今さら聞けないブロックチェーンゲームと従来型ゲームの違い ドリコム櫻井氏に昨今の業界動向も交えてインタビュー

ブロックチェーンゲームが世に出て数年が経過した。初期は仕組みの実装で手一杯でゲームとして面白いものが出せていないという業界関係者の声があったが、近年はモバイルゲームと遜色ない出来のものが生まれている。その一方で、ビジネス上の成果となると外部からは見えづらい。今回、ドリコムCrypto部 部長の櫻井理映子氏にインタビューを行い、ブロックチェーゲームと従来型ゲームの違い、最近の業界動向、ドリコムとしての取り組みについて話を聞いた。


【プロフィール】
櫻井氏プロフィール
株式会社ドリコム Crypto部 部長。2017年よりブロックチェーンの研究開発・事業化の検討を開始。2022年にCrypto部を立ち上げ、ブロックチェーンゲームの開発運用と、NFTプロジェクトの立ち上げを行う。

 

――:よろしくお願いいたします。早速ですが、いわゆる従来型のモバイルゲームと比較して、ブロックチェーンゲームの相違点から教えていただけますか。

ブロックチェーンゲームも多様化していて、その構成や収益モデルも多様になってきています。一般的に大きく違う点としては、やはり仮想通貨が存在していて、それがトークンとして流通していることがあげられます。あとはゲームアセットがNFT になっていて、二次流通が可能であることも従来のゲームと異なっている点かと思います。

従来のゲームであってもユーザー間でのトレードが可能なマーケットプレースが存在するものがありますし、ブロックチェーンゲームであっても仮想通貨のトークンは存在していないようなゲームもあります。ゲームシステムの相違点をみると、シームレスになってきている部分もあります。従来のゲームに近づいている部分もあれば、トークンがあって比較的金融システムを意識したようなゲームもある、といったような状況かな思います。

――:NFTと仮想通貨っていうのはキーワードになっていましたよね。

そうですね。特に日本企業が関わっているようなブロックチェーンゲームですと、トークンはあるけれども、仮想通貨だけではなく、ゲーム内での課金決済の通貨やゲーム内通貨が存在しているようなケースもあります。いろいろな構成の仕方を考えていて、皆さん、いろいろと試行錯誤をされている部分だと思います。

 

 

――:最近いくつかゲームを試してみましたが、従来型のモバイルゲームとゲーム性自体は余り変わらないと感じることが増えてきました。以前、内藤社長もおっしゃってたんですけど、ブロックチェーンは、国内だと一社単独でやるところが少なく、得意分野を持つ会社同士で組んで取り組むところが多いと伺ったんですが、最近はいかがでしょうか。

それは特に日本の企業さんが関わっているブロックチェーンゲームタイトルで多いと思います。法律や税制、会計上の制約が存在していて、いくつかの企業で共同事業のような運営形態になることが多いですね。海外に目を転じると、単独でやってる会社が多いですね。トークンを発行する団体とゲームを運営するエンティティが分かれているケースはありますが…。

――:国内だと、コロプラが自社でやっていると聞きましたが、おっしゃった制約のなかでどれが最も大きな影響があるのでしょうか。

どれが一番大きいといったお話をするのは難しいですが、やはり大きいのは法律面での制約だと思います。特に日本の場合、日本円や米ドルなどフィアット通貨と交換する際、暗号資産交換業というライセンスが必要になってきます。また、トークン発行においては、現在進行で整備が進められているものの会計や税務面でも課題があると感じます。

従来のゲームでも、賭博罪や景表法などと照らし合わせて、法律面のクリアランスをきちんとしておく必要がありますが、ブロックチェーンゲームの場合は、そうしたクリアランスをより慎重に行う必要があると思います。

――:税制や法律に関しては改正を働きかける動きもあると聞きましたが、進捗はいかがなのでしょうか。

業界団体などの活動が一定の成果が出て、変わっている部分はありますが、まだその全てが全てスピード感を持って変わっている、というところではありません。現在もひとつひとつ対応している状況ではありますが、数年単位で見るとだいぶ変わったと思います。法律や会計の問題はどうしても時間がかかってしまう部分があります。

――:まだ現状ではリスクは大きいと。

企業として取り組むには、これまでの事業と比べてこうしたリスクについて検討・対策しなければいけない部分が多くあります。会計や法律、税務面でのリスクをどこまで担保するか、あまり石橋を叩いているといつまで経っても渡ることができません。かといって進みすぎると、こうしたリスクにぶつかってしまう。

――:難しいビジネスですね。

弊社は、 2017 年頃からブロックチェーンに取り組んではいますが、その頃から難しいと思っていました。ただ、 2017 年はいわば荒れ地に草木が生え放題でどこを歩いたらいいかわからない状況だったのですが、現在は徐々に先人の歩いた道、いわゆる獣道のような自然発生的な道は見えてきたと思います。これから舗装された道路、いずれは高速道路へと発展していくのではないかと期待しています。

 

 

――:収益の立て方に関してなんですが、どういったものがあるんでしょうか?

従来型のゲームと大きく変わることはありません。例えば、NFTを販売したり、ゲーム内での課金通貨があれば、課金通貨を通じて購入したアイテムが消費されることによって売上認識することになります。

あとは、IEO(Initial Exchange Offering)のように、トークンを初期で販売するケースも考えられます。弊社が携わるプロジェクトですと、INO(Initial NFT Offering)という形でゲームのローンチ前にNFTを販売するケースもありました。いずれも初期販売=「イニシャルオファリング」といった形で販売しています。

――:株式の IPOに近いものなのでしょうか。あちらは株式公開しても売上にはなりませんが。

イメージとしては、 IEOはIPOに一番近いと思います。同じような形でNFTをローンチ前に販売することがINOです。ゲームとしては比較的取り組みやすいアプローチだと思います。

――:会社として何らかの役務提供が前提にはならないのでしょうか。

弊社が携わるタイトルでいいますと、INOの際に販売したNFTのユーティリティや、他のユーザーへ譲渡が可能である点などから、NFT自体が価値のあるものと言えたことから、NFTの販売時点で、会計上も売上に計上することができました。

――:なるほど。色々と試行錯誤された結果としての施策なんですね。NFTだけ先に販売し、ゲームのローンチがずっと先になると、売上計上もずっと先だと思っていました。

今申し上げたようなところがブロックチェーンゲームならではの売上の出方の特徴と言えますが、INOによるNFTの販売はあくまで局所的な売上にすぎません。原則としては従来のゲームのように継続的にゲームサービスを提供して、継続的にNFTを販売したり、ゲーム内通貨やトークンを使っていただくことが大事だと考えています。

トークンに関しては、会社や国によっては、トークンの消費自体を売り上げとして計上しているケースが多いように感じますが、場合によってはトークンを販売した時点で売上計上するケースも存在しているようです。パターンがいくつも存在していて、良くも悪くも多種多様です。NFTについてもゲーム内で使える期限が短いものは一括計上でしょうし、長期にわたるものだとそれに応じた計上方法になるでしょう。

――:外部から見ていて、どんなゲームが人気なのかが判断しづらいのですが、どういったところでチェックしたり、ベンチマークされているのでしょうか。

年々難しくなっているように思います。以前のブロックチェーンゲームは、オンチェーン上でブロックチェーンにトランザクションを刻みにいくものが多くありました。接続しているウォレット数や発行されているトランザクション数などの指標から賑わっているゲームがある程度はわかるようになっていました。

最近のゲームは、オンチェーン上にトランザクションを刻みに行かないものが増えてきているので、これまでのモバイルアプリなどと同様、見えている数字や指標などから推し量ることしかできません。

あと、実際にブロックチェーン上にトランザクションを刻んでいるゲームであっても、蓋を開けてみると、ボットが多いというケースも多々あって、人気かどうかを判断することもすぐには判断できない状況にあります。

仮想通貨であるトークンがあるようなゲームの場合、ゲームをプレイするユーザーがいる一方で、トークンで投機的な取引を繰り返しているユーザーが多くいる場合もあります。トークンの価格がすごく上がってトークンの取引はとても活発なのに、ゲーム内ではDAUが数百人という噂もあるゲームも存在するというお話も聞きます。実際にそのゲームが人気かどうかが見えづらいところがあります。

逆にSTEPN(ステップン)のように、多くの人が話題にしていて、Discordなどでコミュニケーションも活発に行われている場合はゲームも人気になっていると感じた人が多かったと思います。

最近だと、Telegram上でブロックチェーンゲームが提供できるようになっています。様々な議論が出ているメッセンジャーアプリですが、かなり活性化しているように感じます。Telegram内で提供されているTelegram Mini Appでは各アプリのMAUが表示されており、どれくらいのユーザー規模なのか、ということはわかるようになっています。

ブロックチェーンゲームも本当はアプリストアなどのように統一的なランキングとかあるといいのですが、接続ウォレット数やウォレットのアクティブな人数のランキングなどがありますが、上位をみると実際はボットばかりだったということもあり、十分な信頼が置けるか、となると難しいところがあります。

 

 

――:収益の立て方の多様性もあって、統一的な尺度で判断は難しそうですね。

そうです。従来のモバイルゲームですと、アプリストアのダウンロードランキングで1位になりました、売上1位になりましたなどと、それ自体がマーケティング効果をもって、多くの人に「これが人気なんだ」とわかりやすく伝えることができました。ブロックチェーンゲームだとそこが分かりづらいですよね。

あとはトークンがあることによって、その値上がりや値下がり自体が話題になってしまう場合もあります。トークンの値動きにフォーカスが当たって、価格が下がると、「これはもうダメなんじゃないか」といった話題になっていることを目にしたことがあるのではないかと思います。

逆にトークンの人気が出て盛り上がると、多くの人は値上がりを期待してトークンを買います。こうした投機的な動きで上がると、どうしても急速に下がってしまう場面もあります。トークンは、価格変動が激しいところがありますし、また経済動向やビットコインやイーサリアムのような他の仮想通貨の動きに影響を受けるとも一部で言われています。

――:ブロックチェーンゲームの業界としての課題はどういったところにあるとお考えですか。

先ほどランキングでも話題にもなりましたが、どのゲームが人気なのかわかりづらいことは小さくない課題だと思います。ユーザーから見ても、どのゲームが人気なのか、どのゲームが面白いのか、判断できるものが必要です。

マーケティング手法が限定されていることも課題と感じています。従来型のゲームではメディア戦略や広告手法など、ユーザーの獲得手法が揃っています。いろいろな手法の中からどの方法を組み合わせるか、その時の状況に合わせて最適な組み合わせを選択することができますが、ブロックチェーンゲームではそのあたりの手法が十分に確立されていないと感じます。

あとは、課金部分がトークンや NFTなどブロックチェーンと連携せざるを得ないところに関して、あまりユーザビリティが良くないところもあります。ウォレットが必要になってくると秘密鍵など、多くの方にとってよくわからない言葉や、これまでに見慣れないアクションが 出てきます。今だとパスワードで管理できるものも多くなってきてはいますが、まだアプリストアの課金体験などと比べるとユーザビリティが良くないところはハードルになっていると思います。

――:ウォレットを作ってくださいといわれても戸惑ってしまう人はまだ少なくないかもしれませんね。Web3に関しては何年も「マスアダプション」といっていて一般に広げていく、という部分で苦戦している印象はありますが、最近はいかがでしょうか。

Telegramのケースもそうですが、ユーザー目線では従来のモバイルゲームの「課金」と同じような感覚で利用できるようになっています。意識せずにウォレットを持っていたという状況にも近づいていっており、マスアダプションの一歩目まで来ているように感じています。

ただ、Telegramのユーザーを見ると、日本人ユーザーが非常に少ないです。日本でマスアダプションを目指そうとした時、これとは違ったアプローチが必要になるかもしれませんが、これまでやっていた手続きが意識せずにできるようになると良いのではないかと思います。

 

 

――:最後にドリコム社としての取り組みを教えて下さい。

ドリコムでは、チューリンガムと共同で開発・運営し、ZEAL NOVA DMCCがパブリッシングを行うという形で、弊社が保有するWizardryの IPを用いたブロックチェーンゲームとして『Eternal Crypt - Wizardry BC -(エクウィズ) 』というゲームをリリースしており、もう正式リリースから半年を過ぎました。

WizardryというダークファンタジーのIPを用いていますが、ゲーム体験としては少しカジュアルな方向にしており、キャラクターもボクセルデザインで、多くの方に手に取りやすいものにしています。

モデルとしては、クッキークリッカーのいわゆる放置ゲームのモデルを踏襲したもので、冒険者たちでパーティーを編成して戦略性の高いゲームが楽しめるようになっています。こちらはINOを実施しましたが、この取り組みを通して多くの方に知っていただくことを目的として行ったものです。いわばマーケティング的な側面が強い施策でした。

その中でも、早い段階からプロジェクトに携わってみたいという方が集まってきたように思います。ここで遊んでいただいた方がいわゆるコアユーザーになっていただいていると思います。

――:実際にやってみて、どういったことが学びになりましたか。

当たり前なのですが、実践しないとわからないことばかりでした。トークンがあるゲームの運用には独特の難しさがありますし、ゲームのチューニングをどうやっていくか、あとはコミュニティ運営もそうですね。

今回は、XやDiscordをコミュニティとして運用しています。INOで販売したNFTコレクション「AGC」をご購入いただいた方や、先行リリースからの遊んでくださっている方が初期リリースのタイミングで入ってきた新規ユーザーの質問や相談にのってくださっていて、コミュニティの価値や重要性を感じています。

――:これからの展開はどうしていく考えでしょうか。

『Eternal Crypt - Wizardry BC - 』は、Wizardry IPを使ったゲームということで、ゲームを主軸に置きつつ、それだけではない展開というところを目指しています。この場でお話できることは少ないのですが…。ブロックチェーンゲームのマーケット環境がいまも動いておりますので、その中でも新しいチャレンジを繰り返しながら、プロジェクトとしてより発展させていきたいと思っています。

――:ありがとうございました。

株式会社ドリコム
http://www.drecom.co.jp/

会社情報

会社名
株式会社ドリコム
設立
2001年11月
代表者
代表取締役社長 内藤 裕紀
決算期
3月
直近業績
売上高97億7900万円、営業利益9億300万円、経常利益7億9300万円、最終利益1億400万円(2024年3月期)
上場区分
東証グロース
証券コード
3793
企業データを見る