となりのキャリアモデル―社内起業ベンチャー発HRテック事業、キャリウム株式会社が目指すところ 中山淳雄の「推しもオタクもグローバル」第119回

中山淳雄 エンタメ社会学者&Re entertainment社長
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エンタメ産業に異業種から入るにはどうすればいいの?という問い合わせが増えてきた。アニメもゲームもマンガ出版も、外側からみるとリスクそのもの。クリエイターのそばで仕事をする、ということ自体が、絵やゲームを作ったことがあるわけでも創造的なスキルを発揮する場面が人生でほとんどなかった多くの人々からすると「遠い」仕事にもみえる。しかしながら、そこでは「創る」のまわりに相当数の「創るを支援する」という仕事が存在し、実際に転職後に活躍している事例が山ほどある。今回はそうした先人の足跡、しかも経営者やクリエイターではなく、20代・30代のスタッフ~課長級でのキャリア足跡をAIをつかって可視化するCAREER FORTHを手掛ける、総合商社社内ベンチャー出身の成原さんにお話を伺った。それは入社20年近くのキャリアをもった“ふつうの商社マン"が異業種として社内ベンチャー制度に申し込み、2018年から4年かけて5-6回提案をしつづけ、2022年から4年かけて3回事業ピボットしてようやく今実現できる形に事業をもってきた、まさに成原さん自身の人生が表れた“となりの起業家キャリアモデル"でもある。

 

【主な内容】
本気で成り上がりたい人のためのキャリア診断ツール、キャリアフォース
文学少年、自営業がバブル崩壊で大被害。「世間は厳しい」と、食える仕事に就職
その頃に挑戦されていた社内起業制度。6回提案の粘り勝ちで2022年事業化
5年越しのサービスローンチ、3回の事業ピボットで「Resilience(粘り強さ)賞」
「となりのキャリアモデル」を発見する

 

■本気で成り上がりたい人のためのキャリア診断ツール、キャリアフォース

――:自己紹介からお願いします

成原大敬(なりはら ひろゆき)と申します。「社内起業」制度を活用して、三井物産子会社のベンチャースタジオ、Moon Creative Labでの社内起業家としてキャリア診断ツールを提供するキャリウム株式会社を立ち上げ、代表をやっています。データドリブンなアプローチでリスクある転職の意思決定に寄り添う、ということを目標にキャリア可視化サービス「CAREER FORTH」を提供していまして、5月にちょうど一般ユーザー向けにプラットフォーム利用を公開したところです。

私たちのサービスを一言でいうと、100万人の就職・転職にかかわる公開情報から学歴・就職歴別に情報を整理・集約して、どういった業界や業種に入社し退職後に転職しているかが一覧で可視化できる「個々人のキャリアステップ設計の助けになる」ツールです。

――:本特集はいつもエンタメ論が基本なのですが、今回は長いことランニング仲間の成原さんと僕の最初のキャリアが人材系ということがあって、半分趣味で取材させていただいてます。そもそもなぜこの事業で起業しようと思ったのですか?

中山さんもリクルートにいらっしゃったからよくご存じだと思いますが、転職って転職する側と採用する側との間に、とかく「情報の非対称性」がありますよね。

家や車を買うときにはきちんと内見もするし、慎重に情報を調べてから購入を決めますよね。病院で大きな手術するときも、症状や将来のリスクについて説明を受けた上でMRIなど科学的データを取ってから決断する。キャリアも同等かそれ以上に大きなリスクがある重要な意思決定なのに、いまだに人の言葉やクチコミだけで決まる。そこに透明性の高いデータ分析がないな、と感じたのがきっかけでした。

――:そうなんですよね。転職エージェントを活用しますが、やっぱり「会社の中は機密情報でいっぱいだから、お試しもできないし内見もできない」というのが基本でしたよね。

個人的にはなぜ中身を見られないの!?と思います!大学入学までは偏差値ランキングもあるし、新卒での就職のときには結構真剣に検討していますよね。それなのに中途採用の転職があまりにおざなりに決まっていると思ったところからこの事業アイデアを着想しています。人生におけるライフイベントや高額商品の購入時には合理的に情報を集めて決定しているのに、キャリアに関してはいまだに“情緒的"に意思決定がされている。その状況を変えたいと思いました。

これまでは人材紹介会社が中途採用の仲介機能を担ってきました。●●さんの年収で〇年働いたご経験でいうと、△社でマネジャーとして入社するのが理想的ですね?みたいな。でもそこにはすでに主観が挟まれていて…。これだけデータがとれる時代なので、人生における大事な意思決定は絶対にデータドリブンで行うべきだ、と私は思うんです。

――:僕も5回転職してきましたが、一度だけエージェント使った転職をしました。社員の知り合いもいないし、「中山さんに絶対合っているから」という“情緒"で転職を決意。10か月で辞めちゃった会社ですが、、、

「中山さんに絶対あっている…(笑)」。僕が違和感を感じるのは偶然の采配をあたかも運命の出会いのように語る風潮です。「本当にたまたまのめぐり逢いで」などと言って、セレンディピティを強調することによって離れがたいキズナをお互いに作ろうとし過ぎてしまう。

そこに、「成功者バイアス」のようなもの感じます。この事業を立ち上げるにあたって様々なキャリア本を読みましたが、多くのキャリア成功ストーリーは参考にならなかった。人的資本を備えている成功者から見ると単なるラッキーな話かもしれないし、ある種の「既得権益」のようにそこに選ばれた運命性を強調したいのかもしれない。でもこれからより良いキャリアを形成していきたい方々にとって本当に必要なのは「同じルートを辿りたい人にとって少しでもその確率をあげる情報」なんですよね。

――:イケオジになりたい『LEON』も年収1千万生活と言いながら2~3千万のライフスタイルをみせていたという話も聞きますし、『Forbes』も正直キャリアステップとしてスーパーマン/ウーマンが多すぎてあまり参考になりにくいですよね。

メディアに登場する成功者像の影響も大きいですよね。バリキャリの東大卒で学生時代はモデルをやっていました!みたいな人が、外資系金融から起業フェーズで事業参画してCXXクラスで働いています、と紹介されていても、もう全く参考になりません(笑)!

もう少し地に足のついた「ロールモデルをみつける」手助けをしたいんですよね。派手さはなくても、堅実な会社員で転職をつなぎながらキャリアのステップアップをしている、そういった歴史には残らないアンサング・ヒーローを大事にしたい。キャリアというのはもともと荷馬車の轍からきている言葉で、人々が仕事歴で通ってきた道にストーリーや継続性をもたせる意味で使われてきました。スーパーヒーローを持ち上げるんじゃなくて、そこに再現性をもたせて「本気で成り上がりたい人」のために現実的なステップを広めるものを作りたかった。

――:CAREER FORTHでさっそく中山のキャリアでやってもらいました。サラリーマン17年、5社経験の中山の職務経歴書だとどんな結果がでるのか・・・

「キャリアマップ」「キャリアルート検索」「リバースルート検索」の3つの検索手段があります。中山さんの職務経歴書を流し込んで…っと。希望はどんなポジションですか?

それでは「未来型ビジョナリー」と仮に設定して、こんな感じで5~10秒でその人にあわせた内容が記述されます。ここにどんどん追記していけばそれに対応したキャリア提案書が出てきます。

 

 

――:おおお~~、確かにこれは便利!年収とかどの企業のどのオファーが一番向いているとかも出てくるんですかね?

まだ年収は入っていないんですが、いずれ入れていきたいと思います。まさにおっしゃるとおり、ここに求人情報をつなぎこんで紹介会社としては「ユーザー個人が自分で発見したネクストキャリアに今一番近い求職情報」を提供していくことを目指して作っています。中山さんは「エンターテイメント業界向け経営コンサルタント」のポジションが向いている、と出てきますね(笑)。

 

 

――:今、やってます(笑)。僕が人材業界で感じたのは「個々が目指すキャリア」が自分の身の丈にあっていないものが多くて、紹介会社の必要な役割って「あなたはこのくらいが妥当なところ」と市場要望に応じて「妥協させる」プロセスなんですよね。転職って結構重いので家族の説得も含めて、「納得させる」「妥協させる」とどちらかというと市場情報からみて候補者を押し下げることが多かった。

大事なのは「客観的情報」で、そういった「市場要望」と自分を照らし合わせて転職希望者本人が自分の市場価値を自覚するプロセスなのだと思います。

もう一つの例として、「コンサル従事者」で調べると12,000人のデータがあって、アクセンチュア、デロイトなどなど。このボストンコンサルティング(BCG)の352人の転職先を見てみましょうか。戦略コンサルへの転職が半分で、ほかにはAmazonとかGAFAM系が多いですよね。でもGAFAMに入社した人のボリュームでみると別に戦略コンサルにいかなくても転職できる・・・などこうやって一覧で目当ての仕事にたどり着く“すごろく"がみやすくなったイメージです。

――:なるほど。実態としてのデータに触れることで「あ、自分の学歴でいうとこのくらいの会社・役職・年収か」とか、「ワンチャンここまでいけるのか!?」みたいな相場観がつかめるんですね。この「戦略コンサルにいくならどのくらい学歴が必要か」も明確に“答え"が出ていますね。

学歴はよく聞くと思うのですよ。センシティブなトピックですが、現実として影響があるならば実際のところを知っておきたいですよね。戦略コンサルは本当に“マッチョ"な学歴主義で、東大・東工・一橋卒が4割、早慶上智ICUに海外大学もいれてトップ級学歴が8割強となっています。ある意味わかりやすいほど入口でフィルタリングをしている。転職者も戦略系は戦略系出身者を好むので、その中でぐるぐると同じ人材が周っているイメージです。

でも同じ数字はGAFAMになると結構違うんですよね。結構MARCHとか日東駒専の出身者もおおくて。ほら、NETFLIXの出身大学も結構バラバラですよね。

 

 

――:確かに、意外にも。そして経営コンサル1.2万人のうち半分転職者いますが、7割は同業界なんですね。コンサルにいくとどこでも働けるから異業界に行くかと思ったけどそこらへんは給与待遇もいいし「思い込み」部分が多そうですね。

まあこんな形ですでに実績数字としての各企業の流入・流出が分かれば、冒頭の「スーパーヒーロー」じゃなくてもどの企業で何年くらいやっていると確率的にこういう企業にいく人が多い、という自分なりのキャリアステップを設計しやすい。新卒では無理ゲーでも、中途ではあの会社に入れるかもしれない。雑誌でピックアップされるような“外れ値"ではない、地に足のついたキャリアステップを考える、ということが可能になるんです。

 

 

■文学少年、自営業がバブル崩壊で大被害。「世間は厳しい」と、食える仕事に就職

――:成原さん自身のキャリアも聞きたいです。どういう学生だったんですか?

運動神経が悪くて外遊びが苦手。読書、特に文学が好きで、小学生くらいから漢文を読んだり、老荘思想の本を読んだりしているような子供でした。小学6年のときに『菜根譚』読んでいました、わかってもないくせに(笑)。

昔から小説家を目指していましたが、教師から「成原くんは書くのはあんまり才能ないよ」と言われてすごいショックを受けて。今思うと何が根拠だったかわからないけれど子供時代のそういった一言ってずっと引きずるんですよね。そのころから「教育システムって何なんだろう。何を目指して学ぶのだろう、おそらく仕事して食っていくためなんだろうけど、さらにその先に何があるのだろう」という疑問を感じていて、働いてからもずっとその思いがあったことが、今の起業につながっているようにも感じます。

――:成原さんはその後京都大学・京都大学院へ進んで上場企業に就職します。明らかに「勝ち組」キャリアを歩んできましたが・・・

どうなんでしょう…あまりそういう自己肯定感を持てたことはありません(笑)。。

焼き肉屋を自営業していた父の影響かもしれないですね。上場企業に内定したことを報告したら、「なんや、おまえ大学まで出たのに人に雇われるんか?」って(笑)。自営業しかしてこなかった父からすると、包丁握るのか自分で経営するかみたいな二択で、誰かの雇われになるっていうのは納得がいかなかったのかも。

――:自分が焼き肉屋を継ごうとは思わなかったんですか?

思わなかったですね。親族みんなが自営業みたいな家系で小学生くらいまではホントに羽振りがよく、バブルの影響を受けた典型例だったんだと思います。それが、バブル崩壊と阪神淡路大震災のダブルヒットで、一気に業績が急転落して。

私が中学にあがるころには祖父母の家は債権回収機構に全部差し押さえられてしまい「奪われていった」のを目の当たりにしています。父親の焼き肉屋も立ち行かなくなって、大学は授業料免除と奨学金で通いました。教師に言われた一言もあって、文学部ではなく経済学部にいったのも「食うため」でした。

――:たしかに。親はバブル崩壊で経済的な影響を受け、いざ自分が就職となったら、完全な「氷河期」時代。我々同い年ですが、こうしてみるとなかなかにハードモードですよね。

「現実は厳しい」「世間は厳しい」というのが私の原体験ですね。とにかく現実と向き合って、食えるようにならないと、という感覚が学生時代から根強かった。就職も、将来から逆算して自分の身につけた学びや適性がもっとも売れそうなところ、自分の市場価値が上がって将来にわたって食えそうかどうか、を基準にしていました。

――:就職後はどんなキャリアを歩むのですか?

2005年に社会人となり、最初は小売・流通業向けの配送センターなどのロジスティクスの仕事に携わりました。海外でロジスティクスの仕事に関わることもあり、1年の米国滞在時代にフロリダの物流センターによく足を運びました。倉庫の現場で半分スペイン語ばかりのワーカー集団に交じって働いた経験が今も私の血肉になっています。神戸で血の気の多い人たちに囲まれた焼き肉屋の息子だった私はそういう「地に足のついた人たちのノウハウを掘りこんでいく」ことが得意だったし、好きだったんですよね。

その後、乳製品など食品原料の仕事をやることになり、その一環で2015年にインドネシア、2017年にシンガポールに赴任し、そこで中山さんにもお会いしました。

 

■その頃に挑戦されていた社内起業制度。6回提案の粘り勝ちで2022年事業化

――:いや、懐かしいですね。2018年かな?UZABASEのシンガポール支社で皆で集まったんですよね。でも当時から「社内起業」応募してましたよね。

思い返すと、中山さんとは僕が社内起業を目指し始めた時期にシンガポールで一緒にランニングしていましたね(笑)。就職して10年あまり、それまでずっと「食うために」と必死に働いてきた自分がちょっとした“中年危機"に陥ったんです。自分のジョブアイデンティティは何なのか?社会にインパクトを与えていこうと野望に燃えていた学生時代のことをふと思い返して、それに代わるような意味を自分はこの先の未来で生み出すことができるんだろうか、と。

 

 

――:そうした中で「社内起業」という選択肢が出てきたんですね。

2015年頃から社内起業制度が始まっていて、シンガポールに赴任していた時から年に数回のピッチに挑戦していました。今振り返ると提案書もポエムに近いような恥ずかしい出来で何度も落ち続けたんですが、もらったフィードバックを基に修正案を合計5~6回出し続けて。そうしていたら「そこまで粘ったやつはほかにいなかった」と、最後は通過させていただいて…お情けだったのかもしれません(笑)。

最終的に2022年に従来業務から離れて、三井物産グループのベンチャースタジオ「Moon Creative Lab」へ出向になりました。

※Moon Creative Lab:Moon Creative Lab は三井物産グループにおける人間中心の新規事業創造を推進するベンチャースタジオとして2018年に設立。米・パロアルトと東京に拠点を置き、デザイナー、エンジニア、プロダクトマネージャー、起業経験者などのグローバルで多彩な専門人材によるハンズオンのサポート体制を構築し、世の中にポジティブなインパクトを与える新規事業創出を実現。この経験を元に、Moonは三井物産グループの枠を超えて、新規事業創造のサポートを拡大。チームや組織の創造的な可能性を引き出し、大胆なアイデアを斬新なベンチャーへと転換するための支援を提供しています。 

――:こちら青山のMoon東京オフィスですが外国人材も大勢います。多様な人材がアクセレレーションしてくれる、というのも特別なところですかね。

そうですね、サービス開発ではシリコンバレー(Palo Alto)のメンバーからも助言やサポートを受けました。アメリカから日本に移住したメンバーもいますし、バックグラウンドが多様で、彼らがサービスのアクセラレーション段階でデザインをつくってくれたり、エンジニアリングに入ってくれたり。また、Moon Creative Lab社は人間を中心に設計する、素早く試す、指示を待つのではなく自分で道を定めて切り拓く、など独自のカルチャーを持っていて、起業家精神を学びました。

 

■5年越しのサービスローンチ、3回の事業ピボットで「Resilience(粘り強さ)賞」

――:中山が知る限りでも成原さん、何度も事業構想を転換されていますよね。これまでどのくらい事業ピボットをしてきたんですか?

大きく分けると3回です。初めは「スキルアップのライザップ」みたいな事業モデルで、ユーザー同士をつないで自分が身につけたい新しい領域の師匠を様々な分野から見つけられる、というプリミティブなアイデアから始まって。最初のピボットはそもそもどういったスキルを身につけるかデータドリブンに探せる、キャリアナビゲーションツールに変更しました。「Pioneer Guild」というサービス名で、キャリアのGoogleマップのように、このコースは競争率高くて渋滞しているな、などが一目でわかるサービスを目指しました。

2度目のピボットは事業者向けサービスへの転換です。ユーザー向けに先行して人材紹介会社のキャリアアドバイスのベースとなるデータを提供していこうとしたところ、2023年2月に初めてファーストカスタマーを獲得しました。「ニーズ」検証ができたところで、サービス設計・開発を進め、2023年7月にプロダクトをリリースし、そこから半年くらいはお客さんとPOC(Proof of Concept)検証を行い、残りの半年で会社設立の準備を進めました。

3度目のピボットはちょうど1年前の2024年6月です。株式会社キャリウムとして法人化したタイミングで「AI」をサービスに導入しました。人間の言葉で描かれた職歴・求人票をAIに読み込んでもらい、自分にとって最適な仕事の道を見つけ出そう、という現在の構想があり、今月ようやくローンチにこぎつけました。ピボットというか既存サービスの強化に近いですが。

――:通常の起業にくらべハードルは低いといわれる「社内起業」ですが…

最初からすごくエッジのきいたアイデアだったわけではないですし、企画も粘りで通してきました。2022年に事業アイデアが採択されて以降も、何度も「これで成果が出なかったらプロジェクト終了」という瀬戸際で奇跡のようにお客さんとの提携案件が出てきて。本当に首の皮一枚で続けてこられたような。キャリウム設立時には、「成原さんは、アレだね。Resilience賞」と声をかけてもらったほど。とにかく「粘り」だけを強みに続けてきました。

 

■「となりのキャリアモデル」を発見する

――:2022年に専業事業オーナーとして事業をスタート。実際に予算がついてサービスのための調査を開始して、どんな気づきがありました?

事業化にあたってユーザーインタビュー調査を行ったんですが、大企業にお勤めの方と話していると「いいオファーをもらうとありがたいですが、今の会社は自分を認めてくれるから」という意見も多くて。会社の昇進ありきで、転職=逃げのように捉えている人や、若い方なんかは「何者にも縛られないフリーランサーになりたいです」という真逆の意見もあって、横で聞いていたアメリカ人の同僚が不思議がるんですよ。「日本人ってマジで極端だよね!?なぜCorporate Ladder(企業の出世階段)か、フリーランスかの2択になるんだろう??状況で変わるのに」と。

――:確かに独立起業のあとに就職するのもありですね

極端な二択しかない日本。もう少しフラットな感覚で選択肢を見てみて、どちらか一方ありきではなくて、家庭状況やその時取れるリスク等に合わせていくつかのバリエーションの中から働き方を設計できるとよいなと思います。

「自分に合ったロールモデルがなかなか見つからない」という声を女性の方々中心によく聞きますが、それが今の日本の転職市場の課題だと思っています。誰しも自分と近しい人たちを横目でみるじゃないですか?「あいつがいけるなら俺だって」みたいな。そういう“となりのキャリアモデル"を気軽に見つけられるサービスを育てたいと切に思っています。

――:事業としてはどこでマネタイズしているんですか?

現状はBtoB事業でマネタイズしています。主に人材紹介会社のコンサルタントの方々が、求職者のキャリアプランを求職者の方々と考えるツールとして当社のサービスを使ってくれています。今後はBtoCサービスも開始するので、個人ユーザー課金なども検討しています。

――:商社パーソンも「なんでもできるからくいっぱぐれない」仕事と言われます。実際商社パーソンとして培ったスキルは起業家にも生きるものでしょうか?

そうですね。商社で身に着けた基礎的なスキルは今に生きていると感じます。商社の仕事って、何かを仕込んで、手を加えて、売る、ということを繰り返している業態なんだと思います。自分自身も、そうした一連の流れを応用問題のように何度も何パターンも経験してきているので、今回、キャリア支援AIサービスを構築していく中で、そうしたアプローチの積み重ねが生きているなと感じました。

例えば、提供サービスの「仕込み」に当たる部分はエンジニアに作ってもらう“情報"だとします。ここにどんな情報提供をすれば誰が買ってくれるかを考えて「手を加え」、そして人材紹介会社が求職者への付加価値を増やすためにコンサルティングツールとして「売る」。

どういう解法を作って、どういう流通に流し込んで、どうしたら買い取ってもらえるか。これまで、「求職者にはデータが見えなかった、見えづらかった」点に今までの不釣り合いがあった。実感として、紹介料30%を得るために必要な情報やマッチングに対する期待値が変わってきていて、そこに我々のサービスが一役買える、というのが今CAREER FORTHを展開していても感じるところです。

――:成原さんが対談されていた渡邉正裕さんは僕にとっても実は分岐点になった人なんですよ。実は・・・新聞社に内定していたのをやめて、リクルートスタッフィングにいったんですよね。あのとき『これが働きたい会社だ社員が教える企業ミシュラン』(2004、幻冬舎)があまりに衝撃的で。

そうだったんですか(笑)!?中山さん、じゃあ新聞記者になってたかもしれないんですね。そうそう、まさにそういうことなんですよ。会社の「働き方」や企業文化、待遇や福利厚生などもそれなりの透明性をもって伝えた上で、求職者自身がキャリアを「選択する」。

それは大学教育にも敷衍していくべきだと思うんですよね。そもそも大学生の圧倒的多数は「就職する」ために入学する。しかしながらその学びが現実社会のどこに繋がるかの関係性が見えにくい。もしくは優秀さチェックの検査機関としてのラベリング機能がメインで、学びと実社会がうまく接続していない、と感じます。

――:本当にその通りですよね。実際に社会人になってからLinkedInで他の人の転職キャリアを見たり、近年はOpenWork(2019年リンクアンドモチベーションが買収)で「回答者の平均年齢」「入社理由と退職理由」給与が可視化されて、本当にダイレクトで情報が集めやすくなったなと感じます。40代以降の給与の上がり方なんて僕らの時には一切知らなかった。

企業側の求人案件を希少な情報として、求職者を惹きつけることは余程のエグゼクティブ層の求人でもなければ難しくなっていますよね。求職者がたくさん情報を得られるようになってきているので、職業紹介では情報の希少性以外の付加価値をつけないといけないですよね。その意味では実は転職という一点だけに注目するのは限界があるのではないかと思っています。人はそれぞれ転職したい、というよりも良いキャリアを築きたいだけで、そのためのアクションとして転職がある。もっと長期的な目線でキャリア全体を見通しサポートするサービスが次に求められると思っています。

あらゆるものがDtoCにシフトしているなかで就職情報もエンドユーザーがダイレクトにアクセスできる時代になっている。マーケットの相場観とか「自分のとなりにいるキャリアのロールモデルがこういう動きをしている」といった地図とコンパスを携えて厳しい現実の中で食っていける道を確保しながらも、「人類社会にとって自分自身が一番意義ある貢献ができる次の最善の一手は何なのか!?」をそれぞれが実装できる社会にするためにがんばりたいと思います。

(今回の記事中で触れられているCAREER FORTH-キャリアデザイナーは7月1日から誰でも無料で利用可能になりました。職歴書のPDFを準備してぜひご自身でも体験してみてください。)

 

 

会社情報

会社名
Re entertainment
設立
2021年7月
代表者
中山淳雄
直近業績
エンタメ社会学者の中山淳雄氏が海外&事業家&研究者として追求してきた経験をもとに“エンターテイメントの再現性追求”を支援するコンサルティング事業を展開している。
上場区分
未上場
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