グラニは、gloopsで『大連携!!オーディンバトル』や『大戦乱!!三国志バトル』のプロジェクトマネージャーであった谷 直史氏が昨年9月に設立した会社である。設立から間もないが、プラットフォーマーであるグリーと戦略的提携を行い、事前登録制度の利用やテレビCMの出稿を行うなど異例づくしの施策を打ち出し、いまや「奇跡のSAP」とも呼ばれている。
今回、代表取締役社長でエグゼクティブプロデューサーの谷氏(写真左)と、取締役コーポレート本部長兼経営戦略担当の相川雄太氏(写真右)にインタビューを行った。まだグラニについてご存じでない方も多いかと思うので、創業の経緯から『神獄のヴァルハラゲート』の現状、今後の成長戦略について聞いた(収録:5月1日)。
グラニ設立の経緯
———: まず、2012年9月に会社を設立されましたが、独立しようと思った理由を教えていただけますか?谷 氏: グラニ設立の理由は、簡単に言うと、自分の理想とするゲーム運営を追求しようと考えた時、独立するしかなかったからです。ソーシャルゲームの会社の多くは、新しいコンテンツを次々と作ってリリースしています。こういうビジネス展開のやり方もいいとは思いますが、私としてはある程度、ファンがいるゲームを作れたら、サービスや機能をどんどん追加して、さらに深く楽しめるゲームにして、さらに深くファンになってもらえる、というゲームを運営したいと考えていました。
———: 「GREE」で提供することにしたのはなぜなのでしょうか。
谷 氏: まず、大前提として私は以前、自社でモバイルコンテンツを提供している会社にいたことがあったのですが、その時、自前で集客することの難しさ、プラットフォームの重要性を強く認識していました。そのため、プラットフォームで提供することは必須だと考えていました。グリーさんとお話をした際、先方は尖ったSAPを求めていて、当社としてもそうありたいと考えており、お互いの考えが一致したのです。実際に提供するまでのサポートやアドバイスなども非常に現実的で、より深いパートナーシップが組めると思いました。これが後に提携につながります。もちろん、勝手のわかる「Mobage」での提供も視野に入れていましたが、心情的には、かつて一緒に苦楽をともにした仲間や自分の作ったタイトルと直接、競合することは避けたいという思いがありました。
———: しかし、設立したばかりで、いきなり事前登録制度が適用されたことには驚きました。
相川氏: そうですね。本当にありがたいことです。ただ、「GREE」の事前登録ページは見つけづらいんです。グリーさんには正直にそういった点も改善の要望を出しています。また、グリーさんもそういった要望を求めてくれている。遠慮いらずで協業できているのは非常に良い形かと思ってます。実は、どのプラットフォームで出すかと検討している最中、社内のメンバーには、プラットフォーマーさんとの打ち合わせの内容を常に情報共有していましたが、グリーさんの思いや姿勢を聞いて、ぜひ「GREE」でリリースしたいという意見が多かったですね。
———: ゲームの企画はいつ頃から始めたのですか?
谷 氏: ほぼ会社設立したのと同時です。昨年9月からですね。gloops退職後は、研究も兼ねて、『ドラゴンクエストX』でずっと遊んでいました(笑)。
———: 『神獄のヴァルハラゲート』は、谷さんがこれまで手がけていたバトルゲームとはどう違うのでしょうか?
谷 氏: これまでのタイトルに比べて、リソース不足やスケジュールの問題で妥協せざるを得ない部分を減らしました。いままで問題だと思っていたこと、こうすればもっと良くなるという課題に取り組んだタイトルです。具体的には、バトル以外にも遊べる要素を増やしたり、プレイヤーの成長システムを自由度の高いものにしました。そして、まだまだ発展途上で十分とはいえませんが、登場するナビゲーターたちや世界観についてもより魅力的に見せるようにしました。コンテンツ自体をブランディングする、といったことをやりたいと考えていました。
———: コンテンツ自体をブランディング?
谷氏: そうです。例えば、「ガチャ」で出てくるナビゲーターキャラを全面に出したり、マイページにちょっとした驚きを入れたりして、遊んでいるユーザー様の印象に残るようにしています。ゲームシステムだけでなく、見せ方にも力を入れています。どんな面白いシステムのゲームでも、まず見た目が印象に残って、ゲームの面白さをすぐに理解していただけるものでないと、なかなか遊んでもらえません。今後も引き続き重点的に取り組む課題ですね。このため、以前に手がけてきたタイトルに比べて、ライトな遊び方のユーザー様にも遊んでいただけているのではないかと思います。
相川氏: 私たちは「ファンの獲得」を第一の目標にしています。アプリや会社のファンを増やすことが一番重要で、どのくらいゲームで遊んでくれたか、どのくらい好意的に見てくれているか、ということです。ゲームの売上はその次です。あくまで売上は結果としてついてくるものと考えています。コンテンツ戦略というよりも、事業戦略として掲げていることです。
開発からリリースまで
———: 開発されている時に苦労した点はどういったことでしょうか。相川氏: 開発は、相当苦労しました。gloopsの時は、パワフルな開発基盤やインフラ、それらを支えるエキスパートがいて、新規タイトルの開発ではかなり助けられましたから。その仕組みを一から作らなくてはならなかったですし、とはいえ、そこにあまり時間をかけられないという事情がありました。開発陣は、本当に動くのだろうかと不安を抱えながら開発していたと思います。インフラも、素人のようなメンバーでやっていましたので、動くのかどうか、動いてもトラフィックをさばけるのか不安でした。試行錯誤しながら開発を進めていました。
———: 事実上、一から作られたわけですからね。
谷 氏: 企画についても、前職の資料を持ち出せるはずがないので、当たり前ですが、企画や仕様書も白紙の状態から作りました。ゲームシステムでは、ギルドバトルシステムにいかにレイドシステムを組み込むか、そして、成長要素については独自性の高い仕組みを導入しました。これ以外にも、一見すると、既存のギルドバトルゲームに遊び方やUIは似ている部分もあると思われるかもしれませんが、最前線で働いているディレクターや、プレイしてくれているユーザー様でないと気づかないような、細かい独自要素や新しいパラメーター群が導入されています。
———: 開発期間はどのくらいかけたのでしょうか?
谷 氏: 昨年9月から開発を開始し、12月には動く状態になっていました。約5カ月ですね。開発人員は当初は10名もいなかったのですが、リリース時には約15名まで増えていました。
———: リリース後、会員数はかなり勢い良く増えた印象がありますが、そのあたりはどうだったのでしょうか。すでにゲームを配信していれば、そこからユーザーを呼び込むこともできたわけですが、新規参入タイトルで一気に伸びたから驚きました。
谷 氏: そうですね、前職の時も、新作で会員数がかなり勢い良く伸びた経験がありましたので、私にとってはそれほど驚きがあったわけではないですが、信じていたものが正しかったんだと感じました。業界関係者に「GREE」で出すと話すと、「GREE」で新規参入して成功するのは無理だと何度となくいわれました。また「GREE」は、女性ユーザーが多いからバトルゲームは流行らないとも言われました。ただ、私の手がけるゲームはバトルを前面に推していますが、本質はチームバトルを通して「コミュニケーションを楽しむ」という普遍的な部分ですので、プラットフォームを問わず受け入れられると考えていました。
———: 女性ユーザーは実際に多いのですか?
相川氏: 数字は申し上げられないですが、思った以上に女性のユーザー様に遊んでいただいています。はじめは「イケメンのカードが手に入った」というところから始める方でも、ゲームを進めるにつれて、だんだんコミュニケーションが発生し、レイドバトルやギルドバトルなどで楽しむ方が増えていますね。「聖戦」が不具合などで遊べなかった時も、お叱りをいただきますが、遊びたかったというニュアンスも含まれるものが多く、毎日遊んでいただいているのだと感じています。
2月の決済額は1億コインを突破
———: 最近の「GREE」の新規タイトルの中ではかなり勢い良く増えていますよね。谷 氏: そうかもしれませんね。会員数は50万人を超えそうです(注:すでに突破している)。グリーさんと共同で、5月からKinKi Kidsを起用した大型プロモーションを行いますが、これをしっかり結果に結びつけ第2弾、第3弾と続けばいいなと思いますね。あくまで希望ですが。
相川氏: 売上もかなり良いですね。1月25日にリリースして、2月には1億コインを突破しました。この数字は既にグリーの田中社長に公開されてしまいまして(笑)。もちろん大変光栄ですが。グリーさんとしても新規SAPでも勝負できるプラットフォームですとアピールに使ってもらっています。その後の数字はご想像にお任せします。
———: 翌月にはそんなに伸びたのですか。ゲームの内容と運営次第では、新規参入であってもまだまだ勝負できるということを示した、という意味では、御社の登場は「GREE」だけでなく、業界全体にとっても、すごく意義深いことではないかと思います。リリースからのアップデートはどういった分野を重点的にやったのでしょうか?
谷 氏: 現在は主に初心者のユーザー様にいかにギルドバトルである「聖戦」までたどり着いていただくか、ゲームの楽しさを知っていただくか、ということがメインですね。またストレスなく楽しめるようにサーバーの強化に関しても最重要課題としています。これまでは主にゲームの基本機能を強化しており、このあたりは今後も継続して行っていきます。
———: 大型プロモーションに備えた対応だったわけですね。5月以降の予定はいかがでしょうか?
谷 氏: 大型プロモーションに対応したキャンペーンやイベントを行います。幸い、エンジニアの採用がうまくいっていることもあり、追加コンテンツとして大型の新機能の導入なども行なっていきます。チームバトル規模で大型モンスターとリアルタイムで戦うイベントや、レイドバトルのような大規模な常時楽しめる機能も追加する予定です。既存の改良や快適化を行っていくチームと、新規要素を開発するチームに分かれて運営することになります。
———: テレビCMの内容はどういったものでしょうか?
谷 氏: グリーさんの全面協力をいただき、国民的人気グループKinKi Kidsを起用したテレビCMを中心に大規模なプロモーションを行います。かなり良いCMになっていますし、ゴールデンウィーク期間はかなりの露出になるはずです。それに合わせて大規模なキャンペーンも行います。基本機能を充実させて、CMをきっかけに始めたユーザー様に継続的に遊んでいただけるようにしています。
相川氏: 今回のプロモーションについてはゲームをリリースした当初から、グリーさんとお話をしていました。会員数が40万人あたりに達すると、そこから大きく伸ばすのは難しくなるため、マスプロモーションを組み合わせることでさらに伸ばす、という考え方です。グリーさんの第一線のプロモーションチームにサポートしていただいています。
———: 大型プロモーション後についてですが、1つのタイトルに集中してしっかりと運営したいとのことでしたが、当面は2弾タイトルは出さないということでしょうか。
谷 氏: えっと、一般的には、ゲームの運営が落ち着いたら、初期開発メンバーが新しいコンテンツ開発に取り組む、という流れだと思いますが、当社では、そのくらいの力を使って『神獄のヴァルハラゲート』の中に新しいコンテンツを追加したいと思っています。既存タイトルに再注力という感じでしょうか。イメージとしては7月あたりには超大型アップデートを行う予定です。そのくらいのタイミングでまた大型プロモーションができたら最高ですね。そのうえで、その大型コンテンツを盛り込んだ状態をベースにしたもので第2弾のタイトルを制作する、といったイメージです。人員的に全く新しいものを作るのは難しいですが、第1弾とは違った楽しみ方のゲームになるでしょう。『神獄のヴァルハラゲート』は、聖戦・レイド・追加要素の3要素になりますが、第1弾は聖戦が重視されており、新作では違った要素に重点を置くことになるはずです。
———: ゲームの課題は?
谷 氏: チームバトル「聖戦」の楽しさまで辿り付いてくれている方がまだまだ少ないことです。ゲームの継続的な改善を加えて、できるだけ多くの方に「聖戦」のコミュニケーションを楽しんでもらいたいですね。まだできていませんが、例えば、チュートリアルも変えていく必要があります。リリース直後と、ある程度広がってからでは、ユーザー様のテンションや関心が全く違います。周りがレベル1で始める状況と、周りがレベル100の中で始めるのとでは全然違いますよね。
———: PCオンラインゲームだと、ベテランユーザーが初心者を自然にサポートする場面がありますが、ソーシャルゲームだとなかなか難しいですね。変なことを聞きますが、ユーザーサポートは外注ですか?
谷 氏: 内製です。カスタマーサポートは、社内では企画部門と同等に位置づけていますので、外部には絶対に任せられないです。ユーザー様の意見や感想、お叱りの声をニュアンスも含めて理解し、きちんと運営に反映させていく必要がありますし、不具合発生時に迅速に対応できるかどうかはCS部隊の力にかかっています。またテストやデバッグもやってもらっており、社内で画面を見せてコミュニケーションを取りながら改善したほうが圧倒的に効率的です。人が集められない場合、アルバイトを採用してでも内製にすべきと考えています。
相川氏: 実際、ユーザー様からは、当社のサポート体制を褒めていただくことも増えてきました。対応が早いことと、いわゆるテンプレートでの回答が少なく一通一通きちんと書いていることなどが評価されているのかと思います。これをきっかけに、定着して遊んでいただけるユーザー様も増えていいると認識しています。はじめに申し上げたファンを増やす、という観点からも絶対に内製でやります。まだまだ十分ではありませんので、今後もさらにスピード対応を進めていきます。
企画職の採用を強化中!
———: リリース時は15人ということでしたが、社員数は現在何名でしょうか?相川氏: 現在、社員は30名くらいですが、当初の人員計画よりも順調に伸びています。会社として「多数精鋭」を理念として抱えており、今後も優秀な人がいれば、どんどん仲間になってもらいたいです。当社は、コンテンツのリリース計画ありきではなく、人員ありきでコンテンツ計画を立案しています。オフィスはいま人員が一杯で、先日は下のフロアを追加で借りました。
谷 氏: まだ本格的に求人を出していないのですが、エンジニアなんかはこちらからアプローチしたわけではないのに、希望者から枠はあるのか、などと問い合わせがきたりもしています。福利厚生も強化していて、20万円を上限に自分の作業のしやすい椅子を選べるようにしたり、PCやディスプレイを自分の好きなように選べるようにしています。住宅近隣手当も合計7万円支払っています。業界内でも多いはずです。近隣への引越手当なども20万円出そうと思っています。いまは企画の採用を強化しています。
相川氏: 企画については、ソーシャルゲーム業界での経験や実績も重視していますが、それよりも仕事に対する取り組み方や考え方を重視しています。
谷 氏: この業界は成熟しておらず、チャンスが多いですよね。以前、大手建築系の企業で設計士として働いていたので、特にそう思います。建築業界では、5歳上の人に技術で追いつくには、5年経験を積まないと難しいですし、10歳上の人には10年積まないと絶対に無理です。また部長になるには、主任や係長、課長などと昇進してなるものでした。それに対して、ソーシャルゲーム業界は、20歳の人でも実力さえあれば35歳を超える給料をとることも可能ですし、部長にもなれます。違う業界できちんと仕事をして積み上げてきた人ならば、この業界に来れば、これまでの経験や知識を活かして、すぐに活躍できるはずです。
ブラウザゲーム市場はまだまだ魅力的
———: 上場もしくはバイアウトしようという考えはありますか?谷 氏: バイアウトや上場などは現在は特に考えていません。実は、gloopsを退職したあたりからベンチャーキャピタルから出資のお話がきました。相川と出資を受けた場合のシミュレーションなども行いましたが、ビジネスモデルやサービス開始から収益化までの道筋が見えていましたので、資本を受けるメリットがあまりないと判断し、結果としては出資を受けませんでした。
———: 最近、『パズル&ドラゴンズ』の超ヒットにみられるように、ネイティブアプリが主流になると見られています。株式市場では、上場しようとするSAPは、ネイティブアプリとしてリリースするという事業戦略がないと株価がつかないとまで言われているようです。ネイティブアプリとして提供する考えはなかったのですか?
谷 氏: ゲームの機能としては、ネイティブアプリのほうが優位でしょうね。ただ、先ほど申したように、自社コンテンツを自前で流通させることの難しさを体感したこともあり、GREEやmobageのようなプラットフォームというものが非常に重要であると考えています。現在のネイティブアプリ市場は魅力的な市場ではあるものの、良いアプリを制作すれば必ずヒットするわけではない難しさがあると思います。ブラウザゲーム市場は、長期的には縮小するかもしれませんが、市場規模自体はまだまだ非常に大きいです。また、ブラウザが一概に劣っているわけではなく、アプリをダウンロードする手間や起動する煩わしさがなくカジュアルにプレイできるメリットも大きいです。最近、SAPがネイティブアプリ市場にこぞって出ていますので、我々からすると、ブラウザゲーム市場はいわばガラ空きになった状況ともいえ、非常に魅力的に見えます。
相川氏: 我々はネイティブアプリそのものを否定しているわけではないです。我々のもっているノウハウを活かしブラウザゲームで一定の実績を残してから、ブラウザゲームと並行して取り組んでいこうと思っています。その点は、市場の状況を見ながら柔軟に対応していきたいです。
———: 将来的に売上や会員数の目標はありますか?
谷 氏: そうですね、ユーザー様がどれくらい遊んでくれたかという、指標を重視していますので、直近では、DAU(Daily Active Users)を10万人まで増やしたいと考えています。売上は月間2ケタ億円いきたいと内心思っていますが、売上はあくまでユーザー様に楽しんでいただけた結果と考えていますので、達成できなかったからといってどうということはありません。
———: 今後、こういう会社にしたいというイメージはありますか?
谷 氏: 理想では、仕事と生活、ユーザー満足度の間での好循環を作り出したいですね。社員一人一人が目標を持って仕事に取り組み、それによって良いゲームが出て、ファンになってくれるユーザー様が増えていく。そして、ユーザー様の満足度が上がるとともに、売上が伸びて給料が上がり、仕事にさらにやりがいが出てくる…プライベートも充実する…といった感じです。こういう状況に全社員がなってくれればいいと思っています。
———: ありがとうございました。
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グラニ求人情報(イーキャリア)
会社情報
- 会社名
- 株式会社グラニ
- 設立
- 2012年9月
- 代表者
- 谷 直史
- 決算期
- 8月
- 直近業績
- 非公開
- 上場区分
- 非上場