ゲームの「聖地巡礼」がもたらす経済効果とは?地域活性化を仕掛けるIPライセンスとイベントの仕組み【推し活から学ぶ経済学】

稲葉智秋 gamebiz編集者
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画面の中で駆け回ったあの街、あの美しい景色に、自分の足で立ってみたい――

ゲームの世界に登場する実在の場所やモデル地を訪れる「聖地巡礼(ゲーム編)」。いまや多くの自治体や企業が、ゲームIP(知的財産)とコラボしてファンを呼び込もうと凌ぎを削っている。

しかし、なぜ数ある観光施策の中で「ゲームの聖地巡礼」が注目され、時に数億〜数十億円規模の地域経済効果をもたらすのか?

今回は「推し活から学ぶ経済学」の視点から、ゲームの聖地巡礼がもたらすリアルな経済活性化の仕組み(ロジック)を考えてみた。

■「推しがいた場所」へ自ら足を運ぶ:ゲーム聖地巡礼の経済ロジック

ゲームだからこそ発生する、独自の消費行動と経済の動きを3つのポイントから解説する。

ロジック1:プレイヤーとしての「体験(感情報酬)」をリアルで補完する

映画やアニメを「見る」のと違い、ゲームはプレイヤー自身が主人公となって「探索した、戦った、暮らした」という能動的な体験がベースにある。

そのため、現地を訪れたファンが受け取る「画面の向こう側の景色に、自分が実在している」という『感情報酬』は極めて高い。

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「推しと同じ景色を見たい」「作中のキャラクターが食べたものを自分も食べたい」という強い感情的欲求は、旅行代金や現地での飲食代に対するハードルを著しく下げる。ファンの間では、聖地でキャラクターのアクリルスタンドやぬいぐるみを並べて写真を撮る「ぬい撮り」や、作中カットと現実の風景を重ねるSNS発信そのものが定番の推し行動(自己表現)になっている。

ロジック2:限定コラボがもたらす、移動と消費の「サンクコスト化」

聖地巡礼をさらに加速させるのが、現地でのみ受け取れる「ノベルティ」や「スタンプラリー」「限定グッズの販売」といったIPライセンスを活用したリアルイベントである。

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遠くの地方都市であっても、「わざわざ時間と何万円もの交通費をかけてここまで来たのだから、限定コラボグッズは全部買おう」「現地でしか食べられないコラボメニューを全種類制覇しよう」というサンクコスト効果が働き、客単価が通常観光客の数倍に跳ね上がる。

ロジック3:一過性で終わらない「長期的な経済効果」と関係人口の創出

ゲームIPとの提携により、それまで観光地としてスポットが当たっていなかったエリアに突然若年層のファンが押し寄せる。

さらに、ゲーム内でのイベント復刻やコラボ第2弾、シリーズの続編リリースなどにより、ファンが何度も現地を訪れる「リピーター(=関係人口)」になりやすいのも大きな強み。

■ゲームと地方を繋ぐ、代表的な聖地巡礼の成功例

ここでは、筆者の独断と偏見で、ゲームと地方を繋いだ聖地巡礼の成功例を紹介する。

【『信長の野望』や『戦国無双』× 各地の城・城下町】

歴史ゲームの金字塔。各地の自治体や観光協会が武将のIPライセンスを借り受け、ARを活用した観光アプリやスタンプラリーを展開。歴史ファン・ゲームファンを現地へ誘う定番のスキーム。

【『桃太郎電鉄』× 地方鉄道・物産】

日本全国の特産品や名所が登場する『桃鉄』。鉄道会社や自治体がコラボし、作中に登場する路線を実際に再現したスタンプラリーや、名産品を実際に「リアル桃鉄物件」としてコラボ販売。ゲーム内の疑似体験をそのままリアルな旅行消費に直結させた好例。

ゲームのシステムそのものが“聖地を創り出す”仕組み

『ポケモンGO』や『ドラゴンクエストウォーク(DQウォーク)』といったいわゆる“位置ゲー”も、これまでの「ファンが能動的に現地を調べる聖地巡礼」から一歩進み、「ゲームのシステムそのものが、人を地方へ送り出す(聖地を創り出す)仕組み」を確立した、ゲーム経済学におけるイノベーション事例とも言えるだろう。

『ポケモンGO』や『DQウォーク』が聖地巡礼の成功例である理由は以下のように考えられる。

① ゲーム側が「その土地を聖地(目的地)に指定する」という逆転の発想
従来の聖地巡礼は、プレイヤーが「作中に出てきた場所」を自主的に探して行くものだった。しかし、これらのタイトルは「ゲーム側が特定の地域(自治体など)を目的地に指定し、付加価値を与える」ことで、あらゆる場所を瞬時に聖地に変える力を持っている。

『ポケモンGO』の事例: 特定の自治体と公式にコラボし、レアなポケモンが出現するリアルイベント(「Pokémon GO Safari Zone」など)を地方で開催。イベント期間中、世界中から何万人、何十万人ものトレーナーが一つの都市に集結し、数日で数十億円規模の観光・消費の経済効果をもたらす怪物級の事例を連発している。

『ドラゴンクエストウォーク』の事例: 日本全国の観光名所に「おみやげ」と呼ばれるゲーム内限定アイテムを配置。ユーザーは「実際にその観光地に行って、ゲーム内でクエストをクリアする」ことでしかおみやげを手に入れられない。「推しコンテンツの図鑑を埋めたい」というコレクション欲(推し活心理)を刺激し、ファンを日本全国の観光地(おみやげスポット)へ旅立たせる強力な動機(インセンティブ)を作っている。

② 「ついで消費(波及効果)」が極めて発生しやすい
これらのゲームは、スマートフォンを持って「実際に歩き回る」ことが大前提。 画面の中だけで完結せず、プレイヤーは現地で必ずお腹が空き、喉が渇き、お土産を買い、場合によっては宿泊することで、観光地に対して波及効果をもたらす。

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「ゲームのためにせっかくここまで来たのだから(サンクコスト)、地元の美味しい海鮮を食べていこう」「ドラクエの限定おみやげを解放した記念に、リアルの名産品も買って帰ろう」という、リアル消費への心理的ハードルが劇的に下がる仕組みが美しくデザインされている。

✍筆者のひとりごと(余談)
趣味&仕事でプレイしている『サカつく2026』。筆者は故郷・秦野市にオリジナルクラブ「秦野F・ナッツ」をつくり、プレイ日記では地元ネタを入れている。そんな経緯もあって最近は週末地元に帰省する機会が増えた(地元ネタ探し&両親の顔を見るため)。自分で作った架空クラブだが地元に帰るたび「あー、この町で秦野F・ナッツはサッカーを頑張っているのか」と思ったりして。ちょっぴりマッチポンプ気味だけど、秦野市は筆者にとって『サカつく2026』の聖地となっているのだ。先日もMEGAドンキ秦野店にしか売っていない“秦野最強Tシャツ”を購入して1299円[税抜]分の経済を回したよ。

聖地巡礼ビジネスに関わる企業・職種

「ゲームの力で地域を活性化させ、ファンとリアルの街に熱狂を生み出す」——このゲーム×地方創生の仕組みを裏側で仕掛けるには、どのような仕事があるのだろうか。

エンタメ業界やアミューズメント・IT業界でいま注目されている3つの職種を紹介する。

① 地域連携・地方創生プロデューサー
自治体、観光協会、交通機関などとタッグを組み、「ゲームの世界観をどうやってリアルの街に落とし込むか」をゼロから交渉・コーディネートするポジション。

② イベントプランナー・制作ディレクター
現地で開催されるスタンプラリーの導線設計、展示イベントの企画、AR/VRなどを活用した周遊企画の実務を組み立てる仕掛け人。

③ IPライセンスプランナー(版権ビジネス)
ゲームメーカー(版権元)と地方自治体・現地企業の「架け橋」となる職種。大切な自社キャラクターを安売りせず、かつ現地の魅力を引き出せるようなプロモーション・監修業務やライセンス契約を締結する仕事。

ゲームをただ「プレイして楽しむ」側から、その世界観を現実の社会に拡張して「経済を大きく動かす」仕事にワクワクする人は、間違いなくこれらの領域に向いている。

まとめ

ゲームの聖地巡礼の本質は、デジタルな体験をリアルな感動へとコンバートする、「地域を巻き込んだ体験型エンターテインメント」である。

ゲームIPの持つ強力な引力と、ファンの「推しを五感で感じたい」という熱量が噛み合った瞬間、地域経済を潤す大きなロジックが動き出す。

「大好きなゲームの世界観を使って、リアルな地域活性化を仕掛けたい」
「IPライセンスや地域連携のスキルを活かして、新しいエンタメビジネスに挑戦したい」

そんな思いが湧いたなら、エンタメ業界への転職という選択肢を視野に入れてみるのも面白いかもしれない。

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