東京ゲームショウ出展のゲーム制作に現役プロデューサーが直接助言…バンタンゲームアカデミー×NHN PlayArtの産学協同プロジェクトに迫る。

世間では、様々な産学協同のプロジェクトが行われている。ゲーム業界においても、その動きは盛んであり、ハッカソンや共同研究などが行われていることも多い。

そんな中、ゲーム専門校バンタンゲームアカデミーとゲーム開発・運営会社であるNHN PlayArtが協力プロジェクトとして行われている取り組みがあるという。

それは、生徒たちの東京ゲームショウ出展に向けて制作するゲームに、NHN PlayArtがアドバイスをすることで、より実践的なゲーム制作を目指す取り組みというものだ。

ゲーム専門校に通う生徒たちは、制作自体はカリキュラムで行うことも多いが、現場で活躍するゲームクリエイターから直接指導を受ける機会は少ない。

そこで本稿では、その協力プロジェクトの模様を取材。産学協同となるプロジェクトの一面をクローズアップしてみた。

専門生に現役プロデューサーが直接助言…プロの意見を生徒はどうみたのか

バンタンゲームアカデミーは東京ゲームショウに毎年ブース出展をしており、そこではゲームプランナー専攻、ゲームプログラマー専攻等の生徒たちが制作したゲームを来場者に体験してもらっている。

今年の出展では、出展するゲームを企画段階からNHN PlayArtのサポートを受けて、より実践的で経験の得られる体制でゲーム制作に臨むとのこと。

NHN PlayArtからは、林氏と山下氏が参加。林氏はスマートフォンアプリ『#コンパス 戦闘摂理解析システム』のプロデューサー。山下氏は同社でプロモーション部門を担当している。

▲左から山下氏、林氏

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生徒との顔合わせでは、2人が生徒への自己紹介・挨拶をしたのちに、生徒たちによる現状のゲーム企画のプレゼンテーションが行われた。

今回バンタンゲームアカデミーが出展を考えているゲームのテーマは“メンコ”。それにARを組み合わせることで、メンコをひっくり返した際にさまざまな演出が起こるようなゲームを想定しているそうだ。

仕組みとしては、メンコの裏にQRコードが用意されており、それがひっくり返って見えることで映像として用意されたエフェクトが発生するというものだ。

生徒たちの狙いとしては、多くの人通りがある東京ゲームショウでメンコというダイナミックな動きをする遊びを題材にすることで、ブースを通りかかった人の注目を集めやすくするという点。

そして、バンタンゲームアカデミーの出展テーマである“バズる”という目標に向け、プレイした方々がポジティブな気持ちを味わってもらい、参加した方が自然とSNSで発信したくなるようなゲーム性を目指しているとのこと。ブースでは4人同時プレイを予定しており、複数人で1人のゲームに協力して挑戦するスタイルなども、より面白さを引き立てる要素になると考えているようだ。

上記の大まかなコンセプトに加えて、プレイする人にメンコの成功体験を味わってもらいやすくするために、メンコの難易度を調整する、外れてもチャンスがあるなど、ルール上でも参加者がより楽しめるようなゲームデザインなども考えており、生徒たちからは「どうしたらこのゲームが楽しくなるのか」を必死に試行錯誤しているのが伝わってきた。

プレゼンテーションが終了すると、概要を聞いた林氏から生徒に向けてのコメントの時間に。まずはゲームの参加者が楽しめるようなお祭り感のコンセプトを褒めつつも、現役プロデューサーという立場からシビアな意見も述べる。まず林氏が生徒たちに問いかけたのは「このゲームをプレイするのは恐らく一生で今回だけ。その人にとって最適なルールやゲーム性を提供できているのか?」という疑問だ。

現状の設計では、ゲームのルールを整備するために時間ごとの得点獲得や投げ直しのルールなど、細かい部分までカチっと細かいルールが用意されていた。しかし、それがブースに1度だけプレイしに来た参加者にとって理解しやすいのか、適切なのかという疑問だ。

確かに、複数回プレイするゲームならばまだしも、その場限りのゲームが複雑だとその体験もモヤモヤとしたものになってしまう。コメントを受けて、生徒たちからは盲点だったのかハッと気が付かされたような表情も見受けられた。

山下氏も同様に「どうやって参加者にゲームを理解してもらうかを考えた方が良い」とコメント。生徒たちにとっての現状の課題は“どうしたらブース出展のゲームとして適切か”のラインを見極めることになりそうだ。

その後は、生徒たちから企画に関して林氏と山下氏への質問の時間に。その中では「ゲームではあるがアナログ感が強いのが気になる。そもそも企画としてアリなのか」という直球の疑問もあり、それに対して林氏からは「そこは問題無い。アナログの方が想像しやすい面もある」と、生徒の背中を押すようなやり取りがあった。

コンセプトを決めて、まずこのゲームを作る上で一番大事にするべきところはどこか。そこと乖離がある内容にならないか、ゲーム開発ではそこを重視するべきだと林氏は述べる。その上で、最初のコンセプトが実現できない場合は最初に立ち返って大前提から見直す決断も時には必要であると続けた。

生徒たちの様子を見ていると、今回のアドバイスを受けて新たな課題点が見つかったようだ。質疑応答の内容を聞いていても、今回の特別な場を介することで、仲間内で普段であれば言葉にしづらい疑問を言語化するきっかけを得たような印象だ。

その後も積極的に話し合いをする生徒たちの姿があり、企画に対する漠然とした不安がNHN PlayArtの2人と話したことで具体的に理解できたに違いない。企画内容だけでなく、今回の交流を経て生徒たちのゲーム制作の思考が1段階レベルアップしたことだろう。

交流を通して優秀な人材の育成と発掘を
…スクールと企業と業界がwin-win-winとなる企画を

顔合わせが終了した後は、NHN PlayArtの2人にどういった狙いでこの協力企画に踏み出したのか。加えて生徒たちに直接今回の企画の感想を聞いてきたので、その内容をお届けしていく。インタビューには、氏、山下氏に加えてバンタンゲームアカデミーの担当スタッフ(以下、VGA)にも参加してもらった。


――バンタンゲームアカデミーとNHN PlayArtは以前から繋がりはあったのでしょうか。

山下氏:弊社ではバンタンゲームアカデミーの生徒さんを採用させていただいておりましたが、それ以外の繋がりはほとんどありませんでした。

僕が担当しているゲームのプロモーションプランを検討するにあたり、最近のゲームに興味のある若い人の注目や流行をより知っておきたいと思い、そういった方々を抱えているバンタンゲームアカデミーさんにお話を聞きに行ったのがきっかけです。

そのタイミングで生徒さんのゲーム制作の話が上がったのと、僕がたまたまNHN PlayArtのコーポレートリブランディングのプロジェクトにも携わっていたこともあり、何かお役に立てるかもしれないということで協力企画が立ち上がりました。

VGA:NHN PlayArtさんのゲームは触ってすぐ楽しさを感じる作品が多く、その点もマッチしていると感じました。スクールとしても、企業法人の強みである“企業さんといろいろなことを自由にできる”を活かしていけると思いました。

企業さんの間でも、最近は採用が早期化していて苦戦していると耳にします。その影響で、就職を目指す生徒の準備が間に合わず、本来であれば優れた生徒さんでも採用のタイミングですれ違いが起きてしまうとも聞いていました。そこで、こうしたプロジェクトで交流してもらうことで、企業さんに生徒たちを直に見てもらい、採用に活かして欲しい狙いもあります。

山下氏:この産学協同プロジェクトを通して生徒さんたちにNHN PlayArtという会社を理解してもらうためにも、実際にNHN PlayArtでゲームを作っている人を連れて会いに行った方がいいと思いました。また、自分が学生だった頃を振り返っても、実際に企業に勤める人からの話はまだ記憶に残る印象的な内容のものが多かったので、就職活動を行う生徒さんにとっても採用を行う企業にとってもプラスに働くと思いました。

――これまでにバンタンゲームアカデミーで似たような企画はなかったのでしょうか。

VGA:これまで企業さんを交えた企画はありましたが、その段階では採用に関してはあまり重要視していませんでした。今回のようにゲーム制作のテーマと会社さんの理念を掛け合わせたうえで、採用まで見据えて協力体制で取り組むのは初めてですね。

山下氏:東京ゲームショウで出展するゲームという枠組みも、参加者の体験や見せ方などについてであれば林も含めて我々がアドバイスできることもあるかなと。

▲企画のプレゼンテーション前では、VGA講師陣と林氏、山下氏にて、ゲーム制作や人材育成に関する意見交換も行われていた。


――実際に生徒さんと交流してみていかがでしたか。

氏:最初は人数の多さが印象的でした。チーム別かと思っていたら、全員で取り組む大がかりなチーム制作だったので、これは大変だろうなと。プランナーが居るとはいえ、誰がリーダーシップを取るのかも難しいと思います。

山下氏:プランナーとプログラマーの間での意見の擦り合わせも難しそうですね。チーム制作における難しさが垣間見えた気がします。

氏:僕もその雰囲気を感じてコメントをした部分もあります。実際のゲームの現場でも、好き嫌いで全員が動くことはできませんし、プロジェクトの方向性を決めるのはディレクターだけですから。でも、生徒さんたちがすごく頭を使って企画を考えていることは伝わってきました。

山下氏:チームで動いていくという意味では、今後みんなの意見をまとめられる人が現れればうまく回っていくと思います。これはゲームを作る能力とは少し別の部分になってしまうかと思いますが(笑)。みなさんの熱意はすごく伝わってきました。

VGA:チーム制作では自分の思い通りにいかないことも多く、ポジティブな体験ばかりではありません。しかし、そういったチーム制作の経験も大切だと思うので、スクールとしても生徒たちに体験できる場を提供したいと思っています。恐らくプランナー、プログラマーそれぞれに思うことがあると思うので、今回をきっかけにうまく回って欲しいですね。

加えて、今回プレゼンテーションを担当した生徒のOさん、Hさんの2名に感想を聞いみた。

――実際に企業の方を前にお話していかがでしたか?

Oさん:貴重な体験をできたと思いました。今の段階で引き返せるところ、引き返せないところの判断などはプランナー同士で話しても、中々決断ができない部分だったので、もっと企画の根本に立ち返っても良いと、企画の方向性に対してズバッとアドバイスをいただけたのは大きかったです。

Hさん:やり尽くせていると感じた部分もあれば、今回で気が付かされた部分も多くありました。例えば、本来であれば林さんたちに実際にプレイしながら説明できれば良かったのですが、それができなかったのは今回の反省点です。

――東京ゲームショウ出展に向けての意気込みを聞かせてください。

Oさん:NHN PlayArt様に面白いと思ってもらわなければ、来場した人に楽しいと思ってもらえることは不可能だと思うので、まずはお二人から攻略していこうかなと思います。

Hさん:今回後押ししてもらえたこともあれば、疑問を投げかけられた部分もあるので、ブラッシュアップを重ねて「これは面白い!」と太鼓判を押してもらえることを目標にしていきたいです。


今年の東京ゲームショウ2023は9月21日~24日開催。この取材の後も生徒たちとNHN PlayArtは定期的に企画について話し合い、ブラッシュアップをしているそうだ。バンタンゲームアカデミーの生徒たちがどのようなゲームを完成させて出展するのか期待していきたい。


 

 



NHN PlayArt株式会社
http://www.nhn-playart.com/

会社情報

会社名
NHN PlayArt株式会社
設立
2015年10月
代表者
代表取締役社長 丁 佑鎭
決算期
12月
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