
ゲーム開発会社トーセ<4728>は、2月中間期の決算説明資料において、生成AIの活用と人材戦略に関する取り組みを公開した。全社員にAI利用環境を整備し、ルール教育とあわせて活用を促進するなど、組織全体での底上げを行っている。
■慎重から実装フェーズへ――ゲーム業界に広がるAI活用
これまでゲーム業界は、生成AIの導入に比較的慎重な姿勢を取ってきた。背景にあるのは、キャラクターや音楽、シナリオ、プログラムといった複雑な知的財産の集合体であるという特性、そしてファンとの信頼関係やブランド価値への強い配慮だ。
しかしここ1〜2年で状況は徐々に変わりつつある。
開発現場のバックエンドでは、AIを活用した効率化や品質向上が急速に進行。さらに最近では、グラフィックやサウンドといったユーザーが直接触れる領域にも、徐々に適用範囲が広がっているという。
こうしたなか、情報収集や技術の研鑽を進めるとともに、社内の方針やルールも継続的にアップデートし、柔軟かつスピーディに対応しているとのこと。
トーセの取り組みは、こうした業界トレンドを踏まえたものだ。単なる技術導入ではなく、「安全性を担保しながら活用範囲を広げる」というスタンスを明確に打ち出している点が特徴的だ。

■全社員にAI環境と教育を提供、組織としての底上げへ
同社はまず、全従業員が生成AIを利用できる環境を整備。その上で、使用ルールを明示した研修を実施し、活用を組織的に促進している。これは単なるITツール導入ではなく、「リテラシー教育」と「ガバナンス」を同時に進める設計だ。
AI活用において問題になりがちな情報漏洩や著作権リスクへの対応を前提としつつ、現場レベルでの活用を後押しする構造になっている。さらに、AIを含む研究開発部門による情報発信や活用奨励も強化。新技術を現場に浸透させやすい仕組みづくりを進めている点も重要だ。
このアプローチは、トップダウンとボトムアップを組み合わせた「組織学習型」のAI導入といえる。
■開発だけでなくコーポレートにも波及
AI活用はゲーム開発にとどまらない。
トーセはコーポレート業務においても効率化を進めており、将来的にリプレース予定の基幹システムにもAIの導入を見据えている。
さらに、システムインテグレーション部門を巻き込みながら検討を進めている点からは、「全社的なデジタル変革(DX)」として位置づけていることがうかがえる。
エンタメ企業におけるAI導入は、クリエイティブ領域ばかりが注目されがちだが、実際にはバックオフィスや基盤システムとの連動が生産性向上の鍵を握る。この点でも同社の戦略は現実的だ。
■人材戦略と一体化したAI活用
トーセのもう一つの軸が、人材戦略との統合である。
同社は従来の満足度調査に代わり、エンゲージメントサーベイを導入。組織状態を可視化し、課題に対して具体的な施策を講じている。報酬の強化や評価制度の見直しといった従来型の施策に加え、AI活用を前提としたリスキリングの促進にも力を入れている。
ここで重要なのは、AIを「人を置き換えるもの」ではなく、「付加価値を高めるためのツール」と位置づけている点だ。生産性だけでなく付加価値の向上を同時に求める姿勢は、クリエイティブ産業ならではの考え方といえる。
また、経営層とリーダー層の交流促進など、次世代育成にも取り組んでおり、組織全体で変化に適応する体制づくりが進められている。
■オフィス投資とクリエイティビティの再設計
現在建設中の長岡京新オフィスビルも、この流れの中にある。単なる設備投資ではなく、開発効率の向上と組織の最適化を目的とした「創造環境の再設計」と位置づけられている。
多様な働き方やコミュニケーションを促進し、クリエイティビティを引き出す空間設計を目指しており、社内アンケートを反映した設計が進められているという。
AIによる効率化と、人間同士の創発的なコミュニケーション。この両立を物理的な環境でも実現しようとする点は興味深い。
■「AI時代のゲーム開発会社」のモデルケースへ
トーセの取り組みを整理すると、以下の3点に集約できる。
・安全性と両立したAI活用の拡大
・全社的な教育とリスキリングによる人材強化
・組織・制度・環境を含めた総合的な変革
これは単なる技術導入ではなく、「会社のあり方そのもの」を再設計する動きだ。
エンタメ業界におけるAI活用は、今後さらに加速する一方で、知的財産やブランドとの関係から慎重な判断も求められる領域であり続ける。その中で、トーセのようにガバナンスと現場活用を両立させるアプローチは、ひとつの指針になりそうだ。
会社情報
- 会社名
- 株式会社トーセ
- 設立
- 1979年11月
- 代表者
- 代表取締役会長兼CEO 齋藤 茂/代表取締役社長兼COO 渡辺 康人
- 決算期
- 8月
- 直近業績
- 売上高66億3600万円、営業利益6億8900万円、経常利益6億7700万円、最終利益2億5000万円(2025年8月期)
- 上場区分
- 東証スタンダード
- 証券コード
- 4728