
転職に関する情報は世の中にあふれているが、その多くは常識として語られている一方で、実際のところ本当なのか間違いなのか、分からないまま語られているケースも少なくない。
そこで本連載では、転職にまつわる素朴な疑問や噂について、現場を知る弊社の人事担当者にヒアリングを実施。エンタメ業界に特化した求人を扱う立場から、業界ならではの視点も交えつつ、実際のところはどうなのかを紐解いていく。
「未経験歓迎」はどこまでを指すのか
第2回のテーマは、転職活動を始めると、多くの求人で目にする「未経験歓迎」というワードについて。一見すると「誰でも応募できる」と捉えられそうだが、実際のところどこまでが“未経験”として想定されているのかは気になるところだと思う。
この点について人事担当スタッフに確認したところ、「多くの場合、『未経験歓迎』が指すのは“業界未経験歓迎”であり、社会人経験まで完全に未経験という意味ではないケースが一般的です」との回答が得られた。
つまり、「その業界で働いたことがない」という意味での未経験は歓迎される一方で、ビジネスの基本となる社会人経験や、何らかの業務経験は前提として求められている場合が多いということだ。
ここまでは想像に難くない話として、この「未経験の範囲」は職種によっても大きく変わってくる。
エンタメ業界を例に挙げると、デザイナーやアニメーター、ゲームプログラマーといった専門職では、一定のスキルや実務経験が求められるケースがほとんどだ。これらの職種では、「未経験歓迎」と書かれていても、ポートフォリオや基礎的な技術力が前提になっていることも珍しくない。
一方で、企画、営業、マーケティング、進行管理といったビジネス系の職種においては、必ずしも業界経験そのものが必須ではない場合もある。ここでは「業界未経験」であっても、他業種での経験を活かせる余地が大きい。
これを踏まえたうえで、次に気になるのは「未経験歓迎」の求人に応募する際、何が重視されるのかという点だ。
人事担当スタッフは、「重要なのは、現職で培った経験やスキルが応募ポジションの業務にどの程度転用できるかです」と話す。
たとえば営業経験であれば顧客折衝力や課題解決力、企画職であれば情報整理力や発想力など、業界が変わっても活かせるスキルは多い。こうした“汎用的な能力”をどのように言語化できるかがポイントになる。
業界知識や専門知識については、入社後にキャッチアップしていく前提で採用されるケースも少なくない。だからこそ、「未経験だから無理」と判断するのではなく、自分の経験がどのように活かせるかという視点で見ていくことが重要になる。
経験者と未経験者が同じ土俵に立つ転職市場…勝算はあるのか
もうひとつ気になるのが、「経験者と未経験者が同時に応募してきた場合、どちらが有利になるのか」という点だ。この問いに対しては、人事担当スタッフも「一般論としては、経験者のほうが有利になるケースが多いと考えられます」と率直に話す。
理由として挙げられるのが、エンタメ業界経験者の希少性だ。そもそも市場に多くないため、企業側からすると価値が高く、業界特有の慣習や業務理解がある分、即戦力として期待しやすい。未経験者の場合、業務に活かせるスキルを持っていたとしても、業界特有の知識や商習慣については入社後にキャッチアップする必要がある。
では、未経験者に勝算はないのかといえば、決してそうではない。
人事担当スタッフによると、「未経験者の場合、ポテンシャル・人柄・学習意欲は非常に重要な評価ポイントになります」という。また、「他業界で培った専門性がエンタメ企業側のニーズと合致する場合は、大きな強みになります」とも話す。
実際、異業界での経験がそのまま差別化要素になるケースは少なくない。
例えば、
・アパレル業界経験者が、MD・マーチャンダイジング領域で商品企画に知見を活かす
・メーカー出身者が、グッズ制作や品質管理領域で専門性を発揮する
・デジタルマーケティング経験者が、ファンマーケティングや広告運用で即戦力になる
といった具合に、「業界は未経験でも、仕事は未経験ではない」という状態を作れるかがポイントになる。
未経験者にとって重要なのは、「何ができないか」ではなく「何ができるか」を軸に考えることだ。自分の経験がどのように転用できるのかを具体的に示せれば、経験者と並んで評価される可能性は十分にある。
未経験転職で最も重要なのは「企業研究」
より実践的なポイントとして、未経験であっても事前に理解しておくべき知識や準備について質問したところ、人事担当スタッフから返ってきた答えはシンプルで、「最も重要なのは企業研究です」というものだった。
未経験転職の場合、「業界理解を深めよう」とするあまり、「エンタメ業界に入りたい」という志望動機で止まってしまい、結果として企業研究が浅くなるケースが少なくないという。
・企業のIP・作品・事業内容
・競合との差別化ポイント
・企業の今後の戦略や注力領域
・自分の経験がどのように活かせるか
これらを踏まえたうえで、“その企業でなければならない理由”を言語化できるかどうかが、評価を大きく左右するポイントとなる。
また、未経験の人が入社した際につまづく箇所として、
・業界特有の商習慣・用語・進行フローの理解
・これまで使ったことのない業務ツールへの適応
・スピード感や意思決定の進め方への順応
などがあると教えてくれた。
特に職種によっては、Adobe系ツールなどに触れる機会が増えるケースもあり、最初は戸惑う場面も多いという。
一方で、スムーズに活躍している人には共通点もある。それは、業務習得のスピードそのものよりも、チームに早く馴染み、周囲から支援を得ながら成長できるタイプであることだ。結果として、こうした人材のほうが立ち上がりも早い傾向にあるという。
未経験者の選考で見られているポイント
最後に、人事目線で未経験者の書類選考・面接ではどのような点が見られているのかについても聞いた。
人事担当スタッフによると、「主に以下のような観点を総合的に見ている企業が多いです」とのことだ。
・業務に転用できる実務経験・スキルがあるか
・業界・職種への適性があるか
・組織やチームとのカルチャーマッチがあるか
中でも重視されるのが、人柄やチームとの相性だという。エンタメ業界はチームでの協働が多く、関係者との連携やコミュニケーションが成果に直結する場面も多い。そのため、「一緒に働きたいと思えるかどうか」は、採用において非常に重要な判断材料になる。
では、未経験者に求められる素養とは何か。
人事担当スタッフは、「未経験者に限らずですが、エンタメに対する知識・関心の広さは大きな強みになると感じます」と話す。
特定ジャンルに対する深い知見はもちろん評価されるが、それに加えて、ジャンルを横断してトレンドを把握していること、幅広い作品やコンテンツに触れていること、さらにはヒットの理由を自分なりに分析できることなど、“情報感度”や“解像度の高さ”も重要な素養とされる。
日頃からアンテナを張り、「なぜこれが流行っているのか」「次に何が来そうか」を考える習慣がある人は、未経験であっても高く評価されやすい傾向にある。