バンタンゲームアカデミー×NHN PlayArtの産学協同プロジェクトに続く取り組み。講演会とインターンで採用に積極的な姿勢。就活を控えたメンバーに何を伝えたのか?
ゲーム・イラスト・eスポーツの専門スクール「バンタンゲームアカデミー」とゲーム開発・運営会社であるNHN PlayArtは昨年から協力し、ゲーム業界へ就職を目指すバンタン生徒(以下メンバー)へのフォローアップ活動を実施している。
昨年度はメンバーたちが「東京ゲームショウ2023」に出展するゲームの企画・製作に対して、NHN PlayArtの林氏と山下氏がアドバイスを行った。
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林氏はスマートフォンアプリ『#コンパス 戦闘摂理解析システム』のプロデューサー。山下氏は同社でプロモーション部門を担当している。
今年もスクールとの協力活動は継続しており林氏と山下氏がメンバーと交流を行った。今回は就職を控えたメンバーたちへ向けた講演会と、その後にNHN PlayArt社員たちによるワンデイインターンが行われる。
本稿では、バンタンゲームアカデミーで実施された林氏と山下氏の講演会の模様をお届けしていく。
■メンバーからの質問に現役業界人の2名が回答
林氏と山下氏の講演会には全国のメンバー100名以上が参加。直接会場に足を運ぶメンバー、会場に入り切れず配信部屋で参加するメンバー、地方からオンラインで参加するメンバーと、多くのメンバーが2人の話を聞くために集まった。
講演会では会社説明と質問パートに分かれており、質問では事前に集めたゲーム制作における質問から会社で働くにあたって必要なことなど2人が回答していき、当日の挙手による質問にも回答が行われた。
まずは2人からNHN PlayArtの会社説明が行われる。NHN PlayArtでは良い意味で風通しの良い職場作りが行われており、プロデューサーである林氏もスタッフと机を並べて直接やり取りができる距離感で業務が行われており、連帯感が取れている会社だという。
社内にはバンタンゲームアカデミー卒業生も複数名おり、今年度からアルバイトとしてひと足早く会社で働く25卒生の青山氏も林氏の隣で作業しているとのこと。山下氏もプロモーション担当で作業フロアは異なるが、気になることがあれば直接話を聞きにいけるような距離感で業務ができているそうだ。
会社の方針として“プレイしてすぐ楽しいゲームを、本気で突き詰めつづける”というものがあり、昨今のコンテンツ消費の激しいゲーム市場において、短い時間で興味を持ってもらえるように、すぐ楽しいゲームが社内でのキーワードとなっているとのこと。
会社で求めている人材としては、何より自分から発信ができる人。同じゲームを作るうえで、個人がどういうデザインにしたいかアピールしてくれることで、チーム全体がその目標に一丸となって動けるということだ。
林氏は自身が口達者ではないと自称するが、それでも社内でのコミュニケーションは欠かさないとのこと。会社に入る以上、チームで動くことへの意識は必要とされると山下氏も語った。
NHN PlayArtでは子育てをしながら働く女性、プライベートではゲームをしないなど、さまざまな人が働いており、いろいろな人が働いている。もちろんゲーム好きな人は多く、チームの中心となるのはゲーム好きで熱意がある人だそうだ。山下氏も以前までは著名な国民的ゲームを触ったことがあるくらいの状態だったという。
バンタンゲームアカデミーの卒業生も社内で活躍しており、企画担当の卒業生は林氏と共にゲームUIを作成している。24年度の卒業生もデザイナーとして勤めており、デザインはもちろんロボットやメカの知識を活かした活躍も見せているとのこと。“とりあえず雑用をしてもらう”という立ち位置の人はおらず、キャリアを問わず全員が役割をもって業務に励んでいるそうだ。
ちなみに、青山氏は昨年のNHN PlayArtとバンタンゲームアカデミーの産学協同プロジェクトの際に自ら2人にアピールをしたという。その行動力を受け、これまでアルバイト枠は社内になかったが、メンバーを起用するためのアルバイト契約形式を生み出したというのだ。
■NHNの実例を元にチームでゲーム開発を行う際のコツを語る
林氏はチームの動きとして、自分が好きなものとメンバーの想像するものを組み合わせることを重視している。自分の好みについては普段の会話などから伝わるようにしておき、それをお互いに知った状態からスタートすると良いそうだ。
チームメンバー個々の気持ちを忘れてはいけないという。
そして、方向性が決定すればあとはメンバーに委ねて、林氏やディレクターは自分の作業に集中しつつ仕上がりを待つ。細かく確認をすることなく、メンバーに委ねる方針を取っているそうだ。
『#コンパス 戦闘摂理解析システム』の事例では、初対面のメンバーで制作かつ、社内でも3Dゲームは初という状態で始まったが、林氏が3Dエフェクトの好みを伝えたところ、デザイナーがそれを汲み取ってキャラが倒された際に弾けるような派手なエフェクトを生み出したそうだ。
当時はまだマイナージャンルだったMOBAをプレイヤーにどうやって浸透させるか、このエフェクト周りの見せ方は大きく貢献したという。
前述のお互いの好みを伝えるための1つとして、社内での好きなゲームの布教や紹介などは積極的に行われているようだ。
当然チームで失敗したこともあり、林氏は過去にはトップダウン方式で自分の考えを一方的に押し付けた結果チームが瓦解してしまった経験もあるという。今となっては原因がわかるが、当事者ではチームの問題に気が付くのは難しいと語った。
■メンバーからの質問に2人が回答
その後はメンバーからの質問に答える時間が設けられた。質問が多種多様で、その中でも気になった質問と回答を一例として紹介していく。
――長く遊び続けるゲームを作るコツは?
林:NHN PlayArtは『#コンパス 戦闘摂理解析システム』など長寿タイトルを複数輩出していて、良い意味で生活の隙間時間に入り込むゲームデザインにしたことで長期運営に成功している。結果論に近くなってしまうが、NHN PlayArtのゲームは「ちょっと遊ぼうかな」と思った際に開きたくなるような形にできている。
――ゲームを触っていて面白いと実感するときはどのようなときか?
林:面白いゲームはイコールで触り心地が良いゲーム。触り心地は「これをしたら気持ち良い!」というゴールを定めつつも、それに至るまでの各箇所の作りを丁寧にすることが大切。それらの積み重ねの上に総合的な触り心地の良いゲームが生まれる。具体的には、キーを倒したら前進するという一連の中に、キーを倒すと足が動き、足が動くと歩き出し、人が歩くことで前進するといった、動作の細分化を行っている。
――最近は3Dデザイナーの存在が多く感じるが、2D、中でもUIやエフェクトなど専門的なデザイナーの需要はあるのか?
林:むしろ逆に数が少ない分野のデザイナーの需要が高く、会社間で取り合いになることもある。募集と応募の母数が多い分野より、そういった専門的な分野は一定の需要が生まれている。
――キャラのエフェクトを作る際に意識していることは?
林:プレイヤーはあくまで画面を見ているので、ゲーム内のキャラの感覚は伝わり辛い。そこでエフェクトを通じて感覚を視覚的に伝わるようにしている。デザイナーには感情を形にするオーダーをすることが多く「このエフェクトを通じて何を感じさせたいか」を明確にすることが、デザイン上達のコツになっている。
――ゲームグラフィックモデラ―はオーダーを受ける立場が多いと思うが、逆にモデラ―から自分が作りたいものを提案することもあるのか?
林:NHN PlayArtでは、『#コンパス 戦闘摂理解析システム』で双挽乃保というキャラクターがいる。林氏が簡単な女子高生とチェンソーという簡単なオーダーをしただけで、あとのデザインは3Dモデラ―が担当して生まれたキャラ。会社形式にもよるがNHN PlayArtでは近しい事が行われることもある。
――在学中に自分たちが作っているゲームを多く周知されるようにする工夫は?
山下:お金がかけられないのであれば、身近な人やモノを巻き込んでいくのが手段としては考えられる。例えば、知り合いにインフルエンサーがいるのであればお金以外のメリットを提示して交渉し遊んでくれる状況を作り出したりするのがいいのでは。再現性がどこまであるかという問題はあるが、最近のインディーズのヒット作がなぜヒットしたのか、どのように知られていったかを研究していくとヒントがあるかもしれない。
――新キャラクターデザインで意識していることは?
林:プランナー視点では、プレイヤーの欲しいものから少しずらすこと。想像通りのモノを提供しても驚きがないため、プレイヤーの理想をあえて叶えすぎないようなデザインにしている。
――私は2Dデザイナーなのですがポートフォリオを作成する際にどのようなものが理想的なのか?
山下:NHN PlayArtのデザイナー曰く、まずは誰かがそれを見ることを意識するべき。自分がパンフレットや案内書などを見た際に見やすかった理由を言語化して取り込むと良いものが作れる。採用担当は多くのポートフォリオに目を通すため、オンラインファイルに誘導するURLなどはNG。一目でわかる見やすさが重要である。そういったポートフォリオの方が業務理解度のアピールにも繋がる。
質問を終えると後日開催される1DAYインターンの説明を経て講演会は終了。多くのメンバーが2人のトークに耳を傾けており、中にはメモを取るほど真摯に聞いている姿が見られた。
NHN PlayArtもメンバーとの交流を通じて実際に企業アピールと人材確保に成功している。バンタンゲームアカデミーもメンバーにゲーム業界をより身近に感じ、就職への実感を沸かせることに成功している。まさにwin-winの取り組みであり、今後も続いていくことだろう。
■スクールと協力した取り組みの手応えを林氏と山下氏に聞いた
最後に講演会を終えた林氏と山下氏、バンタンゲームアカデミーからNHN PlayArtにアルバイトをしている青山氏にお話を伺った。
――講演会を終えていかがでしたか?
林:すごく緊張しましたが、今回喋ったことは普段から考えていることなのでそれが伝わって今後の制作活動に活きると嬉しいです。
山下:僕の方にも質問が飛んできたのは予想外でした。みなさんの「この機会にいいヒントを得よう!」という熱意がヒシヒシを伝わってきて刺激を受けました。
――当日の挙手で聞かれた質問には予想外のものもありましたか?
林:どんな質問が来るか分からないので、もう当日の質問は来たとこ勝負の気持ちで望ませてもらいました。
――去年からメンバーとの取り組みを増やしたことで会社的にメリットはありましたか?
林:我々としても新卒で入ってくれる人を待っているだけではなく、自分たちから人材を探しに行くことが大事だと思います。面接を受けに来る方はその時の姿しか見られないので、実際にスクールで動いている姿を見られるのはこちらとしても有難いですね。
山下:TGS2023で初めてメンバー氏と共に活動しましたが、やはり面接以外の場でメンバー氏の姿を見ることで可視化されるものはありました。NHN PlayArtとしてもそこが具体的にできたのでよい取り組みになったと思っています。
――昨年の取り組みから青山氏をアルバイト枠で採用した決め手はどういったものでしたか?
山下:去年の産学協同プロジェクトからの帰り道に「あの人面白そうでしたよね」というのが林と僕で一致したのが大きな理由でした。そこで何かできないか話したところで、役員の立場を活かしてすぐにアルバイト制度を作って入ってもらった形です。
林:ゲームのプレゼンをしてもらったときに「これはなんでこうしたの?」と聞いたときに全てに「カッコいいから」と答えてくれて、自分の中で好きなものが明確に決まっていたのが印象的です。チームメンバーもこのゲームは青山君のカッコいいを目指したと言っており、チームを引っ張る力を感じたのも大きかったです。
――今年はメンバーを招いての1DAYインターンを実施する理由をお聞かせください。
山下:TGS出展もお手伝いもしたので、せっかくならインターンもやりましょうという話になりました。講演会を挟むことでメンバーたちに自分たちの意志を伝えて、認識の擦り合わせをしてから実施できるのもお互いに効率的だと思いました。
林:インターンでは#コンパスの開発チームが主導で行う予定で、我々も参加しますが主にメンバーに教えたり回答したりするのはチームのメンバーになります。
――実際にNHN PlayArtはこうして採用に向けて積極的に動いていますが、昨今のゲーム業界の採用状況はどのようになっていますか?
林:他社状況はわかり兼ねますが、どこも専用サイトを作ったり動いていたりするのを見ると重要視していると感じます。NHN PlayArtも新卒採用に力を入れています。大きな理由として、ゲームの作り方は常に進化しており、新しいことを学ぶ力が求められます。そのような状況では、若い新卒社員が大きな力になってくれると考えています。
山下:プロモーション側で新卒採用は実施していませんが、他社が新卒採用に備えて認知向上のために発信をしているのを見ていますし、NHN PlayArtがどう認知を高めていくのか考えたとき、単純に壮大な広告を使うという手段もあると思います。しかし、身近な人との交流を大切にしてできることをやったときにも新しい発見があるのではないかと考えています。
――青山氏はNHN PlayArtで働いてみていかがでしたか?
青山:入って間もないのにここまで任せてもらえるのかという驚きが正直な感想です。入るタイミングも自分がプログラムとプランナーでどちらに進むか悩んでいた頃で、プランナーとしてお声がけいただいて自分のやりたいことを見つけられました。社内でも社員さんと話して勉強させていただくことも多いですし、実際の業務に関わるというメンバーでは珍しい経験をさせてもらっています。今年の4月にはついにNHN PlayArtの25年度の新卒として入社させていただくので、正社員として今までの経験を生かして業務に臨んでいきたいと思います。
会社情報
- 会社名
- NHN PlayArt株式会社
- 設立
- 2015年10月
- 代表者
- 代表取締役社長 丁 佑鎭
- 決算期
- 12月