ソーシャルゲーム業界では、この半年、転換期ともいえる変化があった。コンプガチャ問題とそこから始まる健全性の問題、成長持続性といったネガティブな問題が発生した一方、日本製ソーシャルゲームの海外市場でのヒットや、ソーシャルゲームプロバイダーの新規上場などポジティブな出来事もあった。また、スマートフォンの普及とコンテンツのリッチ化、ソーシャルゲームプラットフォームのリリース、M&Aによる業界再編、大手ゲームソフトメーカーのソーシャルゲームへの取り組みの強化といった環境の変化もみられた。
今回、リクルートキャリアの山田 大貴氏にソーシャルゲーム業界の求人・求職動向についてインタビューを行った。4月にも山田氏に同様のインタビューを行なったが、採用意欲の旺盛だった転職市場は変わっているのだろうか。また、こうした環境に変化に伴って、企業側の求人ニーズにも変化は出ているのだろうか。
---: 前回の取材をお願いしてから、約半年が経過しましたが、ソーシャルゲーム業界の求人動向、転職動向に大きな変化はあったでしょうか?
全体としては大きくは変わっていません。各社、採用には意欲的です。ただ、以前のように、すべての会社が「とにかく人を採用したい」という状況から少しずつ変わってきています。いわゆる大手を中心にターゲットをピンポイント化する傾向がでてきました。
---: といいますと。
いままではゲームを作っていくメンバーを求める傾向が強くありました。例えば、プログラムが書けるプログラマー、デザインができるデザイナーといった感じで採用していました。最近では、「こういうデザインを作れる人」など、デザイナーとして幅広く見るのではなく、職種ごとに能力や条件などターゲットを絞って採用する会社が出てきました。つまり、ゲームを作る人員は確保されつつあるという印象です。
---: なるほど。例えば、リアルタッチのキャラクターデザインをできる人が欲しいといった感じですか。
そうですね。大手のソーシャルゲーム会社の一部では、「優秀であれば採る」といった考え方から「自社にあった人を採る」という方針に転換しています。ただ、中小に関してはまだ人手不足の状況です。ゲームを作る人員が足りておらず、手を動かすメンバークラスの採用を積極的に行なっている会社が多いです。
---: 大手の対応はいつ頃から変わってきたのですか?
6月、7月から徐々にその動きが出てきました。コンプガチャ騒動が一段落したあたりからですね。ガチャ問題もあるのでしょうが、人員が確保されてきたことも大きいと認識しています。
---: 少し視点を変えて求職者サイドはどうでしょうか?
転職を希望される方の人数自体は大きくは変わっていません。ソーシャルゲーム業界に限ると、うまくいっている企業とそうでない企業の間の格差が広がっており、特に後者で働いている方がステップアップしたい、あるいは環境を変えたい、と考えて転職を希望するケースが増えています。
---: ソーシャルゲーム業界というと、昨今のコンプガチャ騒動もあって、だいぶイメージが悪くなっていますよね。その点はどうでしょうか。引き続き業界内で働きたい人が多いのでしょうか、それとも他業界に行く人が多いのでしょうか?
半々くらいですね。転職先を探す際、ゲーム業界という括りで考える方は、この中でも一番伸びているソーシャルゲームにと考える方が多いです。他方、コンシューマーゲームからソーシャルゲームに入った方の中には、コンシューマーゲームに戻りたいという方もいます。ただ、コンシューマーゲームの業界も企業ごとに業況が違いますので、条件面で折り合わない方もいらっしゃいます。ソーシャルゲームの会社は、待遇のかなり良い会社が多いですので、コンシューマーゲーム業界に戻るとなると年収を引き下げざるを得なくなることが多く、ご本人の中でどう折り合いをつけるのか、でしょう。
2D、3Dデザイナーを求める傾向が強まる
---: 職種別にお話を聞きたいのですが、まずデザイナーはいかがでしょうか。
デザイナーは動きが出ています。以前ですと、フィーチャーフォン向けのFLASHをできる方がほしいという求人や、HTMLやCSSのコーディングのできるWEBデザイナーの求人が多かったのですが、最近ですと、2D・3Dのデザインや、Unityなど3Dのソフトを使ってデザインしている方へのニーズが強いですね。スマートフォンで業績を伸ばしている会社ほどその傾向にあると思います。ですから、2Dや3Dのデザイナーというとコンシューマーゲームの業界にいる方が求められつつありますね。
---: だいぶ変わったんですね。
半年前ですと、WEBデザイナーが欲しいという会社が多かったんです。しかし、コンテンツがリッチ化しているなか、画面遷移や使いやすさだけでは勝負できなくなりつつあり、見せるデザインでいかに勝負するか、という状況になっています。そうなると、コンシューマーゲーム出身の方が強いですよね。
---: 基本的にはコンシューマーゲームでデザイナー経験のある方を求める流れが強くなっていくと。
そうですね。この傾向は強まるとみています。背景を描ける方や、キャラクターデザインのできる方へのニーズも強いです。もちろん、WEBデザイナーやFlashデザイナーへのニーズが減っているわけではないですが、求人の動向が変わってきたという意味です。コンシューマーゲームのデザイナーへのニーズは、4月を1とすると、2まではいっていないですが、増えてきました。スマートフォンの勝負のポイントがクリエイティブに求める会社が増えてきましたね。
---: 前回、イラストレーターですと、カードゲームが強いので、漫画のアシスタントをされていた方が好条件で就職できているというお話がありました。そちらはいかがですか。
その点は大きな変化はないです。ソーシャルゲームですと、カードゲームの次の「定石」がでていませんから。イラストレーターの募集は多いですね。ただ、企業側は、内製化するか、外注にするかの判断で分かれています。
---: どういうことでしょうか?
イラストレーターの方にも得意・不得意があります。男性向けのカードゲームを作りたい場合、男性向けのイラストに強い方を雇えばいいですが、次に女性向けを作る場合、そういう方では対応できないケースが多い。そうなると、会社としては、その都度、開発するゲームの分野のイラストを得意とする方に発注したほうが、多少単価が高くなっても、クオリティが担保できるし、費用対効果がいいと考える会社もあります。他方、社員として抱える場合、社内のイラストレーターに勉強してできるようになってもらうと考える会社もあります。
プログラマーは引き続き採用は活発
---: プログラマーはいかがでしょうか?
引き続き多いですね。市場では人数が少ない職種ですので、喉から手が出るほど、という会社も多いですね。エンジニアの領域はどの職種も求人が活発です。
---: 以前ですと、SIから転職される方も多いとのことでしたが。
その傾向は変わらないです。ただ、会社によっては充足できている会社もでていますので、SIからの採用を縮小し、同業からのみ採用したいという会社も出てきました。他の業界からだと、少しハードルが上がってきたといえます。
---: SIにいた場合、例えば、趣味でアプリを開発している方への評価が高いということでしたが、そのあたりは?
その点は変わらないです。仕事でエンジニアリングをしている方、というよりも、趣味がエンジニアリングであるという方はどこの会社も欲しいとおっしゃいますね。実務経験があって、さらに個人でアプリを開発してApp Storeでリリースした方となるととても評価が高くなる傾向にあります。
---: この傾向はまだ続きそうですか。
続くと思います。クリエイターやプランナーを募集していないという会社はありますが、エンジニアを募集していないという会社はまずないですから。
企画:コンシューマー系の人材にニーズ
---: 企画関係はどうでしょうか
以前ですと、WEB系のディレクター・プロデューサーや、モバイルCPのディレクターなど、ユーザーにいかに長く使ってもらえるか、いかにお金を使ってもらうか、といった点にノウハウを持つ方が求められていました。こうした方へのニーズはまだ強いのですが、コンテンツのスマホ化に対応して、ゲームの世界観を作ったり、ロジックを作ったりすることのできる方を求める傾向もでてきました。コンテンツとしての収益を上げるだけでなく、コンテンツそのもののクオリティを上げるためにどういうゲームにするか、どういうシナリオにするかを考えられる方を求める企業が出てきています。カードゲームもいまや「側」だけ変えて売れるという時代ではありませんので、新しいゲームロジックを考えられる人が求められつつあります。
---: なるほど。
もうひとつ、スマートフォンになって、カードゲームだけでなく、レーシングゲームやシューティングゲーム、3Dアクションゲームなども楽しめるようになっています。カードゲームだけでなく、そういったコンテンツを作りたいと考える会社もでていますが、それはそれでマネタイズが難しく、課題として方向性を模索している会社もあります。
---: 最近、日本のソーシャルゲームが海外でヒットするなど、いくつか目覚しい事例があります。求職動向には影響はあるんでしょうか。
海外展開を積極的に考える会社は増えてきましたが、日本で開発している会社については、求人動向を大きく変えたということはないです。ただ、海外に現地法人を開設する場合、現地のスタッフを採用するわけですから、そういうマネジメントができる方が求められています。そういう方は、市場にはなかなかいませんので、すぐに採用されるでしょうね。日本でヒットしたものをまるまる移植するとうまくいきませんので、海外の文化や、ユーザーの嗜好に合わせたローカライズを行う必要がありますが、そういう感覚を持ち合わせた方はやはりコンシューマゲーム業界に多いのです。カルチャライズやローカライズは重要ですから、そうした方は争奪戦になるのではないでしょうか。
プラットフォームの増加の影響
---: 他に何か変化はありますか?
新しいプラットフォームが出てきたことでしょうか。以前ですと、プラットフォームといいますと、MobageやGREEでしたが、最近では、LINEをはじめ、スポーツゲームに特化したプラットフォーム、位置ゲーに特化したプラットフォーム、乙女ゲームに特化したプラットフォームなど、特色のあるプラットフォームを出したいと考える会社が増えてきました。スマートフォンの利用拡大により、大手ソーシャルゲームプラットフォームに載せなくても、App Store/GoglePlayのランキング上位に入れば、収益を出せますので、自社でプラットフォームを開発したいという会社が増えていますね。
---: なるほど。
プラットフォームを作ると、自社でゲームを提供するだけでなく、プラットフォームを他社に開放することになります。そのため各社から、アライアンスができる人や、ブログなどゲーム以外のユーザーが楽しめるコンテンツを作れる人、サービス全体を作っていく職種などが出てきています。今後、こういった職種へのニーズが増えてくるでしょう。
売れるIPを見極められる人へのニーズ強い
---: 以前ですと、IP獲得競争などといわれる状況で、IPの交渉ができる人を求めていた会社も多かったかと思いますが、何か変化はあったでしょうか。
最近では売れるIPとそうでないIPにはっきりと分かれてきましたね。みんなが知っているIPだから売れるという認識から、どのIPが売れるのか精査する傾向が出てきました。IPものに対する会社側の姿勢も変わってきました。
---: となると、売れるIPと売れないIPの判断のできる方ですか。
そうです。権利元と交渉して、IPがとれることはもちろんですが、そのIPをソーシャルゲームにしたとき、ヒットするかどうかを見極められるような人が欲しいというニーズも出てきました。競合との差別化を図って、どうやってソーシャルゲーム化するのか、プロモーションをどうするのか、といった点まで考えられる人が求められています。超有名IPを使っても、大コケした事例もでていますから。
---: なるほど。コンテンツやプロモーション部分まで考えられる人ですか。
版権を持っている側としては、色々と口出ししてしまいがちです。そうなるとゲームとして面白くなくなってしまうこともあり、会社側としては、権利元の要望と、ゲームとしての面白さの折り合いをつけられる方を求めています。IPをとってきて終わりではなく、ほんとうに重要なのはその後だということに気づく会社が増えてきました。
その他の職種
---: プロモーションはどうでしょうか
プロモーション系の人材ニーズも変わってきました。ソーシャルゲームの集客手法も、クロスプロモーションやプラットフォーム内の広告だけでなく、ユーザーを増やすための手段として、最近では、テレビCMを出す会社も出てきました。他のメディア・コンテンツとのタイアップ、テレビCMへの出稿、ゲームショウへの出展などを考えられる人ですね。
---: 以前は、ネット広告などでリスティング広告のできる方が求められたとのことでしたが…。
そういった方へのニーズは依然として強いですが、それ以外のプロモーション手法を考えられる方ですね。ただし、問題はそれはどういう人なのか、ということです。人物像の見極めに関しては、各社、模索しているのが実情かと思います。
---: このほかに何かありますか?
あとは、大きくなってきた会社ですと、それほど多くはないですが、事業部長クラスの人材を求める会社が出てきていますね。一方、事業の立ちゆかない会社から転職を希望される方が出ています。そのため、驚くほど早く決まることがあります。需給バランスで考えると、ハイキャリアのポジションは非常に少ないのに対し、事業部長クラスの方は転職市場にはいらっしゃることが背景にあります。事業部長クラスの方は早めに動くといいのではないでしょうか。
今後の見通し
---: 今後の見通しを教えて下さい。
業界全体としてはスマートフォンへの対応を進めていますが、思うように進んでいない会社も少なくないです。スマートフォン向けを強化しなくてはならない、ということは頭ではわかっているものの、現段階でフィーチャーフォン向けのソーシャルゲームの収益が大きい会社です。どうしても収益の出るフィーチャーフォンに人員を割くことになるため、スマートフォンに転換しようにもできない、というジレンマに直面しています。逆にフィーチャーフォン向けでうまくいかない会社は、そこを捨ててしまい、スマートフォンに人員を全て投入していて、うまくいっている会社が出てきてますね。このあたりが各社の戦略の中でどう見切りをつけるかで売上も大きく変わってくるのではないでしょうか?
---: なるほど。求人動向も大きく変わりそうですね。
そうですね。いまうまくいっている会社の多くは、フィーチャーフォンでうまくいっている会社ですから、人員をどう差配していくかが鍵になるでしょう。ただ、いまからスマートフォン向けのスタッフを採用しようとしても市場にはそれほどいません。ではいまフィーチャーフォンに対応している方をスマートフォンに移そうとすると、フィーチャーフォンの売上が落ちてしまう。ではフィーチャーフォンの人材をとなると、いまさらフィーチャーフォンのプロジェクトをやりたい方はそれ以上に少ないです。このジレンマに直面している会社が一部ありますね。
---: 思い切ってやれればいいんでしょうが、収益の上がっているビジネスを縮小するのは難しいですよね。
既存の売上が減ってしまうと、会社も立ち行かなくなる恐れもありますからね。難しい経営判断になると思います。その意味で、これからの狙い目は、スマートフォンでうまくいっている会社といえるのではないでしょうか。そういう会社は、スマートフォンのポジションしかありませんので、その点を非常に魅力に感じる方も増えています。
---: 転職を考える方にアドバイスはありますか?
職種によってまちまちですが、コンテンツを作る方ですと、仕事を趣味にできるような方が求められる傾向にありますので、そういう方の市場価値はこれから上がってくると思います。技術もオープンソースになってクラウドとなりますので、自分でサーバーを立てる必要がありません。アプリのサービスは、やろうと思えばいつでもできる環境にあります。そのため、「勉強をしています」だけでは、あまりアピール材料にはならなくなりつつあります。
---: 転職を準備する場合、どういう点に気をつければいいでしょうか。
タイミングで行くと、1月、4月は期が変わるタイミングですので、それに合わせて採用したいという会社が増えますので、そこが直近の山場になります。先ほどお話しましたが、今年の夏ぐらいに大手を中心に採用がかなり充足できるようになってきたというお話をしましたが、今後、こういった動きは中小にも波及してくると考えられます。いま採用したいという会社でも採用を抑える可能性は十二分にあります。タイミングを逃してしまうともったいないです。リクルートキャリアでも求人数を見ていくと、景気動向に左右されます。上がり続けることはありません。リーマン・ショックの時のように一気に減ったり、退職者が大量に出たりすることもあります。このため、キャリアアップをお考えであれば、一度、このタイミングで考えてみるのも手かもしれません。
転職支援からキャリアップ全般の支援へ
---: 少し話が変わりますが、御社はセミナー「WebCATStudio」にも力を入れておられますね。
リクルートキャリアでは、転職を考える方に転職支援サービスを提供してきましたが、転職する機会は、人生でそれほど多くはありません。当社がアプローチできるお客様との接点は限られています。ただ、あらためて転職する理由を考えた時、この会社が嫌だ、仕事が嫌だといった理由もありますが、キャリアアップや自分を成長させたいという理由を掲げる方も多いです。当社として、後者の方を応援したいという思いがあり、「WebCATStudio」を始めました。キャリアアップは、転職だけではありませんし、自分で仕事に関する勉強をしたり、あるいは勉強会や講演会に出かけたりといったことがあります。ビジネスパーソンのそうした動きは、大切ですし応援したいです。
---: なるほど。このセミナーはいつ頃から開始されましたか?
「WebCATStudio」としては昨年末からになり、前身の勉強会は昨年春ごろからはじめています。これまで延べ30回以上開催しています。
---: セミナーのテーマも多岐にわたっていると思ったのですが…。
インターネット業界に携わる方々に色々なテーマの勉強会を開催しています。プログラミングやマーケティングといった人気のあるテーマだけでなく、経営者の方に講演をお願いしたこともあります。いままで開催したテーマの一部をあげておきますと、HTML5やHadoop、スタートアップのベンチャーの社長さまの講演会などです。あとは、キャリアアップだけでなく、会社の方に来ていただいて、自社の紹介をしてもらう、といったこともあります。ネットワーキングプラットフォーム「Biz-IQ」と連動した企画もあります。あとは、pixivさんとの共催で行なっている、イラストコンテンストなどもありますね。
---: Voyage Groupの宇佐美社長など、著名な方も講演されてますよね。
こういう方に会いたい、講演が聞きたいといったリクエストをいただけたら、できる限り対応していきたいと考えています。どんどんリクエストしてください!
なお、リクルートキャリアの山田氏に転職相談をしたい方は、下記サイトから申し込むことができる。「WebCATStudio」の日程も下記サイトを参照してほしい。
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