スマートフォンアプリの世界的なヒットメーカー・Kingがいよいよ日本法人「King Japan株式会社」のオフィスを設立し、本格的に事業展開をスタートした。今回、代表取締役の枝廣 憲 氏にインタビューを行い、日本法人の設立の狙いと今後の展開について話を聞いた。
枝廣氏は、電通を経て、gloopsのマーケティング本部長に就任し、同社のマーケティング組織を作り上げた。その後、ヘッドハントでKingに入社し、今回、日本法人の代表取締役(General Manager)に就任し、一から事業を立ち上げていくことになる。
■日本オフィス設立の狙い
―――:日本法人を設立した経緯を教えてください。
ご存知のように、Kingは、これまで欧州や米国市場にフォーカスして事業を展開してきたわけですが、日本を中心にアジア圏のマーケットが急激に伸びてきました。今回、真のグローバルカンパニーとなるため、日本法人のオフィスが設立されました。アジアで本格的に展開するにあたって、マーケット規模が大きい日本市場への本格参入は必然となったためです。
ちなみに、「King Japan株式会社」は、昨年7月に設立されました。その時は、多部未華子さんを起用したテレビCMを中心としたマーケティング活動を行うために設立されたものでした。いわば箱だけがあった状態でした。
―――:日本法人はどういった機能を持つのでしょうか?
現在の主たる責務としてはマーケティング活動です。日本市場に合ったプロダクトを提供していくだけでなく、プロモーションやPR活動を行っていきます。将来的には日本、つまりKing Japanからも国内・海外に向けて何か新しいものを発信したいと考えておりますが、こちらはまだ種まきの段階ですので何とも申し上げられないです。
―――:Kingはすでに日本国内でもそれなりのポジションを確保できていたように思います。今回、オフィスを設立したのはなぜでしょうか?
日本のアプリ市場の規模は世界トップクラスですし、ユーザーにゲームを楽しんでもらえる素地もあります。日本のユーザーにKingのゲームをもっと楽しんでもらうためには、日本に根ざしたサービス提供やマーケティングを行う必要があると考えています。グローバルオペレーションといっても、本国から動いていたのでは時差がありますし、言葉の壁もありますよね。
―――:そのマーケティング活動の第一弾として、岡田准一さんと遠藤憲一さんを起用したCMを放映しているわけですね。
Kingの『キャンディークラッシュ』は、男女別け隔てなく、誰でも楽しめるコンテンツです。多部未華子さんのテレビCMなどの効果もあってゲームに対してアンテナを張っている方からの認知は進んだと認識していますが、ゲームの情報を積極的に求めない方の認知度はまだ高いとはいえません。そこで、岡田准一さんと遠藤憲一さんを起用しインパクトのあるテレビCMをつくり、認知度を高めようと考えました。App StoreやGoogle Playの「おすすめ」にも取り上げていただき、予想以上の効果が出ています。
―――:マーケティングではステージが上がれば、ターゲットも変わりますからね。
多部未華子さんのテレビCMを放映した当時は『キャンディークラッシュ』に対する認知度は低かったですし、ユーザー数も多いとはいえませんでした。現在は、その当時とは状況が全く違いますので、同じことをやっても効果はありません。ガンホーさんやコロプラさんなど大手のアプリディベロッパーも状況に合わせて少しずつテレビCMを変えているのは良い例ですよね。
―――:テレビCM放映時に色々なキャンペーンやイベントを打ち出す会社が多いですが、今後、第2弾、第3弾で何か考えているのですか?
今回は、そういったことを行う予定はありませんが、将来的にはぜひ行いたいですね。ただし、子どもから大人まで誰でもそしてお金を使わなくても楽しめるものにすることが前提です。
■将来的には日本発のアプリも
―――:ところで日本のアプリ市場についてはどう見ていますか?
『パズル&ドラゴンズ』が引き続きマーケットの中心になるでしょうが、2位以下は流動的になっていくとみています。特にKingやSupercell、Machine Zone、Kabam、NaturalMotionなど、海外ディベロッパーの存在感が高まるのではないでしょうか。まだ日本で知られていないディベロッパーの中には、日本のゲームとは違った面白さを追求したゲームが多くありますから。Kingもその一翼を担えるようになりたいですね。
―――:Kingはいくつもヒットタイトルを抱えています。今後は新しいタイトルをどんどん提供していく考えなのでしょうか?
『キャンディークラッシュ』がコアコンテンツで、その後の展開は乞うご期待です。他の国ですでにヒットしているタイトルを出すことも考えられますし、Kingの持つ180を超える膨大なタイトルの中から日本市場に合ったゲームを選択することも考えられます。もちろん、日本発のアプリ開発といった展開も将来的にはやりたいですね。
―――:開発部隊との連絡はどういった形で行っているのですか?
『キャンディークラッシュ』の発祥は、スウェーデンのストックホルムなんです。開発は、スウェーデンのスタジオで行い、マーケティングをイギリスの本社が行っています。したがって、日本語ローカライズに関連する連絡や日本市場の情報や要望を伝える場合、スウェーデンのスタジオに連絡するか、場合によっては、イギリス本社を経由しています。
―――:コミュニケーションで難しいと感じるところは。
非常に良好な関係で、特に困ったことはありません。ただ、日本市場特有の「月初」などは説明してもなかなか理解してもらえないですね。「Mobage」や「GREE」のキャリア決済からある「文化」ともいえるものです。ネイティブアプリであれば、「月初」は本来関係ないはずなんですが、イベントやガチャを新しくして、それを待っているユーザーさんがいらっしゃるわけで、完全に根付いてしまいましたよね。
―――:「Mobage」や「GREE」の影響力の大きさを感じますね。大手ゲーム会社でも以前は、ネイティブアプリに関しては月初に何もやっていないところがあったのですが、いまや全く違いますからね。
そうですね。そのため、『キャンディークラッシュ』は、月初にランキングが落ちる傾向にあります。とはいえ、他社に対抗して、セールをやることは考えていません。無料でも遊び続けられる、いつでもどこでも手軽に楽しめる、ユーザーさんに必要以上の負荷をかけない、といったことを大切にしている会社ですから。
■Govern the worldではなくEntertain the world
―――:ところで、Kingが日本でポジションをより高めるために足りないものは何でしょうか?
いっぱいありすぎて、とても一口では言えません(笑) 『キャンディークラッシュ』の認知度はまだまだですから、まずここから高めていきたいです。今回のテレビCMには期待しています。認知度を高めたうえで、やりたいこと、できることはたくさんあります。日本市場におけるKingの伸びしろはまだまだ大きいと考えています。
―――:Kingの良さはどういったところにあるのでしょうか?
ユーザーに決して無理をさせない、そっと寄り添うような存在でありたいという考えを持っているところですね。「Bitesize Brilliance」という言葉があります。日本語にすると「一口大の輝き」になるのでしょうが、ユーザーさんにはちょっと遊んで楽しんでもらえたら嬉しいです、ということです。
『キャンディークラッシュ』は、500ステージ以上ありますが、最終レベルまでたどり着いているユーザーさんの70%は一度もアイテムやアンロックにお金を消費したことない方で構成されています。電車の乗換時にいつでもプレイ・再開できますし、縦向きでも横向きでも好きなインターフェースで楽しめます。そして、友だちと一緒に遊ぶことでライフを送り合うなどコミュニティ形成にも貢献できます。私も1年半以上遊んでいますから。一番のファンかもしれないですね(笑)
印象的なお話を紹介しておきますと、私がKingのCMO(Chief Marketing Officer)のAlex Daleと面接した時、「中国や韓国、日本は非常に難しい市場だが、頑張っていこう。」といわれ、私は「各市場を取って世界制覇だね。」と応じたことがありました。その際、私は「Govern」という単語を使ったのですが、Alexから「KEN、それは違うよ。Governなんて、Kingで考えている人はいないよ。Entertain the Worldだよ!」といわれました。
こういうことがふっと出てくるのは会社のアイデンティです。コンテンツ業界のアンチテーゼになる必要はありませんが、こんな会社もあると思ってもらえたらいいですね。日本人は、1度に3つくらいのアプリを同時に遊ぶという調査がありました。Kingのゲームは、3つのアプリの中の2番めでも3番目でも、ちょっとした空き時間に楽しんでもらえればいいんです。お金を使ってもらわなくても楽しんでもらえればいいと思います。
―――:綺麗なことをいっても実際には課金を強いるようなゲームもありますからね。
まあ…そうですね。本当にKingのゲームはお金を使わなくても遊べます。DAU9700万人が公表数字ですが、ユーザーさんの消費傾向のあまりの低さに私も衝撃を受けました。と同時にこれまでの仕事を反省しました。King Japanとしては、ひとりでも多くのユーザーさんに触れて楽しんでいただき、DAU1億人突破に向けて少しでも貢献したいと考えています。
―――:ありがとうございました。