『転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます』を制作するつむぎ秋田アニメLabに迫る…脚本家は社内に在籍、背景はUnreal Engineで制作
4月1日(月)深夜24時よりテレ東系6局ネット他にて放送開始予定のTVアニメ『転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます』。
本作は、謙虚なサークルによる同名ライトノベルを原作とし、キャラクター原案をメル。、コミカライズを石沢庸介が担当する大人気シリーズのアニメ化作品で、血筋と才能に恵まれず非業の死を遂げた凡人の魔術師が、強い魔術の血統を持つサルーム王国の第七王子・ロイドとして転生し、前世では成し得なかった、桁外れの魔力で魔術を極める“無双ライフ”をエンジョイする物語が描かれる。
そんな本作を制作しているのが、秋田県にスタジオを構えるつむぎ秋田アニメLabだ。この作品が地上波TV放送作品では初の元請けということで、聞き馴染みのないアニメファンも多いかと思う。
そこで今回は、つむぎ秋田アニメLabの櫻井司制作プロデューサーにインタビューを実施。スタジオについて、そして『第七王子』について、さまざまな質問を伺った。
東北のアニメ制作のスタンダードに
――まず、つむぎ秋田アニメLabさんは比較的若いスタジオだと思いますが、どのような経緯で設立されたのでしょう。
実は、そこまで若いスタジオでもないんです。名前がつむぎ秋田アニメLabに変わったのは 4年ほど前ですけど、会社自体はもう8年目になります。
若く見えるのは、会社を設立したときからアニメのコンテンツを作る制作会社としては、意図して活動してなかった為です。それでアニメの業界の人は知っているけど世間ではあまり知られていない会社になりました。
――なるほど、8年も前から…。ちなみに以前は具体的にどんな活動をしていたのですか?
会社を作った理由が、アニメーターの作画部分をビジネス化することが目標でした。アニメコンテンツ制作をビジネスにするのではなく、アニメーターの仕事をメインビジネスにして会社が運営してやっていく、作画会社というイメージですね。
ただ 運良く設立当初からオリジナルアニメを作らせていただく機会もあり、影で作品を作りながら、アニメーターの仕事をいただいていました。
――そもそも、なぜ秋田にスタジオを構えたのでしょう。
最初は埼玉県の川口でスタジオを構えていたんです。そのときから、少なくとも東京でやっていくのは難しいと感じていたので。場所の問題、環境の問題いろいろありますから。実際に埼玉である程度回っていたんですが、このまま人が増えたら埼玉でも東京とあまり変わらない状況になってしまったんです。ちょっとこのままだと辛いなというところで、東北地方にサテライトスタジオを作る案が生まれました。
それからは実際現地に行って、現地の就業環境や、どんなアニメ会社あるか、専門学校があるかを全部調べました。すると、東北にはアニメ会社が少なく、特に秋田はほぼ存在しないんですよね。アニメ専門学校もなくて、勉強したい場合は仙台か北海道に行くしかないんですよね
逆にそれがチャンスだと思って、現地でアニメーター集めて、教えるところから始めようと考えたのがきっかけでした。
――東北でアニメーター志望する人たちの受け皿になろうと。
東北の受け皿というか、スタンダードモデルを目指すといったイメージですね。やっぱり地元ではアニメを学べ
ないので、遠く離れた場所に通わなくてはならない。しかし、その分費用もかかるので大変です。そこにスタジオを立てて人材共有から自分達ですれば、僕たちにとっても欲しいアニメーターを初めから手に入れられるわけです。
――では、実際に秋田にスタジオを構えて、東北地方の方々、アニメーターの方々の反響とかいかがでしたか。
実は反響を聞く機会はほとんどなくて…(笑)。今の時代はアニメを作るのに紙を一切使わず、データのやり取りじゃないですか。なので、なかなか聞く機会がないのが正直なところです。
ただひとつ、秋田に移った年にちょうど『鬼滅の刃』のヒットがあって、僕たちも仕事を頂いていたんです。それでエンドロールにつむぎ秋田アニメLabの名前が載り、すごく地元のみなさんには喜んでいただけました。コロナであまり明るいニュースがない中、秋田の名前が出てきたことは話題になってくれました。
――データのやり取りメインだと、地方だからといって難しく感じる瞬間も少なそうです。
コロナを機に一気に業界のデジタル化が進んで、打ち合わせも物のやり取りも含めてやりやすくなりました。新型コロナウイルスの流行と秋田移転が重なったこともあって、予想したデメリットがなくなった印象です。
脚本家もUnreal Engineを動かせる独自の環境
――『転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます』についても聞かせてください。そもそもなぜ、作画会社としてスタートした秋田アニメLabさんが、この作品を担当することになったのですか。
ひとつ前の作品が制作の佳境に入ったタイミングで、会社のお金がなくなりかけたんです。そこで文科省さんが実施している「あにめのたね」というアニメ制作企画に参加することにしたんです。当初は資金のためと考えていたのですが、「せっかくやるんだったら、ちゃんと作ろう」と。
そして成果発表後に、たまたま作品のプロデューサーさんにお声掛けいただいたのがきっかけですね。
――そこでスタジオのみなさんが原作を読み、制作に入った流れですか?
実は僕自身は漫画を読んでいて、作品のことはなんとなく知っていたんです。ただ、なにせメーカーさんの名前が大きすぎたので、最初はいたずらかと思いました(笑)
――(笑)。原作は偶然にも知っていたと。
そうですね。会社を設立したときは忙しくて、一度漫画や小説を読むのをやめていた時期があったのですが、最新のサブカル事情が分からなくなっていったので、片っ端からKindleで買いまくったんです。その中のひとつが『第七王子』だったというわけです。そのときはまだ第1巻、第2巻が刊行されたタイミングでした。
――そのタイミングで原作に対する印象ってどんなものでしたか。
もちろん読んだ当時は自分たちがアニメを作るとはまったく考えていなかったので、1人のファンとして読んでいました。作品としては、まだ本格的なバトルが始まる前の時期だったので、平和な作品、ふわふわとした印象がありました。
もしもバトルが始まるところまで読んでからアニメ制作の話をいただいていたら、一体どういうクオリティで挑んでいいのか分からず、断っていたかもしれません(笑)。「もっとアクション得意な会社に頼んだ方がいいですよ」と言ってたと思いますね。
――では、アニメ制作の話を持ちかけられたときは、驚きも強かったのでは。
驚きもありましたけど…。どちらかというと、半分疑っていたのもあって、「こういう作り方しかやりません」という感じで、いろいろと要求したのは覚えています。零細企業としてはかなり失礼な言い方だったと思います。
――なるほど…その流れで実際にアニメの制作が決まり、出版社や原作者からなにかオーダーはあったのですか?
具体的なオーダーはあまりなく、むしろ僕たちのチャレンジを歓迎してくれました。だからこそ、失敗したらどうしようという恐怖も感じましたね(笑)。
――確かに(笑)。アニメを制作するに当たり、まずはどんなことを重要視しましたか?
まず、脚本は力を入れている部分です。うちはスタジオとしては珍しいと思うんですが、脚本家が社内にいて、脚本家本人が最初から最後まで関わります。なので原作を脚本にするにあたってはそんな心配していませんでした。
あとは、現在のアニメファンの意識の変化も頭に入れました。視聴者さんが画面を見続けるのって、しんどいというか、徐々に少なくなってきていると現場では認識しています。原作通りに映像化するのは大前提ですけど、それだけだと見なくていい瞬間が多くなり、インパクトのあるシーンだけスマホから顔を上げて回収すればいいだけになってしまいます。原作通りだけど、いかにインパクトを増やすか、見てもらえる工夫、画面としての構成は強く意識しました。
――実際に映像を見てみると、CGによる表現が多いのも印象的でした。
実はすべての背景をCGで制作しています。まずは背景となる舞台をCGで全部作って、その中でキャラクターを動かす手法を取っています。CGはUnreal Engineで制作しているので、VRゴーグルをつければ、実寸サイズの街を歩くことだってできます。
アニメを制作していると、街のどこでストーリーが展開しているのか、考えを共有するのが難しい瞬間もあるんです。それがCGで、誰でも見れる状態で表現されているので分かりやすいし、この世界の中にキャラクターが居ることを実感することもできます。さらに言うと、先ほど話した脚本家もUnreal Engineを動かせるので、脚本家自らが背景をコントロールすることも可能なんです。
――脚本家もUnreal Engineを動かせるのは驚きです…。そうなると、スタッフ間の意見のすれ違いも少なくなりますね。
そうですね。例えば引いた絵を見せたいとき、キャラクターがどこに配置されているのか、その距離感はどのくらいなのか、どの角度から見せるのかを、脚本を執筆する段階で違和感なく落とし込めるわけですから。
本当に便利なので、玉村監督にも第1話の制作前に、Unreal Engineを覚えてもらう期間を作ってもらいました。そのときのノウハウは、アニメのレイアウトにも生かされています。
――もうひとつ、先ほどアニメファンの意識の変化という話がありましたが、視聴スタイルの変化はアニメ制作に影響しましたか? 例えば1.5倍速で見るとか、サブスクで全話配信されてからまとめて見るとか…。
結局、作る際は標準のフォーマットがあって、そこを中心に作るので、作る側が意識しすぎるのも違うと思います。ただ、受け取る側はどう楽しんでもいいので、1.5倍速も全然アリだし、テレビではなくサブスク中心で見るのもいいと思います。
その一方で、やっぱり通常の速度で見てもらえるような作品、じっくり画面を見たほうが楽しいと思える作品は目指していきたいです。
――それもまた、スタジオとしての目標になるのかもしれませんね。
『第七王子』の話だと、第1話から最終話まで全部固定の演出家で作るなど、業界の人が見たら「えっ」となるスタッフ陣なんです。だからこそ、こだわりを持った作品が作れていると思うし、これから先も僕らなりのスタッフを育成して、100%内製で2ライン、3ラインと増やせたら嬉しいです。
――その第一歩目が『第七王子』であると。
国内の元請けとして初めて作らせていただいたので、まずはこの作品を多くの方に、心の底から楽しんでいただきたいです。
――ありがとうございました。
放送情報
テレ東系列:4月1日(月)より毎週月曜深夜24時から
(テレ東・テレビ大阪・テレビ愛知・テレビせとうち・テレビ北海道・TVQ九州放送)
BS日テレ:4月1日(月)より毎週月曜深夜24時30分から
AT-X :4月3日(水)より毎週水曜21時30分から
※毎週金曜9時30分、毎週火曜日15時30分にリピート放送あり
※配信情報は後日公式サイト・公式Xをご確認ください。
©謙虚なサークル・講談社/「第七王子」製作委員会
会社情報
- 会社名
- 株式会社バンダイナムコフィルムワークス
- 設立
- 1976年11月
- 代表者
- 代表取締役社長 浅沼 誠