
毎年秋に開催される東京ゲームショウ(TGS)。ここ数年、取材などで幕張を訪れていると、少し気になる変化を感じるようになった。TGSの開催期間中、幕張メッセの周辺にあるホテルなどで、ゲーム関連のイベントが以前より活発に行われているように見えるのだ。いわゆるサイドイベントと呼ばれるものである。
新作の発表や試遊、メディア向け説明会、業界関係者を集めた交流イベントなど、その内容はさまざまだ。もちろん以前からこうしたイベントは存在していたが、近年は「TGSに出展する」のとは別に、「TGSの期間に幕張でイベントを開催する」という選択肢が企業にとって現実的なものになっているように感じる。
なぜ、わざわざTGSの会場の外でイベントを開催するのだろうか。
■「TGSに来る人」に会いたい。でも、会場である必要はない
企業が会場外でイベントを開催する理由はいくつか考えられる。まず大きいのはコストだ。TGSへの出展には出展料だけでなく、ブースの施工、映像・音響設備、試遊機材、スタッフの人件費、販促物など、さまざまな費用が発生する。
大きなブースを構えれば、それだけ多くの来場者に自社タイトルを見てもらえる。一方で、すべての企業が「できるだけ多くの人に見てもらう」ことを目的としているわけではない。例えば、新作ゲームについてメディアに詳しく説明したい、海外パブリッシャーと商談したい、開発者同士で交流したい、といった目的なら、必ずしも大規模な展示ブースは必要ない。
TGS期間中に幕張を訪れる人が一定数いるのであれば、その人たちをホテルなどの別会場に招けばいい。しかも、こちらなら自分たちで使えるスペースだ。会場のレイアウトも、イベントの進行も、音量も、照明も、自分たちでコントロールできる。メディアに30分、1時間と時間を取って説明することもできるし、試遊と説明、商談、交流会を一つの場所で組み合わせることもできる。
「TGSに来る人に会いたい」という目的だけなら、必ずしも幕張メッセの中にブースを構える必要はないのである。
■ビジネスデイでも「音が大きすぎる」という問題
もちろん、これは単純なコストの問題だけではない。TGSの会場を歩いていると、ゲームイベントらしい大音量の音楽や映像、ステージイベントなどがあちこちから聞こえてくる。一般来場者にとっては、それも含めてTGSの楽しさだろう。
しかし、ビジネスデイとなると事情が変わる。実際、業界関係者からは「隣のブースの音が大きく、商談を落ち着いて行えなかった」「取材対応をするのが難しかった」といった話を聞くことがある。
考えてみれば当然で、展示会として「目立つ」ことと、商談やインタビューで「落ち着いて話す」ことは、必ずしも相性が良いわけではない。
隣のブースが大規模なステージを始めれば、こちらの会話は聞き取りにくくなる。こちらも声を張らなければならない。取材の場合は録音にも影響する。TGSが大きくなり、各社がより派手な展示を行うようになるほど、こうした問題は避けにくくなる。
TGSが展示会として盛り上がれば盛り上がるほど、そこで「静かに話す」ことが難しくなるという、少し皮肉な状況も生まれている。
■「出展しないTGS参加」という選択肢
そう考えると、近隣ホテルなどで行われるイベントには合理性がある。例えば、幕張メッセでは展示・試遊・ステージ、周辺会場では商談・取材・発表・交流というように、目的によって場所を使い分けることができる。TGSに出展する場合、企業は「TGSに来た多数の人に見てもらう」という価値を買っている。
一方、会場外イベントなら、「TGS期間中に幕張へ集まっている、特定の人たちとじっくり話す」という価値にお金を使える。特に海外企業やインディーゲーム、ゲーム開発向けのサービスなど、一般来場者への大量露出よりも、業界関係者との接点を重視する企業にとっては、こちらのほうが目的に合うケースもあるだろう。
こうなると、「TGSに出展する」と「TGSに参加する」は、少し違う意味を持ち始める。TGSのチケットを買って幕張メッセに入ることだけが「TGSへの参加」ではない。TGSが開催される時期に幕張へ行き、そこでゲーム業界の人たちと会うこと自体が、一つの大きな価値になっているからだ。
■「TGSへのただ乗り」という見方もできる
一方で、会場外イベントの増加を手放しで歓迎できるかというと、そうとも言い切れない。そもそも、TGS期間中に幕張へゲーム業界関係者やゲームファンが集まるのは、TGSという大きなイベントがあるからだ。
TGSを開催するためには、主催者側も会場の確保や運営、宣伝などに多くのコストをかけている。その結果として生まれた「人が集まる期間」を利用して、近隣で独自イベントを開催する。
見方によっては、「TGSが作った集客力にただ乗りしている」と批判されても仕方のない部分はある。特にTGSへの出展費用を負担している企業からすれば、「自分たちは大きな費用を払って会場に出展しているのに、会場外なら比較的低いコストで同じ時期の人を集められる」という状況をどう考えるのか、という問題もある。
■TGSを中心とした「街のイベント」と考えれば
逆の見方もできる。会場外イベントが増えれば、幕張周辺のホテルや飲食店などにも人が流れる。海外企業や業界関係者がTGS期間中に幕張へ滞在する理由も増える。そして、企業が独自イベントを開催することで、TGSそのものにはない交流や情報発信の場が生まれる。
そう考えると、会場外イベントはTGSの「競合」というより、TGSを中心として周辺に形成される一種のエコシステムとも捉えられる。むしろ、TGSが巨大な展示会へと成長したからこそ、その周辺に別の需要が生まれたとも言える。
これは、TGSが「幕張メッセで開催される展示会」から、「TGSの期間になるとゲーム業界の人々が幕張に集まる数日間」へと、少しずつ性格を変えていることの表れなのかもしれない。
■「会場の外が盛り上がる」のは、TGSにとって何を意味するのか
展示会にとって、来場者を集めることは最大の価値の一つだ。しかし、そこに人が集まるようになれば、その人たちを対象にした新しいビジネスやイベントが周辺に生まれる。
TGSの場合、それが幕張メッセの外にまで広がり始めている。これは「TGSへのただ乗り」と見ることもできるし、TGSが作り上げた集客力が周辺にまで波及していると見ることもできる。
どちらが正しいという話ではないが、近年のTGSを考えるうえでは、幕張メッセの中だけを見ていては見えないものが増えているのではないだろうか。
TGSの価値は、巨大な展示会場そのものにあるのか。それとも、ゲーム業界の人々が同じ時期、同じ場所に集まることにあるのか。会場の外で増えているイベントは、そんな問いを私たちに投げかけているように思う。
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