を繰り返し、メンバー間で納得のいく言葉に落とし込む
これらを実施するためには、全ての行動ログが各ユーザーに紐づいていることが求められる。さらにユーザーによっては遊び方や考え方が時間によって変化することも考えられ、さらに新規登録者も増えていくため、あるタイミングで一度だけタグ付けを行うだけでなく、1時間ごと、少なくとも日次ではタグを更新していくことが必要だろう。
2.2 素早く主要KPIの変化を察知し、分析を実行する
アプリゲーム内の行動は素早く、SNS等を通した評価の伝達も素早い。そのために主要KPIの変化を素早く察知し、即座に分析を実行し、施策を検討できることが重要だ。これらはデータの収集から分析プロセスの高速化が求められるのに加え、データ・ドリブンな組織文化の醸成など関与する要素が非常に多く、それぞれが難しい。
その上で必要となる観点として、以下のようなものが考えられる。
- 分析の起点としての主要KPIの変化をどのように察知するか
- 分析実行に際してのノウハウや考え方をどのように入手、蓄積するか
これらを解決するためには、高度な分析基盤の構築といったハード面と、実際に分析を行う際のノウハウや考え方といったソフト面の両面からのアプローチが求められる。これらを通じて、業務プロセスにおいてデータをどのように活用していくのか、といった組織文化の観点や、その推進といったリーダシップの観点も求められる。
3.ThinkingEngineを用いたユーザー理解と施策立案
ThinkingDataが提供するThinkingEngineはそれらのニーズと課題を解決するのに、最適な分析プラットフォームだ。
シンキングデータ株式会社とは
シンガポールに本社を構え、ゲームに特化したデータ分析ソリューションを提供しているグローバルテクノロジー企業です。2015年創業から900社以上を支援しており、5000本以上のゲームタイトルのデータを分析しています。2022年8月、国際化戦略の重点市場として、日本への本格参入を発表。ツールに留まらずゲームにおけるデータ分析メソッドやナレッジからデータ分析のサポートサービスまで提供しています。
3.1 ユーザー一人ひとりに注目する
ThinkingEngine(以下、TEという)では、全てのデータがユーザーに紐づいた形で格納されている。そのため「ユーザーaが本日、どのようなアプリ内行動をどのような順序で行ったのか」が一目瞭然だ。これらを駆使することで、適切なユーザーグループを作ることができる。
3.2 主要KPIの変化を通知、9つの分析メソッドで効率的な分析をサポート
TEでは、主要KPIの変化に応じてSlack等への通知をすることができる。主要KPIが前日比で一定の割合の変化をした場合、一定の値を達した場合、など柔軟性も高く、分析の起点として察知することはもちろん、予実管理やデータ・ドリブンな組織文化の醸成のために活用することができる。
さらに、効果的な分析をサポートするために、TEでは9つの分析メソッドをデフォルトで備えている。
4.まとめ
今回は、ユーザー理解と施策立案が繋がりやすくするためのコツをまとめた。それぞれの観点でポイントは以下の通り。
- ユーザー理解がゲーム運用においては、パーソナライズされた価値を向上させる個別最適化の観点と、サービス自体の価値を向上させる全体最適化の観点がある
- アプリゲームには多様な遊び方が存在しており、サービス全体の最適化を図る際には注意が必要である
- 多様な遊び方が存在する中でも主要KPIは、ユーザーを増やす方向性とユーザーをアクティブにし続ける方向性、アクティブなユーザーを特定行動に促す方向性の3つに収斂される
- 施策立案に繋げる分析を行うためには、「あるユーザー層がこの変数を変更することで主要KPIを向上させる可能性が高い」という洞察を得なければならない
- しかし、多様な遊び方が存在する中でどのユーザー層を分析対象とするか、分析の起点をどのように察知するか、分析をどのように効率化するかが課題となる
- 適切なユーザーグループを作るためには、全ての行動ログをユーザーに紐づけた形で格納し、常に更新し続けなくてはならない
- 主要KPIの変化を察知する仕組みを作らなくてはならない
- 効率的な分析を行うためのノウハウや考え方を取得し蓄積しなければならない
今後も、「ゲームデータ分析道場」ではゲーム開発や運営に役立つ分析手法や考え方を公開予定だ。
ThinkingData特設ページにて今後の記事も掲載予定となり、その他のコンテンツも掲載されているので気になる人はチェックしてみよう。