2014年9月18日~21日に、千葉・幕張メッセで開催された「東京ゲームショウ2014」のメインステージにて、「センス・オブ・ワンダー ナイト 2014」プレゼンテーションが行われた。
「センス・オブ・ワンダーナイト 2014」は、ゲーム開発者にスポットライトを当て、“見た瞬間、コンセプトを聞いた瞬間に、誰もがはっと、自分の世界が何か変わるような感覚”を引き起こすようなゲームのアイデアを発掘する企画。
第1回開催から徐々に規模を拡大し、7回目となる今年は東京ゲームショウのメインステージで行われることとなった。本稿では、27ヶ国からエントリーされた136作品の中からプレゼンテーションに選ばれた10作品を、順を追って紹介していく。
■4人でハイレベルな競争が楽しめる … 『SpeedRunners』
米国のCasper Van Est氏がプレゼンテーションを行った『SpeedRunners』は、4人のプレイヤーがスーパーヒーローを操作する横スクロールのアクションゲーム。元々は『スーパーマリオブラザーズ』シリーズのようなシングルプレイの作品として制作していたものの、子どもの時に友達とプレイした『HALO』の画面分割対戦を思い出し、2つのゲームを融合させたのだという。
なお、本作は画面分割ではなく、すべてのプレイヤーが同一の画面に表示される。そして、障害物に引っかかるなどして遅れたプレイヤーを画面の外に追いやればノックアウトできる。逆に自分がノックアウトされると、それ以降はプレイできなくなる。
対戦中、人によっては相手を出し抜くプレイを行う場面も出てくるが、本作では相手をごまかすこと自体をゲームのルールとして取り入れている。そのため、相手がどこにいるのか、何をしているのかによっても自分の行動が変わってくるため、ハイレベルな競争が楽しめるとのこと。
■奇妙な生き物とスポーツを楽しむ … 『Push Me Pull You』
友情とレスリングをテーマにした4人用のスポーツゲームとして制作された『Push Me Pull You』。本作は足がなく、2つの頭が腰の部分でつながった不思議な生き物をプレイヤーとパートナーで操作し、ボールを支配するために別のスポーツ怪物と格闘するという内容だ。レスリングであると同時に、サッカーなどの球技の要素も取り入れられている。
胴体はある程度自由に伸ばすことができ、それを上手く活用して相手を妨害することが可能。開発者の1人であるStuart Gillespie-Cook氏によると、胴体を活用した妨害方法には技名を考えたものもあるという。
例えば、胴体でボールを囲い相手から守ることを「カタツムリ」、プレイヤーと相手の胴体がグルグルと回るものを「シナモンロール」と呼ぶ。同氏は、今回紹介した技はほんの一部であり、実際にプレイしてたくさんの技を考えてほしいと語っていた。ちなみに、見た目がプレイステーション3で発売された『のびのびBOY』に似ているが、開発者自身も同作を非常にリスペクトしているそうだ。
■呼吸を合わせて10人同時でプレイする … 『PICOLECITTA』
『PICOLECITTA』は、プレイヤー全員が一つの画面を見ながら遊ぶ大人数協力アクションゲーム。最大の特徴は、1人でプレイできる要素がほとんど存在せず、必ず誰かと協力しなければクリアできない点にある。
開発者のTECO氏が紹介したステージには、数字の書かれた箱と、頭上高くに設置された鍵、そして10人分のキャラクターが存在した。数字の書かれた箱は、数字の人数で同時に箱を押すと動かすことができる。箱を鍵の下まで動かしたら、今度はプレイヤー同士で塔を作り、鍵に近づいていく。
続いてのステージは、一見よくあるダンジョンに思えるが、1人のキャラクターを複数人同時で操作しなければならない。呼吸を合わせてボタンを押さなければ、操作ミスにつながってしまうのだ。そのほか、10人で同時にプレイするブロック崩しなど、多彩なステージが紹介されていた。
■設置されたオブジェクト数は5700万以上 … 『8BitMMO』
『8BitMMO』は、昔懐かしいスタイルの2Dマルチプレイヤーゲーム。サンドボックス型の大規模なゲームだが、開発者のRobby Zinchak氏は、これを1人で制作したという。そしていつしか、ひとつの作品を作る感覚を沢山の人と分かち合いたいと思い、マルチプレイヤーのゲームに仕上げていったという。
本作では、プレイヤー自身が町やダンジョン、他のプレイヤーと戦うアリーナなど、ありとあらゆる施設を作成できる。会場のモニターにはプレイヤーが築き上げたさまざまな建造物が映し出され、その中には複雑な造形をした島や遺跡、ゲームキャラクターをモチーフにしたマップなども存在した。現在は登録ユーザー数が60万人になり、設置されたオブジェクトの数は5700万以上になるという。その規模は、すでにイギリスの国土を超えていることも明かしていた。
■ルールを見つけ出すパズルゲーム … 『FILL』
開発者である林陽一氏が「ルールを見つけ出す作品」と表現した『FILL』は、白黒で表現されたシンプルなパズルゲームだ。ゲームの最終的な目的は画面から黒い部分をなくし、白一色にすることだが、その方法は提示されない。プレイヤー自身が試行錯誤しながら、ルールを探し出していくのだ。
ゲームがスタートしたら、プレイヤーは適当に触ってみることからはじめてみる。白い部分を引っ張ってみたり、回転させたり、画面の外や内側に隠れているオブジェクトを探したりと、解凍方法はさまざま。あらゆる可能性を考えて、操作原理を見つけ出していく。
シンプルな画面だからこそ、表示されるものすべてをヒントとして活用する必要があり、ときには画面を縦から、横から、斜めから眺めることも大切になる。林氏は「文化的背景を必要としないゲームなので、宇宙人でもできるかも」と話していた。
■刺激的な演出が遊び手を興奮させる音楽+STG … 『DubWars』
音楽ゲームとトップダウンシューター型ゲームを組み合わせた『DubWars』は、音楽に合わせてしか武器を使えないという独特のシステムを持っている。使用する音楽によっては徹底的に武器を組み替える時間や、サバイバルスキルが試される静かな時間が生まれるという。
本作は、すでにある音楽を使用して遊ぶことになり、音楽の上には刺激的なビジュアルが乗る。知っている楽曲を活用できるため、ユーザーはゲームに没頭することが可能。また、1回のプレイは楽曲の長さに依存するので、だいたい3~5分程度で終わるとのこと。
開発者のJoe Albrethsen氏によると、本作は操作をシンプルにすることを念頭に制作したとのこと。そのため、武器の攻撃は音楽に合わせて自動で行われ、プレイヤーが行うのは移動だけだという。ステージの中には難しいものも用意されており、ボスモンスターが登場するステージもあるとか。
■息を殺して完全な暗闇を作ることが真の恐怖 … 『LURKING』
『Lurking』は、音を利用して暗闇のなかを進んでいくサバイバルスリラーゲーム。プレイヤーが出す音をマイクが拾い、その音のパルス(電波)が映像に変換されることで、微かながらも暗闇の世界が明るくなるため、音を駆使しながらゲームを進めていくことになる。しかし、暗闇にはプレイヤーを狙う音に敏感な別の生き物が徘徊している。
本作の開発経緯について、開発者のJustin氏は「盲目の少女が自分の世界を探索するために、エコロケーション(反響定位)を使用していました。これらを出発点として臨場感のある体験を作り上げていきました」と明かした。そして、実際のマイクを用いることで、プレイヤーの呼吸や言葉、叫び声をも拾うことができるという。もちろん声は音のパルスに変換されて相手にも聞こえるため、プレイヤーは自分たちの恐怖心を抑え、プレイヤー自身も沈黙を保つ必要が出てくるのだ。
これについてJustin氏は、「沈黙こそが絶対的な暗闇のなかに陥ることになります。これによりゲームは恐ろしい雰囲気を増幅させます」とゲーム内では真の恐怖が表現されていることを語った。今後の展開については、「白と黒のコンストラストを強くします。また、プレイヤーがゲーム内にあるボイスレコーダーに自分自身の声を録音して、それを活用できるようにしてみたい」と言葉を添えた。
■「負の依存」をテーマに据えた大ドン返しの“オチ”に会場騒然 … 『Chained』
アメリカの大学生12人が8ヵ月で開発した『Chained』。本作は、鉄球が付いた鎖の足かせの仕組みを使い、“負の依存”と“喪失の性質”を探求する横スクロール型のパズルアクションゲームである。自分の選択の重さと結果に立ち向かって奮闘する、普通の家庭的な男の心理を探求するというのだが、これがなかなかのメッセージ性のあるゲームであった。
基本的にプレイヤーは、足かせとなる鉄の玉を抱えながらゲームを進めていくのだが、一緒に進んでいくと壁や地面など、自分のまわりの環境を次々と壊してしまうもどかしさを覚えつつも、鎖を手綱代わりにして高い所を登ることもしていく。また、鉄の玉を持っているときと、そうでないときとで背景のデザインに若干の差異が生じるところも後半のオチを聞くと納得。
さて、プレゼンテーションでは、ゲームを最後のセクションまで早送りしてくれた。本作の最後では、主人公が真っ暗闇の洞窟に落ちてしまい、はじめて鉄の玉を見失ってしまう。そこでプレイヤーは喪失感を覚えて、鉄の玉を探し回り、そして見つけると、またそれにしがみつきたいと思うようだ。結果的に、プレイヤーのほとんどが鉄の玉を手に取ってしまうのだが、そのまま鉄の玉と一緒に洞窟のゴールを目指すとバッドエンディングになるとのことだ。
「結局、負の依存(鉄の玉)に頼ってしまうと何事も悪いことが起きる。そのとき、果たして人間はどのような心理状態になるのか、どのような人生を歩んでいくのかを、ゲームを通してビジュアルで表現したかったのが本作の目的」と、開発者のKeithLeiker氏は語った。なお、真っ暗闇の洞窟内に落ちた際に、よく目を凝らすと鎖が切れていることが分かる。それにも関わらずプレイヤーは、あれだけ邪魔に思っていた鉄の玉を手にしてしまう……。会場からも驚きの声があがった。
■プレイヤーの行動に応じて変化する迷路ゲーム … 『Expand』
オーストラリアのChris Johnson氏とChris Larkin氏が手掛けた『Expand』は、白黒の幾何学模様からなる抽象的な場所として作られた円形の迷路を、プレイヤーが探検していく作品だ。この迷路はプレイヤーの行動や動きに常に反応して、ねじれたり、伸びたり、全貌を現わしたりするため、プレイヤーは押しつぶされないように進んでいくことになる。
「ゲームのなかには美的感覚、プレイヤーがその世界に対して自分自身の解釈をとれるようにした」と開発者は語った。伸縮する目にも楽しい迷路ゲームではあるが、物寂しいピアノミュージックや、詩のような曖昧な文章が織り成すなど、幻想的な世界観が魅力である。来年リリースを予定に進めているという。
■4次元、3次元、2次元、切り替えて見えるものとは … 『Miegakure』
『Miegakure』は、4次元の世界を探検し、4次元の世界と交流できる世界初のパズルゲーム。4次元とはいえ、それは決して時間ではない。あくまでもX軸、Y軸、Z軸に“W軸”を加えた空間といった数学的な概念がベースにあるとのこと。さて、そんな4次元の世界でプレイヤーは、ゴールを目指していくのだが、ゲーム中は「扉があかない」「高い壁が邪魔で進めない」など、様々な障害に直面することがある。そこで本作では、4次元の世界から「3次元」「2次元」と次元を変えていくことで、箱庭ステージの3Dマップを変えていく必要が出てくるのだ。
たとえば、「高い壁が邪魔で進めない」といった場面では、「2次元」の平面上にすることで、「4次元」「3次元」の世界では見えなかったアイテムや脱出口が発見できたり、「2次元」の世界でオブジェクトを動かしたあとに別の次元に変えることで仕掛けが作動したりするなど、次元を変えて見えないものを見つける、まさに「見え隠れ」な作品である。
以上が今年の「センス・オブ・ワンダー ナイト 2014」でプレゼンテーションが行われた。これまでは斬新なアイデアの作品は多数出展されていたもの、なかなかゲームに落とし込めている作品が少ないと感じていた。しかし、年々回を重ねていくごとに、きちんとゲームとしての面白みも兼ね備えた作品が並ぶようになり、インディー精神の底力と可能性を改めて再確認した次第だ。表彰された作品は下記となる。
【表彰】
■Best Technological Game Award
『8BitMMO』
■Best Arts Award
『Chained』
■Best Experimental Game Award
『Miegakure』
■Best Presentation Award
『PICOLECITTA』
■Best Game Design Award
■Audience Award
『Push Me Pull You』